平成16329

長崎明誠高校図書視聴覚部

田 中 光 一

滋 賀 県 の 図 書 館 を 訪 問 し て

■なぜ、滋賀県か?

「『図書館先進県』として日本の図書館をリードしてきた滋賀県には、見るべき図書館がたくさんあります。」とは『図書館の学校』(株・図書館流通センター発行)の言葉です。

また、『図書館を遊ぶ』(新評論)の著者である愛知川町立図書館館長、渡部幹雄さんは新聞社のインタビューにこう答えます。「図書館には人が集まる。地域を活性化する力があるんです」「まず、いい図書館を見てほしい。イメージを持つと欲しくなる。こういう仲間を増やすことです。住民も、議員も、そして首長も」

さらに、能登川町立図書館・博物館館長、才津原哲弘さんは「本物の図書館・博物館づくりを目指して」と題してこう述べます。「21世紀に入り、今、国の内外にあって激動の時代ですが、住民のだれもが、自分の住む地域で、よりよく生き、真に豊かな暮らしを実現していくためには、生涯にわたっての自己学習が欠かせません。住民の生涯にわたる自己学習を保障する本物の図書館を設置し、運営することは行政の責務であり、今ほど、その内実が住民から問われている時はないのではないかと考えます」「50年間にわたって日本の公立図書館に関わってこられた図書館計画施設研究所所長の菅原峻氏は、町村の6割、1,600を超える自治体に図書館が未設置である現状をふまえ、いまある全国約2,600の公立図書館のうち、(1)本物の図書館」といえるのは全体の5%ほど、半分以上が「(2)図書館という看板の下がった役所」、残りの7080%が「(3)無料の貸本屋」であり、しかも当初(1)であっても(2)(3)化していくケースが珍しくないと雑誌でのインタビューで述べています(「アミューズ」2000.1.26/毎日新聞社)。」(初出:「国土交通」20031月国土交通省)

渡部・才津原両館長の明確な図書館論です。

図書館として最良のものを見ることは、公共図書館と学校図書館の枠を超えて、より新しい長崎明誠高校図書館を創造していく拠点になるはずです。「本物の図書館」を見学しなければ、長崎明誠高校図書館のヴィジョンが描けないどころか、管理に溺れた「役所」や「無料の貸本屋」になり下がってしまうのでないかという恐怖の念が、まさに訪問の契機だったのです。(下線部:田中)

 

■訪問先

1 愛知川町立図書館

 玄関を入った正面にピアノが置いてある。一定の資格があれば演奏自由なピアノ。ガラス越しに見える中庭もアマチュア音楽家のために開放するという。何と贅沢な施設なんだろうというのが、第一印象。

館内左手に愛知川町伝承工芸「びん細工手まり」の展示館。奥の方から、京なまりのやわらかな会話が流れてくる。お孫さんだろうか、女の子と老婦人が大画面のビデオを鑑賞している。ショーケースには「びん」の中に入った「手まり」が陳列している。どういう仕掛けなのか、びん口よりも大きな手まりなのである。温かな色合いの手まりたちが行儀よく並んでいる。ほっとした気持ちになったのは、道に迷いながらの訪問だったからだけだろうか。

右手に図書館。図書館に入ると左側が子ども専用の部屋。大人用の開架棚と子ども用のそれを分けることで、お互いの利用しやすさは数段に高まるだろう。

入口の掲示。自然な木の色調。高い天井。よく計算された採光。机。椅子。ランプ。両側に並ぶ開放された小部屋。さすがに森山町の図書館を作り上げた渡部館長の作品と感動してしまった。図書館としてのひとつの完成品がここにあるのだろうと感じる。

 

2 近江八幡市立図書館

 館長が日野市の図書館からいらっしゃったということもあり、期待していた図書館であった。しかし時間帯にもよるのだろうが、来館者が少ないように感じた。落ち着いた外観の図書館ではあるが、重厚な木製の自動ドアを二つも通らなければ館内に入れないところなど、すこし格調高すぎるような気がした。私の目指しているものと、幾分異なるコンセプトの図書館とお見受けした。

 

3 山東町立図書館

 伊吹山が望める「ルッチプラザ」(町民交流プラザ)内に設置されている。保健センターやスタジオ、レストランもあり、まさに町民の交流センターの感がある。建物は当地の自慢「ホタル」を模しているとは親切に応対していただいた司書の言葉。古い図書室から当館に移転するときには、図書館への希望を小学生にアンケートしたとのこと。利用者のための施設は利用者の心を受け入れる必要がある。カウンター横に大きなぬいぐるみの熊。その横手にツタで作った同じ大きさの熊。利用者からの贈り物だそうだ。利用者の心をつかむと、こんな展開になるわけだ。納得する。

 ソフトの面でも充実している。若いお母さんへのサーヴィスとしての「ブックスタート」は、児童健康相談に来館する機会をとらえて健康福祉センター職員との連携である。もちろん「おはなし会」「本のリサイクル」なども実施。

小学校・中学校との連携はもちろんのこと、高校生の職場体験も受け入れているという。地域に根ざした活動が定着している図書館である。

 

