手作りラジオの実験

 平成18年 長男 中学2年 理科自由研究


(はじめに)
理科で電気を学習したのがきっかけで,電気の性質に興味を持った。ある日,父の本に鉱石ラジオの写真がのっているのを見た。部品が少なく,しかも電源がついていない。そして,鉱石を使ってラジオができるというので,たいへん興味をそそられた。ラジオなどは買って使うものだとばかり思っていたが,鉱石ラジオは材料を集めて自分でも作れそうだったので試してみることにした。

(目的)
1.電源のないラジオがどのようなしくみで聞こえるのか,実際に作って調べる。
2.手作りで,どのくらいの感度で受信できるのか確かめる。

(予備知識) 予備知識はラジオの原理を理解するのに重要なのですが,ここでは参考図を省略しています。
ラジオのしくみにつて,何冊かの参考書で調べた。音声を遠くまで送る方法として,音声信号を含んだ電波(電磁波)を利用するというのがラジオ放送の基本になっている。

1.放送局から電波を出す
私たちが耳で聞いている音声は,マイクによって電気信号に変換される。しかし,その電気信号は低周波(10kHz〜20kHz)なので,そのままでは遠くまで届けることができない。そこで,放送局は搬送波という高い周波数の交流に音声電気信号をまぜてアンテナに送る。アンテナに高周波電流が流れると,そのアンテナのまわりには,次々と磁界と電界が生じて周囲の空間に伝わり遠くまで届く。この磁界と電界の波が電波である。このとき,音声信号の混じった電波は,音声信号に合わせて振幅が変化した波になっている。このような方法でラジオの電波を送るものを,振幅変調(Amplitude Modulation)という。

2.電波を受信する
ラジオについたアンテナは,放送局から送られた電波を受けて電流を発生する。ラジオはここで発生した電流の中に含まれる音声信号を取り出す受信器である。電源のない鉱石ラジオのエネルギー源はすべて放送局からの電波である。現在のように複数の放送局がある場合は,放送局ごとに異なった周波数の電波が送られている。したがって,自分が聞きたい放送局の電波を選ぶ必要がでてくる。

(鉱石ラジオの4つの基本部分)
(1) 空中線部分(アンテナ)
(2) 同調部分 (コイルとコンデンサー)
(3) 検波部分 (鉱石)
(4) 受話部分 (イヤホン)

(1) 空中線部分
アンテナは空中からやってきた電波を受ける。電波に含まれる磁力がアンテナに作用すると,そこで電流(交流)が発生する。

(2) 同調部分
電流は矢印のようにアンテナを伝わってアースに流れる。交流なので,矢印の向きは周期的に逆転する。電流の流れる道筋はA〜Cの3種類があるが,重要なのはCの流れである。実際には様々な放送局からの電波が混じっているので,目的の周波数をもった電流を取り出す必要がある。そこで,コイルとコンデンサーが利用される。コイルとコンデンサーを調節することで,特定の周波数の電流をCの検波器へ通す。それ以外の周波数の電流はアースに抜けていく。共振周波数はコイルの巻き数やコンデンサの調節により変化するので,目的の周波数を選ぶことができる。

(同調回路について)
同調回路はコイルとコンデンサで成り立っている。コイルは周波数が高い電流になるほどその電流を通しにくくなる性質がある。この性質はインダクタンスと言い(L)で表され,単位はヘンリー(H)を使う。コンデンサは周波数が高い電流になるほど,その電流を通しやすくなる性質がある。コイルとコンデンサの性質は逆になっている。コンデンサには電気を蓄える性質があって,その大きさはキャパシタンス(C)で表され,単位はファラッド(F)を使う。コイルとコンデンサを組み合わせて,特定の周波数の電流を取り出すことができる。このとき,周波数(f)は次の式で表される。(f)は同調周波数で,式はLやCの値が変化すると同調周波数が変わることを意味している。これが選局のしくみになっている。

