川原大池

川原大池全景

長崎半島の中間,長崎市川原町に川原大池という湖(周囲2km,最大水深9m)があります。遠くに天草の島影を望む天草灘に面し,川原海水浴場に接しています。この湖は自然湖としては長崎県最大で,もともとは海岸の入江であったのが砂州によって形成された海跡湖です。かつては海水と淡水が混じった汽水湖で変化に富んだ生態系をつくっていたそうですが,現在はひとの手によって完全に淡水化されました。 地図 (別ウィンドウで表示)

川原大池やその周辺は風光明美で,昭和53年に県の天然記念物に指定されました。神秘的な伝説(別ウィンドウで表示)を背景にもったこの湖には,釣りやキャンプ,野鳥観察,山菜取り,カヌーの練習などに人々が訪れ,海水浴シーズンには夏祭りなどで賑わっています。私たち家族も休日には毎週のように,ちょっとしたハイキング気分で出かけて行きます。子どもたちにとっても水と森の自然がお気に入りのようで,遊びに自然観察の学習にと絶好の環境です。

ところで今日,ひとの手が加わることによってもたらされた自然環境問題や,生態系の変化などを知る機会も多くなってきました。そして川原大池も時代や流行の変化にさらされてきました。昭和60年には環境庁から自然環境保全の基礎調査を委託された地元の三和町が,有識者をまじえて学術調査をおこないました。そこには湖の水質にも大きく関与するプランクトンや水草群落の調査,また生物調査として淡水エビ類,へら鮒,ブラックバスなどが取り上げられています。その後も長崎大学により継続して生物調査や飲料水利用としての水質調査が進められ今日にいたっています。


へら鮒

へら鮒 へら鮒 へら鮒

かつて川原大池を全国的に有名にしたのはヘラ鮒でした。この鮒は琵琶湖原産のゲンゴロウ鮒を飼育繁殖したものです。大阪の河内,泉州が発祥の地でカワチブナと銘銘されたものが全国に広がり,ヘラに似た形態からヘラ鮒と呼ばれるようになりました。食料事情が悪い時代には重要なタンパク源になりました。佐賀地方には昆布巻きで「フナンコグイ」という伝統的な食べ物があるそうです。大池には昭和32年に大阪から移植されました。50センチを超えるような巨ベラがいるそうで,有名な俳優さんも訪れていたそうです。今ではヘラ釣りをする人をまったく見かけなくなりました。外来魚のブラックバスやブルーギルが川原大池からヘラ釣りを遠ざけた原因です。


川原大池に生息する魚類 (川原大池公園案内掲示板より)

かつての海の入江が砂嘴によって閉じられてできた(海跡湖起源の)川原大池には、海とのつながりの跡をとどめたボラやいまでは陸封型となったチチブ、ゴクラクハゼなど4種のハゼ類のほかウナギも生息しています。数の少なくなったメダカに加え淡水魚は、ギンブナ、コイ、カワムツ、モツゴのほか、1957年に移植されたヘラブナが巨ベラとして釣れることで有名です。1972年頃闇放流されたブルーギルとその繁殖を抑えるために、1977年に諏訪池から移植されたブラックバスが殖え、この湖に以前から生息していた在来魚やその他の生物に大きな影響を与えています。

チチブ(スズキ目ハゼ科)
この湖では陸封化した最も数の多いハゼの一種。ブラックバスの捕食によって全長5cm未満の当歳魚で生涯を終えるものが多く年々数が減少している。ユスリカを主食とし、魚卵やゴクラクハゼも捕食する。

ゴクラクハゼ(スズキ目ハゼ科)
チチブと並んで最も数の多い陸封型ハゼの一種。チチブより一ヶ月遅れて湖岸に来遊し、チチブよりやや深い所まで分布する。ユスリカを主食に緑藻や底生ミジンコを食い、ブラックバスに捕食され数が減っている。全長4cm未満の当歳魚が大部分を占める。

カワムツ(コイ目コイ科)
いわゆるハヤの仲間で群れをつくって泳ぐ。長崎県下の川に多く分布するが、この湖では数が減ってきた。生後2〜3年で成熟するが全長10cmを越す個体はほとんど見られなくなった。

ゲンゴロウブナ(コイ目コイ科) 別名 ヘラブナ
長崎県釣魚会連盟によって、1957年に大阪府から約7千尾が移植され、全長50cmを超す5〜6歳の巨ベラが釣れる湖として有名になった。4月から5月の産卵期の前にヘラ師によって釣られるがいまではその数は少なくなった。この湖にはヘラブナの他に在来のギンブナも生息する。

ブルーギル(スズキ目サンフィッシュ科)
北アメリカの中南部原産。日本へは1960年に現天皇によってもちこまれた。この湖ではミジンコ、ケンミジンコ、ユスリカ、トビゲラ、ミナミヌマエビのほか、チチブ、ゴクラクハゼ、ブラックバスの卵やセンニンモなどの水草も食い、食物の幅が極めて広い。5歳で全長20cmが最高。

ブラックバス(スズキ目サンフィッシュ科)
北アメリカの南東部原産。日本へは1925年アメリカのオレゴン州から芦ノ湖へ放流されたのがはじまり。チチブ、ゴクラクハゼを主食とし、モツゴ、フナ類ボラやミナミヌマエビのほかブルーギルも捕食するこの湖の最高捕食者。全長60cmを越すものもいる。

(協力 長崎大学教育学部 生物学教室)


◆ 長崎県指定 天然記念物 川原大池樹林 (川原大池公園案内掲示板より)

樹林にはクス,ハマボウ,ハマナツメ,シマエンジュ,ホルトノキ,イヌビワ,カカツガユなどが茂り,水辺にはヒメガマ,アンペライ,テツホシダなど水草がみられる。中でも珍しいのは,ハマナツメ,オオクグ,テツホシダでもっとも貴重なのはハマナツメである。ハマナツメはクロウメモドキ科の落葉低木で,葉には托葉の変化した鋭いトゲがある。中国南部,台湾,日本では琉球,九州東海地方に稀に分布する亜熱帯性の樹木で本県では五島富江の和島にあり,川原は九州西岸における分布の北限にあたる。これらの貴重な植物を保護するため樹林として指定する。 (昭和53年8月22日指定)

◆ 川原大池に生息する鳥類 (川原大池公園案内掲示板より)

ここでは60余種の野鳥がいままでに確認されています。湖が海に隣接するため海洋性のウミネコやセグロカモメ,環境庁のレッドデータブックに記載されている,絶滅の恐れがあるワシやタカの仲間のミサゴもやってきます。また,県のシンボルバード,オシドリが越冬のため秋ごろから姿を見せはじめ,湖の北側には県内では珍しいオオバン,そして水面を低くカワセミが直線的に飛んでいきます。(協力 日本野鳥の会長崎県支部)


川原大池については,長崎大学教育学部の東幹夫教授ならびに工学部の古本勝弘教授,また三和町役場から貴重な資料や文献などを頂きました。資料は今後もわが家のライフワークとして大池を観察していく上での参考にさせて頂きます。有難うございました。

参考資料
「三和町郷土誌」 長崎県西彼杵郡三和町編 1986
「川原大池の自然」 三和町川原大池生態系調査団 1985
「自然復元特集5 淡水生物の保全生態学」 大学図書 1999
「長崎新聞」 地球・長崎(環境問題を考える) 1998.10.13日付


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