綾波ちゃんとおさんどん
Made by 幻都
カナカナカナカナカナカナ…
蝉の鳴き声がうるさい。
セカンドインパクト前には夏にしかいない昆虫だったらしいが季節が一定してしまった今では年がら年中ミンミン鳴いている。
僕はクモの巣がかかったインターホンを押した。
カチカチと何度押しても彼女が出てくる様子は無い。
蝉が鳴くのと同じで相変わらず壊れっぱなしのようだ。
「綾波、いる?」
ゴンゴン
僕はドアを叩いた。
鉄の音が無人のようなボロアパートの廊下に鳴り響く。
ガチャ…
ゆっくりとノブが回され鉄の扉が開かれた。
「なに?」
綾波は眠そうに目をこすりながら出てきた。
彼女は下着の上にワイシャツ一枚という青少年には刺激的な格好をしている。
おうらかなんだか羞恥心が無いのかは知らないけど相変わらずそういう事は気にしないみたいだ。
まったく僕だからよかったものの加持さんみたいなのだったら思わず襲いかねないよ。
後でよく注意してこっと。
「ごめん寝てた?」
「昨夜再起動実験、徹夜だったから」
「残業手当つくの?」
「わからないわ、髭の趣味の領域だから」
「……今度は初号機になに着せてたの?」
「ブルマ、制服、バニーにタンクトップにアンミラ…みんなあなたのお父さんの趣味よ」
「あ…綾波も大変だな」
「あなたのお父さんの趣味よ」
「父さん?おかしいなあ、あんなのと血の繋がりは無いはずなんだけど」
「現実から逃げては駄目、あれは正真正銘あなたのお父さんよ」
綾波はキッパリという。
うるうる〜
僕は涙を流した。
やっぱり信じられない。
あの十年以上も僕をおじさんちに預けておいて自分は人造人間で着せ替え遊びをしていたおじさんと親子だなんて。
それだけならいいよ。
ただの人形フェチのおじさんで済むから。
でもこないだなんて僕に無理やりスカートをはかせようしたんだよ?
幸いミサトさんが止めてくれたから助かったけど…
リツコさんの話しによれば父さんは死んだ母さんのことが忘れられないらしい。
思いっきり歪んでるよ…、それって
「であなたは何しにきたの」
「あっいけね、はい、これたまってた宿題のプリント」
いけないいけない危うく忘れるところだったよ。
僕は委員長から渡されたプリントを綾波に渡した。
「……宿題のプリント?」
綾波はマジマジとプリントを見詰める。
そして彼女はとても驚くべき行動に出た。
チ〜〜〜〜〜〜〜ン!
綾波はいきなりプリントで鼻をかんだ。
「綾波〜!」
「私には関係無いから」
綾波はプリントをクチャクチャに丸めるとアパートの中に帰ろうとした。
おいおい…
「あっ、碇君」
部屋に戻ろうとした綾波が急にこっちに振りかえった。
「少し上がっていけば?」
「はい?」
上がっていけって君んち何も無いだろう?
僕は綾波の部屋を知っている。
ベッドと冷蔵庫以外の家具はほとんど無いのだ。
その冷蔵庫さえ、ニンニクと栄養剤だけしか入っていない。
深刻な環境下だった。(でももっと深刻なのはミサトさんの部屋、南極と同じくらい生命の存在を許さない)
まあ綾波にとっては部屋なんて寝る事だけが出来ればいいのかもしれないけど、ちょっとね〜。
「碇君」
綾波が静かに呟いた。
「あ…綾波!?」
僕は驚きの声を上げる。
いつのまにか綾波の手には包丁が握られていたのだ。
「上がるの?上がらないの?」
「あ…上がらせていただきます!」
綾波っていまいちなに考えてるんだかわからない。
強引さは結構アスカやミサトさんと同レベルかも。
僕はそんな事を思いながら部屋に上がらせてもらった。
部屋は猫だらけだった。
猫の絵が描かれたカーテン、カーペット、壁紙、猫の形をしたテーブル、テレビ、ラジオ、目覚まし、ステレオ、冷蔵庫、終いには例の猫型ロボットの等身大の縫いぐるみがベッドの上に座っている。
はっきりいって猫の惑星だった。
「どうしたの、この部屋?」
「こないだ博士が来て、コレクションの一部をおいていったの」
「へえ、リツコさんが、けど前よりかはずっと女の子らしい部屋になったよ」
こないだのような殺風景な部屋が残骸絶壁の石垣ならこの部屋は猫が戯れる花園ってとこだろう。
趣味はなんとも言えないがテレビやステレオやぬいぐるみという生活の必需品がそろっているし、
ようやく人が住める環境になったと言ったところだろうか。
「よかったね、綾波」
僕はニコリと笑いかけたが何故か綾波は首を振るだけだった。
「別に、猫なんかいらないもの」
「そ…そりゃそうかも知れないけどさ」
「ああ…どうせならアレがほしかったわ」
綾波は溜息をついた。
僕は少し驚いた。
あまり表情を見せない綾波にとって今僕に見せている憂鬱そうな表情はとても価値あるものなんだ。
「アレって?」
僕は好奇心のままに尋ねた。
綾波がこうゆう表情を見せてまで欲しがるものとは一体なんだろう…?