(3) 検波部分
音声部分の電気信号をとり出す。同調回路によって選ばれた電流は,(+)側と(-)側が対称な波形をした交流波になっている。そのままでは(+)側と(-)側で打ち消し合って音にできない。そのために(+)側か(−)側のどちらか一方を省く操作をする。これを検波という。検波に使う部品に鉱物を使ったものが「鉱石ラジオ」で,ゲルマニウムダイオードを使ったものが「ゲルマラジオ」である。

音声信号(低周波) 搬送波(高周波) 音声信号+搬送波 検波(赤が音声部分)


(鉱石による検波)
鉱石と金属線の接触面には,ある方向にしか電流を流さない特性がある。この特性は,鉱石表面の位置や金属線のあたりぐあいで異なる。そこで,最も感度の高くなる位置を探しながら決めるため,このような検波器を「探り式鉱石検波器」と呼ぶ。 検波性能の高い鉱石としては,方鉛鉱,黄鉄鉱などがある。

(4) 受話部分
検波された電流には,不用な高周波が含まれている。イヤホンにより高周波がとり除かれたあとに,耳で聞こえる音声になる。電圧の変化で振動する材料を使って空気を振動させると,その空気の振動がイヤホンを通して音になって聞こえる。一般のイヤホンとは違い,クリスタルイヤホンまたはセラミックイヤホンを利用する。

(参考文献)


鉱石ラジオの主な内容
コイルは直径5.5cm長さ10cmの紙筒に,太さ0.5mmの被覆銅線を約150回巻く。コイルの巻き数を変化させるためのスライダーは3mm径の銅製の棒を使い,圧着端子で固定する。スライダーとコイルの接触部分の被覆銅線の被膜をはがしておく。コンデンサーは5.0×5.5cmで,厚さ0.5mmの真鍮板で作る。3枚のうち,中板の両面は絶縁するためにビニールシートをはる。くわしい説明はこちら

コイルの制作 本体を木で作る 真鍮板の加工
スライド式の可変コンデンサー 銅製の金属棒を圧着端子で固定 曲げた木綿針と鉱石の検波器
ハンダづけ テスターによる導通テスト スライダーを動かして選局

(実験1)
完成した鉱石ラジオの機能を調べるために,次の準備をした。場所は自宅(木造住宅)(1)家庭用電気器具の電源コードにアンテナ線を巻きつける。これは,電線がアンテナの役割をすることを利用した方法で,手軽に試すことができる。(2)先端に銅製の棒をつけたアース線を地面に差し込む。(3)鉱石の代わりにゲルマニウムダイオードを接続する。

可変コンデンサーの中央板をほぼ最大に引き出した状態(静電容量最大)で,コイルのスライダーを動かしていくと,NHK第1放送とNBC長崎放送が受信できた。音量はかなり小さいが,野球中継の内容が理解できた。コンデンサー中央板を約半分から最大まで引き出した範囲内で,コイルのスライダーを動かしていくと,ロシア語や韓国語や中国語の放送が聞こえた。中には国内放送よりも明瞭に聞こえる場合もあった。


(実験2)
次に,ダイオードを鉱石(方鉛鉱,黄鉄鉱,磁鉄鉱)に変更して同じように実験した。しかし,数日間実験を繰り返しても受信できなかった。ダイオードでは受信できたので,検波部分の不具合であると判断して改造を行った。参考文献の方法では,鉱石と針の接触部分を変えにくかったので,操作しやすいようにした。改造後は,時間がかかったが方鉛鉱と黄鉄鉱で受信に成功した。ただし,音量はダイオードの時に比べるとさらに小さい。鉱石と針の接触は,強過ぎても弱くてもうまくいかない。また,少しでも針の傾きを変えるだけで聞こえなくなる。鉱石の角に針を接触させると成功することが多い。鉱石の種類で聞こえ方の変化はなかった。

