カスミサンショウウオの卵


カスミサンショウウオは春になると産卵のために水辺にやってきます。この時期には卵や幼生,大人のサンショウウオをみつけることができます。今年は,いままでゆっくり見ることができなかった卵の観察ができました。

発見場所水中に生みつけられた卵 平成16/3/31
子供たちは春休みで,家族で川原大池に花見に行きました。以前から知っていたカスミサンショウウオの産卵場所をさがしてみると,今年は運良く卵をみつけることができました。孵化のようすを見ることにしましたが,全国的にも,このようなサンショウウオは数が減ってきているということを知っていたので,観察のあと元にもどすことにしました。観察中はここの水を使い,環境を自然に近くするように注意しました。

全体像卵嚢全体のすがた
2つの卵嚢が根もとの所で枯れ枝にくっついて,ゆらゆらしています。卵嚢の形はバナナが曲がったようなかっこうで,1つの卵嚢の長さは10cmくらいで太さは直径が15mmくらいでした。サンショウウオの親から出てきたすぐの卵嚢はもっと小さいのですが,その後まわりの水を吸収して大きくなるのだそうです。卵嚢の中には全体で60匹くらいの赤ちゃんがいました。赤ちゃんは細長いものが多いのですが,丸いものもいました。

発見直後卵嚢の中
近づいてよく見ると,赤ちゃん1匹1匹は丸い袋に囲まれていました。つまり,卵嚢の中にはたくさんの卵があったのです。頭と尻尾の区別がしにくいのですが,少し丸くなっているほうが頭のようです。しばらく見ていると,細長い赤ちゃんのいくつかは,時々ぴくっと動くことがあります。それから数日たつと,ぴくぴくと動く赤ちゃんの数がふえていきました。

一週間後7日めの卵嚢の中
エラが出てきて,頭と尻尾の区別もはっきりしてサンショウウオの幼生らしくなってきました。卵嚢の中でよく動いています。この日は最初の1匹が卵嚢の外に出ていました。まだ幼生の形になっていない丸いものもありますが,あとから変化するのか,もしかしてこのままなのか疑問でした。でも,そろそろ卵嚢を元の場所に返す時期だと思いました。

8日目8日めの卵嚢と幼生
33匹が卵嚢の外に出ました。およそ半分の数の幼生がいっぺんに出たことになります。卵嚢の表面をよく見ると,あちこちにしわがあって,幼生になってとび出した時の穴ができていました。

幼生体長12mmの幼生
卵嚢から出てきたすぐの幼生です。これから水中の小さな生物を食べて大きくなり,前脚や後脚がだんだんと出てくるはずです。人工のエサをやると,幼生がそれに慣れてしまって,自然の世界にもどることができないのではないかと思いました。もう少し観察したかったのですが,夕方になって元の場所に卵嚢と幼生たちを返しに行きました。


成体体長8cmの成体
卵嚢をみつけた日に大人のサンショウウオも発見できました。体に肋条と呼ばれるしわがはっきり出ています。脚も太くて,とても力強い感じがしました。こうして持ってみると,サンショウウオの指先が手にひっかかるようで,爪のようなものを持っているのではないかと思いました。

総排出口総排出口の形態 (オス?)
後脚の間に総排出口というものがあります。ここの形でオス・メスが区別できるのだそうですが,おそらくこのサンショウウオはオスだろうと思います。大人のサンショウウオは写真をとったあと,すぐに逃がしてあげました。


卵嚢その後卵嚢その後
卵嚢をもとの場所にもどして,次の週の日曜にようすを見に行きました。卵嚢の外側だけが残っていて,中身はすべてなくなっていました。周りには少し大きくなった幼生たちが游いでいました。卵はすべて孵化したようなので安心しました。

脚の出かた脚の出かた
幼生の脚の出かたをみつけることができました。カスミサンショウウオは前脚が先に出て,後脚があとで出ることがこの写真で分かります。うしろに小さな脚が出てきていますね。カエルでは後脚が先に出ますから,サンショウウオはその反対です。


救出作戦救出作戦 平成17年4月
毎年春になると,決まって同じ場所に産卵しているのが見つかります。しかしこの場所はしばらく雨が降らないとすぐに水がなくなってしまうので,卵や幼生にとっては危険な所でもあります。この日はもう水がかなり少なくなっていて,このままではサンショウウオたちが安心して成長できないので,近くの水の多い所に移してやることにしました。卵嚢は草の根もとにくっついていたので,どろと一緒に掘り起こしました。

救出作戦卵嚢からとび出している幼生も見つかりました。幼生たちも網ですくって,水の多い所に移しました。カスミサンショウウオは数が少なくなってきているそうなので,少しでも多く生き残ってほしいと思います。毎年この季節に,同じ場所で卵や幼生たちを見ることができると,なんだかほっと安心します。人間にとっては何でもない水たまりなのですが,生き物たちにとっては命を育てる大切な宇宙になっています。


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