今世紀最大の謎だなあ。
「…駄目、碇君には理解できないわ」
そう言って綾波は僕を冷たくあしらった。
僕を子供扱いして〜
そんな綾波に僕は少し腹が立った。
「なんだよ〜、教えてよ、そこまでふっといてやめるなんてずるいぞ、ひきょ〜だぞ」
しつこく尋ねる僕に呆れたのか、それとも観念したのか綾波は顔を上げた。
「そう、知りたいのね…」
綾波は真剣な瞳で僕を見詰める。
僕の喉がゴクリとなった。
「おさんどんが欲しいの」
「へっ?」
僕はぽかんとした。
そんな僕を見詰めながら綾波は語りつづけた。
「だってずるいの、SALやビル腹には下僕がいるのに私にはいないの」
「あの…、そこでいう下僕ってもしかして…僕?」
「わからないわ、私は三人目だから」
綾波は相変わらず謎なことを言ってとぼけた。
僕は何故か裏切られたような気分になった。
綾波まで僕をそんな風に思っているなんて…
「私はただどこぞの髭親父のせがれのことを言ってるだけ…」
「……そう」
僕はなにも言わなかった。
……自分が悲しくなるだけだから。
「そうそう碇君、ゲームがあるんだけどやっていかない?」
綾波は戸棚からプレステを出した。
へえ、綾波もゲームするんだ。
でも残念だけど今日はここらでかえらしてもらおう。
ビル腹とSALは怒らせたら怖いからね。
「いいよ、夕飯の仕度があるし…」
その時僕の頬になにかがかすった。
みればナイフが壁に刺さっていた。
たら〜
頬から血が流れてきた。
髭剃りで頬を傷つけたくらいに少し切れてしまったらしい。
「うわあああああああ!?」
「…さよなら、碇君、あなたの事、四人目になっても忘れないわ」
綾波の手にはいつのまにか槍が握られていた。
「それはロンギヌスの槍?何故君が」
「博士がおいてったの、ホラ」
綾波は槍の柄を持ち上げて見せた。
なるほど、柄には何故か招き猫が描かれている。
つまり綾波専用のコピーロンギヌスの槍か、
…いくらアスカでもこれは死んでしまうな、いやその前にこのままでは僕が死んでしまう!!
「ごめんなさい、あやなびさま、ゲームをやらさしていただきます」
…我ながら情けなひ。
巨大ロボットの主人公が取ってはならない行動かもしれないが命は惜しかったので土下座して一生懸命綾波に媚びた。
こんな姿父さんが見たらなんというだろう?
