平成21年 次男 中学3年 理科自由研究
(はじめに)
理科の授業で動物の骨格標本を見せてもらったことがきっかけで,骨格標本に興味を持った。インターネットを見ると「透明骨格標本」という色のきれいな標本があることを知り,自分でも体験してみることにした。
(主な薬品類)
薬品名 | 作用 | 注意点 |
ホルマリン | 蛋白質硬化 | 劇物,皮膚障害 |
エタノール | 脱水,蛋白質硬化 | 危険物,引火性 |
氷酢酸 | 染色液の調整 | 危険物,皮膚障害 |
アルシャンブルー8GX | 染色色素(軟骨染色) | |
トリプシン | 蛋白質分解酵素 | |
ホウ酸ナトリウム(ホウ砂) | 蛋白質分解酵素液の調整 | |
アリザリンレッドS | 染色色素(硬骨染色) | |
水酸化カリウム | 蛋白質融解 | 劇物,皮膚障害 |
抱水クロラール | 染色液の調整 | 危険物,皮膚障害 |
グリセリン(試薬1級) | 標本保存用液体 | 危険物 |
チモール | 防腐剤 | 毒物,皮膚障害 |
薬品類は取扱いに注意しなければならない物があるので,特定化学物質取扱い責任者の資格を持つ父に指導監督をしてもらった。
(標本の材料)
@スーパーで購入したアジの幼魚,Aまえに飼育していたメダカ,Bまえに飼育していたカスミサンショウウオ
メダカやカスミサンショウウオは,以前わが家で飼育していた途中で自然死したものを,ホルマリンに入れて保存していた。
アジの幼魚 | メダカ | カスミサンショウウオ |
(方法)5cmくらいの魚の場合
@標本の水洗い
標本の表面やエラなどについた粘液を水道水でよく洗う。腹の部分を少し切って,内臓を出す。
Aホルマリン固定
10倍希釈ホルマリン液(ホルマリン原液を水で10倍にうすめる)に3日ほど標本を入れる。ホルマリンは有毒なので手袋をして,蒸気も吸い込まないようにし,素早く容器の蓋をしっかり閉じる。ホルマリンの働きは,標本の腐食を防ぎ,形が崩れないようにすること。
水洗い | ホルマリン固定 | ピンセットで皮をはぐ |
B軟骨の染色
水を交換しながら1日水に入れておく。魚の皮を剥いで(丁寧によく剥ぐのがポイント),軟骨染色液に1日入れる。
軟骨染色液は,95%エタノール80ml,氷酢酸20ml,アルシャンブルー10mgを混ぜる。
軟骨染色液から出したあとは,95%,50%,20%のエタノールにそれぞれ2〜3時間ずつ入れて,余分な色素を取り除き,最後は水に1日入れる。
皮を剥いだアジ | アルシアンブルー染色液に入れる | 余分な色素を除く |
C標本の透明化
標本の筋肉部分を蛋白質分解酵素のトリプシンで透明化する。トリプシン液は,飽和ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)液30ml,蒸留水70ml,トリプシン結晶1gの割合で作る。標本を入れてフタをし,温度を30〜35度に保ち半透明になるまで待つ。2週間くらいかかるが,時どき透明化の具合を見て確かめる。脊椎骨が見えて,軟骨が青く見えるようになっている。
トリプシン処理 | 処理後(脊椎骨が見える) |
D硬骨の染色
(アリザリンレッドS染色原液)
1%抱水クロラール溶液120mlにアリザリンレッドS100mgを溶かし,グリセリン20ml,氷酢酸10mlを加える。
次に,2%水酸化カリウムに青紫になるまで原液を加える。水は蒸留水を使う。標本を入れ,脊椎骨が赤くなるまで染める。数時間から一昼夜で,時どき染まり具合を確かめる。
アリザリンレッドS染色液に入れる | 染色の終了(硬骨が赤く染まる) |
Eグリセリン処理
0.5%水酸化カリウム液とグリセリンの混合液に入れる。水酸化カリウムにより透明化がさらに進む。最初は3:1,次に1:1,さらに1:3の比率で,各段階を2〜3日ずつ入れる。最後に純粋なグリセリンに入れ,防腐剤にチモールを入れる。チモールはグリセリン100mlに対し25mg加える。グリセリンは通常の薬局で買ったものは濃度が低いので,試薬1級のものを使う。
グリセリン処理 | 完成(透過光) | アジの幼魚(透過光) |
(結果)
メダカ(透過光) | カスミサンショウウオ(透過光) | カスミサンショウウオ(後肢の拡大) |
(透過光)
標本の裏側から光をあてて撮影したもの。シャーレにグリセリンを入れ,標本を浮かべて裏側から蛍光灯の光をあてて撮影した。
小型のビンに入れて保存 |
(感想)
筋肉の透明化には,蛋白質分解酵素を使う方法と水酸化カリウムを使う方法がある。酵素は高価なので,次は水酸化カリウムで試してみたい。でき上がった標本は,とても美しいので感動した。骨格は非常に複雑な組み合わせでできているのがよく分かった。今回の標本作りで,生命の大切さをより一層感じた。人工物ではなく,自然が作るメカニズムの素晴らしさを知ることができた。
(骨と動物の進化について)
大昔,まだ海にしか生物がいなかった頃は,骨にカルシウムを含まない軟骨魚類だけだった。その後,生存の場を広げるために,淡水の川を生物が目指したことによって硬骨魚類が現れた。もともと海にはカルシウムが多く含まれており,生物は体の内部にカルシウムをため込む必要がなかった。しかし,生物が淡水への進出を果たすためには体内にカルシウムを蓄えておく必要があり,その貯蔵庫が骨になった。現在でも軟骨だけの魚類がいて,サメやエイはその代表である。
硬骨魚類が現われた河口付近は大雨のとき水が濁るため,水中から酸素が取りにくくなった。そのため硬骨魚類の中には空気中の酸素を吸えるようになったものもいた。肺を持つ魚の登場である。現在でも肺魚やシーラカンスなど肺を持つ魚類は存在する。彼らは一般の硬骨魚類とは異なり肉質のヒレを持つ。このヒレはやがて両生類の手足へと進化した。
両生類は陸上の生活で複雑な動きができるように,手足の指や関節が発達していった。関節は滑らかに動くように,骨と骨の間には軟骨がある。両生類は水中に卵を産み,卵からかえった幼生も水中で育つため,完全に水辺から離れることはできなかった。また卵も寒天質で乾燥に弱かった。そのため両生類の中からやがて爬虫類が進化していった。
(参考資料)
国立科学博物館魚類研究室 UODAS
http://research.kahaku.go.jp/zoology/uodas/collection/how_to_make/index.html
東京海洋大学水産資料館 コラム:魚類透明骨格標本の作り方
http://www.s.kaiyodai.ac.jp/museum/public_html/exhibitions/exhib_fishes_sub/column_fish_skeleton.htm
改良二重染色法による魚類透明骨格標本の作製,
1991, 河村・細谷, Bull. Natl. Res. Inst. Aquaculture, No.20, 11-18