EVA CHANGING

Vol.37

碇シンジの苦悩

 アスカとヒカリが学校に到着する五分前、シンジは全速力で通学路を走っていた。

 ダッダッダッダッ!

「はあはあ」

 額から汗を流し息を切らして走る走る走る、だが遅刻は免れないだろう。

(アスカ・・・・・)

 走りながら思い浮かべるのは今朝、涙を流したアスカの姿、思うだけで胸が痛くなる。

(アスカの気持ちを考えないなんて・・・・)

 シンジは走った、早く学校に行ってアスカに謝りたい。

(でも許してくれるかな・・・・・)

 しかし謝っても許してくれるとは思ってはいなかった。

(このまま嫌われたら・・・・)

 心の奥底に決心があった。

(・・・・家を出よう)

 嫌われたまま同居していてはギクシャク感が取れずに生活に支障をきたす、それならと家を出て一人で暮らして行こうと思った。

(・・・・パイロットもやめよう)

 家を出ても二人はエヴァパイロット、ネルフで必ず会ってしまう。未知の生命体使徒に勝つ為には協力し合う事が必要、しかしそれはできないだろう。

(路頭に迷う僕・・・・お似合いかな)

 すでに頭の中は深夜の街を宛ても無くさ迷う自分の姿が出来上がっており、その姿にちょっと酔っていた。

(許してもらえなくても謝ろう、謝らないと一生後悔する)

 シンジは走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とことことことこ

(眠いの)

 シンジが遅刻に慌て全速力で学校に向かっている時、他の通学路ではレイが寝ぼけ眼、後ろ髪が寝癖でピンと跳ねており、まだ脳が半分寝ているのであろうフラフラしながら通学していた。

(お日様・・・・眩しい、朝なのね、もう・・・・ふぁあ〜〜)

 口に手を当てあくび、フラフラと歩いていては遅刻が決定してしまうが気にしていない。

(遅刻しても関係無いもの)

 普通の中学生なら遅刻したら言い訳を考えるが、レイはエヴァパイロットの中学生、遅刻した理由は『ネルフ』で片付けられる。

(帰って二度寝・・・・・至高の喜び)

 頭の中には自室のベッドが浮びあがり自分が寝ている姿、タ〜ンし道を戻ろうとした時・・・

 ニャ〜〜〜ン

 レイの携帯が鳴った、しかもこの猫の着信音はあの人物しか居ない、恐る恐る携帯を取りだし耳に当てた。

「・・・もしもし」

「レイ〜〜」

「・・・お母さん」

「誰がお母さんよ、お姉さんでしょ」

 リツコである、『お姉さん』の言葉だけが大きい、その五月蝿さに一瞬携帯を耳から離した。

「な、何か用ですか?」

「今、帰って寝ようと思ったでしょう」

「お、お、思っていません」

 レイは背中に冷たいものを感じた、リツコがどこからか見ているのではないかと思い周囲を見渡した。

「そう?その割には声がうわずっているわよ」

「て、低血圧だから」

「まあいいわ、ちゃんと学校に行くのよ。行かなかったら改造するから」

「は、はいっ」

 言いたい事だけを言って携帯が切れた、ツ〜ツ〜ツ〜と虚しく鳴り続ける受話音を聞き続けリツコの恐ろしさを実感する。

(しょうがないわ、行きましょう)

 再び学校に向かって歩き出すが先ほどより足取りが重い。

 とことことことこ

(ふう〜、もうすぐ十字路なのね)

 以前シンジとぶつかった事を思い出した。

(またぶつかりたい、でも碇クンはすでに学校・・・・)

 溜息をつき十字路に差掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダッダッダッダ

(よしもうすぐだ)

 汗ビッショリになりずっと走りつづけているシンジ、十字路を越せば学校まであと少し。

(綾波、学校に着いているんだろうな)

 ここを走ると以前にレイとぶつかった事を思い出す。

 

 

 

 とことことことこ

 ダッダッダッダ

 とことことことこ

 ダッダッダッダ

 とことこ、ダッダッダ

 ダッダッダ、とことこ

 シンジとレイ、十字路に突入。

「「あっ!!」」

 突入した瞬間、二人の目が合った。

(うわっ危ないっ!)

 シンジは止まろうとするが、速度がついており止まれるものではない。体をねじり右に避ける。

(碇クン、きてっ!)

 レイはその場に立ち尽くし、目をつぶりシンジがぶつかるのを待った。

 

 

「うわっ!」

 シンジは体をねじり右に避けた時、バランスを崩し転んだ。

(碇クン・・・・ぽっ)

 レイはまだ目をつぶっている。

「イタタタタ、綾波大丈夫?」

 地面にぶつけた膝をさすりレイが大丈夫か声を掛けた。

(まだなの碇クン?)

 レイはまだ目をつぶっていた。

「綾波?」

(ぶつかったら、碇クンが私を介抱してくれるの・・・ぽっ)

 トリップしている。

「綾波どうしたの」

(そう・・・碇クンの声が・・・声が?)

 レイは目を開けた、すると横にシンジがしゃがんで膝をさすっている姿が見えた。

(ぶつかってくれないのね・・・しくしく、しくしく)

「ど、どこか怪我したの?」

 レイの涙に焦るシンジ、怪我をさせては申し訳ない。

「ううん、怪我は無いの」

「じゃあどうして泣くの?」

「・・・・涙・・・私泣いているの?」

 頬に流れる涙を指で静かに触ると泣いている事を実感する。

「う、うん泣いているよ」

「そう、それは多分怪我が無いから泣いたの?」

「?」

 言葉の意味がわからない。

「怪我が無くて良かったよ、学校に急ごう」

「急がなくても平気」

 レイは腕時計を見た、すでに時間は1時間目に突入している。

「わあっ、もう授業が始まっている」

「そう、だから平気なの」

「へ、平気ってもう遅刻だけど早く行かないと」

 遅刻したらすでにその授業を諦めて次の授業に着くようにユックリ登校する者と、始まっている授業を受ける為に走る者の2通りの生徒がいる、今のシンジは後者であるが別な理由で急ぎたい。

「なぜ急ぐの?」

 レイにしてみれば急ぐ必要があるのか疑問である。

「そ、それは・・・・」

 シンジは拳をギュっと握り昨日と今朝の事を話した。

 

 

 

 

 

 

 

「そう・・・・・」

「だから早く行ってアスカに謝りたいんだ」

「アスカはそれで許してくれるの?」

 シンジから聞いた話でアスカが許してくれるか疑問に思った。

「謝って許してもらえるとは思わないけど、1秒でも早く謝りたいんだ」

「そう・・・・」

「だから行こう」

「・・・・うん」

 シンジの真剣な眼差しに頷くレイ、半分眠っていた脳もようやく起き走っていくのであった。


「碇クンが謝る・・・・もし許してもらえなかったら家を出て行く、パイロットを辞める・・・」

「碇クン・・・家を出て行く・・・行く所はあるの?・・・多分ないわ」

「碇クン・・・行く所がない・・・私はお家がある、一人住まい」

「碇クン・・・大丈夫、私のお家に来て・・・ぽっ」

「碇クン・・・パイロットを辞める・・・ネルフをやめる、他に働く所はあるの?・・・多分ないわ」

「碇クン・・・働く所がない・・・私はパイロット、働いている」

「碇クン・・・大丈夫、私が面倒見てあげる・・・ぽっ」

 学校に急ぐシンジ君、急げ〜〜〜謝って許してもらうんだ! 

 そしてお約束の十字路、ぶつかると思いきや、残念ながらレイちゃんの思惑通りにいきませんでした(笑)

 こんな連載小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


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