きっとこういうだろうな…
<お前には失望だ、帰れ、クニさ帰れ>
「……仕方ないわね、命令ならそうするわ」
綾波は何も無いところに槍を振るった。
すると見る見るうちに槍は小さくなっていく。
綾波は楊枝くらいの大きさになったそれをシャツの胸ポケットに入れるとコントローラーを掴んだ。
「とほほ…」
アスカやミサトさんになんて言おう。
飢えた二人は発情期のライオンよりも狂暴だからなあ…。
ぞお〜
僕の背中にゾクゾク来るものを感じた。
「また負けた〜」
僕は床に大の字に倒れた。
画面上にネコ耳をつけたザンギエフが同じように大の字に倒れている。
その上でネコ耳つけたキャミーがウインナーポーズを取っていた。(リツコさんの仕業だろう、きっと)
「また勝っちゃった……これで二十八勝目」
画面を見詰めながら綾波はボソッと呟いた。
「…碇君って弱い」
「仕方ないだろ〜、僕はあんまりこういうゲームは得意じゃないんだよ、いつも家じゃアスカに負けてるし、でも綾波って初心者だろ?そのわりには強すぎるよ」
二十八回も勝負をしているのに僕は綾波のライフを減らす事も出来なかった。
もしかしてあのキャミーは無敵のATフィールドを張っているのでは?
と途中で思ったけど途中で僕は重大な事に気づいた。
僕の攻撃はかすってもいないのだ。
綾波のキャミーは僕のザンギエフに反撃の機会を与えずに連続で攻撃してくる。
気がついたときには僕は…散っていた。
「私は碇司令の相手をさせられてたから…」
「父さんが?ゲームするの?」
僕はにわかに信じられなかった。
あの見かけは堅物そうな父さんが挌闘ゲームをしてるなんて。
「あの人は、勤務中の半分をゲームで潰しているわ…」
「よくクビにならないね…」
僕は正直な気持ちで呟いた。
そうか、父さんってネルフで遊んでるんだ。
いつも姿が見えないからてっきり仕事してんだと少しは感心してたけど
感心して損しちまったな…ホント
僕は溜息をつくと壁にかかった猫型の時計を見た。
僕は一瞬心臓が止まるかと思った。
「八時過ぎてる…大変だ!」
ゲームに気を取られて時間が経つのを忘れてた。
僕は焦った。
いつも夕食は七時に取っている。
それを過ぎるとあの二人はグレムリンみたいに狂暴化するんだよ〜。
しかも今日はミサトさんは早いって言っていた。
このままじゃ飢えた二人の餌食にされちゃうよ!
「って言う事で僕は家に帰る!じゃあね」
そう言うと僕は玄関の方に走りだした。
ガシャ…!
「なっ!?」
突然、僕の手に手錠がかかった。
手錠についているワイヤーの先にはやはり銭形…いや綾波がいた。
「…御用よ、碇君」
「綾波!どうゆうつもりだよ」
綾波は表情一つ変えずに呟いた。
「お腹空いたの、なんか作って」
「じゃあ、僕の家に帰ってからにしようよ、早く帰らなきゃアスカとミサトさんが冗談抜きで共食いしちゃうんだよ!」
悲痛とも取れる僕の叫びに綾波は断固として首を振った。
「駄目、今日から私のためだけに働くのよ」
「なんで!?」
「絆だから」
「なんじゃそら!?」
僕は腹の底からそう叫ぶと思いっきりワイヤーをひっぱった。
綾波を引っ張ってでも家に帰ろうと思ったからだ。
だが綾波の力が強いのか僕の力が弱すぎるのか知らないがワイヤーはびくともしない。
「……ご飯、作って」
綾波はマジマジと僕を見詰める。
「う…うう」
赤い瞳に見詰められているうちに僕はふらふらと台所に向かった。
もうなんでもいいや、葛城家だろうが、綾波家だろうが…僕はどっちに行ってもお嬢様方にとって結局単なるおさんどんなんだから、うう…愛が欲しいよお〜。
ガシャアアアアアアアアンンン!!
その時だった。
綾波のうちの窓が割られて青いルノーが突っ込んできた!
あのルノーはまさか!
ズキューン!!
僕のルノーの窓から放たれた銃弾が手錠のワイヤーを撃ち抜き僕を自由にする。
「そこまでよ、ファースト!」
「大人しくうちのシンちゃんを返しなさい」
ルノーのドアが開かれ二人の女戦士が登場した。
煙を立てる銃をもったミサトさんと髪を後ろで縛ったアスカ。
二人とも迷彩服に身を包み、目がギンギンだった。
すでに興奮状態の様だ。
それにしても…こんな事して大丈夫なのかなあ?
後でリツコさんに怒られるぞ〜!
