エヴァンゲリオン学園外伝
かなづちアスカちゃん
「アスカちゃん、泳ごう」
「う、うん」
小学校1年生シンジとアスカの夏休み2人はいや碇、惣流家族はネルフの経営するリゾートホテルに旅行にきていた。
太陽が照りつけるホテル内のプールは碇、惣流家族の貸しきり状態であった。シンジは浮き輪を持っているアスカの手を握り、プールに入るところであった。
「・・・・」
アスカは震えていた。ドイツ育ちで泳ぎは全くの素人、浮き輪を潰すほど握り締めていた。
「どうしたの?」
「こ、こわいの・・・」
「大丈夫だよ」
シンジは泳ぎは得意だった。というよりゲンドウに仕込まれたのである、泳げないシンジをゲンドウはプールに放りこみ無理やり泳がせるという荒療治で鍛えられた。
「僕が先に入るからアスカちゃんは見ていてね」
「う、うん」
ジャボン!
ジャンプして足から飛び込む、水飛沫が激しく飛び、アスカの顔、体にかかった。
「う、うええ・・・」
顔にかかった水を一生懸命払いのけるアスカ、相当怖いようである。
「怖くないから、おいで」
「・・・・」
シンジは手招きをするがアスカは膝が震えていて動けなかった。
「大丈夫だよ、ホラ」
1度潜って浮かび上がり、笑顔を見せ安心させる。アスカも笑顔に安心し前へ歩き出すが浮き輪は依然握り締めたままだった。
「うん!」
プールサイドに腰を下ろし、ゆっくりゆっくりと足をつける。初めは冷たさに足を引っ込めたが徐々に慣れ、入れていった。
ドキドキ、ドキドキ。
鼓動が高鳴るが、一生懸命に両足をつけた。続いて胴体、お尻を滑らせゆっくりと全身をプールに入れた。
「大丈夫でしょ」
「うん・・・冷たいけど」
浮き輪にしっかりとしがみ付いて、沈む心配は無いのだが足は動かしているアスカ。シンジはようやく入れた事に拍手を送った。
「泳ごう!」
「う、うん」
シンジはついて来れるようにゆっくりとした平泳ぎ、アスカは浮き輪にしがみ付いてバタ足。だがシンジの方が速くて付いていくのがやっとであった。
「はあはあ、シンちゃん待ってー」
「あ、ごめん。速すぎたね」
シンジは戻りアスカの隣に並び同じ速度で泳ぎ始めた。
「シンちゃん、泳ぐの上手だね」
「父さんに無理やり教え込まれたんだ。死ぬかと思ったよ」
あっさりと笑いながら言うシンジにアスカは身震いをした。
「そ、そうなの。おじ様って凄いのね・・・」
「うん、10回は天国にいっちゃった」
「え?本当」
「うそ」
「もうっ」
シンジの冗談にアスカは全身の緊張した力が抜け、自然な泳ぎになってきた。速度も上がり楽しんだ。
「そろそろ休憩しようか」
「うん!」
2人はプールサイドのチェアで用意された南国風のトロピカルドリンクを飲んだ。暑さと疲れで一気に飲み干す。
「今度は浮き輪無しで泳いでみよう」
「えっ?できないよ」
「僕が教えてあげるから」
「でも・・・・」
「大丈夫」
「う、うん」
シンジの泳ぎを信頼し教えを請う事にした。だがまた緊張し始め全身がガクガクなり、また浮き輪を握り締めた。
「さあ、はいろー」
「う、うん」
シンジは助走をつけジャンプ、アスカはまたサイドに腰を下ろし足からゆっくりと入っていった。
「さあ浮き輪を取ってみて」
「・・・・」
だがアスカは固まっていた。
「大丈夫だよ」
「・・・・」
しっかりと浮き輪を握り締め、とても取る状態ではなかった。
「ふうー、まあ急がなくてもいいよ。泳ぎはいつでも練習できるから」
シンジは無理と判断して、練習を諦めた。アスカはうつむきながら呟いた。
「・・・・ごめんねシンちゃん・・・」
「いいよ。今日はダメでも明日があるよ」
「・・・・」
「泳ごう!」
シンジは気遣い笑顔で手を差し伸べた。アスカは笑顔になり手を取った。
「うん!」
それから2人は並んで泳ぎ始めた。アスカは相変わらず浮き輪であったが。
バシャバシャバシャ!バシャバシャバシャ!
アスカは浮き輪を握り締めながら一生懸命にバタ足をし続けた。
「はは、アスカちゃん。こっちだよ」
「シンちゃん待ってー」
おいかけっこ、楽しい楽しい時間である・・・だが・・・・・
プシュ!
「?」
アスカは聞きなれない音が聞こえた、辺りを見まわしても何も無くそのまま遊び続けた。相変わらず浮き輪は握り締めたままだが。
シューブクブク!
不意に掴んでいる浮き輪の感触が小さくなり曲がった。水に入ったところがブクブクと泡を出していた。
「うわ、破けている!」
アスカは焦った。なんとかサイドに戻ろうと懸命にバタ足をするが進まない。握り締めは強くなり余計に速く空気が抜ける。
「シンちゃん!助けてーーーー」
異変に気づいたシンジはすぐさまアスカのもとに泳いだ。
「アスカちゃん!」
「シンちゃーーん!!」
シンジは浮き輪を掴むと急いでサイドに泳いだ約5mほどであったが、アスカは泣きパニック状態シンジにしがみ付いた。
アスカにしがみ掴まれた泳ぎが制約されたシンジであったが、ゲンドウの特訓?の成果か無事にサイドに辿り着いた。
「もう大丈夫だよ」
「うえええん!シンちゃーん」
号泣してシンジに抱きつくアスカを優しく頭を撫でて落ちつかせた。
「う、うう、ひっくひっく。ごめんなさい。迷惑かけて」
「そんな事無いよ、無事でよかったよ」
「・・・シンちゃん」
「よかった。よかった」
タオルで涙を拭くアスカは心配させまいと、シンジは笑顔を作りつづけた。この日以来アスカは浮き輪を手放さなくなった。
連載の弐拾壱話、弐拾弐話でアスカが泳げない理由はこれです。
ずっと浮き輪を握り締めていたので爪で破けてしまいました。
シンジは強制的にゲンドウに泳ぎを仕込まれ、上手になったという訳です。
こんな小説でも飽きずに読んでくれた方々に感謝します。
エヴァンゲリオン学園外伝 かなづちアスカちゃん