雪2」の続きです

エヴァンゲリオン学園外伝

アスカちゃん、風邪を引く(前編)

 ♪〜〜〜♪♪〜〜

 太陽が眩しく光る朝、いつものようにアスカのお気に入りの目覚し時計が鳴り響いた。

「・・・う・・・う〜〜〜ん・・・」

 カチッ!

 頭は布団に潜っていても手は正確に目覚し時計のスイッチを切りアスカの一日が始まる。

「・・・」

 上半身だけ布団から起きると焦点が合っていない目でぼんやりと壁を見つめ動こうとはしない。

「・・・起きなきゃ」

 ゆっくりと布団から抜け出るとパジャマの上からセーターを羽織り部屋を出て行く。

「今日も冷えるわ・・・くしゅんっ!」

 昨日雪が降り冷え込みが続いている、体を振るわせながらクシャミが家中に鳴り響いた。

「ママおはよう」

 台所ではキョウコが朝食を作っている、ご飯に味噌汁、焼き魚と日本的な食事。

「おはよう、あら?顔が赤いわよ」

「え?」

 キョウコはアスカのいつものとは顔の色の違いに気がついた。いつもより格段に顔が赤い。

「熱があるんじゃないの?」

 調理の手を休めるとアスカの額に手をやった。

「つめたい」

 キョウコの手は冷たかったがアスカにはその冷たさが心地よかった。

「ちょっと熱いわね、計ってみなさい」

「うん」

 救急箱から体温計を出すと耳に当てた、1秒で計れる優れものである。

「まあ38度あるじゃない、今日は休みなさい」

「えっでも・・・」

 アスカは一瞬躊躇った、それは学校を休みたくないという訳ではない。

「残念だけどシンジ君を起こしに行くのは諦めなさい」

「・・・」

 躊躇った理由は毎日の日課であるシンジを起こしに行く事、学校を休むのなら起こしに行けないのである。

「シンちゃんを起こしに行くくらいなら良いでしょ?」

「ダメよ、シンジ君に風邪が移ったらどうするの?ママが連絡しておくから暖かくして寝なさい」

「・・・うん」

 シンジに風邪を移してはどうにもならない、アスカは俯き悲しくなりながら部屋に戻った。

「・・・シンちゃん、起きられるかな?」

 

 

「あらそうなの〜〜アスカちゃんがね〜〜」

「ええ、そういうわけだからシンジ君を起こせないのよ、ごめんなさいね」

 碇家の玄関、ユイとキョウコが話しをしていた。キョウコは先ほどアスカが部屋に戻ったのを確認してから連絡をする為に碇家に来ていた。

「昨日はしゃぎすぎたと思うのよ」

「アスカちゃん、張り切っていたものね」

 昨日シンジとアスカは早朝、雪だるまを作って遊んでいた。そして昼も夜遅くまで遊んでいたのである。

「シンジ君はまだ寝ているのかしら?」

「ええ、いつものとおりよ。アスカちゃんが起こしに来るまで寝ているつもりなのよ、本当に困ったものだわ」

「今日はかわりに私が起こしてあげようかしら?」

「キョウコが?ふふ、シンジビックリするわ」

 主婦二人の企み、だが一人の男によってそれは阻まれる。

「問題無い、シンジは私が起こそう」

「あら、アナタ」

「ゲンドウさん、起きていたの。相変わらずサングラスが似合わないわね」

 台所で新聞を読んでいたゲンドウだったが主婦二人の会話が耳に届きやって来たわけである。

「ぐっ・・・キョウコ君はハッキリいうなあ」

 自分では似合っていると思っているサングラスを否定されて表情は変えないが落ちこむゲンドウ、そして・・・

「ええ、それとちゃんちゃんこも似合わないわよ、ゲンドウさんはモモヒキが似合うと思うわ」

 追い討ち。

「そ、そうか・・・」

 強烈は言葉が胸を貫いた。

「ほらアナタ、キョウコも似合わないって行っているでしょう、やっぱりモモヒキがいいわ」

「しかし、アスカ君は似合うと言ってくれたぞ」

「ふふ、それはお世辞ですよ。誰が見たってアナタのその姿は似合いませんよ」

「・・・ふ・・・も、問題無い」

 ユイにも言われ奈落の底に落とされる。

「シンジも言っていたんですから、サングラスをしたってカッコ良くないって」

「ぐっ・・・シンジもか」

 ユイ、キョウコに言われたら落ちこむがシンジに言われたら怒りの炎が燃えあがる。

「シンジを起こしてくるとしよう」

 サングラスを光らせゆっくりとシンジの部屋に向かった。

 

 

 ZZZZZZ〜〜〜

 シンジは寝ていた、昨日遊び疲れてまだ夢の中である。

 

「シンちゃん、ほら〜帽子似合うかしら?」

「うん、似合うよ」

「シンちゃん、この洋服似合う〜〜?」

「うん、似合うよ」

「シンちゃん、スカート可愛いでしょ?」

「うん、可愛いよ」

「シンちゃん、この眼鏡良いでしょ?」

「うん、僕も欲しいなあ」

「シンちゃん、この髭似合うでしょ」

「うん、似合うぅ?!!・・・」

「ふふふ、ジョリジョリしてあげる」

「ええっ?!」

 

 

「う・・・うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 シンジの絶叫が家中に響いた、甲高い叫び声は窓ガラスにヒビが入る位強烈である。

