EVA CHANGING
Vol.24
困った二人
「フンフンフンフ〜〜ン♪」
晴れた日の昼、アスカはリビングを掃除していた。三日に一度は掃除を行う綺麗好き。
「ふう〜〜、リビングOK!」
指差し確認で掃除残しが無いか確かめ、チリひとつ無いと満足して台所に向かった。
がちゃっ
冷蔵庫から牛乳を取り出し休憩一息つく。
「ごくごく、冷たくておいし〜」
掃除は意外と体力を使う、リビングを掃除するだけで額に汗がにじむほどである。牛乳が勢いよく喉を流れ落ちる。
「次はミサトさんの部屋ね」
汗が引いたところで休憩は終わり、リビングに戻り掃除機を抱えるとミサトの部屋に向かった。
こんこん、こんこん
ノック、ミサトは部屋で何かをしているようである。
「ミサトさん、お掃除しますよ」
「ん〜お願いね」
がらっ
「あっ!…」
開けた瞬間アスカは一瞬止まった。
「いつも悪いわね」
「ミ、ミサトさんこれは一体何ですか?」
「あ〜これ〜?空き缶よ」
室内にはビールの空き缶の山、山、山。規則正しく並べられ積まれていた。
「空き缶っていつも言っているでしょう。燃えないゴミは水曜日だって」
「チッチッチこれはゴミじゃないわよ」
「えっ?」
ミサトは指を左右に振ると手元にあった空き缶をアスカに見せた。
「これよこれ」
「これってただのビ〜ルじゃないですか、ミサトさんご愛飲の」
缶を見せられても分らなかった。生活費を圧迫しているビール缶。
「違うわよ、これよこれ!」
「これ?」
だが分らない。
「んもう〜分らないの?絵柄が違うでしょ絵柄が」
「絵柄?…あ〜〜かわっていますね」
ようやく気付いた。
「そうよ。今話題のEVAアニメのデザインよ、コレクションのし甲斐があるわ」
アスカは部屋を見まわした、確かに缶のデザインはEVAである。そしてミサトの喜びように呆れた。
「はあ…」
「良いでしょう〜通称EVA缶って言ってね、人気があるのよ」
「はあ…」
「100種類全部集めたのよ」
「はあ…」
「これとこれを見て、同じに見えるでしょう?でも違うのよ。微妙に髪のゆれ具合が違うのよ」
「はあ…」
「同じように見えるけど微妙に違う、いや〜商売が上手いわ、ついつい集めちゃってね貯金がスッカラカンヨ」
「えっ?」
コレクター心理で話したがるミサトの話しを呆れて聞き流していたが、最後の言葉はキチンと耳に入った。
「貯金が無くなったんですか?」
「そ!お腹にはビ〜ルが溜まったけど……ね…」
ミサトの背中に冷や汗が流れた、アスカから殺気が漂ってくる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「あのう〜アスカちゃん?」
俯いているアスカ、表情は前髪で隠れてわからない。
「ミサトさん…」
「は、はいっ!」
低い声にミサトはおもわず飛びあがり正座をした、全身から汗が吹き出る。
「次の給料日……」
「はい?」
「次の給料日まで後何日あると思っているんですか」
「次ね…次…ははは…いつだったかしら」
半笑いしこめかみをかきカレンダーを見るがいつかは思い出せない。
「20日ですよ!20日!どうするつもりですか!?」
「は、はは…どうしようかしら……」
アスカに怒られ小さくなるミサト、本当に保護者だろうか?
