エヴァンゲリオン学園外伝
碇家、混乱2
シンちゃん、張り切っていたけど・・・・
アスカが学校に行った後の碇家リビング、男二人が向かい合って座っていた。
「シンジ」
「何?父さん」
「何度も言うようだが、私は重要な会議で出かけなければならない。本来なら私が看病するところだが、残念ながらできない。シンジ、母さんをお前に任せる」
「わかったよ。母さんを任せて」
「ふっ一人前の口を言いおって、何時の間にか成長したな」
「そ、そんな事ないよ。それで・・お、お願いがあるんだ」
「何だ?」
「じ、実は今月小遣いがピンチで・・・」
「そうか、ならとっておけ、臨時だ」
「ありがとう」
「ふっ母さんを頼むぞ」
「うん!」
こうして男の会議は終わり、シンジはゲンドウを送り出した。
「さあてっと」
シンジはまず襖を静かに叩いた。
「母さん」
ユイの状態を確認する為に襖を開けた。ユイは安らかに眠っている。シンジは起こすまいと静かに襖をしめた。
「これから、どうするか」
リビングに立ち辺りを見まわす。そしてゲンドウの言葉を思い出した。
「掃除に洗濯か」
窓から外を見ると日光がふりそそいで、まぶしい。雲一つない快晴である。
「よし!布団を干そう」
自分の部屋に戻り、ベットから布団を持ち出しベランダに直行。まぶしい太陽の下パンパンと広げ干していく。ゲンドウ達の布団も干したかったが、ユイが寝ているのでそれはできない。マンションから家々を見ると、考えることが同じで布団が干してあった。
「ふう〜」
普段しない事をしたせいか額にはうっすらと汗、干し終わると腕で汗を拭きリビングに戻った。
「次は・・・・」
その頃学校では。
「アスカおはよう」
「おはようヒカリ」
1年の時も委員長をしていたヒカリ、当然登校は早い。いつもと同じ朝だが普段と違う事に気がついた。
「あれ?碇君は」
そう、いつもならクラス公認の夫婦が一緒ではない。
「ホンマや、センセはどうしたんや?まさか!」
「これは危機だね」
たあいもない事を喋っていたトウジとケンスケが浮かんだのは。
「「夫婦喧嘩!」」
見事なユニゾンにクラスメイトはうなずいた。過去にもこんな事があったからだ。
「まあケンカするほど、仲エエっていうし何があったんや?」
「まったくシンジは女心ってものをわかっていないね」
「アスカ、何があったの?私でよければ相談にのるわ」
勝手に決め付けられ、クラス中から喧嘩の内容を質問されまくった。
「違うって!」
アスカは真っ赤な顔をして叫んだ。
(ふ、夫婦じゃ・・・ないもん)
「風邪なの!」
「「「風邪〜〜?」」」
「そう風邪だから今日は休むって」
風邪と聞いたクラスメートは「な〜んだ、夫婦喧嘩じゃないのか」と残念なりながら、友人達としゃべり始めた。
「風邪とはセンセも軟弱やの。ワシなんか引いた事ないで」
「そりゃあトウジは・・・だからな。最近寒くなってきたから、シンジは一応マトモだったのか」
「アスカ、私は信じていたわよ。喧嘩じゃないって事を」
「そ・・そう」
アスカはこめかみがピクピク震えながら、引きつった笑いを浮かべていた。
そしてお喋りをしていると時間は早く過ぎてしまう。チャイムが鳴り、教室に先生が入ってくる。
「おっはよ〜〜ん」
縁があるのかミサトが担任、相変わらずのほほんとしている。ヒカリが号令をかけ、出席をとる。
「出席をとります。休んでる人は手を上げて♪」
休んでる人物が手を上げるわけがない。しかし今日は手が上がった。
「はい」
「あらアスカ、ええとアスカが休みね」
出席簿に印をつけるミサト、皆は「違う!」と突っ込みたかった。
「違います。シンジ君が休みなんです」
「シンジ君?ええとシンちゃんは」
アスカの訂正にシンジの席を見てみる。確かにいない。
「あらいないわ。アスカ、シンちゃんはどうしたの?」
出席簿に欠席の印をつけながら尋ねる。
「風邪です」
「風邪ね、アスカ早退していいわよん」
「え?どうしてですか」
疑問に思うアスカ、ミサトはニヤリと笑う。
