14)人間−1

 同時多発テロは全人類に大きなショックを与えました。そこには目を覆うような残忍な行為から、感動的な英雄的行為までの人間のさまざまな側面を見ることができました。この人間のもつ多様な顔は、別に大きな事件に限らず、いつの時代の歴史にも、また日常生活の中や私たちの自身の中にも見ることができます。このように、あるときには悪魔のように、またあるときには天使のように見える人間とはいったいどういう存在でしょうか。今回から教会が「人間とは何か」についてどのように教えているかを見てみましょう。

 「人間とは何か」を考えるとき、まず最初にぶつかる質問は、「人間はどこから来たか」とう問です。ご存知のように、聖書と教会は、人間の創造には神が特別に介入されたと教えます。これに対して、自然科学者の大部分は、人間はサルのようなものが進化して生まれたと主張します。聖書と科学は対立するのでしょうか。宇宙の創造の際にも説明しましたが、この問題は現代の信者にとって避けて通ることができない問題なので、もう一度見てみたいと思います。

 信仰と科学(正しい方法によって進められる科学)は両立するというとき、はっきりさせないといけない事実は、両者は守備範囲が異なるということです。つまり、信仰は目に見えないものも扱うが、科学は物質しか対象にしないことです。ですから、物質を越える存在や出来事については、科学は何かを断言する権利を持たない。たとえば、科学によって宇宙はどのように変化してきたかを調べることができますが、宇宙が始まる前は何があったかは科学の口出しできるところではないのです。

 これを人類の発生に当てはめて見ましょう。教会の教えの元となるのは、特に『創世記』の最初の3章です。この個所は何か宗教的な教えを教えるためにでっちあげた創作ではなく、歴史的な事実(つまり実際に起こったこと)の宗教的な意味を太古の人間にもわかるように語った個所である、ということです。では何が「教えたかった内容か」というと、人間に関して言うと、「人間が特別に造られたこと、・・人類が一つであること、義の状態における人祖の幸福」(『カトリック文書資料集』、3514)などだと言います。

 「特別に造られた」とは、「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう」(『創世記』、1、26)という神様の言葉に表現されています。神は万物を創造されましたが、天体や動植物の創造のときは、「我々に似せて」とはおっしゃりませんでした。上の言葉は人間が他の被造物とは本質的に異なる存在であることを意味しています。しかし、神に似ているとは何を指すのでしょうか。

 もちろん、それは人間が体を持っている点ではありません。神は純粋な霊ですから。人間を神の似姿にするものは、霊的な魂です。つまり、「主なる神は土の塵で人を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きるものとなった」(前掲書、2、7)とあるように「命の息」と言われた霊魂を持つ点です。

 カトリックは「人間とは肉体と霊魂から成るもの」と定義します。霊魂は物質ではありませんから(次回に霊魂があるとどうして言えるかについて説明しますが)、物質から進化することはできません。他方、肉体は物質ですから、他の物質から進化しても何らおかしくありません。ですから、化石が示すように、現代の人間ともサルとも異なる生物があって、それに神が霊魂を注入した、とも考えられます。ヨハネ・パウロ2世が数年前、「進化論はかなり信頼のおける仮説」とし、また進化論と創造論が矛盾しない(これはすでにピオ12世が宣言されています)と言われたのはこの意味です。

 生物の種は、確かに時代とともに変化してきました。しかしこの事実は神の存在を否定するどころか、むしろそれを支持する事実です。単純なものから複雑なもの(生物組織の複雑さ、生物界の複雑さは科学の発展によりますます明らかになるばかりです)ができるならば、それは偶然の結果ではなく、外からの知性の働きによると考えるのが正常な頭脳の出す結論でしょう。

 科学で言う証明とは、実験によるものか、その現場を見せるものでなければなりません。偶然の結果としての進化論を証明するには、今現在たとえば鳶が鷹を産む例を見せるか、あるいは実験室でハエが蝶に変わる変化を起こさせるか、のどちらかですが、いまだにそれはできておらず、この謎(どうして種が進化するのか)は解けてはいません。

 また人間を動物と異なる生物にしているものが霊魂ならば、それがどのように生まれたかは科学では解くことができません。つまり、肉体の部分がどのように進化してきたのか、という問題は科学の研究によって明らかにされる可能性がありますが、霊魂がどのように生まれたのかは科学を越える問題なのです。

 ただ、最近遺伝子の研究によって、人類が一人の女性(今から27万年前の東アフリカ出身だそうで、ミトコンドリア・イブと呼ばれる)から生まれた可能性があると主張する理論が出ていることは興味深いことですね。


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