名 礁 3 番
米 水 津  そ の 3

その日は突然訪れる
「もしも〜し,吉田さん」
「ハイ,そうです?」聞きなれない声だけど誰だっけ?
「福田ですが」
「福田?・・・」でも確かにどこかで聞いたような?
「オオッ!福田さんお久しぶりです」
「釣りに行かんね。当番の3番が取れたけん」「こっちが二人しかおらんけん。どうにかしちゃらんね」
「はい,判りましたどうにかします!」速攻で返事をした。
なんと電話の主は直方のラーメン屋さん福田さんだった。福田さんとは最近こそ一緒には行ってないが,
鶴見や蒲戸など一緒に行きなんどかお世話になったのだった。

ホームグラウンドの米水津には六つの当番瀬なるものがあり,米水津の渡船六船が
それぞれ一つづつ当番瀬を受け持つようローテーションが組まれている。
この当番瀬で釣るには当然予約が必要(一ヶ月まからの受付)で,なおかつ当番瀬によっては
最低予約人数も決められており,今日の電話のように予約したのはいいが
必要な人数を集めなくてはいけないということになる。
ちなみに確か3番は5人からだったと記憶している。
ということはこちらで3人集めなければならないことになる。
一人は確実だが,もう一人は誰になるか。とにかく3番行き決定〜だァ。

実は今年の1月に3番を予約していたのだが,おりしも冬型の低気圧に土俵際で
寄り切られ,せっかくの3番での釣行がふいになっていたのである。
よくちまたでは,雨男や雨女などと言われる人がいるが,この福田さんと釣りに行くと
かなりの確立でお天気に悪戯されるような気がする。
今回はしかし長期予報ではぎりぎりセーフといったところ,釣行日の翌日からお天気が崩れるという。
ナムサン。アーメン。お願いだから天気よ,くずれないで!!

エサ取りのように名礁3番に引き寄せられた田中迷人 荷物を積める
〜エサ取りのごとく,名礁に誘われる人々〜
いつものように昼飯食いながら田中さんに3番の話をすると,
その日は休みではないけれど,どうにかするという。
ヘヘッ!まずは二人目決定。もう一人だが,
なぜか知れないがこの時にかぎって「マッちゃん」松永さんを思い出した。
どれくらいぶりだろう釣りに誘うのは?
釣り以外では最近もお世話になることがあったのだけれど。まあとにかく電話だ。
「もしもし,松永さん。釣りいきません?」
「行きましょう。ところでいつですか?」
「今週の金曜日なんですけど,大丈夫ですか?」
「OK!大丈夫です。土日は仕事が入っているけど金曜日ならいいですよ。
で,どこに行くんですか?」
「米水津です。知り合いが3番を予約してこちらでも人数集めてくれとの事でしたから」
「3番ですか!いいなァ〜。よろしくお願いします!」
やはり当番瀬の威力はすごいよね。二つ返事でノルマ達成。
まるで撒き餌に寄ってくるエサ取りのように苦労せずにメンバーは集まった。

今回快く同行してくれた松永さん
〜鼻の穴だって ふくらんだもん〜
ただ問題もある。
この時期は一年でもいちばん水温が低下する時期だけにさすがの当番瀬でさえ釣果は期待できるのだろうか?
当番瀬を予約するのはかなり至難の業ではあるが,さすがに真夏は例外である。
過去,7月だったと思うが沖の黒島で夜明けから釣っていたがまったくといっていいほど釣れない。ほどよく見まわりの船が来たので瀬変わりを告げると
「じゃ,3番に行こうか」という。ヘッ?「3番が空いとうわけ?」
「ウン,今見てきたら空いとったけ〜ェいいよ」船長の言葉を一瞬疑ったが,
よし3番ならと大急ぎで支度をし瀬変わり。
結局この日はその後1番にも瀬変わりし,
なんと一日に2つの当番瀬を釣るというよだれモノのような釣りをしたことがある。
確かに釣り場は一級なのだが,腕前のほうは二級で,しかもクロの姿は1度も拝めず,イスズミのオンパレードだった。
3番では天国も地獄も味わったことがあるのである。

釣行の前々日千代丸に連絡をいれる。
「今度金曜日福田さんで3番に予約がはいっとろ」「ちょっと待ってナ〜」カレンダーを確認する様子。
「そうそう,ちょうどこの日空いとったんよ。なに,吉田さんも来るン?」
「ウン,福田さんから電話があったもんで行くよ。よろしくね。ところで最近どんな?」
「そうね,大体今の時期釣れんもんね。でも今日の組はなんぼか釣っとたよ〜」
話を聞くと14度前後しかなかった水温が一気に上昇したらしく,いくぶんクロも口を使うようになったらしい。ヘヘッ!
釣行日の夕方には船の出船時間を連絡してもらうよう頼んで電話を切った。
ウヘッ!!少しはいいかも。期待で胸も鼻の穴もふくらむのであった。