「生活費は私の貯金でまかないますので何とかなります。けど……」
「けど?」
「ビ〜ルは抜きです!」
「そ、そんなあ……」
ガクンと肩から崩れ落ち止めど無く涙があふれ出て床を濡らした。
「本当なら食事抜きですが可哀想なのでビ〜ル抜きにしたんですよ」
「食事抜きの方が良いのに…」
ボソッと呟いたが、小さい声ほどよく聞こえる。
「何か言いました?」
「い、いいえ!」
「それと空き缶は捨ててくださいよ。お掃除の邪魔です」
「え〜〜?捨てるの」
驚いた、せっかく集めたのに捨てるのは勿体無い。
「当然です、ゴミですから」
「ゴミって私のコレクションなのよ」
ミサトはちょっとカチンときた。コレクションをゴミと言われたからだ。
「空き缶は空き缶です、人から見たらただのゴミです。今日じゅうに片付けないと来月もビ〜ル抜きにしますよ」
「わかりました!片付けます」
2ヶ月のビール抜きは地獄、すかさず立ちあがるとゴミ袋を取りに台所へダッシュした。
「もう、保護者なんだからシッカリしてもらわないと」
頬を膨らませると部屋から出た。
「ミサトさんが片付けている間にシンジ君の部屋を掃除しましょう」
シンジの部屋に向かった。気のせいか足取りが軽く頬が桜色に染まっている。
こんこん
「シンジ君、お部屋の掃除をしますよ」
「ん〜わかったよ、お願いね」
がらっ
「あっ…」
開けた瞬間アスカは驚いてヘナヘナとその場に座り込んだ。
「ほらアスカ、これを見てよ凄いでしょ」
室内にはコーヒーの空き缶の山、山、山。規則正しく並べられ積まれていた。
「シンジ君も…なの…」
同じ行動の同居人に頭を悩ますアスカであった。
「あ〜〜どうしようどうしよう!」
「ミサトさんどうしたんですか?」
「あっシンちゃん良いところにきたわ。これどうしましょう?」
「ビ〜ルのEVA缶ですね。僕はコ〜ヒ〜を集めていますよ。それがどうかしたんですか?」
「アスカが捨てろって言うのよ、捨てるのは勿体無いからどうしようかと思って」
「えっ?アスカが捨てろって、それは勿体無いですよ」
「そうでしょ、まったくアスカは缶の素晴らしさが分っちゃいないわね」
「そうですね、それでどうするんですか?」
「それを考えているのよ、何か良いアイデアはない?」
「アイデアですか…ええと…」
「困ったわね〜何か思いつかないと…」
「アイデアはありますよ」
「ほんと…う…アスカ!」
「捨てる事です」
「やっぱり……」
「アスカそれは酷いよ、せっかくミサトさんが集めたんだよ」
「お掃除にじゃまなんです、ただでさえミサトさんの部屋は汚いのにさらに汚くなって困るんです」
「アスカ…酷い…」
「それとシンジ君も缶を捨ててください」
「えっ僕も?」
「はい、邪魔になりますから」
「邪魔って僕のお気に入りなんだよ、捨てる事はできないよ」
「空き缶は空き缶です、捨てないとご飯抜きです」
「えっ〜〜〜?」
「お買い物に行ってきますからその間に二人とも片付けておいてくださいね」
「そ、そんな〜〜」
「そ、そんな〜〜」
「ミサトさん、どうしましょう?」
「どうしましょう。アスカこういう事には本気だから、抜きになっちゃうわよ」
「とりあえず袋に詰めましょう」
「そうね、部屋から出しましょう」
「沢山あるわね〜〜」
「そうですね、これからどうしましょう?」
「ん〜〜そうね、ひとまず車に積んでおきましょう。ネルフで保管しておけば良いわね」
「そうですね、これでひとまず安心ですね」
「じゃあ明日持っていけばOKね」
「良かった良かった、これでコレクションに力が入りますね」
「そうね。集めるためにじゃんじゃん飲むわよ〜〜」
缶、流行りましたね。集めているミサトさん、シンジ君にとっては宝の山なんでしょうが、アスカちゃんにとってはただの空き缶、ゴミですね。
貯金を全て使ったミサトさん、空き缶じゃなく中身を集めていた気がするが(^^)
こんな連載小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
EVA CHANGING Vol.24 困った二人