「シンジ!無事!」
「見ての通りだけど…無事て?何が…」
ギュウウウウウウ〜
そう言いかけた瞬間、綾波が後ろから抱き付いてきた。
「あ…綾波?」
綾波の柔らかな身体の感触に僕は赤くなる。
「碇君は…渡さない」
「フ…ファースト!!あんたってば!!」
アスカは顔を真っ赤にして怒った。
「何シンジに抱きついてんのよ!あっ!あんたも何赤くなってんのよ!信じらんない、サイテー、バカ!」
「そんなこと言ったって、綾波が…」
「碇君は私のおさんどんなの、だからあなたは家にかえってバナナでも食べてなさい」
「うるさーい!シンジはあたしの下僕よ、勝手に持ってかないでよね!」
いつから僕は君の下僕になったんだい?
「……違うわ、碇君はお猿じゃないもの、あなたの仲間はお山にいるわ」
「あたしは猿かー!!」
「そう、あなたはSAL、お猿、キーキーキーキーうるさい、そして碇君は…髭の子タロウ、将来、きっといい髭を生やすわ」
綾波はわけのわからん事を口走ると僕の身体に回す力をさらに強めた。
「あう!」
いかん、鼻血が出てきた〜。
あっ、アスカの眉がぴくぴく痙攣している。
攻撃信号だ!
「碇君は私の物」
「そんなの許さないんだから、シンジはあたしの下僕だもん!」
アスカが綾波に飛びかかろうとした瞬間だった。
「いい加減にしなさい!!」
それまで沈黙を保っていたミサトさんが二人の間に割って入ってきた。
「あなた達、シンジ君を下僕だとかおさんどんだとか…、ふざけた事ばかり言わないで!そんなこと言われてシンジ君がどんな気持ちになるかわかってるの?」
二人ともしゅんとした。
さすがミサトさん、よくわかってらっしゃる。
ふざけていてもやっぱり保護者!
初めてあなたが真人間に見えたよ〜!
「勝手な事ばかり言わないで!シンジ君はね、シンジ君はね、私の部下なのよ〜!!」
ミサトさんの発言に僕は我が耳を疑った。
「ヘ?」
「だから部下が上司の世話を焼くのは当然よね(はあと)」
「結局あんたも同類かい!!」
叫ぶ僕の横で綾波は首を振った。
「駄目、葛城三佐にはすでに下僕が二人もいるわ(加持とか、日向とかね)ずるいの、私には何も無いもの」
綾波は少しだけ寂しそうな顔をする。
そんな何も無いなんて悲しい事言うなよ。
けど、確かに一人で暮らすのは辛いのかな…
僕は少しだけ綾波に同情してしまった。
「だから、碇君はわたしがもらっていくの」
「こらこら」
「シンジは私の物だってば!そうだ、あんたは相田でも私物化しなさいよ、あいつなら誰も文句は言わないわ」
ここで、け…ケンスケか…。
確かに誰も文句は言わないだろうけど…
友達だけど同じ男としては最低点しかつけられないよ。
いつも隠し撮りとか、下着ドロとかしてるし…
いつとり返しのつかない事をやるか友達として心配だよ、もうやってるかもしれないけど。
そんな奴だけど綾波はどう言うかな?
「……相田って誰?」
綾波は首をかしげた。
そうか、綾波にはケンスケはハナから眼中に無かったんだ。
少し安心したな、うんうん。
「もう!」
アスカは地団を踏んだ。
そしてビシッと綾波に指を指す。
「あんたって大人しそうな顔して強引ね!あたしにはシンジが必要なの!!」
え?アスカ!?
僕の心に一つの期待が生まれた。
それって…まさか僕の事を?
「あ〜ら、アスカちゃん、やっぱりシンちゃんに気があったんだぁ〜?」
「あっ…?違うわよお〜、シンジにはあたし必要なのっていいたかっただけよ、バカシンジはあたしがいないと駄目なんだからぁ、勘違いしないでよね!」
アスカは赤い顔で懸命にかぶりを振る。
僕の…勘違いなの?、やっぱりそんなうまくいかないよなあ(泣)。
アスカが僕なんかの事好きなはず無いもんな。
で…でも今の本心だったらうれしいんだけどな〜。
「そんな事ないわ、碇君には私がいるもの、もうあなた達みたいな鬼姑と暮らす必要無いの」
「なぁ〜にが鬼姑よ、あんたもシンジをこき使うつもりなんでしょ?」
「だって、碇君って便利だから」
「そう、たしかにね!でもシンジは渡さないわ、どんな手を使っても!」
「セカンド、あなた邪魔…」
二人の間に強烈な殺気が走る。
このままでは流血沙汰は必須だった。
僕にはもう何も言えない。
そして何故だか涙が出てきた。
はあ〜あ、僕は主夫としてしか必要としてもらえないのかなぁ?
