初釣り
〜米水津 横島1番〜


横島1番から3番を望む
〜プロローグ〜
「2月やったら行ける?」
いつものように昼飯を食っていると、田中さんが後からやってきた。
釣りのお誘いであることは判りきっている。
「2月ねェ。大丈夫とは思うけど」と、曖昧な返事をする。
「いや、仕事先の若いやつが、なかなか釣りきらんらしいけ、是非お願いしますって言われとんよ」
「2月25日なら俺たちが両方休めるんやけど、どうやろ?」
ひと月先の話だ。
1月は私の個人的な事情から釣りには行けないと話していたので、断るわけもいかず
「それなら、米水津に行こうか。今年の初釣りやね!」
ということで、今回の釣行が決まった。
1月千代丸のホームページでは、各磯でクロの1キロ級が釣れているとの情報。
この時期のクロは、活発にエサを拾うので釣りやすく、型数ともに満足いく釣りができる。千代丸の釣果速報を見るたびに気持ちはウズウズしていた。

待合室にて

吉野さんと田中さん
〜当日〜
メンバーは、毎度お馴染みの「田中さん」、「おじいちゃん」、「村上さん」そして今回初参加の「吉野さん」そして「私」の5名。
初参加の「吉野さん」は田中さんの仕事関係である取引先の若手ホープ。
(今のところ釣りではなく、仕事でという意味)
釣りの方はというと、会社の同僚とよく行くらしいが、満足できる釣りに行き当たらないらしい。話を聞くと、最近は磯より波止釣りに良く行くらしい。というのも、波止の方が、お土産になるような魚が釣れるから。奥さんもそのほうが喜ぶらしい。何も釣れない釣りより、アジゴでもあった方がマシというわけだ。しかし、これでは吉野さんもかわいそう、幾ら嫁さん子供が喜ぶといっても、やはり磯釣りそれもクロ釣り大好きらしいのだ。
そんな吉野さん前回、田中さんとやはりクロ釣りに行き、そのときなんと田中さんが70センチのマダイを釣り、それを吉野さんが掬うということがあったらしい。
しかし、その時も吉野さんには本命のクロは釣れず、釣ったカワハギをリリースしたことを田中さんにうまい魚を捨ててしまってと、さんざん小言を言われたらしい。

今回5人ということで、車の荷台は荷物でいっぱい。
いつもは当日にエサの予約を入れて解凍を頼んでおくのだが、今回に限って三平釣具に行ってから買おうということに。しかし、これが大きな失敗を招くことになろうとは。昨年末に、大分自動車道は、これまでの米良インターから津久見インターまで終点が延長され、行きはエサを買うのに米良で降り、帰りには津久見を利用しようと予定を立てていたのだが、これが大誤算。
いつもの三平釣具についてみると、なんと店休日ではないか。年中無休、オールナイト営業のはずが・・・・。
しかたなく米良インターに引き返し、終点津久見をめざす。米良〜津久見間は約20分の行程である。しかし、津久見から佐伯市内まで約20分掛かるので、今まで通り高速を
使わず米良〜佐伯市内までという行程をくらべるとそんなに時間的には違わないのである。米良〜津久見間の高速料金は850円だった。

佐伯市内の釣具店に行くと、なんと釣り人の多いこと!
情報ではそんなに釣れているようでもないし、現に前日、千代丸に電話したときも「クロはちょっと厳しいよ」と言われていたのに。なのに、店先には解凍予約のエサでいっぱいだし、撒き餌を混ぜている人達でごった返している。
これじゃあいつまで待ってもダチがあかんといことで、市内の他の店まで引き返すことにした。
これじゃあ〜、高速使った意味ない!!おまけに撒き餌のオキアミはガチガチ。
そのうえ、オキアミを砕くミキサーは故障しているしで撒き餌を作るだけでも汗だくになってしまった。
相当な時間のロスである。おじいちゃんと村上さんは、港に着くとすぐ暗いうちからアラカブ狙いなので、その貴重な釣りの時間を失ってしまうわけだから気の毒だ。
苦労して全員撒き餌を作り終え小浦港をめざすのだった。

