第44回 奇跡を願う・ドンキホーテの逸話

 いよいよ泣いても笑っても後二日にあれが迫ってきましたが、最後の手段としてエスクリバ−神父様のカ−ドの祈りをすることを勧めます。皆さんは奇跡を信じますか。私はもし神様が存在するなら奇跡は不思議なことでないと思います。なぜなら、奇跡とは自然の法則を越えたことですが、その自然の法則は神様が定めたものだから、神様はそれを無視することもできるからです。ちょうど人間世界の法律はそれを定めた人間が都合によって変えることができると同じように。

 さて、奇跡があるとしたら、それを起こすことができるのは神様だけです。それではどうしてカトリック教会はマリア様をはじめ色々な聖人にお祈りすることを勧めるのでしょうか。マリア様は聖人には「取り次ぎの祈り」を頼むのです。「取り次ぎ」とは、人間社会によく見られることです。例えば、私が長与から我が校の前までバスの路線を作ってほしいと市長に頼みたいのですが、一人で市役所に行っても門前払いを食うだけでしょう。しかし、万一市役所のお偉方に私の友人がいて、その人が市長に取りついでくれたら、少なくとも私の願いが市長の耳に入る。ところで天国にいる聖人たちは、常に私たちのために神様に取り次ぐことができるから、直接神様に頼むのもよいが、聖人たちの取り次ぎを頼むのも勧めら得るわけです。

 福者エスクリバ−神父様は、生前各自が自分の義務をよく果たすことによってよいキリスト信者になる義務があること、例えば学生ならまじめに勉強をすることが重大な義務であることを強調していました。また世界中で沢山の人がその取り次ぎで恵みを受けています。私たちの学校の精神的な創立者でもありますから、皆のことを気にかけているはず。ということでその取り次ぎを頼みましょう。

 さて、今日はいつか話した『ドン・キホ−テ』から、人格形成に非常にためになるくだりを紹介したいと思います。きっとこれを読めば、心を改め、日々精進の生活を始めるであろうと期待するからです。

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 ドン・キホ−テとサンチョ・パンサが数々の奇妙な冒険に出くわしながら、旅を続けていた。あるとき森に入った後に日が暮れて真暗になってしまったが、あまり遠くないところから、「激しい水声のうちに、鉄のきしりや鎖のひびきのまじる音が」一定のリズムで聞こえてきた。生まれつき臆病なサンチョは震え上がったが、ドン・キホ−テは勇気百倍、槍をしごいて楯に腕を通し馬に飛び乗り「これこそわしが待ちに待った冒険じゃ」。サンチョ、3日してもわしが帰らなんだら、姫のところに行ってわしの死を告げてくれ」と言い残して去ろうとした。

 サンチョはこんな暗いところに一人で残されることに恐怖して、それだけはやめてくれと泣いて頼んだり、ナンセンスなお話を即興で考えて時間かせぎをしようとするが、主人の固い気持ちは微動だにしない。そこで、こっそり主人の馬の前足を紐で縛った。馬が動かないのを見て、サンチョは「これは神様がわしの願いを聞き入れてくださり、馬に動くなと命令されたでがす」。さすがのドン・キホ−テのあきらめて夜が明けるまで待つ気になった。以下岩波文庫の『ドン・キホ−テ』永田寛定の訳を引用します。

  このとき、もう近づいた明け方の寒さのせいか、それともサンチョが何か腹のゆるむ物でも食べたのか、またそれとも、自然のことだったのか(一番そうらしく思えるのはこれだが)、人には代わりを頼めないことをする意志と願いが従士(サンチョ)にわいた。しかし、心に根を張った恐れがあまりに大きかったので、一ミリたりとも主人から身を話す気になれなかった。といって、したいことをしないですますことは、やはりできなかった。そこで、二つのことを一度にしようとしてしたのが、主人の鞍の後輪にかけていた右の手を離すことだった。そうして、たくみに音も出さずに、ズボンのひもをほどいた。ズボンが花結び一つきりで留められてあったのだ。ひもがほどけたズボンはすぐにずり落ちて、足かせのようになった。サンチョはそれを待って、シャツをできるだけまくりあげ、あまり小さくない尻っぺたを外気に突き出した。これを、当人は、今の恐ろしい状況と苦しい思いから抜け出すためにしなければならないことの山と考えたようだが、その山を超えると、もっと大きな困難にぶつかった。というのは、音を立てずに○○○をすることが難しく思えたのである。そこで歯を食いしばり、肩をすぼめて、できるだけ息をつめた。しかし、それほど気をつけたにもかかわらず、なさけなや、わずかばかりの音−従士をあんなにおびえさせた音とはかなりちがったもの−を、とうとう立ててしまった。すると、ドン・キホ−テが聞きつけて言った。

 「今のは何の音じゃな、サンチョ」。
 「知りましねえだよ、旦那様」と従士は答えた。「何か新しいことだべ。冒険や不幸はつれを呼ぶものだからね」。

 再び運をためした。今度はすばらしくうまくいって、前のような音もさわぎもなく、あれほどつらい思いのお荷物を、きれいに落としてしまった。ところが、ドン・キホ−テは、耳が鋭かったように、鼻もよくきいたし、サンチョがぴったり抱きついて、湯気をほとんど一直線に立ち上らせたので、においが騎士の鼻に届かないですむってことにはいかなかった。だから、においをかぐやいなや、しのぎのために指二本で鼻をつまんだ。そうして、多少ふにゃふにゃ声で、こう言った。

 「サンチョ、おまえは大そうおびえとるらしいぞ」。
 「はい、おびえとりますだ。けんど、それがおめえ様に今とりわけどうして知れますだね」
 「今とりわけおまえが臭うからじゃ。しかも、香水の匂いではないな」。
 「そうかもしれねえけんど。わしが悪いでなく、おめえ様がわしをこんなま夜中に、こんなさびしい場所へつれてきたせいでがす」。
 「3歩か4歩むこうにどいておくれよ、わしの友」とドン・キホ−テは始終指を鼻わしから離さないで言った。「そして、今後は身の分を忘れず、わしに対する礼を守らっしゃい」・・・・

  それでは試験会場においては、誰もが緊張していることを思い出して落ち着いて、正解を正しく答案用紙に書き、知らないことは「そんなこと知ったことか」と開き直ってください。


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