EUの訳語問題

European Unionという語は駐日欧州委員会代表部広報部により「欧州連合」と訳されているが、その表記には以下の問題がある。
第1は表記の採用過程はEUの説明責任(accountability)が問われているにもかかわらず、極めて不透明で、まともな検討がなされた形跡がないことである。第2に「連合協定」などにみられるEUの様々なターミノロジーを全く無視し、EUを産み出す政府間会議では政治同盟や、経済通貨同盟をEUの基礎としていたにもかかわらず、極めて恣意的に使い分けしていることである。第3にEUが本来的に内包する連邦的政治体としてもつ諸装置に対する認識と、EUの統合の方向を巡る連邦主義勢力と、国家連合組織に止まる事を望む勢力との激しい路線論争に驚くほど無知であることである。第4にこれにより、EUにおいては、「欧州連合」をとることは、欧州統合推進する欧州委員会が一方の陣営に属し、政治的中立性を侵していることである。なによりも、union とassociationのEUにおける使われ方を知るものなら、自ら誤解を招く表記は採用しないであろう。欧州言語において、unionと associationは違う概念である。また日本語でも「連邦」と「連合」と言う用語には、決定的な概念の相違があることからして、連邦的統合を志向し、かつその内部装置を持っているEUと、東南アジア諸国連合(アセアン)それ以外の組織を識別する表現としては、「欧州連合」の表記は明らかに不適切である。通貨主権の移譲にみられるように、EUは「連邦」的政治体の色彩を日々濃くし、国家連合組織と乖離しつつある。1999年6月の欧州議会選で新たに党派を形成した反EU政党のEuropean Democracies and Diversities(EDD議席16)は、みずからを「European association of sovereign nation states」と名乗り、EUの連邦的統合に反対している。まさに主権的国民国家の「欧州連合」で、EUのターミノロジーにおける「欧州連合」の典型的な使い方である。代表部と「欧州連合」を助言した研究者は、この訳をどうするのだろうか。
なお「欧州連合」の表記は、日本語としての論理性を欠き、英語でそれを表現できないがゆえに、欧州議会の現在憲法問題委員会の最有力メンバーの1人、R・.コルベット議員を通して、対日問題委員会のグリンフォード議員から、すでに1996年段階で議会の公式質問書で「欧州連合」の表記の使用停止と、「欧州同盟」への変更が求められている。が、駐日代表部は統合組織の概念の表記が問われているのに、商店街の「連合」会の事例を引き合いにだし、あるいは「EU条約はマーストリヒト条約と訳されることもある」などと述べたり、意味不明の答弁書(0138/96EN)で済ませていることを改めて指摘しておこう。ちなみに日本EU学会はこの名称を採用していないし、漢字発祥国の中国においても、「欧州連合」ではなく、「欧州連盟」、略して「欧盟」を使用し、欧州委員会については「欧盟委員会」の表記を使用している。訳語の問題は、拙稿Masami Kodama,"The Phrase,'Oushu Rengou'to indicate the European Union in Japan and the Political Nature of the EU,"Junshin Journal of Human Studies. Nagasaki Junshin Catholic University. No.2.1996

参考資料・論文
欧州連合(ヨーロッパ連合)という日本語表記の使用停止と欧州同盟に関する拙稿は以下

「欧州連合」という日本語表記問題再訪──EU 研究おける言葉と認識の問題http://doors.doshisha.ac.jp/webopac/bdyview.do?bodyid=
UC12166037&elmid=Body&lfname=038003020002.pdf