誰か僕を心から愛してくれる人っていないのかなあ〜?
うう…愛が欲しいよお。
ドラ○も〜ん!
「覚悟!ファースト」
「碇君は私が使う!!」
「待て待て待て待て待て待て待てぇ〜い」
その時突然どこからともなく芝居のかかった声が響いた。
「むっ!」
ピシッ!
何故だかしんないけどミサトさんの頭にニュータイプの人が何かをひらめく時に走る閃光が走った。
「そこね!」
ミサトさんそう叫ぶその扉を開いた。
「あの〜、ミサトさん」
僕はおずおずと尋ねた。
「さすがに冷蔵庫にはいないと思うんですが…」
「あら、そうなの〜?ありゃりゃ、エビチュが無いわよ、レイ」
「…お酒は二十歳になってから」
「そうだったっけ」
テヘヘと頭をかくミサト。
まったくこの人は
僕はミサトさんをジト目で睨んだ。
「当然ですよ、それから勝手に人のうちの冷蔵庫からビールを漁らないでください、犯罪ですよ」
「ほんのジョークよん、でも曲者は一体?」
じゃああ〜!
その時トイレから水が流した音がした。
何故トイレから?と言う一同の疑問や視線がトイレに集まる。
ガチャリ…
扉が開き大柄の男が出てきた。
「あっ!」
僕達は声をハモらせた。
その男は僕達がよく知っている人物だったのだ。
「ふっ、さっきから一部始終をトイレの中で聞かせてもらったぞ」
「綾波んちのトイレでナニやってんだよ!おっさん」
彼は僕の質問をあっさり無視すると三人に向かって歩き出した。
そう、その人こそ噂の髭親父司令官。
そして僕の実父である、碇ゲンドウその人だった。
「さっきから黙って聞いてれば…」
父さんは何故か頭に血管を浮かばせていた。
あまりこの人も感情を表にしない人だから何考えてるんだかよくわからないけどとにかく今彼は怒っていることだけはよくわかった。
「私の息子をやれ下僕だの、やれおさんどんだの、お前達は一体私の息子を何だと思ってるんだ」
「部下」
「下僕…かな」
「…飯炊き…」
「くううう〜!!」
父さんは眼鏡を外して涙をぬぐった。
ほんとに泣きたいのは僕の方なんだけどね…
「おのれ!貴様等私の大切な息子を!」
ギュウッ
僕の腕を父さんの大きい手が掴んだ。
「帰るぞ、こんな所にいてたらお前まで駄目になってしまう、だから私は葛城三佐なんぞのところに行かせるのは反対だったのだ」
「ちょ…ちょっと父さん」
「ちょっと待ちなさいよ、おっさん」
ミサトさんが父さんを呼びとめた。
「あなたがシンジ君を育てるっていうの?」
「ああ、無論だ」
「十年間も子育てなんか考えなかった父親が?」
「フン、親子の絆は時を超えるものだ」
「さあて、どうかしらん、一体どうゆう風の吹き回しか知らないけど…どうせ、シンちゃんを悪の道に誘い込むつもりなんでしょ?」
ギクシ!
父さんの鉄面皮が少しだけ引きつった。
「と…父さん?」
「あ…悪の道だと?失敬な、私はただ…シンジにワンピースを着てもらいたいだけだ」
「それが悪だってのよ!!」
女装は悪なのか?ってゆう疑問は置いとくとして
僕は父さんに身の危険を感じた。
「じゃあね、父さん」
僕は父さんの手を引き離すとアスカ達の方に向かった。
「シンジ!どうした戻って来い!」
「いいや…、なんかもう戻って来れなくなりそうだから」
そういうと僕はミサトさんの後ろに隠れた。
だって父さんの目がイッちゃってるんだもん。
マジで怖いよ。
「な…何故だ」
父さんの手がプルプル震える。
ダーーーーーーー!