今回のチャンスをくださった福田さん
〜遠足前夜の小学生のごとく 釣り人のことです〜
当日,いつもエサの予約をしている釣具店で福田さんと落ち合い米水津をめざす。
この日,福田さんと同行するのは直方「巧クラブ」の山本さん。
なんと石鯛狙いらしい。普段は五島や沖ノ島へよく行くらしい。
今回は大分の石鯛釣りを開拓すべく参加したらしく4月に石鯛とは,初めてあった人にこういってはなんですが,えらく気合の入った人だよなァ。

2台の車は無事小浦港に1時半頃到着。
いつものように我々の乗った車は陸組に明渡し,千代丸の仮眠室でまずは腹ごしらえだ。
といってもカップラーメンとおにぎりだけど。当然腹ごしらえをしていても釣りをしているうちにお腹が空くのだけれど,なるべく荷物を少なくしたいので,腹に入るものは,とにかく食っておくにこしたことはない。
いつも瀬上がりする時の荷物いえば竿ケース,バッカン,クーラーの3点セットのみ。以前は他に道具を詰めたバッグやリックを持って磯上がりしていたのだが,せっかく持って上がったのに使う道具も少ないことに気づき,この何年というもの必要なものを最小限にまとめポケットに入れ,ポケットに入りきれないもの(スペアーのリールや替えスプールなど)はタッパーに入れクーラーに納めている。
こうしておくと少なくとも水が入ることはないからね。
ただし,タッパその物は釣りに行くたびに洗わないといけないけど。
〆た魚の血や臭いのせいでね。
腹ごしらえもすみ,少しでも身体休めをしておこうと,横になり目をつぶる。
と,まずつぶったマブタに3番の情景が浮かぶ,そうするうちに海面に浮かんだウキが・・・。
これって俺だけ?少しでも寝ておけばよいのになかなか寝つけない。
しかし,そのうち起きなくてはいけない時間になった頃睡魔が襲う。
まだ眠れないのは良い方で,ぐっすり寝ついたばかりにの時に起きなきゃいけない時なんて最悪だよね。「釣りはいいから寝せといて」って感じ。

夜明けの名礁3番
〜名礁3番 目前にして〜
だるい身体に鞭打って着替えをすませ,千代丸に乗り込む。今日の釣り客は自分達の他には二組。その2組を沖の黒島へおろし,横島3番へと向かう。
はじめはデッキに座っていたのだが波飛沫がメガネにかかるのがイヤで船室へと避難した。(メガネを掛けている人にはわかっていただけるとおもいます)
広々とした船室で横になって波に揺られていると,田中さんが声をかけてきた。
ウネリで3番上礁が難しいかもしれないというのだ。
「船長の話を聞いてみてよ」と言う。エンジン音が止まる。
3番に着いたらしい。操舵室に行き船長と話をすると,昨日もウネリがあり当番の1番には昼から上げたと言う。そのかわり二時間の間にそこそこの型をクーラー一杯釣ったらしい。これから満ち潮なので夜明け頃には大丈夫だと言う。
サーチライトに照らされた3番を見ると確かに磯の上まで波がはいあがりそうである。マズメの貴重な時間を釣ることはできないが,昨日の1番の話を聞いてますます期待は膨らむ。踵を返すように港へ進路を変更し,撤収。
港へ帰り船長と話をすると,南の風が吹かなくても関東の南に低気圧が通過,もしくは停滞するとこのようなウネリがよくあると言う。初耳である。やはり自然は判らん。難しい。

渡礁後
隣に見える1番
〜おひさしぶりねぇ〜
薄っすらと夜が明けようとする頃,再び千代丸のエンジンが始動する。時間は5時を過ぎている。すでに潮も引きにはいっていることだろう。3番ではどちらかというと引きの潮に分がある。もちろん満ちでも釣りにならないことはないが,引き潮は4番と3番をかすめるように流れ,その引かれ潮が釣り場全体の潮の流れを良くする。寄り道なしで千代丸は横島を目指す。

