第三新東京都市。地下35階。ネルフ専用の射撃訓練場に彼女は、いた。

首の後ろで一束にまとめあげられた栗色の長髪。ちょっと下がり気味のポニーテールといったところか。

その白いうなじには汗ばんだ肌に何本かの髪が貼り付いている。

かすかに上下する体に運動の激しさが伝わってくる。

うつむいたままの彼女。呼吸する声が訓練場全体に響く。

プライドが高い彼女は自分が息切れしている姿を他人に見せることすら嫌がる。

しかし、ここには彼女しかいない。周りを気にすることはないのだ。

彼女の体に比例するような小さな耳には黄色いスポンジが入れられていた。

蒼い大きな瞳が印象的な彼女。その瞳の先にはいくつものターゲットが並んでいる。

もっとも、そのうちの大部分は中心に9mmほどの穴が開けられていたが…

ふと、彼女の右手が上がる。その手にはベレッタM92Fが握られている。

左手を右手に覆うように乗せ、半歩左足を前に出してわずかな半身状態になる。

ドンドンドンドンドン!!

マシンピストルかと思うような速射を見せる彼女。15発装填のマガジンに込められている

9mmパラベラム弾がみるみるうちに無くなっていく。

排莢された薬莢が彼女の足元に次々に落ち、金属特有の音楽をあげ、転がる。

カシィッ!!

発射される弾薬を失ったベレッタのスライドが下がり、止まった。弾切れだ。

まだ銃口から発火の余韻を残しながら煙を吐くベレッタに蒼い視線を送り、再びターゲットに戻す。

そのターゲットもやはり、中心に9mmの穴が一つだけ残されている。

”ワンホ−ル・ショット”

人はこの結果をそう呼ぶ。「全弾中心部分に命中」という意味だ。

理論上は簡単そうに見えるが、実際に行うとなると話は別になる。

わずかな腕の震えさえも拳銃は見逃してくれない。照準の狂いは先の方になって大きく跳ね返ってくるのだ。

そんな超人技を見せ付けた彼女。何十枚というターゲットをすべてワンホールで打ちぬくという

偉業を達成した彼女の顔には自信に満ち溢れた表情が見られてもいいはずなのだが、違った。

彼女の瞳からは一筋の涙がやわらかな頬を伝って流れ落ちる。

そして、一言だけつぶやいた。

「アタシの右手…血まみれね…」

















アスカ、その心の果てに…(前編)

Made by神崎貴彦















「バカシンジ!!アンタまたお弁当忘れたの?」

アスカの怒号が教室中に響き渡る。同時に乾いた頬を叩く音も響く。

「だって、アスカが”今日はヒカリちゃんがお弁当作ってくるからいらない”って言ってたじゃないかっ!!」

赤くなった頬をさすりながらシンジが唇を尖らせる。

いつもはシンジの弁当を楽しみにしているアスカだが、ヒカリの「トウジの誕生日に新作料理を考えたから味見して!」というヒカリの素直さがちょっとうらやましいセリフに押され、引きうけてしまったのだ。

