エヴァンゲリオン学園外伝

合戦

「ZZZZ」

 太陽の光がカーテンの隙間からこぼれる日曜の朝、シンジは布団の中で幸せな夢を見ていた。

 ユサユサ

「シンちゃん」

 その布団を揺さぶる小さい二つの手、アスカである。

 ユサユサ

「シンちゃん、朝だよ起きて」

「ZZZZ」

 だがシンジは起きようとしない。アスカは頬をプウとふくらました。

「もうっシンちゃん!朝っ!」

 ドンドン

ぐえっ!

 布団の上からボディーブロー、シンジはおもわず上体を起こした。

「な、なにするんだよ!」

 髪がクシャクシャのまま怒るシンジ、だがアスカは起きたことに喜んでいた。

「おはようシンちゃん」

「・・・おはよう」

 笑顔に何も言えないシンジであった。

「ほら見て、雪が積もっているの」

 カーテンを勢い良く開けると太陽の光が部屋にふりそそぐ、シンジは眩しい目を手で隠しながら外を見た。

「本当だ、道理で寒いと思ったよ」

「でしょう、遊びに行こう」

「え〜〜?イヤだよ、寒いし眠たいよ」

 時計はまだ八時を回っていない。

「そんな事いわないで、雪だるまつくろう」

「アスカちゃん一人で作ってくれば僕は寝るよ。お休み」

 布団を頭からかぶると丸まった。

「シンちゃん、シンちゃん」

 何度も呼びかけるが返事がない、アスカは怒った。

「もう・・・・こうなったら」

 腕を組んでシンジを懲らしめようと思案し始めた。

 ガラッ!

「あ、おじ様」

 考えている時、ゲンドウが部屋に入ってきた。朝から相変わらずサングラスである。

「どうしたのかね?」

「シンちゃんが外に遊びに行きたくないって・・・」

「そうか、雪が積もると普通は遊びたくなるものだが、呆れた奴だ・・・・ちょっと待っていなさい」

 そう言うと部屋を出て行った。

 

 

 そして・・・

「おじ様!それは」

 驚くアスカ、ゲンドウの手には雪玉が握られていた。ベランダで集めたものであろう。

「起こすにはこれが一番だ」

 ニヤリ

 口元を歪めると布団をそっとめくり、丸まっているシンジの背中に入れ、そして潰した。

冷た〜〜〜!!!

 飛びあがり、パジャマをめくると背中に付いた雪を払う。

「ふっ起きたか」

「と、父さん!何するんだよ、冷たいじゃないか!」

「雪だから冷たいのは当然だ」

 冷たさに背中をさするシンジにゲンドウは口元を歪める。

「まったく、寝れやしないよ」

「シンジ、アスカ君が遊ぼうと言っているのだ、それを無視するとは何事だ」

「だって寒いし眠たいんだよ」

「そうか、遊ぶならさっさと遊べ、でなければ帰れ!」

 お決まりの台詞、聞き慣れているシンジ、アスカは呆れた。

「帰るって・・・・」

「ふっ」

 サングラスをクイッとあげまた口元を歪める。

「ねえ、シンちゃん遊ぼうよ〜」

「寒いし〜」

「シンジ、これから三人で雪合戦をする。300秒内に外に来なかったら小遣いは無しだ」

 N2投下。

え?ええ!

「さあアスカ君、外に出ておこうか」

「は、はい」

 部屋を出て行く二人、ゲンドウは襖を閉める際に時計を見た。

「シンジ、もう30秒経過したぞ」

 そしてピシャリと襖は閉められた。

「こ、こうしちゃいられない」

 シンジは慌ててパジャマを脱ぐと服に着替え始める。

 

 