父さんの眼鏡の内側から滝のような涙が流れ出す。
と…とーさんが泣いている?
僕は天然記念物を見るような目で泣いている髭親父を見た。
「何故この私を拒絶するのだ!シンジー!」
「あたりまえだろー!!」
僕は怒鳴った。
「僕を母さんの代わりにしか見てない危ないおっさんの元にだれが行くかよ!」
「だが、お前に苦労はかけない、戦いにおいてもダミープラグも完成した今ではお前が無理して乗る必要も無い、私はお前と暮らしたいのだよ!」
…僕は二人の顔をみた。
保護者としてはペケペケだけど姉としては結構グーなミサトさん、ワガママで気が強くて狂暴だけど優しいところもある異性、アスカ。
心なしか二人とも心配そうだ。
恐らく僕が父さんのとこに行っちゃうと思ってるんだろうけど…
僕はどこにも行かないさ。
「エヴァに乗らなくてもよくなっても、こき使われることが無くなっても…父さん、僕が帰るところは一つなんだ、僕は葛城家にいたい、みんなと一緒にいたい」
「……」
父さんは黙った。
涙はもう流れていない。
今更僕と暮らしたいといったんだろう?
寂しかったんだろうか?
いやこいつの事だ…
きっとロクでも無い事だと思うけど。
「そうか」
父さんは僕に後ろを向けた。
「お前も、やっぱりむさい親父と暮らすよりぴちぴちのギャルと暮らす方がいいんだな…、おっと葛城君はぴちぴちじゃないな…ぐわ!」
「もー、イヤです、私はまだ二十一ですわ(はあと)」
父さんはミサトさんにポカリと殴られた。
ミサトさん空腹で狂暴化してるからホントの事でもそんなこと言っちゃ駄目だよ、父さん。
「じゃあな、元気でな、苛められても泣くなよ」
ずれた眼鏡を治しながら父さんは何故か冷蔵庫を開けた。
そしてのそのそと冷蔵庫の中に入っていったんだ!?
「えっ!?」
僕とミサトさんとアスカは慌てて冷蔵庫の中を覗いた。
だが、中にはニンニクと栄養剤しか入っていなかった。
「どうゆうことよファースト!?」
「…知らないわ」
綾波はボソリと答えた。
どういう事だろう。
リツコさんの発明かな?
<どこでも冷蔵庫>とか…
「あれでよかったの、あんたは」
アスカは腕を組みながら横目で僕に尋ねてきた。
「何が?」
「何がって、あのまま司令と暮らした方があんたにとって幸せだったかも知らないのよ?なんなら今からでも間に合うし」
「心配してくれるんだ?」
「そんなんじゃないわよ、でもそれはあんたの夢だったんじゃないの?」
アスカははにかむ様に顔を落す。
そんなアスカを見て僕はクスリと笑った。
「でもね、今更、父さんと一緒に暮らすのはいろいろ心の準備とかが必要だし…、今の父さんと僕とは完全に生き方が違ってるんだ」
僕もあそこまで変態とは思わなかったからなあ…
けど、父さんとの生活を振ったのは悔いが無いわけじゃない。
ずっと、そうなるのが夢だったから。
でも、何も今すぐじゃなくてもいい。
全てが終わってから。
この世界にエヴァが必要無くなってからでも遅くは無い…と思う。
「あんたってさ、結構大人なのね」
アスカが優しいまなざしで僕を見つめる。
僕はなんだか小っ恥ずかしい物を感じて思わず目をそらした。
「どうかな?父さんが言ってた女の子との生活ってやつも理由の一つなんだ、苦しいながらも結構甘美なものを覚えつつあるし…今更むさいおじさんとの同居もね」
ボカ!
