おもい、果てしなく

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最近加持さんを見かけない・・・

新世界を見下ろしながら、ふとそんなことが頭に浮かんだ。



−託すもの−




その丘はジオフロントの半分を見渡すことが出来、かつてはシンジのお気に入りの場所であった。

だが、今そこから見える大地はどこまでも膝丈ほどの植生があるに過ぎず、変化の乏しい景色がただどこまでも広がっている。

その情景はそこで巨人が戦った結果生まれたものであったから、変化の無さは自分自身の責任でもある。

そんなこともあってか暫く足が遠のいていたのだが、ネルフの空気の重さに耐えられなくなった今、他に行くべき場所は見つからなかった。

シンジは久方ぶりに訪れた丘の中程で腰を下ろし、上って来た道程を振り返るが、そこにもやはり背の低い緑があるだけである。



シンジがかつて草原に対して抱いていた印象と言えば、淡色の草の上を風が撫でてゆくようなどこか爽やかさを感じさせるものであった。

確かにジオフロントは涼しい空間ではあるのだが、眼下の緑は濃く、風が吹かないが為に微動だにしないそれは視覚的な暑さを演出している。

やりきれない何かを感じたシンジは視線を地底湖に移し、鏡のような湖面を眺めていた。

加持さんのことを思い出したのはそんな時だった。



あれは何時だったか。

文字通り神経をすり減らす使徒達との戦い、そんな日々の中のことだ。

ただ、それ以上のことを思い出そうとすると腹のあたりがチクチクし、思考がまとまらなくなる。

それでも、その時の加持さんの顔だけは今でもはっきりと思い出せる。

いつもの柔らかな表情ではあったが、どことなく影を伴った顔でもあった。

今にして思えば、それは哀れみの表情だったか。

自身が舞台から去らねばならぬ事への、己に対する哀れみ・・・

あるいは、あまりにも重いものを託される少年に対する哀れみなのか。

加持さんはあの時既に、こうなることを予感していたのかもしれない。



加持さんとは長い別れになるのかも。

そんな思いが一瞬頭をよぎった。



―託されるもの―




その得物は、赤い巨人の為に作られたものだった。

が、今、アスカも、得物を振るうはずだった巨人もシンジの隣にはいない。

アスカはネルフ関係者専用の病院、そこのベッドに伏しており、魂を失った器は地の底世界に在る四角錐の建物、更にその奥深く眠っている。



ここに来る前にも病室を見舞って来たのだが、ベッドに横たわるアスカにはなんの反応も無かった。

感情どころか、生気の欠片すら感じられない。

勇敢で、気高く、その実ガラス細工のように繊細だったアスカ。

彼女の心の壁は高く、そして厚かった。

その壁の向こうの彼女は限界を超えていたことに、シンジは全く気が付かなかった。

いや、そうではないのか・・・

あまりにも高く大きな壁は、もはやそれが壁であることすら理解出来ない・・・

自分は、そして恐らくアスカ自身ですら、アスカの中に障壁があること知らなかった。

そんなアスカの事を想うと、胸の奥から再び何かがこみ上げて来た。



シンジは、今は自分が振るうその得物を、再びアスカが振るう日が来ることは二度と無いであろう事を、頭のどこかで理解した。



―託されたもの―




無為に時を費やし、ふと空を見上げると、いつの間にか日が暮れようとしている。

その丘は本部からは離れており、そろそろ帰らなければならない頃合なのだが、暫く下ったところで足が進まなくなる。

更に少しの間立ち尽くしていたが、遂には草の上に寝転んでしまった。



アスカがいなくなってから、その得物は紫の巨人が振るっている。

プログレスナイフよりも長く、ロンギヌスの槍よりは短いそれは、最初は扱い方が難しかった。

が、地底湖の傍で加持さんに見たイメージを思い出し、初号機のイメージに重ねる。



シンジがアスカに託されたそれは、加地がジオフロントに持ち込んだものを基としていた。

加持自身も振るっていたそれは、もちろん人間の為に作られたものである。

鈍色の刃先を見るならば、それがかつてどのように使われたいたのかは容易に想像できる。

しかしながら、加持に遇うまでシンジはそれを実体として見たことはなかった。