鉱石
方鉛鉱     黄鉄鉱 固定式の鉱石受け皿 手に持って作業をやりやすくした

(実験3)
塹壕ラジオ(FOXHOLE RADIO)
第二次世界大戦のときに,戦場で戦っていたアメリカ兵が,塹壕の中で身近にある材料を用いて作ったという簡単なラジオ。敵の攻撃が激しく,塹壕の中で身動きがとれなくなり,暇つぶしにこのラジオで音楽などを聞いたといわれている。

塹壕ラジオの主な内容
コイルは2.5cmの角材に太さ0.5mmの被覆銅線を約200回巻いて作る。同調は,スライダーでコイルの巻き数を変化させるだけで,検波は少しサビた安全カミソリの刃と鉛筆の芯を使っている。材料は安全ピンやゼムクリップ,画鋲など身近なものを利用している。くわしい説明はこちら

塹壕ラジオの実験
アンテナとアースを同じ条件にして試した。まず検波にゲルマニウムダイオードを使い,コイルのスライダーを動かすと,すぐに中国からの日本語放送が聞こえた。音量は小さいが内容は理解できる。その他に韓国語やロシア語の放送が小さな音で聞こえた。次に,検波をダイオードから安全カミソリの刃と鉛筆の芯に変えた。鉛筆の芯の位置をカミソリの刃の表面の色々な場所に軽く触れさせてみる。時間がかかったが,実験二日めに中国語の放送を受信できた。音量はかなり小さい。今回の塹壕ラジオでは,NHKやNBCなどの国内放送は受信できなかった。

塹壕塹壕(ざんごう)
戦場で兵士が身をかくすために地面に掘った穴。小型の塹壕は「タコつぼ」と言われ,英語では FOXHOLE と言う。(写真は1/35の模型)


アンテナ(実験4)
自作アンテナによる受信実験
高さ70cm,腕の長さが30cmの十字の角棒に約10mのエナメル線を張ってアンテナを作った。自宅室内では,音量・選局ともに(実験1)と同じ結果だった。自宅の庭では,室内よりも大きな音で聞こえた。このタイプのアンテナは,向きによって受信感度が変わるといわれている。しかし実験では,はっきりとした変化は感じなかった。


(まとめ)

  1. 放送局から送られてくる電波だけを利用して,ラジオ放送を聞くことができた。
  2. コイルとコンデンサーのはたらきを知ることができた。コイルやコンデンサーの大きさは,参考書などをもとにして大まかに決めたが,理想的な大きさがあるのだと思う。塹壕ラジオではコイルが小さかったので,選局に限界があったようだ。
  3. 鉱石やカミソリの刃は,限られた部分でやっと検波に成功した。市販のゲルマニウムダイオードの方が感度がよかった。
  4. イヤホンから聞こえる音はいずれも小さい。
  5. 昼間と夜では,夜の方が感度がよかった。

(感想)
時間をかけてやっとラジオが聞こえた時の喜びはとても大きかった。工作は得意なので,作る楽しみも味わうことができた。しくみは複雑ではないが,原理を理解するのは難しく,ラジオが聞こえるということを今でも不思議に感じている。不思議だから,ますます興味が出てくるのかもしれない。交流・電磁波・同調回路・半導体などについては自分でも理解が足らないと思うので,さらに学習したい。文献などを参考にして作ったが,実際に作ってみると,自分なりに工夫も必要だった。これからも工作を通して,電気の性質を調べていきたい。確認することがまだ不足しているので,実験は続けたいと思う。電気発見の歴史を見ると,ラジオの原理が発見されるまでには多くの科学者の活躍があったので驚いた。

