Please Call Me...

通り名って奴が世の中にはある。
『この辺りじゃ俺のことを《ジェノサイダー・ソード》って呼ぶぜ』
 今目の前で繰り広げられている映画の主役が何かほざいているのがそれ。
「ジェノサイドって呼ぶには、随分殺した人間の数が少ないわよね、この主役」
 ポテトチップスを噛りながらけろりと物騒なことを言ってのけたのは、敬愛すべき我が従姉様。
「見えないところでやったか、それくらいの人間を再起不能にしたか……そんなところにしても、強さに比例してないよな」
 違う味のポテトチップスを噛りながら、我が敬愛すべき愚兄の発言。
「剣だけじゃ多対一戦闘に向かないわよ。日本刀だって一人斬ったら脂でダメになるっていうじゃない」
「だから再起不能でしょ。打撲ならいけるもんな。てかこの主役の武器、ライトセーバーだし」
「エネルギーパック切れたら終わりじゃない。ジェノサイド完了まで結構かかるわよ? ほら相手組織の規模からしても」
「んー、充電機能付きなら剣を振る動作に合わせてある程度充電できるよ。それに狭い通路に誘い込めば剣での多対一戦闘は結構有利でさ、あとは本人の体力次第……」
「あのさぁ……人が好きな映画を鑑賞してるってのに、その茶々入れはどうにかなんないわけ?」
 そう。やる気のなさに満ちあふれたツッコミを入れていた人間たちは映画を見ることを目的とはしていない。
 他人が好きで借りて来た映画に便乗鑑賞していただけだ。
「あら、私は楽しんでいるわよ。ただ私の好きなジャンルじゃないから、あんたとは別の手段で楽しんでいるだけ」
「俺はどうでもいいだけ」
「だぁぁぁぁっ、だったら別の部屋で」
「「リビングで見ているお前が悪い」」
 見事なハーモニーで切り返されてしまった。たまにこの姉兄は血の繋がりを越えたものを見せることがある。
 途中で切り上げようとして、やっぱり姉兄たちに止められた。曰く、
「オチまでみないと気持ち悪いじゃない」
「暇だし」
 とのこと。

『俺の名前をその魂に刻んで逝きな』
『……おのれ……ジェノサイダー・ソードめ……』
「……名前じゃないわよね」
「通り名だな」
「あのね……」
 いいかげん温厚な俺でも切れかけたのだが……。
「そういや王樹ちゃんも結構いい名前で知られてるよね」
 兄貴が振った話題に俺の頭からぴょこんとウサギの耳でも生えたような気がした。実際生えたら不気味だが、くーちゃんなら許されるだろう。その筋の人間なら狂喜乱舞だ。
「ユグのこと? それ通り名というよりあだ名よ。名前から派生してるし」
 それは聞いたことある。王樹ちゃんの名前はじーさんがつけたもので、由来はどっかの神話に出てくる「カミサマの大樹」のことらしい。それこそユグなんとかで、そこからオドモダチの傭兵さんたちは親しみを込めて『ユグ』と呼ぶらしい。
 ちなみにご本人様は結構気に入っているらしく、また傭兵仲間との連帯感も大切にしているとのことで、仲間以外からそう呼ばれることをひどく嫌がる。つまりこだわりのあだ名ということだ。
「あんたの《閃光の貴公子》こそが本当の通り名」
「だから……俺はそれ使ってないし」
「本人が好んで使わなくても、回りがそう認めるのが通り名の厄介で素敵な所。私も方々でろくでもない通り名がついているんだから我慢なさい」
 確かに。俺が知っているだけでも……まず連堂兄妹自身がコードネームとしても使う《コントラディクション》 由来は『最強の楯と最強の矛』と、昔話のまんまらしい。もっともこの勝負は楯の勝ちなんだけど。
 王樹ちゃん単体だと……『終末の聖女』(なんでも『聖女のごとき人間味のある麗しい笑顔で破壊と壊滅をもたらすだとか)『緑の災厄』(まんま)とか、『サイレント・デスブリンガー』(物音一つ立てずに再起不能)とか……どれ一つ平穏なものがない。当たり前か。
 兄貴はさっき王樹ちゃんが言っていたこっ恥ずかしい奴以外にも『電脳の魔術師』『フレイムオブヘル』『ノワールフランベルジュ』ってのがあったね。
「ま、知名度が高いってのは割りと便利だしね。隠密行動には向いてないねぇ、お互い」
「素姓を隠してやらなきゃいけないミッションには確かにね。ま、そんな厄介な仕事、兄さんが持ってこないけど……ん、どしたの、紫楓、急に押し黙っちゃって」
「いや、考えていたんだけどさ」
 なんだかその事実を認めるのが嫌で、思わず黙っちまったってのが適当なんだけどさ。
「俺、なんて呼ばれてるっけ?」
  