いや、大抵の人はせいぜいが文献や資料館などで見たことがある程度だろう。

なぜ加持さんがそれを持ち、なぜジオフロントに持ち込んだのか。

それは今でも判らないが、ともかくも記憶の中にあるそれを振るう加地さんの姿は自然で、一片のよどみもなかった。



最初こそ辛かったものの、暫くすると力みも抜け、ごく自然に体−エヴァが動くようになった。

それからというもの、毎日のように地下世界の中で得物を振るった。



ジオフロントは閉じられた世界である。

シンジ自身はそれまでこの世界の端を見たことは無かったが、有限であることは聞かされている。

いや、いっそのこと無限であるならば、シンジは自身で行動範囲を区切ることも出来た。

だが、有限であることは返って、シンジを漠然と「ジオフロントの端まで」という気持ちにさせていた。

また、この世界はネルフのものであったから、シンジは何の迷いも無くジオフロントの大地、その全てを使った。

得物を振り、ただひたすら突き進む。

進んでいるときだけは無心になれる。

ただそれだけの毎日だったが、次第にそんな生き方も悪く無いのでは無いかとも思った。

いや、もしかすると加持さんも同じ想いでいたのではないか。



そんな日々の連なりはやがて週となり、月を数え、いつのまにか今に至る。

「もう少しだけ休んだら、もう一度見舞いに行こう・・・」

そう決めると、空−天井を見上げながら寝てしまった。



目を覚ますと、辺りは既に暗くなっていた。

悪い夢を見ていたのか、両の手に嫌な汗をかいている。

夢の中で何かを絞めたような、それも大事な何かを・・・

そこでふと気が付いた。

そうか・・・そんな簡単なことだったのか。



胸の奥にあったものはいつのまにか消え去り、アスカの元へ急ぐ足取りに先程までの重さは無い。

「一人じゃないんだ」

そして、病室のドアを開ける・・・



「さいてい」

それはシンジが何度となく耳にした言葉。

しかし、今のシンジには言葉の意味なんてどうでもよかった。

シンジがアスカの傍らに駆け寄ったとき、もはや高台で感じた腹のチクチクは消え去っていた。




―あとがき(たくさんとれたもの)―

すいか・・・
すいかです。
これは、スイカの食べ過ぎで入院したアスカちゃんと、腹ごなしに散策に出たシンジ君のお話です。

憧れの加持さんにいいところを見せたいアスカちゃん、加持さんのスイカ畑を広げることを思いついたのですが・・・結局はそれはシンジ君のお仕事に。
ネルフ謹製のエヴァ専用鍬(くわ)でジオフロントは瞬く間にスイカ畑になったものの、困ったのはジオフロントを埋め尽くしたスイカの処分。
処世術に長けた加持さんはもちろん長期出張(ばっくれ)中。
結局ヘッポコアスカちゃん&シンジ君が責任をとる羽目に。
負けず嫌いなアスカちゃんが「スイカの1億個や2億個、私一人でも食べてみせる・・・」と言ったのが間違いでした。

チクチクするのも、こみ上げてくるものも、み〜んなスイカ、スイカ、スイカです。
因みに、シンジ君は初号機&弐号機で「むぎゅ〜っ」と絞ってスイカジュースにすることを思いついたのでした。
後日スイカジュースはネルフのタンクというタンクに注ぎ込まれ・・・そして赤目の少女が誕生するのです!?


 HARUさんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜

 シリアスな展開、あの忌まわしい戦いの後のお話・・・加持さんはいなくなり、アスカちゃんは精神、肉体の限界で病院で治療中、そしてシンジ君はジオフロントで何を思うんでしょうね。

 広い大地でシンジ君がする事は一つ、未来のために行動する事ですね。

 そして入院しているアスカちゃんは早く体調を回復させることですね(笑)スイカ食べすぎはお腹壊します。


 アスカちゃん、結局スイカを何個食べたの?と感想を送りましょうね。

 とっても素敵なSSをくださったHARUさんへ感想を送りましょう。

 皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!


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