碇シンジ。

 汎用人型決戦兵器<人造人間エヴァンゲリオン>テストタイプ、初号機パイロット。

 マルドゥック機関の報告書による、サードチルドレン。

 第三新東京市立第一中学校、2−A在籍。

 つまり僕だ。



あなたはなにを望むの?

Made by アポロ



 
あのときのことはよく覚えている。

 サードインパクト。

 綾波は言った。

「あなたはなにを望むの?」

 僕はそのとき見たんだ、可能性を。

 僕の望みが具現化された世界。

 ネルフも、エヴァも、使徒も無い世界。

 父さんと母さんがいる世界、なぜか母さんは極端に若かった。

 まあ、詳しいことはみんな知ってると思うので省略する。

 だけどみんな勘違いしてるんだ。

 アスカが幼馴染?

 綾波が明るくなった?

 ミサトさんが担任の先生?

 違う、僕の望みはそんなことじゃない。

 アスカが幼馴染だなんて怖いじゃないか、だってそうだろう? アスカだよ?

 きっと僕は毎日毎日いじめられる、間違いない。

 あぁ、弁当箱に蛙を仕込むアスカが見えるようだ、ニヤリって父さんみたいに笑って……。

 綾波も綾波だよ。

 明るくなったって、……なりすぎだよ。

 だいたいパンツ見られたくらいでなんだってんだよ!

 平然と僕の前に裸で出てきて、そのあとこれまた淡々と目の前で制服着だしたのはどこの誰だったっけ?

 ミサトさんに教師が勤まらないのくらい僕にだって分かるさ。

 僕の望みは……。

 望みは……。






朝寝がしたかったんだよぉおおおおおお





 そして僕は気がついたら、アスカの首を絞めていた。

 多分、叩き起こされたことを根に持ってたんだな、今更だけど。

 だって、僕はこっちに来てから朝寝をしてないんだ。

 それどころか、先生の家にいたときよりも早く起きてる、家事をしないといけないから。

 学校はあるし、ネルフでテストはあるし。

 どっちも無いときに限ってアスカが早起きするんだ、いつもは寝坊するくせに……。

 僕も当然のように叩き起こされる。

 それも布団を剥がすような優しい起こし方じゃないよ?

 僕に打撃を加えるんだ、容赦なく。

 飛び乗ってきたこともあったな、確か。

 え? 羨ましいって?

 違う違う、フライングボディープレスじゃないよ? あれはなんて言ったかな? あ、そうそう、フットスタンプだ。

 そして彼女は言うんだ。

「おなかすいた、早くご飯作って」

 一度言ったことがあったんだよね。

「小学生みたいだね? アスカって」

「どういう意味よ?」

「休みのときに限って早起きするじゃないか」

「バカにして!」

 もちろん叩かれたよ、それどころか口もきいてくれなくなった。

 だからその日のシンクロテストの後はアスカを待たずに帰ったんだ。

 そしたらまた叩かれた。

「なんで待ってなかったよ!?」

「僕のこと無視してたじゃないか」

 ちょっとイラついてたんだと思う。

「だいたい待っとくなんて、僕、言ってないだろ?」

「あんたレディーに一人で夜道を歩くかせる気ぃ?」

「……いや、心配だよ?」

「え?」

 あ、赤くなった。

「アスカに手を出す人の末路が心配だね」

 今度は蹴られた。





 話がそれたね、ごめん。

 今、僕はベッドの中にいる。

 明日は日曜、使徒が来なくなった今では、僕たちチルドレンがネルフに行くことは滅多にない。

 アスカは洞木さんちに泊まりに行った。

 そう、僕は約1年ぶりに目覚ましをセットしないで眠りにつくことが出来るのだ

 そうなると、興奮して眠れない。それでも2時ごろにはウトウトし出して、そのまま眠った。

 夢を見た。

「あなたはなにを望むの?」

「綾波? ……ちがう」

 何人かの混ざった声。

「あなたは何を望むの?」

「僕は……」

 なんだろう? もう望むものは手に入った。

 ぐっすり眠れてるんだ、最高だよ。

「僕は今のままで十分だよ」

「……そう、よかったわね?」

 そしていつかのような赤い玉をもらった。

 両手でしっかりと受け取った。

 自然と目が覚めた。

 ちょっと寝すぎたかな? 頭がボーっとする。

 でも、病室で目を覚ますような不快感はない。

 手の中にはあの赤い玉があった、それも2個。

 夢の続きかな、と思ってしばらくボケッとしてたんだけど、急にあの赤い玉の色合いが変わった。

「あれ?」

 だんだん目が覚めてくる。

 赤い玉は手の中には無かった。

 温かいものに包まれているような感じで浮いていた。

 人肌の温かさ、柔らかい。

 その上に空色の髪が……。

「あ、綾波!?」

 綾波が僕の布団に潜り込んでいた。

「おはよう、碇君」

 ニッコリって、そうじゃなくて。

「なにしてるのさ?」

「葛城三佐がいつでもおいでって言ってたから」

「だからってこんな時間に…」

「もうお昼の1時よ?」

 うそ!?