 一瞬の空白と、二拍の呼吸。

 血も涙も情けもない姉兄たちが次に口を開いたとき、やっぱり言うんじゃなかったと大後悔時代が幕を開ける。
「走る扇風機(リモコン破損中)」
「刃毀れ知らずのカッターナイフ(但し図工に不向き)」

 映画の中の主人公が己に付きまとう暗い不運に嘆く頃、俺も一緒に泣いてあげた。

 こういう気分が落ち込んだ時は、ジャンクパーツを寄せ集めて適当な『オモチャ』を作るに限る。
 かちょかちょと金具が擦れ合う音に癒されながら、接続中のモニタに映る波形を眺める。
「うーん……ちょっとバランス悪いかな。このパーツじゃ663タイプのCPUの演算をこなせないみたいだし、これ以上出力上げるとこっちのパーツが持たないよな」
「カーテン締め切って暗がりでブツブツ言っていると魔女が呪いをかけているようだぞ」 
 ぴっと部屋全体の灯をつけられた。手元だけは明るいから目には優しいつもりだったんだけどなぁ。ほら、目に優しい保護ゴーグルも装備してる訳だし。
「静君だって、気配を断ちながらドアも開けずに部屋に侵入してきた時点で幽霊みたいだよ」
 慣れているのでそれ以上は言わない。
 俺たちの《長兄》は空間転移をこなす化け物。しかも気配を断つなんて朝飯前。というか、俺たちの中で唯一『隠密型ミッション』をやり遂げられるお方。何せ『水の偏光性』を利用して『見えない存在』になれるというから怖い。逆に『蜃気楼の原理』で『いないはずなのに、いる』というのも可能。
 というわけで当然このにーちゃんにも通り名は山のようにある。
 有名ドコロは『シールド・フォー・メテオ』というとっても俗な通り名。ウソか真か『衝突寸前だった小惑星から地球を守った』という伝説が流れているせいだろう。いくらなんでもそれは化け物すぎる。たぶん鉄壁の防御壁に阻まれたターゲットたちの捨て台詞がどんどん大きくなっただけ。
 他には……『青色の錬金術士』……趣味で錬金術に手を出してるしな。『冷徹なる調停者』……ってこれは何でも俺たち兄弟をまとめ上げているだけでも表彰物という説と、情報収集の手段が極悪非道に巧いから『交渉者』というよりってやつ。あとは……そうそう……。
「Giftmorder 」
 ひくっと、静君が引きつったのが見えた。
 これは静君にとって名誉だか不名誉だか分からないシナモノ。
「……王樹が……お前がちょっと落ち込んだようだから様子を見てこいというから何事かと思えば……」
 あ、しまった。静君ってば、今日ごきげんナナメ?
「レポートが煮詰まっているときに、よくもまぁ……ヒトの神経逆なでするような真似を……藤浦は今日に限って他の研究室のミーティングが長引いて来れないって言うし……何日徹夜したと思ってんだ……」
「そ、それ俺のせいじゃなくて……」
「うるさい」
 がこん。
 音がするほどの立派な『何かが建てられた音』がして、あっさりと俺は壁の中に閉じ込められた。
 傍から見れば一流のパントマイムの動きを披露する俺に、静君も満足したように去っていった。
 王樹ちゃんを狙ってきた暗殺者(Gift、毒っつー意味)たちを次々と落としたからってだけじゃん、その通り名。モてる男はつらいねぇ。
 壁の中でうすらぼんやり。
 てか、いつ解除されるんだ、この壁。 テーブルの上のモニタは、相変わらず同じ波形を映し出していた。