横島1番NO,1
〜ラッキー〜
小浦港着、午前2時前。磯上がり組みである私達3人の荷物を車から降ろし、アラカブ釣りの二人を車に残し千代丸の待合所で夜食と仮眠を取ることに。
前日千代丸の奥さんが出港時間を待合所に書いておきます。とのことだったので、確認して見ると、3時と5時に出船予定であると、記しあった。
田中さんも吉野さんも5時の出船でいいというのでのんびりすることに。
まずはお湯を沸かし、夜食の準備。田中さんと私は、カップのラーメンとお握り、それに5時まで2時間以上は寝れそうなので、海に撒くお神酒とは別に買っておいたお酒を一杯いただく。
部屋の奥に畳が敷いてあり、吉野さんはすぐにそこで横になってしまった。  
田中さんと私は、食後の一服を楽しんでから横になる。10分もしないうちに田中さんはいびきをかきはじめた。うるさい鼾だなと思いつつも睡魔におそわれ、そのまま意識を失ってしまった。

誰からともなく起きはじめ、時間を見ると4時を回っている。お湯を沸かしなおし、お茶を入れ目を覚ます。ついでに目薬もさし、おメメパッチリ。3人着替えながら、やれ他人服装を見て、「それじゃ寒いよ」「いあ、夜が明けると暑くなるよ」などと言葉を交わしながら準備を終える。
そこへ、船長の弟であるマー君が入ってきた。
「おはよう」と挨拶し、最近の状況を尋ねる。やはり、状況は良くないらしい。
「昨日電話したら、一番釣った人で3枚らしいね」というと「ちゃんと知っとうやない!」
ところが、やはり1月はかなり釣れたらしく、地磯でもキロ級クラスが5,6枚出たらしい。
「イカのほうはまだいいけど、クロは難しいよ」
「今日はイカ釣りはするの?」というので、吉野さんのことを伝え
「今日はクロ釣りに専念するよ」と答えておいた。
「ところで、3時の船には何組だった?」と尋ねると。
「4組やったかな〜」
「じゃあ、5時の船は?」
「もうひとりいるだけ」
今日は、釣り客も少ないようだ。
船に荷物を積み込み船長のくるのを待つあいだ、マー君がどこに行くかと尋ねるので、どこに行こうかと迷っていると「1番でいい?」というではないか。
一瞬耳を疑ったが、確かに「一番でいいか」と聞いているのだ。
今日千代丸の当番瀬が「1番」であることは待合所のカレンダーでしっていた。
当番瀬を予約した釣り人は、余程夜明けの早い時期でない限り、ゆっくりと5時の船で磯上がりするのが普通だ。てっきり5時の船には当番瀬に行くような人が見当たらなかったので、当然3時の船で瀬上がりしたものとばかり思っていた。
しかし、「1番」はキャンセルされていたのだった。
ありがたいことに、3時の4組のお客さんを1番に乗せずにとっておいてくれたのだった。

時計の針は5時を過ぎたのだが、船長を待つが来そうにもない。「もう行こうか」マー君の決断で船のエンジンに火が入る。操舵室の後ろで待っていた田中さんと吉野さんに
「冗談かもしれんけど、1番に行こうかっていいよるよ」というと、田中さんは
「まさか、1番キャンセルするような客はおらんやろ」
「そうね、まあどこに行くか着けば判るしね」
吉野さんは二人の会話をじっと聞いているだけだ。
ゆっくりと港を出た千代丸は港の波止をすべるようにかわし、しだいにエンジン音を響かせて暗闇の海上ヘと飛び出してゆく。暗闇の中、右手に黒島、沖の黒島の島影を見ながら千代丸は一路横島方面へ船首を向けたのだった。
横島1番NO,2 〜1番〜
間違いもなくそこは「1番」だった。サーチライトに浮かび上がった1番に3人は喜び勇んでとびうつる。荷物を運び終え、最後に操舵室のマー君に両手で丸を作り「OK」サイン
を送った。やはり冗談ではなかったのだ、心の中は感謝で一杯だった。
さすがに、吉野さんはまさか一番に上がれるとは思ってもいなかったようで、感激したようだった。5時出港のお蔭で、暗く寒い時間を過ごすのが短くて済む。
久しぶりの一番は、しばらく時化にあっていないのか、ゴミは少ないもののオキアミくさい。
まあ、どこの1級磯でも人気が高いぶんだけ、この問題も避けては通れない課題だ。
クーラーに腰掛けゆっくりと仕掛けでも作って、明るくなるのを待とうと思っているとすでに吉野さんは仕掛け作りも終わり、なんとウキにはケミホタルがついているではないか。
二人で磯際に立ち、およそのポイントを説明しまずは釣り始めてもらうことにする。
水平線の東の方向を見ると微かにそらが赤く映っている。
クーラーからお神酒を取りだし、海に注ぎ、東の水平線に向かい拍手を打つ。
今年の初釣りの始まりだ。