「愛するシンちゃんが風邪をひいているのよ。今ごろ布団の上で意識が朦朧としながら呟いてるはずよ。『アスカ〜アスカ〜』って出席扱いにするから早く行ってあげなさい」
シンジの声真似でドッと笑いの渦になるクラス、アスカはからかいに真っ赤になった。
「ミサト先生!」
「ふふふふ、ごめんなさいね。シンちゃんの容態はどうなの?」
質問にドキっとした。容態も何もシンジは風邪をひいていない。
「あ、その月曜は来れると思います・・・」
「ふ〜ん、今日一日の辛抱ね。まあ土曜日だし早く帰れるからそれまで我慢してね。ダメだったら早退していいから」
ミサトはケラケラ笑いながらクラスを後にした。アスカはからかいにため息をつき、シンジの事を考えた。
(風邪で休む。ウソは言っていないわね。シンちゃん大丈夫かな・・・・)
窓から空を見つめ思いにふけっていた。
「掃除だ」
布団を干し終えたシンジは次はモップを手に取り掃除を始めた。掃除機ですればよいのだが、ユイが寝ているので大きい音をだせない。シンジの優しさというところだろうか。
だがここで大きな過ちをおかした。洗濯を午前中に洗濯をすれば太陽が最も高い位置にあるときに干せる。主婦なら洗濯中に掃除、掃除が終わった頃に洗濯が終わって干すと、ベストな事ができるのだがシンジにできるはずがない。
「フンフンフンフン〜〜」
鼻歌を唄いながら片手でモップをかける。時々自分の部屋をしているので問題はなかった。
リビング、自室、台所、廊下と丁寧にかけていく。
「よし完璧!」
腕組みをして辺りを見まわし、できの良さにウンウンとうなずき満足した。
「さてと次は・・・・」
「ふう〜」
授業中、アスカは勉強が手につかなかった。
(大丈夫かな・・・・)
考える事はもちろんシンジ。
「アスカ!」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれ驚く、授業で名前で呼ぶのはミサトしかいない。今はミサトの授業である。
「この問題を答えて」
「あ、え、その・・・」
問題を聞いていなかったので答えられるわけがない。普通の教師なら聞いていなかったので怒るところだが、ミサトは違った。ニヤリと口を歪める。その表情がアスカをゾッとさせた。
「ア〜ス〜カ〜、今シンちゃんの事を考えていたでしょう」
「ち、違います!ボ〜としていただけです」
「顔にシンちゃんって書いてあるわよ」
「えっ?」
おもわず頬に手を持っていき擦って手のひらを見る。
「やっぱりね」
「はっ!ミ、ミサト先生」
「いいのよ。あと一時間で終わるからもう少し我慢してね。今帰ってもいいわよん」
そこでドッと笑いがクラスを包む。アスカだけはうつむいて真っ赤っ赤。
(もっもう)
ミサトの言葉通り、今は三時間目、土曜なので四時間で終わる。
「洗濯!」
洗面所に備え付けられた全自動洗濯機、横には洗濯籠が置いてあり中にはたくさんの洗濯物。
「洗濯物を入れてっと」
洗濯物を一枚一枚ではなく、ドバドバっと洗濯機に流し込んだ。そしてスイッチをON。
「うんうん。全自動は楽だな。洗剤の量?う〜ん、たくさんあるからピッピッピッピッピッピっと」
洗剤スイッチを連射するとドバドバっと大量に洗剤が流れ込んだ。
「これは?スクリュ〜の強さ。たくさんあるから最強」
スイッチを押し、満足にまわる洗濯機を眺めリビングに戻った。
「家事って案外楽勝だな。これで臨時の小遣いが貰えて良かった」
「さあ今日はこれでおしまい!存分に休んで月曜にまた会いましょうね」
授業が終わり帰りのHR、ミサトはここでもニヤリと口を歪めた。
「アスカ〜、待ちに待った終わりよ。さあダッシュで帰るのよ」
(どうして私がでてくるんですか)
俯いて真っ赤になっているアスカ、ミサトに言ってもどうしようもないので言わない。
ヒカリの号令で本日は終了。アスカは素早く席を立ちあがり教室を出ていった。
「なんやかんや言っても、シンジの事が心配なんやな」
「お似合い夫婦だよ」
二人の言葉にクラスはうなずいていた。
タッタッタッタ
足が速いアスカは瞬く間に校門を後にした。
(シンちゃん大丈夫かな?)