「ただいまー」
 それから30分ぐらいして、壁から脱出した俺は天使を出迎えた。
「おう、くーちゃん、今日は先にこっちに来たの」
「うん。おねーちゃんいる?」
 ま、この子が真っ先にここにくるときは、大概『宿題を見てもらう』だ。
「今ちょうど買い物に出たよ。ストックのポテチが切れたから」
「そっかぁ……」
「俺が見ようか?」
「………」
 じーっ……と無言の視線。うっ、以前『連立不等式』が解けなかったことがあり、以来数学に関する信用は落ちている。たまたま解き方を度忘れしただけだってば。中学部なんていつ出たよ、俺。
「古典……なんだけど……」
 はうっ。数学じゃないうえ、俺のガキ時代からの不得意教科っ。
「王樹ちゃんを待とうか」
 再び無言でこっくり。 冷蔵庫からジュースを二本取り出して、一本渡す。ぷしっという爽快なコーラの開く音がちょっとしたストレス解消ヒーリング音に感じた。
 くーちゃんには……通り名はないよな。まだ単独行動をとらないせいだろうけど……。
「くーちゃん、学校であだ名とかあるの?」
「えとね……宮ちゃんとか、玖央とか、そのまんまだよ」
 どうしてそんなこと聞くの? とオーラが語っている。ただ気になっただけと告げた上で、
「俺もまんまだったなぁ……つーか、先輩たちは「紫焔の弟」という長い呼び方する奴もいるし……後輩どもも面白がって「焔先輩の弟」って、俺は兄貴の付属品じゃねぇっーの」 
 そうだそうだ。通り名といえば、兄貴とセットで「トラッパーズ」ってのがあったよ。現実・電脳世界ともに『トラップを仕掛けさせたら右に出るもののいない悪戯コンビ』とか言われてさ。
「だったら私もおねーちゃんの従妹って言われたことあるよ。あと……あ、最近だけどね、『若草の奇跡』なんて言われちゃった」
 ぶはっ。飲みかけのコーラを吐き出した。辛うじてくーちゃんは守ったが我が身のシャツが犠牲になった。
「はい」
 天使の微笑みで布巾を渡す。
「床も拭いてね」
 こういう押しの強いところはオネーサマにそっくりね。
「それ、誰に言われたの」
「静にーちゃんが教えてくれたよ。でもね、あまりいい名前じゃないねって」
 ちょっと暗い影が落ちた。
 確かに……どうもその通り名は、くーちゃんの《特殊能力》を暗示しているように聞こえなくもない。
 特殊な……つまり《蘇生》能力のことはあまり知られてはならない。が、情報はどこかしらから洩れる。その一端かもしれないとなれば、心中穏やかでは済まないな。
「大丈夫だよ。ほら、くーちゃんの回復能力ってとんでもないじゃん。俺がボロボロになってばたんきゅーでクリティカルヒットな瀕死状態でもさ、ほいっと治しちまうだろ? ターゲットからみれば怖いもんな。通り名なんて、皮肉がこもっていたりするもんさ」
「……そだね」
 にこっと……ああ、ほんと、この子はええ子や。
「ただいまー……って、紫楓、あんた何か悪さしたの? 雑巾掛けなんていう修業始めて……日ごろの行いを悔い改めて出家?」
 ホント、あの姉に付いて回っているのにどうして毒気に当てられないのか不思議不思議の世界七不思議。