4 滋賀県立図書館

 県立図書館には県立図書館の役割がある。市立や町立の図書館とは若干異なる様相を呈するのは当然のことであろう。

誤解を恐れずに述べるならば、滋賀県立図書館は高級ホテルのイメージである。「文化ゾーン」と呼ばれる広大な敷地に美術館と併設された図書館は、明治建築の外観を持つ重厚さである。絨毯を踏みしめて玄関を入ると、左手にはまるでホテルのカウンター。中にはホテルマンと見間違う図書館員(もちろんスーツ姿)が接客している。

ロッカーに荷物を入れ、買い物籠のようなピンク籠を持って館内に入場する。正面に広いロビー。図書館の入口付近をロビーというのかどうかは知らないが、そこにあるのはたしかにロビーなのである。滋賀県民がソファにゆったりと腰掛け、新聞雑誌を悠然と読んでいる。窓からは見事に整備された庭園が見える。

吹き抜けになったカウンター前の階段を上り二階に上がると、回廊を取り巻いて雑誌・一般図書・郷土史料などのコーナーごとに部屋を設けてある。各部屋にカウンターがあり、レファレンスの体制も整ってある。見事な資料の量である。市町村図書館とのネットワークも十分に整備。

 

5 能登川町立図書館

 たいへんな図書館だ。ぜひ訪問して欲しい図書館のひとつ。何と言っても才津原哲弘館長が素晴らしいと言ってしまえばそれまでだが、同一建物内に併設してある博物館との両輪を見事に実践しておいでだと感心してしまった。

「昔の博物館はいつ行っても同じだから、一度行けばよいと思われていましたね」。まず、こんな切り口でお話は始まった。当然、当館は違うというわけだ。なるほどイベントが毎月行われ、先月の博物館と今月の博物館が違う。館内の壁面が移動し、館内の様子が一変するのである。私が訪問したときは『もじと絵展』(乾千恵・黒川征太郎)が展示中だった。いい時に来ましたね、とは館長の言葉。博物館ばかりでなく、図書館でも展示・演奏会が実施されているそうだ。これが本当に生きている図書館という印象を受けた。

大きなイベントもさることながら、小さな思い付きにも感心した。イベントごとに作成された図書館独自の冊子の展示。イベントのために集められた図書資料のコーナーを設置。新着本のコーナーのために作った掲示のファイルや、新聞書評のファイルを入口そばに展示していること。各コーナーについて、多くのメッセージが貼付されていること、などなど枚挙に暇がない。一過性のイベントに追われることなく、確実に文化としての小さな毎日を残している図書館である。図書館が文化情報の拠点であるということを実践している模範を見ているような気がした。

絵画・タペストリイも貸し出し可能。タペストリイは能登川町の名産。

 

6 八日市市立図書館

 2階の「風倒木」という喫茶店で100円の無農薬コーヒーを飲んだ。好きな茶碗でよいと言うので、益子焼の浜田庄司のような雰囲気の茶碗を選んでみた。小さな喫茶コーナーが、コーヒーの香りでふわっと包まれたように錯覚した。コーナー中に置かれているのは環境問題の本である。本を自由に手に取りながらの一服。居心地のいい椅子で本を読んでいる中年男性を眺めながら、コーヒーを淹れてくれた女性とお話をした。

貸し出した「絵」が傷ついて返却されることもありますか。角が少し傷ついて返ってくることもありますが、「絵」そのものが傷ついて返ってきたことはないですね。なるほどね。いつもこんなに利用者が多いのですか。日曜日の朝は出足が遅いですよ。なるほどね。

心和む応対に包まれながら、階段脇に数個置いてあった一輪挿しを思った。黒い一輪挿しに黄色の水仙をさり気なく挿して置く、そのさり気なさがこの応対なのだと気づいた。

日本の図書館10傑にも選ばれる八日市図書館であるから、何が出てくるか分からない。決して新しい建物ではないのだが、利用者に対するサーヴィスが充満している。ちょっとした隙間のコーナーにも本が展示されている。本棚の枠に「老眼鏡が必要な方、お申しつけ下さい」と小さな張り紙がある。例えば「旅と冒険」とか「健康なからだ」など親しみやすいサインで示されている。居心地のいい場所を演出する方法はいくらでもあると、感心した。

時間に追われる訪問で名残惜しかったが、マスコットの「ゴリラ」を写真に収めて図書館を後にした。

 

■今後の取り組み

二つのコメントを紹介する。

「滋賀の市町村立図書館の特色として、 1.新鮮で魅力的な図書が豊富(1年間の人口当受入冊数全国1)、 2.司書が多い(職員の有資格率82%は全国1)、 3.リクエストされた本は購入したり他館から借り受けて提供してもらえる、があげられます。その結果、滋賀県内市町村立図書館の貸出冊数は年間人口1人あたり6.2冊で、東京についで全国で2番目に多い。(平成12年度)

「読者に人気の図書館に共通するコメントは、『職員が親切』『明るくて気持ちいい』『本がきれい』『イス・畳・戸外と、スペースが多様』など。そこに居て、心地よいことがポイントのよう。」

この二つのコメントを実現できるかによって、長崎明誠高校図書館の未来が決定されるだろうと、「勇気」と「不安」を得た訪問であった。