EVA CHANGING
Vol.29
僕はいらない子供なんだ
リツコが去ってから数十秒は呆然とその場に立ち尽くした三人であったが、特売の使命?に燃えるアスカはいち早く立ち直り買物を続ける。
「うわ〜〜これも安いわ、買い溜めね」
普段少ししか使わない品物でもこの時ばかりと買い物篭に入れていく、シンジとミサトは嬉しそうに品物を選ぶアスカに『そんなに使わないのに』と思いながら見ていた。
「ぜえぜえ・・・」
「ミサトさん大丈夫ですか?」
「な、何とかね・・・」
店内を楽しく所狭しと周るアスカ、しかしついて周る二人は目的が無いので面白くない。ミサトは夢でビ〜ルをたらふく飲んでいたところをたたき起こされたので疲れが足にきていた。
「はあはあ、アスカいつまで周るつもりかしら?」
「さあ〜?まだまだ終わりそうにないですね」
「うう〜キツイ〜〜」
「二人とも早く早く〜〜」
足を引きずりながら歩く二人、当然遅れてくる。アスカが10メ〜トル先で商品を腕いっぱいに持っており、早く来るようにせかす。
「「はあ〜〜〜」」
シンジとミサトは互いに顔を見合わせ肩を落とし溜息をついた。
「これでおしまいっ!」
レジ近くの商品を籠に入れて満足して頷く。
「「やっと終わった〜〜〜」」
アスカの言葉に力が抜けその場に座りこむ二人、これから買物があってもテコも動かないだろう。
「そんなところに座っちゃみっともないですよ、レジまで運んでください〜」
「んなこと言ったってキツイんだもん〜」
「もう一歩も動けないよ」
「もう、だらしないんだから」
頬を膨らますミサトと愚痴をこぼすシンジ、できの悪い娘と息子を持った感覚が生まれ呆れるアスカであった。
「しょうがないですね、手伝ってくれたから自分が欲しいものを一つ持ってきていいですよ」
母親が子供に良く使う手段、手伝ったらおやつみたいなものである。しかしミサトは(ピ〜〜放送事項)歳、立派な大人であるそんな手に引っかかるだろうか。
「「ホント!?」」
二人はすぐさま立ちあがり目を輝かせながら問いただした、アスカの手段は成功したのである。
「え、ええ、でも一つだけですよ」
「よっしゃあ!シンちゃん行くわよ」
「はい!」
二人の先ほどまでの疲れようはどうだったのであろうかと思うくらい元気である。猛ダッシュで欲しいものを取りに行った。
「まったく子供なんだから、ふふ」
走り去って行く二人を優しい瞳で見つめながら苦笑した、もはや母親の気分だ。
「アスカ〜〜これね〜〜」
数分後ミサトが戻ってきた手に持っているのはビ〜ル、350mlの24缶入り一箱である。
「ビ〜ルですか、まだあるじゃないですか」
家にはまだ10箱は冷蔵庫の横に積んである、だがそれも一週間もしないうちに無くなるだろう。
「まだってもう無いのよ〜〜ねっ良いでしょ?」
「でも〜〜」
「お願い〜〜」
渋るアスカ、ミサトは手を合わせて懇願した。この一箱が買えればその日はハッピ〜である。
「分りました、でも飲みすぎはダメですよ」
「さっすがアスカ!大好きよん〜」
「う、うっぷ〜ミサトさん、やめてください〜〜」
ミサトはパア〜と表情が明るくなるとアスカを抱きしめ顔を自分の胸に埋めた。
「アスカ〜〜これ〜〜」
ミサトの数分後シンジが戻ってきた手に持っているのはプラモデル、ファ〜ストガンダム、内部構造まで再現されておりギミックが充実したパ〜フェクトモデル定価一万円、ディスカウント価格8800円である。
「プラモなの?」
「うん、前から欲しかったんだ」
大事そうに抱えるシンジ、パ〜フェクトモデルだけあって箱が大きい。アスカは箱の隅の小さなタグに気がついた。
「シンジ君、これって8800円もするの?」
「うん、でもこれで安くなっているんだ。定価は一万円なんだよ」
「一万円!?」
驚いた、プラモデルの相場価格を知らなくてもそれは高いと誰でも感じる。
「うひょ〜〜シンちゃん作れるの〜?」
「作れますよ、ミサトさんこそまたビ〜ルですか」
「良いのよ、私のガソリンなんだから」
ミサトとシンジすでに手に入れたとウキウキ状態、だが・・・
「ダメです、一万円は高すぎます。他の物にしてください」
「ええっ!?一万円じゃないよ8800円だよ」