そのヒカリはというと、昨夜トウジに食べてもらってからの想像の世界に入り込んでしまい、台所でフェード・アウト。

クーラーを付けっぱなしにしていたことが仇になったようだ。もちろん、そうなったいきさつはヒカリ個人の心の奥底にしまっていることは言うまでもない。

いつもヒカリの弁当を当てにしているトウジはというと、泣きながら大量のパンを口に押し込んでいる。

「うううっっ、いいんちょの弁当……」

質を量でまかなおうとでもしているのだろうか。ゆうにパンケース一箱分は机の上に乗っている。

教室の端っこにそのパンケースが立てかけてあるのをクラスメート全員が見ないようにしているのはトウジが人間であることを信じたい一心からだろう。

「アタシがいらないって言っても作ってくるのが男でしょう!?」

「男は関係ないよ。」

憮然とした表情のままで卵焼きを口に運ぶシンジ。正論である。

「このアタシにお昼抜きで過ごせってーの?!なまいきよ!シンジのくせに!」

そう言うやいなや、シンジが持っている弁当を取り上げる。

「こ・れ・は・アタシがいただくわ!」

「…そんなっ!僕のお弁当は?」

「アンタは抜き!一回ぐらい食事抜いたって死にはしないわよ。」

シンジが大事に握っていた箸さえも取り上げたアスカが死刑宣告を言い渡す。

「ううっ…僕のお弁当…」

食事を抜いても死なないんだったら、アスカがやればいいのに…普段はダイエットとか言ってるのに。

昨日だって体重計に乗って眉間に皺寄せてたじゃないか…

心の中でそう思いながらも口に出したら死ぬな…。とシンジがあきらめ顔でため息をつく。

「センセ。これ食うか?」

泣きながらパンを摂取していたトウジがシンジにメロンパンを差し出す。

「トウジ!…いいのかい?」

シンジもまた、視界の隅に茶色のパンケースが入ったがそれをなるべく視界に入らないように体を横にずらしながら食欲魔人に聞く。

すでにトウジの机にあったパンの山は半分の量になっており、傍らのごみ箱には中身を失った残骸が詰め込まれている。

「ああ、ワシもこんなには食いきれんからな。」

「トウジィ…アリガト。」

涙目になりながらシンジがメロンパンに手を伸ばす…がその手をアスカがパシッ!と叩き伏せた。

「何するんだよ!アスカ!」

恨めしそうな表情のシンジ。その目の前には先程奪った弁当を抱え、口に箸を咥えたままのアスカが仁王立ちになっていた。

「あ・・・・・」

ふいに、アスカが咥えている箸が自分が使ったものだという事を思い出して、赤くなるシンジ。

赤くなっているシンジの顔を見て、自分が咥えている箸がシンジが使っていたことを思い出したアスカもちょっと赤くなる。

しかし、アスカがその箸を口から放す気配はない。

「しょーがないわね。半分分けてあげるわよ。」

「でも…アスカが口を付けたんだし…

さらに赤くなりながらシンジが小声になる。

「なによ!アタシの食べかけは食べれないってーの?!」

アスカもさらに赤くなる。

「そ、そんなことないよっ!ア、アスカがいいんだったら…」

もうシンジの顔は真っ赤である。この顔に針を刺したら血液が大量に取得できるだろうな…と、無表情のまま、食事をとっていたレイが考えたことは伏せておこう。

「ほら、隣に座んなさいよ。」

シンジから顔を背け、アスカが椅子を譲る。まだ口に箸を咥えたままである。

「うん。」

シンジが座るのと同時にアスカがタコさんウインナーを摘み上げる。

「はい、あーん…」

「え?!」

シンジほどではないが、顔を上気させたアスカがシンジを可愛い声で誘う。

ちょっと気が止めたが、素直に口を開けるシンジ。

無論、ケンスケがカメラの銃口をその二人に向けていることは言うまでも有るまい。

タコさんウインナーがシンジの口に入っ・・・・ると見せかけて、アスカが食べる。まさにお約束。

「うーん、おいちい。」

目を細めて幸せそうなアスカ。だが、隣のシンジは幸せではない。馬鹿のように口をぽかんと開けたままふるふると震えている。

ううえええええんんんっ!!あしゅかのばかあ!!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

ドップラー効果を撒き散らしながらシンジは教室を飛び出していった。無残な男である。
















澄み切った青空が眩しい屋上の隅に、シンジは体操座りでうなだれていた。

短時間の内にあまりにも恥ずかしい経験をしてしまった彼は、今日はもう教室には戻れないだろう。

しかし、シンジのまじめな性格が授業をボイコットするなどという反社会的な行為を許す訳もなく、その葛藤がいっそう彼を苦しめる。