 時計を確認する。……本当だ。

「あの、ひとつ聞いてもいい?」

 あんまり聞きたくないんだけど。

「いつからそこにいたの?」

「朝の7時」

「なにしてたの?」

 ああ、真っ赤になった。

「……寝顔、見てた」

「ずっと?」

 コクリと頷く。可愛いな、ってそうじゃなくて。

「ミサトさんは?」

「ネルフに行ったわ」

「なんか言ってなかった?」

「避妊はするのよって」

 ミサトさん、……勘弁してよ。

「そう」

 としか言えないよな。……はぁ。

「あの、着替えるから……」

「なに?」

「あっち行ってて貰えないかな?」

「何故?」

「あの、恥ずかしいし」

「問題無いわ」

 こっちはあるんだよ。

「と、とにかくさ、ね?」

 綾波の背中を押して部屋の扉を開けたところで、その、分かるでしょ? アスカがいたんだ。

 アスカはキョトンとしてた。

 続いて、うつむいて震えだしたんだ。

 あ、やばいな、と思ったから声を掛けたんだ。それがいけなかった。

「あの、アスカ?」

 これが引き金になったらしい。

「バカシンジぃ!!」

 いつもと違ってグーだった。

 綾波はさりげなく避けていた。

 僕はベッドまで弾け跳んだ。気を失わなかったのはたぶん奇跡だ。

「あんたあたしがいない間に、なにファースト連れ込んでるのよ!?」

 アスカの背後に炎がはっきり見えた。

「ご、誤解だって、起きたらいたんだよ」

「覚えてないってぇの? このケダモノ!」

「だから、なにもしてないってば」

 たまには話を聞いてよ。

「ファースト!? シンジになにをしたの?」

まだ、なにもしていないわ」

 あ、綾波? 言葉は選ぼうね。

「だけど碇君は、わたしの頬に両手を添えて見つめてくれた」

 首まで赤くなってるよ、綾波。

「ど、どこでよ?」

「ここよ」

 僕の部屋だよね、ここって。

「ここって?」

「ここはここ、碇君のベッドよ?」

 僕は気を失ってしまえばよかった。……もう遅いか。

「始めは碇君の寝顔を見ていたのだけど…」

 そこで切ったらダメだろう? 誤解を招くよ……。

「こ、この、バカシンジー!」

「う、うわぁ!」

 とっさに頭をかばって、縮こまっていたけど、いつまで経っても衝撃はこなかった。

 綾波が止めてくれたらしい。

「ちょっとファースト! 邪魔しないで!」

「なにを怒っているの? あなたには関係ないはずよ?」

「ぐっ、こ、こっちは共同生活なのよ? イチャイチャされると迷惑なのよ!」

「なら問題無いわ、碇君、わたしの部屋へ行きましょう?」

 綾波に手を掴まれた。

「そして続きをしましょう? 誰も邪魔する人はいないわ」

 つ、続きって……、あ、ヤバイ、鼻血出そう。

「待ちなさい! シ、シンジは今日はあたしの買い物に付き合うのよ?」

「本当?」

「本当よ! だからあんたは……」

「あなたには聞いてないわ、碇君、本当?」

 僕はとっさに答えられなかった。

 もちろんそんな約束はしていない。だけどアスカ、凄い目で睨んでるし。

 綾波の上目遣いも捨てがたいな。そうだ!

「みんなで行こうよ? それで帰りに綾波の家によって……」

「調子に乗るなぁ!」

 ドゴッ!

 アスカの見事な後ろ回し蹴り。

 僕は今度こそ気絶した。

 今では十分にお世話になった病室の天井が待っていることを、薄れゆく意識の中で僕は確信していた。






 
 後書き

 はじめまして、アポロと申します。

 いかがだったでしょうか? jun16さんの作風を壊していなかったら幸いです。

 感想お待ちしています。

 どんなことでも結構なので、よろしくお願いします。

 アポロさんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜

 サードインパクト後の生活ですね。シンジ君が望んだものは『朝寝』ミサトさんやアスカちゃんの世話をしていたら遅くまで寝ていられないですからね(苦労する中学生^^;)

 久しぶりに長く寝ていて起きたらレイちゃんが目の前にそれも布団に入っているとはシンジ君羨ましいですね。

 でもその甘い雰囲気?がアスカちゃんによって引き裂かれてしまいましたね(笑)シンジ君の次の永い眠りは病院ですね。

 シンジ君、元気になって退院しようねと感想を送りましょうね。

 とっても素敵なSSをくださったアポロさんへ感想を送りましょう。

 皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!


SSroom_5

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