人生の目的シリーズ・第3回 「本当の幸せ」とは

 あれが近づいていますが、皆さんお変わりございませんか。

 今日本を騒がせている事件の一つに、ある大手の食品会社による偽ラベル事件があるのは、いかに勉強に集中している皆さんでも知っていることと思います。この事件を知って思い出した聖書の言葉があります。それは「正義のよって得る僅かなものは、不義によって得る多くのものにまさる」(格言の書、16、8)というものです。また同じ『格言の書』には「名誉は大いなる富にまさる」(22、1)ともある。この「名誉」とはずば抜けた高い評判ではなく、「あの人は正しい人だ」と思われる程度の評判です。お金をたくさん持っていても「あいつは信用できんやっちゃ」と思われたら生きていけない。逆に貧乏でも「あの人は他人をごまかすようなことはしない」という評判があれば、堂々と胸を張って生きていけるということです。

 正直とは「ウソを言わない」ということですが、知る権利のない人に真実を言い表す必要はない、ことも忘れないでください。悪い人からだまされることがないようにすることも必要ですから。「蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい」(マタイ、10、16)。

さて、「人生の目的」シリ−ズの続きです。

第四章、本当の幸せとは(いろいろな幸せ)。

 前回は、人間の幸せとは能力の完成にあるが、本当の幸せは人間にしかない能力、すなわち、知る能力(知性)と愛する能力(意志)を満たすことにあると言いました。今回は、それではその知性と意志を満たす幸せとは何か、について話すはずですが、その前にいったい世間ではどんなことを幸福と考えているのかを見てみたいと思います。

 つまり、「人間の目的は幸せになることだ」と言ったら、誰も反対しないでしょうが、それでは「幸せとは何ですか」と問えば、その答えは人によって千差万別なわけです。だから、「人生の目的は、人それぞれですよ」と言うのも一理あるのです。では、どのようなことが幸せなのでしょうか。

 一つの答えは「幸せとは快楽にある」というものです。ここで言う快楽とは、肉体的な感覚を満足させる快楽ですが、これは前回言った肉体の能力を満足させるもので、能力を正しい目的のために使ったときに感じる快楽は悪いものではありませんが、それを人生の目的として追い求めるのは、まさしく動物的な生き方であると言えます。また、肉体的な感覚の満足は長続きしません。すぐにまた別の満足を求め、決して満足しない。これは本当の幸せではないことは明らかでしょう。

 もう一つの答えは、「金や財産を得ること」です。金や財産は楽な生活をするために必要ですが、では「楽な生活が本当に幸せか」と言えばそうではない、ことは皆さんも少し考えれば分かると思います。現代の世界で自殺が多い国としては、日本やスェ−デンが挙げられるそうですが、これらの国は生活水準の非常に高い国で、金があっても決して幸せでないことをはっきり示しています。この日本では、「安定した生活」を人生の目的に挙げる人は少なくないようですが、確かに不安定な生活は嫌ですが、安定した生活さえあれば人は幸せになれるわけではありません。皆さんも高校や大学に行けばはっきり見ると思いますが、若者の中にはなに不自由ない生活に満足できず欲求不満の人が少なくないです。

 「健康」も「楽な生活」と似ています。健康優良児でも、病気のない人の中にも自分の人生に満足していない人はたくさんいます。

 また、別の答えは「幸福とは名誉を得ること」というものです。上の二つが物質的な物であったのに対し、名誉は精神的なものです。動物も快楽や食べ物や楽な生活を求めますが、名誉を求める動物なんて聞いたことがない。ということで名誉は人間にふさわしいものと言うことができる。では、これは本当に人を幸せにできるのか。

 「名誉」とは平たく言えば「回りの人からよく思われる」ことだと言えるでしょう。確かに、名誉は人間の心をくすぐるもので、人間には誉められたい、名前を残したい、という強い願望があります。しかし、アリストテレスが言うように、名誉というものは「与えられる人よりも、むしろこれを与える人にかかっているが、本当の幸せは本人のもので、簡単には取り去ることができないもののはず」なのです。

 名誉がいかに簡単に取り去られるかは、ソ連という国の歴史を見れば一目瞭然です。ソ連の独裁者スタ−リンは自分を「祖国の父」「天才的教師」「天才的指導者」など色々な名前で呼ばせ、巨大な自分の像や肖像画をいたるところに立てさせたのですが、彼の死後に彼が行ったすさまじい粛正(敵対者を殺すこと)が暴露され、町々から肖像や顔の絵が取り去られました。1991年ソ連が崩壊すると、その支配下にあった東欧諸国の多くの町で今度は共産主義の父であるレ−ニンの像が同じ目に会いました。1917年のロシア革命の後、ペトルスブルグ(18世紀初頭の皇帝ピヨトル大帝にちなむ名前)という町はレニングラ−ドと改名されましたが、ソ連が崩壊すると再びサンペトルスブルグになった。また、スタ−リングラ−ドはボルゴグラ−ドに。こう見ると、人からよく思われようとしてあくせく働くのは惨めなことですね。

 また、別の答えは「幸せとは権力を得ることにある」というものです。権力は他人を自分の思いのままに動かすことのできる能力で、権力は人間を魅了することがあります。けれど、権力も名誉と同じく、他人があってこそ意味のあるものです。『星の王子様』に家来を一人も持たず一人で威張っている王様が出てきますが、こういうのは惨めですよね。

 快楽、金、財産、名誉、権力などは人を幸福するかどうか考えて見る価値があります。確かに金や健康や財産や名誉は人間らしい生活をするためにある程度必要なものです。でもそれらは手段であって目的ではない。この点を見極めることができれば人生の道に大きく迷うことがないでしょう。それではまた。

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