アルトというと女声の低音部とされるのがふつうですが,もとは男声の高音です.アルトはイタリア語で高いという意味です.
教会音楽はもともと男声でした.ルネサンスよりも前のゴシック時代,オルガヌムという音楽の一種に,長くひきのばしたメロディーを歌うパートと,それより高い音でこまかい動きをするパートにわかれるスタイルがありました.前者のパートをラテン語で“連続”という意味のテノール,後者のパートを“テノールに対立するもの”という意味のコントラテノールとよびました.コントラテノールを英語式にいうとカウンターテナーです.
さらにコントラテノールよりも高音のパートが生まれ,“より高いもの”という意味のスーペリウスとよばれました(いまのソプラノ).おくれて,テノールよりも低音のパートがうまれ,コントラテノール・バッスス=“低いコントラテノール”,略してバッススとよばれ,それまでのコントラテノールはコントラテノール・アルトゥス=“高いコントラテノール”,略してアルトゥスとよばれました.
ルネサンス時代の楽譜ではアルトゥスとコントラテノールは同じ意味でつかわれています.ですから,アルトとカウンターテナーは同じで男声の高音ということになるのです.
同じ高さを歌っても女声では低く重い感じにきこえます.それにたいして,男声は教会の鐘のように高く輝くようなひびきになります.女声のなかに男声がひとりいるだけでもずいぶんちがいます.教会音楽を歌うときは男声アルトがおすすめです.
世俗曲のアルトは男声・女声両方あったはずです.