先程のアスカの可愛い顔と声を思い出して、また、ぽかんと口を開ける。

「…はい、あーん…」

アスカの声を思い出しやすいように目を閉じる。・・・・・その口にいきなりメロンパンが突っ込まれた。

「うぐっ!!」

「なーにしよるんか?センセ。」

いつのまにか、トウジがシンジの目の前に立っている。顔がにやけたまま。

「ト、トウジ!!」

パンの袋をグシャリと握り潰しながらトウジがシンジの隣に座る。

「まだ、何もいっとらんのやろ?アスカに。」

トウジがジャージのポケットからジャムパンを取り出しながら聞く。

「うん・・・・・・」

メロンパンを一口食べると、そのままうなだれるシンジ。

「そんなことやと、誰かに獲られてまうで。はよせんとな。」

むしゃむしゃとパンをほおばるトウジ。

「わかってる!・・・・けど・・・どうしたらいいのかわからないんだ。」

両手に力が入り、メロンパンがその形を変形させていく。

「ああ、こらこら、もったいないで。いいんちょもいっとるやろ、食べ物は粗末にしてはあかんってな。」

「トウジはどうなの?ヒカリさんとは。」

不器用に微笑みながらシンジが聞く。

「ああ、こっちはええで。この間告られたしなあ。」

「ほんとに!?」

「ああ、俺もヒカリのことは好きやったから即O・Kや。しかし、まさかむこうから来るとは思わんかったけどな。」

トウジの口から「いいんちょ」ではなく、「ヒカリ」という固有名詞がこぼれた事に驚くシンジ。

だが、その驚きは自分のふがいなさをいっそう盛り立てた。

「いいな、トウジは・・・・・」

「今度はシンジの番や。ワシもヒカリもなるべく協力するからの!シンジも勇気出して、な!」

トウジがシンジの肩に手を置く。それだけだが、シンジにとってはなにか吹っ切れた気分になった。

「戻ろう!トウジ!もう授業が始まるよ!」

一変して明るい笑顔になったシンジが立ち上がる。

「おしゃ、明日の報告を楽しみにしとるぞ!!」

トウジも立ち上がる。

「帰りにヒカリのとこに寄って、協力させるからのっ!きばってや!!」

短くうなずくと、シンジは教室へと続く階段を勢いよく駆け下りていった。

「さて、ワシは食後の昼寝といくか。」

そのままトウジはごろんと寝転ぶと青い空に目をつぶった。

・・・・・・ヒカリ・・・・いまごろなにしとるんやろ?・・・・風邪、聞いたからな。寝とるにきまっとるやろな・・・・・・

自然にヒカリのことを考えている自分に少し笑うと、そのまま寝息をたてはじめた。





・・・・・・・・・そのころ、ヒカリは・・・・・・・・・





「ああん・・・・だめ、だめよトウジ・・・・・そんなところ・・・・・汚い・・・・あんっ!」

布団の中で再びフェード・アウト。ちなみに本日4回目である。


つづく・・・らしい。







毎度。神崎です。
この間jun16さんに提出したSSのあまりの出来そこないに恥ずかしくて、思わず手元にあったコルト・パイソンを口に突っ込んで引き金を引きたい性分に駆られてしまいました。
ううっ・・・・おねがいです。jun16さん、あのSSは削除してください。
そして運悪く見てしまった方、記憶から消去してください。どうしても消去できない方は神崎がピカッ!と光る機械を持って参上します。黒いスーツとグラサンで。(泣)
 今回のLS(←使い方あってます?)は、そういった神崎の恥ずかしさが物書きスイッチを強制起動!!2時間で書き上げました。続きはコンスタントに書き上げていきますので、長ーい目で見てください。

 神崎貴彦さんからSSを頂きました(^▽^)ありがとうございます〜

 冒頭シリアスと思いきや、お話はラヴラヴアスカシンジですね(神崎さんおしい!LASです)
シンジ君のお弁当を徴発したアスカちゃん、でもお箸が、か間接接吻というやつですね(笑)アスカちゃんの「あーん」でラヴラヴ・・・じゃなかったですね(^^;)

 でもシンジ君、トウジに励まされて何か決心しましたね。明日なにがあるのでしょうか?

 そして風邪でも暴走しているヒカリちゃん、LHT(ラヴラヴヒカリトウジ)も入っていますね。

 あのSSとは削除しません、思う存分恥ずかしがってください(笑)出来損ないではないですよ、いい出来でした。

 とっても素敵なSSをくださった神崎貴彦さんに皆さん感想を送りましょう。

 神崎貴彦さんのHPはこちら!「K`sDEPOTS

 皆さんの感想が作者の力になります!一言でもよいから感想を書きましょう!!


SSroom_3

投稿:アスカ、その心の果てに(前編)