 うーむ……と眉間に皺を寄せて将棋盤を睨んでいるのは可愛い弟君。
 俺たち従兄弟(但し男限定)共通の趣味は将棋。じーさんの影響も大きい。王樹ちゃんはチェスの方が好みだし、くーちゃんは見ているのが好きで自分では指さない。オセロは大好きみたいだけど。
「楓兄さん、その桂馬、もう少しどうにかなりませんか?」
「竜君がその角の位置をどうにかしてくれたら考えるよん」
 今回の勝負は俺の方に分がある。トータルの勝率は年功序列なので別におかしな状況じゃない。あー、兄貴や静君の勝率を抜きたい。
「むぅ……あ、これでどうです」
「およっ……ふむふむ」
 ぱちんぱちんと単調な木のあたる音。物はじーさんが静君ご生誕記念に購入したという逸品なので、出すところに出せばいい値がつくだろう。
「そういや、こういう勝負強さって、変わるのかね」
「もう一人の《僕》ですか? どうでしょう……考える脳は一緒ですしねぇ」
 そっか。二重人格といっても竜君の場合、完全分離型じゃなくて共存型だもんな。(静君の受け売りによれば)
「……《背反二律の海魔女》……か」
「いきなりなんですか、その妙なの……」
「知らなかった? 竜君、ハンターの間じゃたまにそう言われているよ。セイレーンって、女だけど……ま、化け物に性別はないかな」
「うわぁ、恥ずかしい。でもなんでそんな風になっちゃったんでしょうね」
 ぱちん。ぱちん。あ。
「タンマ、その歩、それ以上進めないで」
「駄目です」
 渋々ほかの手段を考えつつ、続ける。
「セイレーンって、穏やかな海を歌声で荒らして船を沈めるっていう物語があるだろ。竜君、のんびりほけほけしているように見えて、補助魔導で俺たちという《海》を荒れさせてターゲットを確実に沈める……あともう一人の竜君が自ら暴れちまうこともあるし……海のようにその姿は一様ではない……だったかな」
 ま、顔立ちがまだまだ幼いのと、ちょっと女の子に近いのが決め手なんだろう。凛々しさだけを基準にするなら王樹ちゃんの方がよっぽど男前……って、こんなこと言ったら殺される。
「うーん……海の怪物だったらポセイドンっていうかっこいいのもいたような気がしますけど」
「いやいや、水の精霊を扱うことに関して静君を差し置いちゃマズイだろ」
「そうですね、あ、王手」
  ……勝率ダウン決定。

 というわけで、全員への聞き込み調査と再確認の結果、やっぱ俺通り名ないや。
 コードネームは《三弟》なんだけど、語呂が悪いので誰も使わない。どうしても必要なときにしかさ。
 そういや結構前に王樹ちゃんがご親切に中国地方の言葉を引用して《叔楓》とかつけてくれたっけ。
「字に付けるのが正確なんだけど……そういう風習、日本にはないものね」
 俺にはさっぱり分かりません。ただ古典でそういう響きのなにかを……。
「伯夷・叔斉の行いは忠実な臣下とも言えるし、盲目的に忠義を貫いて時代の正義を見失ったとも言えるわね。どちらが正しいか答えはないから、くーちゃんの思う通りでいいんだよ」
「紂王さんって、悪い人だったんだよね」
 正解。姉妹たちのお勉強会。今日のテーマがまさにビンゴ。
「悪政王の代名詞だもんねぇ。ただそれを武力で制圧した武王を善しとするかどうか……当時の時代背景もあるけど、王道と覇道の違い……」
 うえ。眠たくなってきた。
「何そこで寝ぼけ眼になってるのよ。アンタの大好きな「封神演義」の時代の話よ。殷周革命っていうと関係がないように聞こえるのかしら」
「あー……なんかラスボスがキツネの化け物だったアレかぁ……」
 最近やったRPG。いや、面白かった。
「なんで王樹ちゃんがゲームやる前からストーリー知ってるのかと、思ったら実在する古典だったんだ」
「史実に基づくフィクション。一大スペクタクルアクション怪奇小説。原作読みたいなら貸すわよ」
 丁重にパス。活字なんてマニュアル以外見たくないや。
「それよりどうしたの。元気ないわね」
「ほへ」
「ほへ、じゃないわよ。ひょっとして昼間の事、まだ気にしてるの」
 我ながら、情けないぐらいねちっこく執着してますとも。
「自然とできるわよ。名誉・不名誉かはさておいてね」
「……静君のアレとか?」
 くすっと王樹ちゃんは苦笑い。自分もかかわっている《通り名》なだけに、大爆笑とはいかないわけだ。
「なんだ、急に俺の不名誉な通り名を言ったの、そういうわけだったのか」
 近くで新聞を読んでいた静君がおもむろに呟いた。
「そだよ。昼間に言われて気づいたからさ、なんか、こう、なんつーの、不公平っていうかさぁ……」
「……疾走する芝刈機(但し方向転換不可)じゃ駄目なのか」
 ごん。
 思いっきりテーブルと額がキスしたところで完全に力つきた。
「もぉぉぉぉぉ、やだぁぁぁぁ、この水より薄い血縁関係ぃぃぃぃ」
 滝のような涙があふれでそう……な気がする。うん。
「一人前じゃないから、っていうのは簡単だけど……それじゃいくら何でもあんたの立つ瀬がないわねぇ」
 ちらりと弟妹たちを見ながら王樹ちゃんは再び苦笑い。そうだよ、俺より年下の弟妹たちにも一応それ相応の名前があると思えば、虚しさ倍増。
「はーあ……単独行動もそれなりなのにさ、どうして兄貴とセットの名前しかないのかねそりゃね、一人前とは申しませんよ。俺謙虚だから。それにしたって何かあってもさ……」 
 考え出したら本格的に気分が沈んできた。畜生。 というわけで、本日ふて寝決定。

