栄光の架橋
やっと、政策提案プロジェクトAの企画書作成で最後の大詰めを迎えるこができた。 しかし、ここまでくるのには大きな山がいくつかあった。 1つは、初めて会ったメンバーにもかかわらず、月に一度しか全体会議を開くことができない上、企画書を作成するまでに与えられた時間は3ヶ月余りしかないのに、メンバー間の意志疎通がままならない状態だったことだ。 しかし、メンバーの方の“やる気”により、何とか、最初の山は越えることができた。 しかし、次なる山は少し険しかった。 このプロジェクトは、一斉メールで参加者を募集した後は、メンバーの任命通知を応募者にのみ通知し、任命された者が自ら職場の上司に「私は政策提案@プロジェクトAに任命された」と報告しなければならなかった。もちろん、上司は、一斉メールで1、2回しか目にしたことがないプロジェクトの内容など知るよしもなく「政策提案@プロジェクトA?ああ、そういえば何かあったね」と他人事のような反応だった。 その後、短期間における企画書を作成する必要があったことから、勤務時間が過ぎてから職場に残って企画書案を作成し、その日のうちにメンバーにメールで意見を聞くような日々が続いた。 そして、このプロジェクトの内容を知るよしもない上司と我々メンバーとの間で当然のごとくギクシャクした状況が起こっていった。 そこで、プロジェクトの担当部署(以下「担当課」と略)に”上司に対する事業の説明”を依頼したところ、逆にその部署からからメンバー全員に対し「ちゃんと職場の理解を得て行動するように!!」と注意を受けた。 僕は、その時、頭に血が上ってしまったため、いっさい反論をしなかった。 もちろん、僕を含むメンバー全員のテンションが下がっていったのは言うまでもない。 職場からも担当課からも注意を受け、もはや身動きがとれなくなってしまったのだが、途中で投げ出すのはどうも性に合わない。そこで「メンバーの志気をもう一度あげるにはどうしたらよいのか?」と考え、 担当課に「メンバーに対して、知事から“がんばれ!”と激励をいただくことはできないか?」と相談した。僕ら若手の職員にとって、知事は“テレビの向こう”の存在であり、もし、そのような方から激励をいただければ、メンバーの志気の向上はもちろんのこと、職場の理解も一気に深まると考えたからだ。 しかし、担当課からは「そんなことはできないし、あなたが直接ご依頼するというのであれば好きにすればよい」との回答。そこで無理は承知で知事にお願いしてみたところ、しばらくして 担当課から「知事がメンバーのみなさんと意見交換会を開きたいとのお話があった」という連絡があり驚いた。しかも、このプロジェクトは10人にも満たないチームばかりであったにもかかわらず、各チームに対して1時間ずつ意見交換会を開いてくださり、さらに、後日、激励の手紙まで送って下さった。 これによって、メンバーの志気が格段に高まったことは言うまでもなく、少しではあるが、職場の理解も出てきたように感じた。 「よーしやるぞ!」と気をよくした頃、担当課から「改革チャレンジ」に関するメールが送られてきたため、勢いに乗って、これまでの慣例に捕らわれていた職場の事務のやり方について改善策を提案した。しかし、 担当課からは「上司の意見を付さないと受け付けられない」と言われ、また、頭に血が上ってしまった。 当たり前のことだが「業務の簡素化・効率化」は、これまでも“上司の理解がある”内容のものは担当課に提案するまでもなく即日実施されている。 そのようなものに対して、わざわざ資料を作らせて表彰していったい何になるのだろうか? 先の政策提案@プロジェクトAへの対応も含め、 担当課の意識改革への取り組みには要領を得ないものが非常に多く、これまでの僕の取り組みを見ていた職員にも「担当課は、本当は出る杭を若いうちに潰しておくつもりかも?」と言う人さえいた。 僕自身としては、担当課の笛に一生懸命踊ってきたつもりだが、正直なところ「いい加減にしてくれ」という気持ちさえ出てきた。 彼らは、これまでに意識改革に成功した事例を知っているのだろうか? 例えば「eメール」。 この自治体は、全国的に見ても早い時期に全職員にeメールアドレスを配布した結果、それが職員の間で“メリットになる”と思うや否や、あっという間に職員間の情報のやりとりなどに積極的にeメールを使うようになり、結果、スピーディーな情報発信に加えペーパーレスも促進された。 これは、職員自身が“自分のメリットになる”と感じたことによって行われた意識改革の例である。 もう1つの例として、「ISO14000シリーズ」の取得が上げられる。 「ISO14000シリーズ」とは「環境に対する負荷を軽減する活動を継続して実施するための仕組みを規定した国際規格」であるが、一見、僕らが日常的に行っている省エネへの取り組みに似ていることや、それによって職員に直接メリットがないことから導入を決めた当初は職員の理解が得られず苦労したようだ。しかし、3役を含む本庁の全職員に対して研修を受けさせるなどの取り組みが功を奏し、みごと職員の意識改革に成功した。 これは、職員への直接的なメリットがない場合の意識改革の例であり、その場合、知事の“お墨付き”をもらいながら幹部職員から意識改革をさせたことが有効であった。 これらのことからわかるように、職員に意識改革をさせるには、職員に直接メリットになる仕組みを導入するか、上司を中心とした意識改革を行うかのいずれかである。 そして、後者の方法を導入する場合は、知事のバックアップと上司の理解がないと、とても目標を達成することなどできない。 これは地方公務員に限ったことではなく、国でも同じようなことがいえるようだ。例えば、構造改革特区を全国拡大を検討した時、45件のうち最初から各省庁が同意したのはたったの3件。そこで、閣僚折衝などをちらつかせたところ、最終的に各省庁は26の案件に同意したという。 大臣や知事(子どもであれば親)から「やりなさい!」と言われないと、なかなか動こうとしないのは、国から地方、それに大人から子どもまで同じだということだ。 僕は、体が思うように動かなくなり「自分だけではできない仕事」が増え、他の職員にお願いするようになったが、その時「僕の評価が下がるのでは?」と考えてしまった。しかし、これまで作られてなかった事務マニュアルを作ったり効率的な事務のやり方を考えることによって、その事務をされている方の効率を上げることも重要な仕事であると考え、通常業務ができない分はそちらに力を注ぐようにした。 だから、意識改革についても、その仕組みを自分の意志に関係なく配属された人達だけで考えるのはやめて、大きな勇気で“外の人達”に託し、彼らが動きやすいように全力でサポートしてあげるやり方に切り替えてはどうだろうか?
オリンピックのテーマソングの歌詞に以下のようなフレーズがあった。 いくつも日々を越えて辿り着いた今がある だからもう迷わずに進めばいい 栄光の架橋へと
やり方さえ間違えなければ、あなた方の栄光、そして、我々の栄光でもある“意識改革”を掴むことは決して夢物語ではないと思う。
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