横島1番NO,3

吉野さんとイサキ
1番のベストポイント
今日の潮は、大潮の初日で、満潮がたしか午前5時過ぎだったようだ。
ということは、現在の時刻であれば、これから引き潮が本流となって、川のように流れ本流の流れに乗せて釣るポイントもあれば、本流に引かれる潮に仕掛けを乗せて釣る方法とどちらもやれる。
幸い今日は3人ということもあり、3人ともがベストのポジションで釣ることができる。
先ほどからウキを流している吉野さんに、今だアタリはない様子なので潮下にポジションをとった自分が少し多めに撒き餌を撒かなければと思い、いつもより念入りに撒きを撒く。
何度か仕掛けを流すが、過去に経験したような潮が流れず、速くはないが本流に引かれる潮ではない様だ。
本来なら、この引かれ潮と本流のぶつかるカベと呼ばれるポイントで大型が当たることがあるのだけれど。
しかし、この日は何度仕掛けを流すもエサさえなくならない。タナも竿2本まで取って見るもののアタリはない。田中さんに声をかけると、やはり同じようにエサさえなくならないとい
う。これでは、吉野さんに申し訳がない。水溜りで竿を出しているわけではないのだ。
ここは、横島の「1番」なのだから。
時間は無常にも過ぎ、いくぶん潮の速さも落ちついてきたようだ。なんとか突破口を見つけ出したいと思い、一段下のポイントに移り竿を出した。今思い出せば、自分自身初めてキロアップのクロ釣り上げたのはこの1番だったし、このポイントだった。どうせならと、ポイントを変えたついでだタナを思いきって二ヒロの固定仕掛けに変え、しかけ自体が直立するようガンダマを段打ちしてみた。と、直後なんと私の仕掛けではなく、今日のゲストである吉野さんの竿に獲物がヒット!!竿は大きく曲がり、かなりの型のようだ。吉野さん一歩前へ出てリールを巻く。すかさず、今回は田中さんがタモ入れのサポートに回る。
吉野さん冷静に時間をかけ魚をいなす。ウキが見えた!しかし、左手の離れ方向へ突っ込む。竿で溜め、さらにリール巻く。魚が浮く。緊張の一瞬。タモ入れ成功!
「でけェ〜ッ」
魚を掬った田中さんもビックリ。獲物は40センチほどあるイサキだった。写真を撮るのを思いだし、吉野さんのところへ。「立派なイサキですね」と、声をかけると。「ハイ」「アタリを竿にダイレクトに来たでしょうと」言うとやはり「ハイ」と答える。写真を撮るので、魚を持って構えてくださいというと、撒き餌で汚れてしまったイサキを気にもせずポーズ。(撒餌で汚れているのが写真に写っているかも)
後から、このイサキ、〆を入れずにクーラーに入れたらしく、また田中さんに怒られていたようだった。
とにかく、吉野さんに一匹釣れた事でかなり気は楽になった。
しかし、肝心のクロの顔を見るまで頑張らねば。