アスカに殴られた。
「痛え〜、なんだよ?」
僕は頭を両手で押さえながらアスカを睨みつけた。
「スケベ、あんたの事を少しでも感心したあたしがバカだったわ、やっぱりあんたはバカシンジよ」
そう言うとアスカはプイッとそっぽを向く。
「殴らなくったっていいじゃないか!僕は青少年的なこと言っただけだぞ!やましい事なんて」
「昨日、お風呂覗いたでしょ?」
「あれは事故だよ、アスカがいるなんて思わなかったから…けどその分は散々昨日殴っただろ!?」
「あ〜ら、あんた一糸まとわぬこのナイスバディを見たのよ、見物両はあと三百発ほどきっちり保留してるわよ〜」
「じゃあまだ殴られなきゃいけないのかよ、僕は!?」
「当たり前よ、バーカ」
アスカはべーっとアッカンべーをする。
「なんだよ、バカはそっちだろ!」
「うっさいわね、裸見たじゃない、言い訳できないわよ?」
「うっ…、けど湯気で曇って下のほうは見えなかったし」
「この変態!見る気まんまんじゃないのよ!」
アスカの顔が真っ赤になる。
バコッ!
右ストレートが僕の顔面にめり込んだ。
「酷いよ〜」
「何がよ、もう勘弁して…」
「コホン」
ミサトさんが咳をした。
「あなた達、痴話喧嘩の途中悪いんだけど」
「ち…痴話喧嘩?」
僕達は顔を赤らめた。
綾波はさっきから僕達の方を黙って睨んでいる。
ちょびっとこわひ…
「家に帰るわよ、お腹が空いて目眩がしてきたもの」
「ここじゃロクなものがないしね」
「ニンニクがあるわ…」
バリ!
綾波は冷蔵庫にあったニンニクを丸かじりにした。
「お腹壊すから止めなさいっての」
アスカはうえ〜っとした顔で綾波に注意する。
だが綾波は構わずニンニクに噛り付いた。
「だからやめなさいって」
「…お猿はバナナが好きなのね、ごめんなさい、バナナは家に無いの」
「だからあたしは猿じゃないってば!」
アスカの拳がプルプル揺れていた。
危険を感じ取ったのか綾波は普段からは考えられないスピードで駆け出した。
「待ちなさいよ!」
アスカは拳を振りかざして綾波を追う。
二人の負いかけっこが始まった。
「やれやれ」
割れた窓ガラスから入ってくる夜風に打たれながら僕は頭をかいた。
「ご馳走様でした」
三人は手を合わした。
葛城家の今日のメニューはマーボーナスである。
アスカはぶーぶー文句を言ってたがきれいに食べてくれた。
「はいはい、食べ終わったら流しに持っていくんですよ」
三人は素直に流しに持っていく。
三人ともよく食べるからあっという間にお皿のエッフェル塔ができた。
十人前はある。
また僕のおさんどん生活が始まるみたいだ。
ジャー。
洗剤をあわ立てて皿を洗いながら僕は思った。
父さんが、一緒に暮らそうと言ってくれた事本当はとてもうれしかった。
いつの日かいつの日にか仲良く暮らせる日が来て欲しいと願うのも事実であった。
「碇君」
「あ…綾波」
綾波は皿を持ってそばにあったたわしでごしごしと擦りつけた。
「手伝ってくれるんだ」
こくり
綾波は無言で頷く。
「あっ、洗剤つけた方がよくとれるよ、それ油ものだから」
「…今日はごめんなさい、あなたをおさんどん呼ばわりして」
綾波はすまなさそうにいう。
僕はニッコリと笑った。
「そんな事なれてるから平気だよ、それに綾波は寂しかったんだろ?頼る人がいなくてさ」
ダボダボダボダボ…
しばらく水の音だけが長し場を支配した。
「わからないわ」
「綾波、一緒に暮らさないか、ここで」
「え?」
綾波は首をかしげる。
僕は綾波の目を見つめながらいった。
「ミサトさんに話したらOKしてくれたんだ、ミサトさんもアスカもそして僕もいるけど…いいかな」
「……」
「あ…君がアスカの事あまり好きじゃないって言うのもわかってていってるんだ、けどあの子だって根はとっても良い子なんだよ、でもね、どうしても嫌なら止めてもいいけど…」
「別にセカンドの事は嫌いじゃないわ」
「ホント?」
コクコク
綾波は首を縦に振った。
「よかった、アスカだって綾波の事本気で嫌ってるんじゃないと思うんだ、だから仲良くしてあげてくれないかな」
「命令ならそうするわ」
綾波は相変わらの無表情で言った。
だけど…
僕にはその表情が微笑んでいる様に見えたんだ。
次の日の朝…
「シンちゃん、ご飯まだなの、会議に間に合わないじゃない〜!」
「はい、ただいま」
「シンジ、シャンプー切らしてるじゃない」
バスタオルを巻きつけ相変わらず僕の目の保養になってくれているアスカは膨れながら切れたシャンプーをカラカラと振った。
「買い置きが洗面台の下の戸棚にあるはずだよ」
「もう、ちゃんと用意しといてよね、バカ」
ワガママだけどこうして目の保養行為をしてくれるアスカ。
しかもこの後彼女がコップに注がずにパックのままがぶ飲みする牛乳は僕と共同だ。
あとで隠れて僕もパックでそのままで飲むからね。
う〜ん、こうしてみると結構甘美な生活。
親父何ぞと同居したら、逆につまんないだろうな〜
も〜やめらんないよ
「碇くん」
新たな同居人綾波に呼びとめられた。
「碇君、お茶」
「はいただいま」
僕は綾波にお茶をくむ。
「碇君、肩もんで」
「はいはい」
「碇君、髪をとかして」
「えっとドライヤーは」
「碇君」
「えっ、まだあんの?」
ってゆーか何で僕がこんな事しなきゃなんないわけ?