「起きると同時に絶叫とは五月蝿いやつめ」

「アスカが〜〜〜アスカが〜〜〜!!!」

「アスカ君がどうした?アスカ君はここには居ないぞ」

「えっ?あれ?どうして父さんがここに?」

 回りを見まわしたシンジ、アスカの姿は無く、ゲンドウが目の前に仁王立ちで立っていた。

「起こしに来てやったぞ、これで遅刻しないですんだな、ありがたく思え」

「そうじゃなくてアスカが起こしに来るんじゃなかったの?」

「アスカ君は風邪を引いたそうだ、馬鹿は風邪を引かんと言うが本当らしいな、ふっ」

 サングラスをクイッと上げニヤリと口元を歪め部屋を出ていった。

「なんだよ〜それ〜・・・アスカ風邪を引いたのか、昨日遊びすぎたかな」

 頬に残る髭スリの跡を手で撫でながら壁を見つめた。その先にはアスカの部屋がある。

「アスカの髭じゃなくって、父さんの髭ジョリだったのか・・・お〜〜〜ブルブル」

 夢を思いだし身震い、背中にはビッショリと汗をかいておりTシャツが肌にくっついていた。

 

 

「母さんおはよう」

「おはよう、朝から発声練習なの?元気良いわね」

「違うよ、父さんの起こし方が変なんだよ」

 席につき目玉焼きを頬張るシンジ、時間はまだ早いがいつもの癖で早く食べてしまう。

「変とはなんだ、父の愛情が分からんとは呆れた奴だな」

「愛情って発狂するところだったよ」

「ふっ、軟弱者が修行がたりんな」

「修行って・・・」

 呆れて何も言えないシンジであった。

 

 

「今日はアスカはいないのか」

 朝食を食べ終え、学校に行く準備を始める。

「行ってきます」

 玄関をでるとすぐ隣は惣流家、ドアノブに手をかけ回そうと力を入れるが回さずに手を離した。

「今行ったら迷惑かな?帰りに来よう」

 アスカの寝ている姿が目に浮ぶ、そしてダッシュで学校に向かった。

 

 

「碇君おはよう、アスカは?一緒じゃないの?」

 学校に着いたシンジ、教室に向かう途中、背中からヒカリの声がかかった。

「おはよう、アスカは風邪を引いたんだよ」

「風邪?そう寒いからね、アスカ大丈夫かしら?」

 委員長として友人として心配するヒカリ、クラスの母的存在である。

「うん、わからないけど帰りに見舞いに行ってみるよ」

「そうね、アスカ喜ぶと思うわよ」

「うん」

 ニッコリ微笑むヒカリにシンジは思わず嬉しくなった。

 

 

「んじゃ、休みの人いる〜〜?」

 朝のホームルーム、担任のミサトはいい加減な出席の取り方で事を済ませていく。

「アスカが風邪で休みです」

 シンジは手を上げミサトに報告する、惣流家からは学校に連絡は行ってはいない、シンジが任されているのである。

「あらアスカは風邪なの〜みんなも気をつけるのよ。じゃあシンちゃんは早退ね」

「なんで早退なんですか?」

「わかるでしょ〜〜〜、アスカの風邪薬は当然シンちゃん、帰って良いわよ出席扱いにするから。アスカ今ごろシンちゃん〜〜シンちゃん〜〜って言っているわよ」

「ミ、ミサト先生!」

 ミサトのからかいにどっと教室に笑いの渦が起こるがシンジだけが顔が真っ赤である。

「ミサト先生!早く授業を始めてください」

 ヒカリの一喝により教室内が静まり返る。

「え〜〜〜?もう始めちゃうの?」

 とても教師の言葉とは思えない、ミサトは口をとんがらせる。

「ふざけていると怒りますよ」

 ヒカリの回りにゴゴゴと擬音が立ちこめる雰囲気である。

「わ、わかったわよ〜もう、ヒカリちゃんのいけずう〜〜、シンちゃんも帰りたくなったらすぐに言ってちょうだいねん♪」

「「はあ〜〜〜・・・」」

 ミサトの教師としての自覚の無さにシンジとヒカリは溜息をついた。

 

 

 その頃アスカは・・・

「学校始まっちゃった・・・シンちゃん遅刻しなかったかな?」

 布団の中で横になっているがシンジの事が気になって眠れない。

「アスカ〜、雑炊作ったけど食べれるかしら?」

「うん、大丈夫」

 キョウコが熱々の雑炊を持ってきた、玉子が入っており栄養万点である。

「シンジ君が気になるんでしょ?」

「ど、どうして?」

「だってさっきシンジ君の悲鳴が聞こえたでしょ?ママもビックリしちゃったわ」

「う、うん・・・あれっておじさまが起こしたんでしょ?」

 シンジの悲鳴はアスカの耳元にも聞こえた、何事かと行こうとしたが体がふらついて行けなく心配していたのである。

「ええ、ゲンドウさんは相変わらずお茶目だわ」

「お茶目ねえ・・・」

 アスカには本気にやっているように見えるので言葉が出なかった。

「食べたら薬を飲んで一眠りしなさい、そうしないと熱が下がらないわよ」

「うん」 

 ゆっくりとら雑炊を口に運び窓から外を見つめる、その方向には学校がある。

「くしゅんっ・・・シンちゃん居眠りしていないかな?」

 自分の風邪よりシンジの事を心配するアスカであった。


 寒い時は風邪ネタですね(笑)

 雪シリーズの続き物でアスカちゃんはしゃぎすぎて風邪を引いてしまいました。

 ゲンドウの起こし方は定番の髭ジョリですね。夢の中で見たアスカちゃんの髭とは一体?

 こんな小説でも飽きずに読んでくれた方々に感謝します。


後編

エヴァンゲリオン学園外伝 アスカちゃん、風邪を引く(前編)