ベストポイントNO,2

ベストポイントNo,3
竿2本ほど先に、ちょっとした潮目が出来ていたので、そこをポイントにしぼり撒き餌を打つ。最初に撒き餌を打ち、その後仕掛けを入れ、またすぐにウキの周りへ撒き餌を打つ。
一回の投入に対し、撒餌を5,6杯撒く。右手から流していたウキが正面にさしかかった頃、微かな反応が!確かなアタリだ。が、アワセは空振りに終わってしまった。
クロに違いないと確信を持ち、ハリにエサを付けながらも撒餌を撒いておく。先程と同じポイントへ仕掛けを振り込む。今日は特別に大サービスだと、またも仕掛けの周りに撒餌を3,4杯撒いておく。
この大サービスが良かったのか、仕掛けが馴染むと同時にウキがクロ特有のアタリで海中へ引きこまれて行った。
確信はしていたものの、あまりのウキの反応に少しあわててしまい、道糸を巻き取る間もなくアワセを入れてしまった。
しかし、幸運なことに道糸を巻きとっていなかったが、その分クロが引きこんでくれたのでガッチリとアワセが効いたようだった。
流していた所が磯際だった為一歩前に出るが、そこへ大きなウネリが!またあわててもとの場所へ飛び移る。そのまま竿でためていると、手前に突っ込んでくる。左前方の小高いところへ移りすばやく道糸を巻き取る。掛けたすぐは「ヘヘッ、良い型」と思っていたのだが、どうも小型みたいだ。
魚を掛けたことに気がついた吉野さんがタモを差し出してくれたのだが小さいからと断り、魚を浮かせブリ上げた。
わずか30センチほどのクロだった。
型に不満はあるものの、本命が釣れた事で俄然活気がでる。二人に、タナは2ヒロの固定仕掛けであることを告げ水溜りの中でクロのエラにナイフをいれる。
完全に血が抜けきるのを確認してクーラーへ。
最近はいつもこの方法で魚を〆ている。帰ってから調理する時に、血抜きが出来ている魚と、そうでない魚では美味しさが違うからである。

黄昏の田中さん
さて、一枚釣れた事で一安心ではあるが、他の二人にも釣れてもらわなければならない。特に吉野さんには。道中、釣りが上手になるには、という話を吉野さんと交わしたのだが、「とにかく魚が釣れる、釣りをすることですね」といったからだ。
思うに、幾ら釣りの教科書を読んでも、また上手な人の話を聞いても、自分が釣ってみない事には釣りがいかなるモノなのか、理解出来ないと思う。
ウキのアタリのとり方ひとつとっても、またアタリはあるが、魚を掛けない限り、そのあたりがエサ取りなのか、本命なのか釣れない釣りではいつまでも技術は向上しない。
釣れる釣りを実践できるには、とにかく釣れる時期に、釣れる場所へ、釣れる人と一緒に行くことである。
吉野さん、仕掛けを2段ウキの固定仕掛けに変えた様子。仕掛けを入れ、撒餌をかぶせる。しばらく流すと、アワセをいれた。大きくはないが、本命のクロだ。しっかりハリ掛かりしている。何度も大きく竿をあおるので、「それじゃァいかん」と大きな声をだしてしまった。
ハリの掛かりが不安でそうするのか?それでは、かえってクロが暴れてしまう。竿の弾力を信じ、クロの進む方向へ竿先を向けてあげれば、クロはじきに浮き上がる。
竿、道糸の性能は釣り人の腕を十分にカバーしてくれる。
とにかく慌てない為にも、釣れる釣りを経験していくしかない。
またもや、イサキ同様田中さんの差し出すタモに掬われたクロは30センチオーバーの立派なサイズ。
吉野さんの顔もほころぶ。
その後、吉野さん田中さんに交互にクロは釣れ、満足は出来ないもののなんとか面目を保つ。

釣果その1
今日の反省。
水温低下の情報から、「寒の釣り」という固定観念にとらわれタナを深くとりすぎてしまった。また、その深いタナに固執しすぎため、肝心な釣果の上がる時間帯に、深いタナばかり釣っていた。
そのため、せっかくの当番瀬でありながら、満足ゆく釣果が得られなかった。
水温が13〜14℃という条件下でじゅうぶんな釣果に恵まれなかったわけだが吉野さんにとっては釣れたほうらしく「良かったです」と言ってもらえて少しは気が休まった釣りであったのだ。
当日、3番、キナル、平瀬と隣接した磯にも釣り人の姿があったが、竿はあまり曲がってはいないようだ。4月後半からは、クロもノッコミの時期を迎える。次回に期待して・・・・。

釣果その2
Special Thanks 千代丸