「一万円も8800円も同じです、別なのにしてください」
「そ、そんなあ〜〜」
アスカの言葉に全身の力が抜けたようにスロ〜モ〜ションで崩れ落ちるシンジ、すでに真っ白である。
「それは返してきて他のを選びましょうね」
「・・・・・・そ、そんな〜〜」
「シンちゃん残念ね」
アスカはプラモデルを右脇に抱え、その場で真っ白から灰になっているシンジの手を引きながらプラモデル売り場に向かった。
(おっ!アスカ、さりげないわね〜)
二人が手を繋いでいるのを見逃さないミサト、ニヤニヤしながらついていった。
「これはここに戻して、どれが良いかしら〜〜?」
「ガンダム〜〜〜・・・」
棚に色々な種類のプラモデルが積んである、アスカは唇に人差し指を当て見まわす。どういった基準で選んでいるのだろうか?一方シンジはその場に立ち尽くし棚に戻されたガンダムを目に涙を為ながら、引き裂かれた恋人のように見つめていた。
「あっ!これが良いわ」
一番隅の一番下で良いものを見つけたようだ。
「はい、シンジ君」
「これ・・・・」
ニッコリ微笑んで手渡すアスカ、だがシンジは表情が暗くなった。
「同じガンダムでしょ」
「でもこれは・・・」
「わおっ!懐かしいわね〜〜」
アスカが選んだガンダムにミサトは懐かしの声をあげた。
「同じガンダムでも最初に出たものじゃないか〜〜」
シンジは叫んだ、そう70年代に発売されたファ〜ストガンダム定価300円である。
「あっちは一万円こっちは300円、断然こっちの方がお買い得、シンジ君買物は上手にしないとすぐにお小遣いが無くなっちゃうわよ、はい買い物篭に入れてっと」
「アスカ、それは違うんじゃ・・・」
当然のように話すアスカにミサトは首を傾げた。
「それじゃあレジに来ましょうか、シンジ君?どうしたの」
「僕は僕は・・・僕は・・・・」
俯いてブツブツ呟き始めたシンジ、表情が髪の毛で隠れて読み取れない。
「僕はいらない子供なんだ〜〜!!」
絶叫、泣きながらその場から走り出す。
「シンちゃん!」
慌てるミサト、だがアスカは・・・
「シンジ君〜〜〜先に帰ったらダメ〜〜三人でレジを通らないと特売品が買えないでしょ」
ズコッ!
シンジはこけた。
「う、ううう、僕は僕は・・・・」
「さあ行きましょう」
ニッコリ微笑みシンジの手を取りレジに向かうアスカ。
(う〜〜ん、アスカって天然なのかしら?シンちゃん別の意味で不幸ね)
ミサトは二人を後ろで見ながら二人の接近はあるのだろうかと姉として心配?していた。
「僕のガンダムが〜〜〜・・・・」
「シンちゃん泣かないの、男の子でしょ」
「でも、欲しい物を持ってきて良いって言ったのに」
「そうね〜〜でも値段が高すぎたわよ、せめてマスタ〜グレ〜ドぐらいにしておいたら良かったんだじゃいの?」
「それも考えたんですけど、作るには物足りなくって・・・」
「まあね〜〜、それにしても一気にグレ〜ドが落ちたわね、一万円から300円って落ち込むのも分るわ」
「アスカ全然分っていないんですよ、パ〜フェクトモデルがどれだけ素晴らしいものかってのを」
「そりゃあ素晴らしいけどね、アスカ女の子だし、家計を握っているしね。自分のお小遣いで買うしかないわよ」
「う、うう〜痛い出費です」
「まあそれはそれで、300円のガンダムでも良いじゃない、細工されていないから腕の見せ所よ」
「そうですね、分りました最高のガンダムを作ります」
「そうよ!その意気!接着剤を使ってこそプラモデルよ」
シンジ君、モデラーだったのか(笑)ガンダムプラモが発売されてから二十年、技術が上がり最近の精巧さは凄いですね。
せっかく手に入ると思ったのにアスカちゃんの『ダメ!』でファ〜ストのファ〜ストガンダムになっちゃいました。
最近のプラモは接着剤を使用しないので作る気があまりしませんが初代はバッチリと使用していますのでシンジ君は作り甲斐があるでしょうね。
こんな連載小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
Vol.28 リツコお母さん Vol.30 HEAVEN'S DRIVE
EVA CHANGING Vol.29 僕はいらない子供なんだ