潮が引いたせいもあるが,いくぶんウネリがおさまったのだろう,サーチライトの中に照らし出された3番とは違い我々を歓迎してくれている。すでに,同じ当番瀬である1番と4番には数人の釣り人が竿を振っているのが見える。5人分の荷物を手渡しし,ぶじ全員上礁完了。実は千代丸には船長の弟がポーター役で乗りこんでいてくれるので非常に助かる。船長の持病であるヘルニアが悪化した時などは,自ら舵取りをし,磯渡しもしている。兄弟の二人三脚とても良いことである。
うす曇の中,水平線から1番ごしに太陽が昇り始めた。しっかりと磯靴で磯を踏みしめクーラーを肩に掛ける。一年,もしくはそれ以上か,久しぶりの3番である。

さあ 田中迷人
がんばりましょう!
〜実釣開始!〜
「巧クラブ」の山本さんに底物のポイントを説明し,我々上物狙いの4名はめいめい好きなポイントを陣取る。沖に向かって1番左から田中さん,そして次に私,福田さん,松永さんとちょうど等間隔になるくらいで釣るようになる。理想的な配置だ。
まず撒き餌バケツの中に海水を入れる。この時,かなりアバウトな水の入れ方をするのだけど,水を入れすぎた時の為にえさ屋で撒き餌を混ぜ合わせる時に,約半分をビニール袋に分け入れておく。そうすると,水を入れすぎたときなどパン粉や集魚剤を入れ足すより便利だし,1度にたくさん作らないお蔭で磯の上を移動するのにも軽くてすむという寸法だ。次に仕掛けだが,夜も空けたことだしまずはオーソドックスなどんぐりウキの単体のみの仕掛けでやってみることにする。足元は少しだけだが磯が切れこみ,大きく沈みが張り出している。そのせいでウネリが入るたびにサラシができ足元に撒き餌を利かせるのは難しいようだ。沈み瀬の竿1本くらい先へ,まず仕掛けを投入してみる。
思った通り打ち寄せたウネリは沈み瀬の先で複雑な潮の動きをしており,撒き餌も仕掛けも安定するどころかサラシにもまれたり,沈みこむ潮に引きこまれたりで難儀しそうである。くり返し仕掛けを流すうち,右手の福田さんの竿が空を切る音がした。見ると竿が曲がってはいるが,魚自体はあまり大きくないようだ。磯際まで引き寄せ一気に抜く。本命のクロではあるが型はいまいち。30センチほどだろうか。
「きましたね!」と声をかけると,「まあ,これで坊主はないね」との答え。
福田さんはここ最近米水津に通い続けているが,満足な釣果を得ておらず,この3番に期待していたらしい。さすがに,3番にしては小型のクロではあるが,この調子で釣れてくれればお土産は間違いないと思われた。
しかし,現実は甘くはなかった。田中さん,松永さんと順に釣れるものの後が続かないのである。左手の1番も後ろに位置する4番もたまに竿は曲がっているものの,遠見でも型はイマイチなのがわかる。まだこの時点で自分だけにはアタリすらないのであるが,ここはあわてず仕掛けでも変えてみようか。全遊動の仕掛けも考えてみたが,安定していない潮の流れと斜めから吹きつける風を考慮して飛ばしと小さなカヤウキの組合せでやってみる。2ヒロから3ヒロで流すが,エサさえそのまま原型で戻ってくる。風のせいで道糸を取られ,撒き餌と仕掛けを同調しよとも引き戻されうまくいかない。
仕掛けを安定させる為,最近ではめったと使うことのなかった水中ウキをポケットから取り出し,ついでにハリスも2号に落としてみる。
はたして釣りやすくはなったもののクロの反応は?