綾波、大人しそうな顔して結構ワガママなやつなのかもなあ(がっくし)
「絆だから」
多くの注文に慌てている僕を見つめながら綾波はニッコリと微笑んだ。
〜後書き
幻都「少年エー○を立ち読みして後ろのイラストコーナーを見るときがあるけど…なんかレイちゃんのイラストが比較的多いよな、ってゆ〜か読者にはLRS派が多いんだろうか?」
レイ「当然よ、私はエヴァ界の女王…、あの映画でも大活躍した私は影の主役なのだから」
幻都「おや、レイさん、お元気で」
レイ「…私は元気よ、ところであなた、私よりあのSALが好きだって言うのはほんとなの?」
幻都「ええ…一応」
レイ「それは駄目、改宗しなさい、エヴァの世界は私のためにあるのよ」
幻都「はあ」
レイ「この際、SALなんて忘れて私を書きなさい、さすれば世界を半分…はっ、殺気」
アスカ「コラ〜、ファースト何、幻都に吹き込んでるのよ〜!」
レイ「一時退却」
アスカ「コラ〜降りて来い、飛ぶなんて卑怯よ!」
幻都「……行っちゃった、どうだったでしょうか、今回はレイものをかいて見ようと思ったのですが、案の定かな?ラストはチルドレンライフですか、ちなみに僕はレイちゃんは結構好きです。レイちゃんは書きにくいって言う人が多いんですが…僕の場合は結構使いやすいの部類に入ります、だって彼女、天然」
バコ!
レイ「私は可愛さの上にミステリアスを秘めた女、あなたには無理だわ…、そんな彼のSSを最後まで見てくれたあなた…彼に代わって感謝します」
幻都さんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜
レイちゃん真剣な再起動実験・・・ではありませんでしたね、髭の趣味で徹夜とは大変です。その髭の息子がシンジ君、彼は髭とは絶縁したいでしょうね。
部屋にあがるシンジ君(脅されていますが^^;)猫いっぱいの部屋になっていますね、でもレイちゃんは興味ないようですね。欲しいのはシンジ君・・・ではなくておさんどんさん、シンジ君の存在って一体・・・
八時を過ぎて慌てるシンジ君、同居人の二人が怖い。でもレイちゃんは帰したくないようですね。そこへ乗り込んできた二人、どうしてレイちゃんの家に居る事がわかったのでしょう?(発信機を取り付けていたんでしょうね)
シンジ君所有権?を争う三人、そこへ変な所から登場する髭(これでネルフの司令^^;)一緒に暮らそうと言いますが、女性と暮らす方が良いですよね(笑)
そしてレイちゃんも暮らす事になってシンジ君は嬉しい・・・こき使われていますね。レイちゃんの絆ってなんでしょうね。
レイちゃん、シンジ君にもっと命令してくれ!感想を送りましょうね。
とっても素敵なSSをくださった幻都さんに皆さん感想を送りましょう。
皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!
投稿:綾波ちゃんとおさんどん