2019年2月4日、アブダビで開催された諸宗教の集いの席で、教皇フランシスコとアル=アズハル大学(エジプト・カイロ)総長グランド・イマーム、アフマド・アル・タイーブによって署名された、世界平和と共存のための共同宣言文書です。
邦訳の題名:「世界平和のための人類のきょうだい愛」に関する共同宣言書
カトリック中央協議会サイトに全文の邦訳が掲載されています ― こちらをどうぞ。
詳しくは以下をどうぞ。
2016年5月24日、アフマド・アル・タイーブ師のバチカン訪問、フランシスコ教皇との会談 ー この二人がアブダビ宣言のキー・パーソンです。
2017年4月28日、タイーブ師が総長を務めるアル=アズハル大学「平和のための国際会議」でのフランシスコ教皇の演説です。
この演説で示された平和について、人間のあり方についての基本的な考え方は、アブダビ文書にも反映されているだけでなく、他の多くの宣言・演説・文書でも繰り返し述べられています。 ― 教皇フランシスコ/ドミニック・ヴォルトン『橋をつくるために 現代世界の諸問題をめぐる対話』(戸口民也訳、新教出版社、2019年)の最終章の最後にこの演説の抜粋が収録されています。
重要な部分を抜き出して紹介しましょう
古代から、ナイル川流域に現れた社会は、文明の同義語でした。エジプトにおいて、知識の光は非常に高いレベルに達し、知恵と才能、数学と天文学の知識、建築や具象芸術の見事な造形美からなる、この上なく貴重な文化遺産を生み出しました。知の探求と教育の価値という実り多き選択によって、この地に住んでいた古代の人々は進歩発展を実現したのです。それは、未来のために必要な選択、平和の選択、平和のための選択でもあります。というのも、若い世代を適切に教育することなくして平和はないからです。そして、外に向かって開かれている存在、関係の中に生きる存在としての人間の本性にかなった教育がもしもなされないのなら、それは今日の若者にとって適切な教育とは言えないでしょう。
三つの基本方針がうまく結び合わされるなら、対話を助けることができます。その三つとは、「アイデンティティーを守る義務」「他者を受け入れる勇気」「誠実な意図」です。
「アイデンティティーを守る義務」−−−−なぜなら、相手に気に入られるために自分のアイデンティティーを犠牲にするような、そんな曖昧な態度では、真の対話を築き上げることはできませんから。
「他者を受け入れる勇気」−−−−なぜなら、自分とは文化的にも宗教的にも違う人のことを、敵だと思うのではなく、一人ひとりの善はすべての人の善の中にあると確信しつつ、旅の仲間として受け入れるべきだからです。
「誠実な意図」−−−−なぜなら、対話は、人間性がほんとうに表れるものですから、付随的な目的を実現するための戦略的手段としてではなく、真実に至る道として、粘り強く試みる価値があるものだからです。そうすることによって、競争は協力へと変わって行くでしょう。
神の名によって新たにされた兄弟愛という太陽が昇りますように、そして、太陽に抱かれたこの地から「平和と出会いの文明」という暁の光が輝き出ますように! アッシジの聖フランシスコの執り成しを願いましょう、聖フランシスコこそ、八百年前にエジプトを訪れ、スルタンのマリク・アル=カーミルと会った人なのです。
天と地が出会うこの地で、諸国民の、信者たちの協力の地で、一緒に声をそろえて、きっぱりと「ノー」と言いましょう、宗教の名のもとに、神の名において犯されるいかなる形の暴力・復讐・憎しみの行為に対しても「ノー」と言いましょう。一緒にはっきりと言いましょう、暴力と信仰は相容れない、信じることと憎むことは相容れないと。
一緒に宣言しましょう、いかなる人間の生命も神聖なものであると。神聖な生命に対する暴力は、いかなる形であれ−−−−身体的暴力であれ、社会的暴力であれ、教育の名のもとに行使される暴力であれ、心理的暴力であれ−−−−許されないと。
確かに、宗教に求められていることは、悪を暴くことだけではありません。宗教は、それ自体、平和を推進することを使命としています、しかも今日では、それはいまだかつてないほど重要なことなのです。わたしたちの務めは、妥協的シンクレティズムに譲歩することなく、互いのために祈り合い、神に平和を願い求めること、互いに出会い、対話し、協力と友愛の精神によって融和を促進することです。
*シンクレティズム 、混合主義:異なったあるいは相反する宗教や哲学を妥協させようとして混合すること。
紛争を未然に防ぎ、平和を築き上げるためには、過激主義の温床となる貧困と搾取の状態を解消すること、そして暴力を煽る者たちに金や武器が流れていかないようにすることが基本的に重要です。さらに根本的には、武器の拡散と闘う必要があります、武器が製造され売却されるなら、遅かれ早かれ、それが使われることになるからです。戦争という癌を増殖させる闇取引の実態を白日の下にさらすことによって、はじめて真の原因を封じ込めることができるのです。
各国の指導者たち、各機関の責任ある人たち、メディアは、この緊急かつ重大な課題に取り組む義務があります。そして、文明に対して責任を負っているわたしたち、歴史を受け継ぎ、未来を担う者として神から責任を託されているわたしたちも、それぞれ自分の分野で、平和推進に取り組む義務を負っています。わたしたちは、諸国民・諸国家のあいだに平和の堅固な礎を築く義務から逃れることはできないのです。
改めてどうぞ
2020年2月4日、教皇フランシスコは人類の兄弟愛に関する共同文書署名から一年を迎え、ビデオを通しメッセージを発表した。
共同文書「世界平和のための人類の兄弟愛」は、2019年2月4日、アブダビで開催された諸宗教の集いの席で、教皇とアル=アズハルのグランド・イマーム、アフマド・アル・タイーブ師によって署名された。教皇のメッセージは、この日アブダビで行われた同文書発表一周年の記念行事の参加者に宛ておくられた。
この日の教皇のツイッター・メッセージ
教皇フランシスコ(邦訳)@chuokyo_pope
1年前に署名された「人類のきょうだい愛に関する共同宣言書」は、諸宗教者と人類のきょうだい愛を信じる人々との対話において、新たな1ページを刻みました。兄弟姉妹としてわたしたちは、暴力に断固反対し、ともに平和、いのち、信教の自由を後押ししていきたいと思います。