“録音した自分の声が変に聞こえて衝撃を受けた”とか,“落ちこんだ”という話をよく聞きます.そうなる理由として,“自分で聞こえる声は体内をつたわる音と空気中を伝わる音がいっしょに聞こえているのにたいして,録音した声は空気中を伝わる音だけであるから音質がちがって聞こえる,録音した声はふだん聞きなれない声だから変に聞こえるのだ”という説明がなされます.そして録音した声こそがまわりの人に聞こえる“ほんとうの声”であるといわれるのがふつうです.こうした説明がどこまでほんとうなのかを確かめてみます.
マイクを耳にさしこむことにより,体内をつたわる声(骨導音)と空気中を伝わる声(気導音)を両方ひろってやれば,自分に聞こえる声を録音できます.ここでは,電話録音用のマイク SONY ECM-TL1 を2個用意して,(A)片方を耳にさしこみ,(B)もう片方を顔の前50cmほどの場所において,ステレオレコーダーの左右に振り分ける方法で同時に録音しました.耳に深くさしこむと骨導音が強くなりすぎるので,かるくさしこみました.
A.耳にマイクをかるく挿入して録音 自分に聞こえる声です.
B.顔の50cmほど前方にマイクを置いて録音 まわりの人に聞こえる声です.これが “録音した声” “変に聞こえる声”です.
聞いてみるとわかるとおり,両方の声質はかなりちがっています.ためしに,Aを何度もくりかえし聞いたあと,Bを聞いてみてください.変に聞こえると思います.そのあとは,Bをくりかえし聞いて,そのあとAを聞いてみてください.やはり,変な声に聞こえると思います.つまり,聞きなれた声とちがう声を急に聞くと変に聞こえるわけです.
ちなみに現在の私は,録音した声(気導音だけの録音)を日頃から聞いているので,AとBを交互に聞き比べたときには,かえってAの録音のほうが,低音がこもって変に聞こえます.声を出しているときに聞こえる声は,たしかに,Aの録音とおなじです.にもかかわらず,Bの録音のほうが親しみのある声に聞こえるのです.
“録音した声が変に聞こえるのは機械のせいではない.録音した声は,まわりの人に聞こえている声と同じだ.録音した声がほんとうの声だ”などという説明がネット上にもたくさん出ています.これがほんとうかどうか確かめてみるために,いろいろなマイクをつかって,録音してみました.ヘッドセットは装着して,それ以外は顔の50cmほど前方にマイクをおいて録音しました.レコーダーはすべてTASCAM DR-1です.
なお,上のBと,下のアは,おなじ録音です.
ア.SONY ECM-TL1 耳挿入型電話録音用マイク
カタログ
イ.Seide PC-Me バイアス電圧式コンデンサーマイク
カタログ
ウ.TASCAM DR-1 デジタルレコーダー内蔵マイク
カタログ
エ.SONY ECM-719 家電用ワンポイントステレオマイク
カタログ
オ.MS-HS58V パソコン用ヘッドセット
カタログ
カ.Logicool UA-500 パソコン用ヘッドセット
カタログ
キ.audio-technica AT9904 バックエレクトレット式小型コンデンサーマイク
カタログ
聞いてわかるように,マイクによって音質に大きなちがいがあります.値段と音質とは必ずしも対応しません.“自分に聞こえる声”にちかいのは,イのSeide PC-Meです.この種類のマイクはバイアス電圧型コンデンサーマイクとよばれており,原音に近い音が録れるといわれています.こうしたマイクであれば,“録音した声”であっても,それほど変に聞こえないと思います.そのつぎに近いのがアのSONY ECM-TL1やキのaudio-technica AT9904です.家電用やパソコン用,携帯電話などのマイクのなかには,原音とずいぶんちがう声質になるものがあります.そうしたマイクで録音すると,“正真正銘の変な声”になり,とくに初めての録音だったりすると,かなりのショックを受けることになるかもしれません.
(1)録音した自分の声が変に聞こえる理由のひとつは,自分には気導音と骨導音の両方が聞こえるのにたいして,ふつうの録音では気導音しかひろえず,両者の声がちがうためである.
(2)程度の差はあるにしても,マイクやレコーダーのせいで録音した声が変になることが多い.