ルネサンス時代の楽譜

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作曲時そのままの世界にふれる

ルネサンス合唱曲を歌うときは現代譜(スコア)をみるのがふつうです.これは作曲当時の楽譜(原譜)を書きかえたものです.そのさいに原譜にない解釈が入りこみます.現代譜をみたときに,どこが原典に書かれているもので,どこが書きかえのときの解釈なのか,区別がつきません.とくに歌詞のふりかた(どの音符にどの歌詞がつくのか)はわかりません.ときには,スラーでつなぐべき連結譜がべつべつに分けられ,それぞれに歌詞がついていたり,メロディーやリズム,歌詞がちがっていたりすることもしばしばあります(有名でしばしば歌われる曲でさえ現代譜スコアには思っている以上にまちがいがあります).

正しい作品,作曲者の意図を知るには,原譜をみる以外にありません.

また,やってみるとわかるのですが,現代譜で歌うのと原譜でうたうのでは,音楽の感じかたがずいぶんちがいます.ですから,ルネサンス合唱曲の世界にふれるためには,原譜をみて歌うことがおおきな意味をもつのです.

ルネサンス時代の楽譜の特徴

ルネサンス時代の楽譜はパート譜になっています.パートごとにべつべつの本にわかれているもの(パートブック)もあれば,見開きのページに全パートのパート譜がならんでいるもの(クワイアーブック)もあります.また,一部の例外をのぞいて,小節線がなく,音符が等間隔にならんでいます.

パート譜だとほかのパートとの関係がわからないので,ポリフォニーの曲でタイミングがずれると,もとに戻すのがたいへんです(とくにひとつのパートに一人しかいないとき).この点では現代譜のスコアのほうがすぐれています.

しかし,原譜では音符がコンパクトにまとまっているので,リズムやメロディーが視覚的にわかりやすく,曲の流れをつかみやすいという長所があります.ルネサンス合唱曲には,いくつかの典型的なリズムやメロディーのパターンがあり,楽譜をよんでいるうちに,そのパターンがみえてきます.そうなれば歌いやすくなります.また,休符はさらにコンパクトにまとまっているので,拍数を正確に数えやすく,タイミングがわかりやすいのです.さらに,自分が歌うところだけがかかれ,余分な情報がないので,そのぶん,耳でほかのパートをきくことに集中するようになります.

楽譜のよみかた

ルネサンス時代の楽譜の記号は現代譜にちかいので,ぱっとみただけでも何となくわかります.ここでは,ぜひとも知っておいたほうがよい記号を紹介します.

ルネサンス時代の楽譜ではハ音記号がふつうにつかわれます.下の図だと,記号の中心(太い4本の横線の2番目と3番目の間)が五線の上から2番目の線になるので,ここがCの音(いわゆる真ん中のド)になります.また,現代譜だとト音記号は下から2番目の線,ヘ音記号は上から2番目の線と決まっていますが,ルネサンス時代の楽譜ではそうでないこともあるので,注意が必要です.たとえば,下の図ではヘ音記号が真ん中の線にのっているので,ここがFの音になります.♭の形は現代と似ていますが,♮や♯の形は現代とずいぶんちがいます.

記号
意味 ト音記号 ハ音記号 ヘ音記号 つぎにくる音の高さ

音符は現代のものと似ているのでわかりやすいでしょう.テンポは1拍1秒ぐらいです(古い時代の曲や3拍子の曲では,はやくなります).曲によって歌いやすいように加減してください.独特の記号に“連結譜”があります.これは複数の音符をスラーでつないだものと同じです.休符はたがいに似ているので,注意が必要です.

音符
休符
名前 ロンガ ブレヴィス セミブレヴィス ミニマ セミミニマ フーサ
長さ4拍2拍1拍1/2拍1/4拍1/8拍1拍の音符2個
の連結
1拍の音符と3/4拍の音符の連結
+1/4拍の音符

3拍子のときは,セミブレヴィスが2拍になるときや,ブレヴィスが3拍になるときがあり,ロンガは6拍になります.また,曲の終りの長くのばす音はロンガであらわします.ルネサンス初期の曲はブレヴィスが1拍です.ほかにもいろいろな記号や約束ごとがありますが,ルネサンス後期の印刷楽譜をよむときには,このくらい知っておくと何とかなります.

楽譜の実例

パレストリーナ作曲 “Sicut cervus desiderat (泉を求める鹿のように)” のバスパートの楽譜です.最初に11拍のながい休みがあります.この曲はふつうの混声合唱団でもしばしば歌われる人気曲で,知っている人もおおいと思います.

いまでは作曲当時に出版された楽譜がずいぶん入手しやすくなりました.
Petrucci Music Library がおすすめです(現代譜もたくさんあります).

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