ルネサンス式ドレミのつけかた

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ヘクサコルド

楽譜だけをたよりに,はじめての曲を歌うのは,なかなかむずかしいことです.これは中世・ルネサンス時代の聖歌隊でもおなじでした.そこで考えだされたのが,いまのドレミにつながる “ヘクサコルド” です.ヘクサコルドはドレミファソラ(むかしはドではなく “ウト” といっていました.フランスではいまもユトといいます.ここではわかりやすくするためにドをつかうことにします)の6つの音でできた音階のことで,シはありませんでした.シの音にあたる,ラの上の音やドの下の音はどうしたかというと,表のような “よみかえ” をしていました.

音名CDEFGAB♭B♮ CDEFGAB♭B♮CDE
自然なヘクサコルドファ ファ
やわらかいヘクサコルドファ ファ
かたいヘクサコルドファ ファ

これをみるとわかるようにB♭(やわらかいB)をふくむものを “やわらかいヘクサコルド”,B♮(かたいB)をふくむものを “かたいヘクサコルド”,どちらもふくまないものを “自然なヘクサコルド” とよびます.

じっさいのよみかた


これはパレストリーナのSicut cervus desiderat (鹿が渇望するように・泉を求める鹿のごとく)のテノールパートのはじめの部分にヘクサコルドのドレミをつけたものです.楽譜の左はしをみると上から2ばんめの線にハ音記号がついているので,ここがCの音になります.その1オクターブ下(いちばん下の線の下)もCになります.また,下から2ばんめの線はFになります.ハ音記号の右,Cのすぐ下のBの音に♭がついているので,これがB♭になります.つまり,このメロディーにはB♮がふくまれないので,自然なヘクサコルドとやわらかいヘクサコルドをつかってよんでいくことになります.

楽譜をみていくと,1段目のまん中あたりで,まん中の線Aの音をラ→ミ,2段目のおわりから3段目のはじめにかけて,まん中の線Aをミ→ラ,そのうしろで下から2ばんめの線Fをファ→ドと,それぞれ,よみかえているのがわかります.

むずかしそうにみえますが,半音をはさむ2つの音がミとファになるようにして,ドレミファソラの上や下に出てしまう音があるときに,そのすこし前でよみかえればよいのです.よみかえるところを楽譜にかきこんでおくとよいかもしれません.

ルネサンス合唱曲をどうよめばよいか

実用ではシをつかってもよい

ルネサンス合唱曲の楽譜をよむときは,無理にヘクサコルドをつかわず,ふつうにドレミファソラシをつかってもよいと思います.ただし,固定ドでは,楽譜に♯や♭がたくさんあると,ドレミほんらいの “階名とむすびついた音程感覚によってメロディーをつかむ” という使いかたができなくなります.また,ルネサンス合唱曲の現代譜スコアは編集した人により,しばしば,さまざまな調に移調されていて,固定ドではドレミのつけかたがばらばらになります.こういうことはよくないので,移動ドをつかいましょう(表をみてのとおり,ヘクサコルドも移動ドです).

♭1個か,なにもつかない曲がほとんど

中世・ルネサンスの合唱曲の原譜のほとんどの “調” は,♯も♭もつかない(現代風にいうと,ハ長調・イ短調の形)か♭1個(ヘ長調・二短調の形)です.たまに♭2個の曲もありますが,♯がつく曲はまずありません.歌うときはいろいろな高さで歌われていましたが,これはCやFの高さが歌い手によってまちまちだったのであって,現代の移調とはちがいます.にもかかわらず,現代譜をつくる人は “歌いやすい高さにするため” に,(しばしば♯や♭がたくさんつく調に)“移調” しています.楽器(とくに管楽器)を演奏するのであれば移調が必要になりますが,歌はそうではありません.楽譜の “調” はそのままに,音の高さは歌いやすいようにその場できめるのがルネサンス時代のスタイルです.

曲によってはヘクサコルドのほうがやさしい

ルネサンス合唱曲では,曲の途中で臨時記号がついたり,つかなかったり,ころころかわって,(現代風にいうと)どこで何調に転調したのかわからなくなることがあります.このようなときはヘクサコルドのほうがやさしいこともあります.また,上の表にある3種類のヘクサコルドにしばられず,とにかく半音の上下の音をミとファにするとわかりやすくなります(現代譜で移調してあるものでは,こうしないとよめません).

ドレミをつかわずによめる人は

ドレミは,楽譜からメロディーをよむための便利な道具です.うらをかえせば,ドレミをつかわなくてもメロディーをよめる人だったら,わざわざドレミをつかう必要はありません.ラララでもよいし,いきなり歌詞をつけてもよいのです(じっさいに,そうしている人もいます).

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