6月に
予約を入れてる4番
まってろよ!
〜そんな奴 いないって!〜
タナを上げたり下げたりするうちに,沈みの向こうに微かにクロが撒き餌を追う姿が見えるようになった。田中さんと福田さんにそのことを告げると,どちら同じようにクロの姿が見えるという。しかし,付けエサには見向きもしないようだ。クロはある一定のタナだけで撒き餌を追うようで,活性の上がった時のような上下運動はしていない様子。ここはセオリー通り,撒き餌を先行させ,その筋に仕掛けを時間差で投入しアタリを待つ。湧き上がる潮の筋に入ったらしくウキは静かに引きこまれるが,一瞬角度を変えてウキが入った。アタリに間違いない。と思う瞬間右手は反応し,アワセを入れる。強くはないがクロの引きだ。目の前の沈みをかわし抜き上げる。型は同じく30センチ程度。
型を望まず,今日は数釣りかと思ったのだけれど,後がうまくいかない。せっかくの当番瀬でこれでは恥ずかしいやら,情けないやら。試しに沖目に撒き餌を飛ばし様子をみると,やはり沖目でもクロらしき姿が確認できる。撒き餌を追加して飛ばし仕掛けを遠投し,引き戻し撒き餌の帯に馴染ませる。沖の潮は,本流に引かれ左から右へ流れている。仕掛けを張るようにして流すとアタリが出た。これが正解なのか?しかし先ほどと同型のクロを一匹釣り上げただけでまたもや後が続かない。クロの姿は見えるのに!!!
やはり日ムラがあるのか?はたして腕が悪いのか?
竿を置いてクーラーの中からビールを取り出し,喉の渇きを潤し福田さん様子を見に行く。やはり同じようにクロの姿は見えるが釣れないといっている。ついでに山本さんの様子も見に行くと午前中に明らかに石鯛らしきアタリがあったがアワセに失敗したらしい。
いつも思うが底物狙いの人達って辛抱がいいよね!
我々上物狙いだとあれこれすることあるけどね。仕掛けを打ち返す回数だけでもかなり違うし,その上撒き餌を打つ回数まで入れると果たして何回腕を振ることやら。一回試しに腕に万歩計でもつけてみるか?誰かやったことある人はいるだろうか?
〜帰りに鮮魚店!? いやコンビニ!〜
そんな状態が続き,3番としては期待はずれの貧果に終わり,回収を待つことになった。クーラーの中には30センチクラスのクロが3枚と食べ残したお握りが一つ。たぶん我家の息子は魚よりのお土産より余ったお握りのほうが喜ぶんだろうな。帰りにコンビニのお握り買い占めてやるか。毎度のことながら,次回に期待して米水津を後にしよう。
〜「釣りの裏業」〜
本文の中でも撒き餌を二つに分けておくようなことを書いていますが,もう少し詳しく説明しておこう。
みなさん撒き餌はどうして磯まで持っていきますか?
オキアミはブロックのまま持っていき,磯の上で撒き餌を作りますか?
それともえさ屋さんの店先で解凍予約した物を混ぜ合わせ持っていきますか?
まあ,いずれのどちらかとは思いますが。
私の場合季節を問わず後者の方でいつもえさ屋さんである程度解凍したものを混ぜ合わせています。
この時,バッカンに全部入れず,半分もしくは4割くらいの撒き餌を別にビニール袋に入れバッカンに一緒に入れて行きます。この時解凍したオキアミの中から付けエサも取り分けておきます。中には混ぜ合わせた撒き餌さにご丁寧に水道の水まで入れている人をまれにではありますが見かけることがあります。
「なぜ??」
私に言わせると,ただ重いだけではないかと思うのですが?もし,その人に言い分があるとすれば,釣り場に着いて,水汲みバケツで水を汲むのが面倒だというかも知れませんが。
みなさん,水を入れ,バッカンいっぱい適当な硬さに仕上げた撒き餌の重さってわかるでしょ!
えさ屋さんで車に積み込んだり,港で船に積み込む,船から磯に上がるとき,磯に渡った後ポイントまで運んだりと大変です。なにもわざわざ重くすることはないと思います。
こうしておくと,たまたま海水を入れすぎた時や急な雨で撒き餌がゆるくなった時など別にパン粉や集魚剤を持って行かなくても,分けておいた分を入れることによって硬さ調節が撒き餌の比重を変えることなくできます。(最初から終わりまで狙いの魚種が変わらなければですが)
取り分けた分の鮮度の問題ですが,今までの経験から言うと,梅雨クロのシーズンくらいでしたらそのままビニール袋ごと岩場に置いていても,別段問題はないように思います。もしかりに心配な方はクーラーに入れておけばさらに言う事ナシだと思います。過去に本当に役に立ったなと思ったのは,ウネリを頭からかぶり自分が濡れてしまったのはしかたないにしても撒き餌がベチョベチョになってしまいました。こうなると遠投どころか,柄杓ですくうことすらできず水鉄砲でもあれば役に立ちそうなくらいです。この時にも撒き餌を分けていたおかげで助かりました。経験はありませんが,もしかしてということに,バッカンごと波にさらわれる,もしくは海中に落としてしまうなども想定しています。クロ釣りがメインでなくても,みなさんご承知の通り撒き餌は磯釣り,波止釣りいずれにしても釣果を上げるには必要不可欠です。

さよなら 3番
また会う日まで
〜たのしみましょう さかなつりを…〜
釣りは楽しいものです。あれこれと道具を揃えたり,想像したり,釣り自体もですがそれに付随するいろいろなプロセスも楽しめます。しかし,その楽しみもいつも自然を相手にしていることを忘れないでください。楽しい釣りを途中で止めなくてはならなかったり,ケガのないよう楽しみたいものです。