たった一歩を踏み出す勇気
Made byAlk
補完の成った世界、広大な人類の魂の海をリツコは緩やかに泳ぎ渡る。
(人の心の欠落、それを埋めるためにゼーレの計画した人類の補完)
(碇ユイ。あの人が求め続けるだけのことは、ある訳ね)
人が生まれながらにしてもつ魂と心の欠落、欠落から生まれる不安や喪失感。それを埋めるために作られた二つの人類補完計画。
人々の魂を一つにまとめ、揺るぎない物とする事で欠落を無くそうとしたゼーレのそれ、そして。
(まさか、こんなやり方で)
心の底にある不安、孤独からくる寂しさ、それを互いに分け合う。
自分が感じている寂しいと言う気持ち、悲しいという気持ち、隣に立つ人たちとその気持ちを分かち合う。
同時に他者が感じている寂しいという気持ち、悲しいという気持ちを分かち合う。
そして、学ぶのだ。
ただ、穏やかに寄り添い合うだけで、微笑んで手を差し伸べるだけで、はね退けることなく痛みを恐れずその手を受け入れることで、寂しいという気持ちは、悲しいという気持ちは、そしてそれらを生み出す心と魂の欠落は、少しだけでも埋めることが出来ると。
傷つくことを、傷つけられることを恐れず、分かり合おうとする一歩を踏みだすことの大切さと共に。
全ての魂と心が織りなす光の海を、リツコは泳ぎ続ける。
(私では、ここまで人を信じることなど出来ないわね)
改めて、碇ユイの心の強さを思う。
苦しいと、人に助けを求めることは難しい。
そしてそれ以上に苦しむ人に手を差し伸べることは難しいことか。
それでも世界は救いの手を求め、そして世界は救いの手を差し伸べた。
碇ユイの信じた通りに。
人々は学んだのだ、他者と向き合い、理解し合うために一歩を踏み出す勇気を。
全ての魂と心が織りなす光の海を、リツコは泳ぎ続ける。
学んだ勇気を以て一歩を踏み出すために。
学んだ勇気を以て一歩を踏み出させるために。
朱い世界の中央に佇む二人。
蒼銀の少女と白銀の少年。
「レイ」
(こんなに穏やかな気持ちで再びあなたの前に立てるとは、ね)
「・・・・・・赤木博士・・・・・・」
「なぜここにいるの? レイ」
穏やかに、微笑みさえ浮かべ。
「あなたは、なぜここにいるの?」
母が子をあやすように、
「何のためにあなたはここにいるの?」
姉が妹に尋ねるように、
「なぜあなたはここに来たの?」
教師が生徒を諭すように、
「行きなさい、レイ」
母が娘に語るように、
「あなたには、求める人が居るのでしょう?」
女が友に言うように、
「隠しても分かるのよ? あなたのことはずっと小さな頃から見てきたのだから」
そしてそっと背中を押す。
再び世界に生まれ、泣き崩れる少年と虚空を見つめる少女に向かって。
「・・・ありがとう・・・ございます・・・・・・博士」
蒼銀の少女は不安に揺れる瞳を隠すことなく、それでも確かな歩みを以て進み始める。
そんな少女の背中を悪戯っぽく見つめ、半ばからかうように、しかし確かな真剣さを以て少女に語りかける。
「ああ、そうそうレイ。私ね、もう博士じゃないわ? だから別な呼び方で呼んでくれる?」
その言葉を受けて、レイは瞬きもせずに暫くの間リツコを見つめ、そして
「行って来ます、お母さん」
そう言い残して消えた。
その白い頬を僅かに紅く染めて、穏やかな笑顔と共に。
「酷いな」
皮肉っぽい笑顔とともに白銀の少年がリツコに視線を向ける。
「彼女は僕の伴侶となる女性だったんですよ?」
「あら、あなた聖書を読んだことはないの? アダムのお相手はエヴァよ、あなたには弐号機がお似合いだわ?」
「きついですねえ、リツコお母様?」
「せめてお姉さまと呼んで頂戴」
白衣に両手を突っ込み、少年に背を向けて空間を蹴る。
「どちらへ?」
「知り合いと、部下の所へよ、何にせよ瓦礫の山と化したジオフロントをどうにかしないとね」
「それはそれはご苦労様です、では、また後ほど」
背を向けたまま、片手を振って挨拶に代え、リツコは光の海へと泳ぎ出す。
(先ずはマヤのとこかしら? そろそろ、あの子も一人立ちして良い頃よね)
Alkさんから50万HIT企画SS「リツコおかあさんでGO〜」を頂きました(^▽^)ありがとうございます
サードインパクト後の世界、リツコさんはユイさんの心の強さを理解したようですね。
今までの弱さを消し去り、レイちゃんをエヴァンゲリオン零号機パイロットではなく愛娘レイちゃんとして背中を押す勇気。リツコさんカッコいいですね。
この強さがあれば二度と過ちをおかさないでしょうね。
知的なリツコおかあさんに惚れたと感想を送りましょうね。
「jun16 Factory」はリツコおかあさん推奨HPです(爆)。
とっても素敵なSSをくださったAlkさんに皆さん感想を送りましょう。
皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!
投稿:たった一歩を踏み出す勇気