「なっなんだこれ?」
洗面所の前でシンジは呆然としていた。辺りは泡だらけ、発生源は洗濯機。
「こ、これは使徒・・・・って何言っているんだ僕は、昨日遅くまでEVAを見ていたからな。現時刻をもって洗濯機を破棄、第拾八使徒とする」
シンジは混乱していた。
タッタッタッタ
額に汗をかきながらも、息を切らしていない。この調子だと後五分で着く。
(イヤな予感が)
「考えろ考えるんだシンジ、この状況を抜け出すには・・・・逃げよう、いや逃げちゃダメだ。ああっまたEVAの影響が!」
頭を抱えて唸っていた。
タッタッタッタ
曲がり角をまがり後は直線200m。
(もうすぐね、ダッシュ)
「冬月先生後は頼みます。MAGIの審議は」
完全にトリップしていた。
「シンちゃん?」
「え?」
振り向いた先には激しく呼吸をしていたアスカが立っていた。今到着したのである。
「ア、アスカ〜」
「シンちゃん、これは?」
洗面所の凄まじさに驚いた。
「使徒が使徒が迫ってくるんだ」
「何言っているの、泡でしょ。もう後片付けしないと」
アスカはテキパキと行動をして、凄まじかった洗面所を綺麗にし始めた。
「シンちゃん、邪魔!」
「あっ、うん」
呆然と立っているシンジは邪魔である。
「もう、テレビでも見ていて。洗濯はするから」
「う、うん」
追いやられたシンジ、仕方なくテレビをつける。
「ふう〜後は干すだけね」
洗濯が終わったようで、洗濯籠も持ってベランダへ。
パンパン!
広げて丁寧に干していく。シンジはその姿はボ〜と見ていた。
(・・・・・・)
「何?」
その視線にアスカは気づく。
「なんでもないよ」
「そう」
干すのが終わるまでずっと見つづけていた。
「おしまいっと、シンちゃんお昼は食べたの?」
「まだだけど」
「なら作るね」
「うんお願い」
パタパタと走って台所へ、シンジはテレビに向かった。
ジュ〜ジュ〜
台所から良い匂いが立ち上る。シンジは調理をしているアスカの後姿を見ていた。
(アスカって・・・・・家事がホントに好きなんだ・・・)
「シンちゃん、できたよ」
「うん」
作ったのはチャーハンとスープ。
「「いただきます」」
「どう?」
「美味しいよ。また腕を上げたね」
「ありがとう」
シンジの褒め言葉に満足のアスカ。楽しい食事は続いた。
「あら?アスカちゃんが作ってくれたの」
そこに上着を羽織ったユイが起きてきた。
「おば様」
「母さん、大丈夫なの」
「もう大丈夫よ、寝たら治ちゃった」
微笑んで安心させるユイ、二人はホッした。
「美味しそうね。私も頂こうかしら」
「あ、はい」
アスカはフライパンからチャーハンをつぎユイの前に置いた。
「いただきます」
スプーンがユイの口へ運ばれ、その様子をアスカは息を飲んでみたいた。
「うん、美味しいわアスカちゃん。完璧よ」
そこでアスカの顔がパア〜と明るくなった。
「そんな、まだまだです」
「上出来よ。それに洗濯もしてくれたのね」
「え?どうして」
「だってシンジができるはずがないじゃない」
「ふふ、そうですね」
シンジを残して二人は笑った。
(何だよ。僕だって掃除をしたんだよ)
「これなら何時でも風邪をひいても大丈夫ね。アスカちゃんがいるからね」
「もう!おば様」
「ふふふ」
その後ユイの風邪も治り、ゲンドウも遅かったのでキョウコをいれて四人で夕食をとったのであった。
話す内容は、当然シンジとアスカの事、二人は真っ赤になっていた。
次の日の朝。
「シンジ、起きろ」
「う、う〜ん何?父さん」
珍しくゲンドウが起こしに来た。そして何も言わずに右手を差し出した。
「?」
シンジは訳が判らずに握り返した。
「誰が握手をしろと言ったんだ」
「だって、だしているから」
「昨日の小遣いだ、返してもらうぞ」
「えっえええ!?」
寝ぼけ頭を十分に覚ます言葉。
「ど、どうして?」
「聞いたぞ。昨日はアスカ君がしたそうじゃないか。そうなると当然臨時の小遣いは必要ないな」
「そ、そんな〜」
トホホと肩を落とし泣く泣く返すシンジ。
「これはアスカ君に渡す。アルバイト代だ、シンジ奢ってもらうなよ」
ゲンドウは言い残すと部屋を去った。残されたシンジは泣いていた。
「う、うう。昨日の僕の苦労って・・・」
遊びに来たアスカにゲンドウはアルバイト代を渡そうとしたが断った。「お金の為にした訳じゃありません」と。
その言葉にゲンドウはますますシナリオを進めたくなった。
これでユイさんの風邪編(勝手に命名)おしまいです。
シンジ頑張ったのに?トホホになってしまいましたね。
しなくてもいいかなアスカがいるから。
こんな小説でも飽きずに読んでくれた方々に感謝します。
エヴァンゲリオン学園外伝 碇家、混乱2