 ミーティングルームから自宅に引き上げて、さらに自室に籠城。ぐすん。
 ガキのころのあだ名を思い出そうとしたら、やっぱり王樹ちゃんたちに「こざる」と言われていたことまで思い出して、さらにブルー進行。
 友人たちも普通に名前で呼んでいたしなぁ。
「……紫楓、寝たのか。寝たなら返事しろ」
 ノックもそこそこに無理難題を吹きかけられて、むっとする。
「兄貴……マナー違反なのはこの際寛大に許すけど、不可能を弟に押し付けるな」
「いびきで返事するぐらいのウィットに飛んだ反応ぐらいみせてみろ」
 壁にもたれ掛かり、腕を組む。仕種の一つ一つが職業病により、多少気障。モデル業のつらさは俺も分かっているから何も言わない。俺、優しい。
「何の用さ」
「用がなければ弟の寝顔を覗くっつー悪趣味なことは生涯やりたくない」
 淡々と……こんの愚兄は。
「はいはい、ぷりちぃな弟君はとってもおねむだから、用件をぴーっという発信音の後にどうぞ。ぶーっ」
「……それは永遠に用件を言うなということか。よぉく分かった。一度死ね」
 ごんっ。目に見えない何か……兄貴お得意の『圧縮された熱のカタマリ』って奴をぶつけられた。
「〜〜〜〜っ」
 くるりと背を向けた兄貴が、小さくぼそっとつぶやいた。てっきり殊勝にもあいさつでもしたのかと思ったが、違う。
 きょとんとする俺に、ため息交じりに言葉を続けた。
「今日仲間から聞いた。ま、センスはイマイチだな」
 ぱたんとドアが閉まり、部屋が再び真っ暗に……いや、かすかな月明かりだけが落ちている。
 
 へへっと、照れ笑いが自然とこぼれる。気恥ずかしいような、誇らしいような。
 部屋にある俺専用ミニクーラーからビールを一本取り出すと、お月さんに向かって乾杯。 
 空にあるのは奇麗な三日月。 悪くはない。確かにセンスはイマイチかもしれないけど。
 俺のカマイタチにやられた連中と、それを見たハンターたちが我知らずに呟いた褒め言葉。

「俺の名をその魂に刻め……《クレセント・ソニック》ってな……」


あとがき。
お客様から「紫楓君の通り名ってないのですか」というありがたい感想メールをいただきました。
・・・ん? 竜君のだっけ? ま、いっか。用は「彼らの通り名を知りたい」だったようだし。
(本サイトの基本は「管理人のあいまいな記憶と知識に基づく」ですから)
なんとなく気になって、徒然なるままに作成しました。たまにスイッチが入って短文作成をやるときがあります。うん。
ちなみに最短記録は駄文シリアス物第四章をトータル2日前後で作成。何かが乗り移っていたとしか思えない所業。