BC600年代 ターレス 摩擦電気について記述。
1600 ギルバート 「磁気について」を著わす。地球が巨大な磁石であると考え,コンパスが南北を指すことを説明。
1746 マッシェンブレーケ 静電気を蓄えるライデン瓶を発明し,電気の実験用の電源として広く活用。
1752 フランクリン 雷が電気現象であることを確認。
1780 ガルバニー 生体電気を発見。蛙の神経を刺激すると筋肉が痙攣することを発見。
1785 クーロン 電気磁気のクーロンの法則を発見。精密なねじり天秤を発明し,電気力を正確に測定。
1799 ボルタ 電池を発明。2種類の金属に湿った布を組み合わせた電池。
1820 エルステッド 電流による磁力を発見。電流と磁気の相互作用を突き止めた。
1820 アンペール 電気と磁気に関する理論を発表し電気力学の理論を確立。
1826 オーム オームの法則を発表。電気の数学的な理論(オームの法則)を発表。
1829 ヘンリー 電磁石の発見。導線で囲まれたコイルの中に大きな電磁力が発生することを発見。
1831 ファラデー 電磁誘導の法則。電気と磁気の相互変換を実証。
1831 クックとホイートストン 最初の電信機を発明。
1838 モールス モールス符号の発明。
1840 ジュール 電流の熱作用を発見。
1845 ファラデー ファラデー効果を発見。
1860 マックスウエル 電場,磁場の考え方を導入し電磁誘導を理論化。
1869 グラム 直流発電機を発明。
1876 ベル 電話の発明。
1878 スワンとエジソン 炭素フィラメント電灯を発明。
1882 エジソン 最初の発電所(直流発電)を作る。ニュヨーク市で街燈を点灯。
1880年代 テスラ 交流発電システムを発明。ネオン灯や蛍光灯を開発。交流方式が世界中の電力システムに採用。
1888 ヘルツ 電波(電磁波)の発生。
1892 ローレンツ ローレンツ変換。マックスウエルの方程式が慣性系で成立することを証明し,相対性理論を導く。
1895 レントゲン X線を発見。
1897 トムソン 電子を発見。原子が構造を持つことを明確にした。
1899 マルコニー 無線電信に成功。ドーバー海峡横断の無線電信に成功。1901大西洋横断無線電信に成功。
1905 アインシュタイン 特殊相対論を発表。
1913 ラザフォードとボーア 原子模型を提案。

(補足)
自由研究で使った写真やイラストはすべてオリジナルです。イラストも手書きしたものをスキャナーでパソコンに取り込みました。5月頃から大まかにラジオのしくみを勉強しながら工作を始めました。ここまでくるのに4ヶ月かかりましたが,夏休みもあっという間に終わりました。

材料のエナメル線は現在ほとんど売られていません。代わってポリウレタンで覆われた銅線になっています。ただし10m以上のものはどこにもなくて,インターネットで探してやっと県外のお店から取り寄せました。太さは0.5mmで,長さは100mです。コイルを2つとアンテナを作ったらこのくらい必要でした。コイルを巻くのは初めてだったので何度も失敗をして巻きなおしました。コイルを巻く筒や巻き終わったあとは、ニスを塗るときれいにできることがわかりました。ハンダづけも,やけどをしそうになりながら何回もやり直してできました。

ゲルマニウムダイオードでは簡単に受信できたのですが,鉱石ではなかなか受信できませんでした。雑誌などを見たときにはよくわからなかったのですが,鉱石を使って検波をするのは簡単なことではないと思いました。実験途中であきらめかけそうになった時にイヤホンから小さな音が聞こえました。かなり小さい音だったので最初は少しがっかりしました。でも,電源を使わないで手作りの部品だけで受信すると最初から決めていたので,ラジオが聞こえた時の感動のほうが何倍も大きかったです。

今回は特にめずらしい実験をしたわけではありません。しかし今までは,ラジオはスイッチを入れると聞こえるのがあたりまえだと思っていました。今は自分で作った部品でラジオが聞こえただけで満足です。そしてますます電気の不思議さを感じるようになりました。これからもこの気持ちを忘れずに,いろいろなことを体験してみたいと思います。


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