「はあはあ・・・」

「296秒か、遅いぞ」

 急いで身支度を整え外に出たシンジ、ゲンドウはキッチリと時間をはかっていた。

「イキナリだもん。遅くなるよ」

「いつ如何なる時も油断してはならんぞ。迅速に行動せねば使徒に負ける」

「はあ〜?意味がわからないよ」

「ふっ、公園に行くか」

 クイッとサングラスをあげると、まだ足跡がついていない雪を踏み公園に向かった。

 

 

 公園に着いた三人、人はいない。ゲンドウは二人の前で腕を組み指示を出した。

「これからチームをわける。私とアスカ君対シンジだ」

「え〜何だよそれ、不公平じゃないか」

「アスカ君は女の子だ一人にさせるわけにはいかんだろう。したがって必然的にこうなったのだ」

「父さんが一人で僕とアスカちゃんでいいじゃないか」

 第3者がこの場にいればシンジの発言に賛成だろう。だが・・・

「ふっ軟弱なお前を鍛える為だ。いやなら帰れ」

「じゃあそうするよ。アスカちゃん帰ろ」

 シンジはアスカの手を引いて帰ろうとする。ゲンドウは少し慌てふためいた。

「なっ・・シンジ!帰ると小遣い無しだ」

「じゃあどうすればいいんだよ」

「雪合戦だ」

 サングラスをあげる。シンジはため息をついた。

「わかったよ」

 

 

 

 わかれた三人、雪合戦が始まる。

「シンちゃん、いくよ。え〜〜〜い」

 白い息をはきながらアスカはシンジに雪玉を投げる。だが、女の子の投球はぎこちなくとどかない。

「はっずれ〜♪こっちの番だ。えい」

 シンジは投げた。ヒュ〜〜〜ンとアスカの顔めがけて、そして・・・・当たった。

 バシュ!

きゃ!

 そしてバランスを崩してこけた。

 ドテン!

んぎゃ!

「あ、アスカちゃん」

 うつ伏せに大の字にこけたアスカ、動かない。

「アスカ君大丈夫か?」

 アスカに駆け寄る二人、ゲンドウは起こした。

「はううう〜〜、シンちゃんひどいよ」

「ご、ごめん」

 アスカの顔は雪の冷たさのせいで真赤になっており目には少し涙を浮かべていた。

「シンジ・・・」

「何?父さん」

 ガシッ!

「わっ!何するの?」

 ゲンドウは何も言わずにシンジを丸太のように腰に抱えると、木の前に移動した。

 そして木の前にシンジを立たせるとポケットに入れていたロープで木にシンジをくくりつけた。

「な、なにするんだよ。ほどいてよ」

「シンジ、お前は男として恥ずかしくないのか?手加減するのが男としての優しさだ」

 どうやらアスカに投げた雪玉の事のようである。

「だって、雪合戦じゃないか」

 ゲンドウはサングラスをクイッとあげると笑った。

「ふっシンジ、まだまだだな、未熟者が。さあアスカ君シンジに投げるんだ」

 ゲンドウは雪をおもいっきり握って固めるとアスカに渡した。玉になった雪は固くて氷に変わっていた。

「えっ?でも・・・」

「そうだよ。アスカちゃん、ほどいて〜」

「ほどかなくても良い。未熟者は鍛える必要がある。さあ投げなさい」

「・・・・はい」

 ゲンドウの威圧感、顔だけかもしれない。アスカは投げる。

(シンちゃん、ごめん)

 パシュ!

うぎゃ!

 謝って投げるワリには見事に顔面にヒット。

「うむうむ、これで男として磨かれるな。アスカ君、もう一回投げなさい」

「・・・・はい」

 今度は自分で玉を作って投げた。

(シンちゃん、ごめん)

 パシュ!

あぎゃ!

 また顔面にヒット。

「ア、アスカちゃん、また顔じゃないか」

「ご、ごめんなさい」

「アスカ君、もう一度だ」

 

 

 パシュ!

うげっ!

 またまた顔面にヒット。

「アスカちゃん〜」

「ご、ごめんなさい」

 謝るアスカ、だが顔面に当てると云う事は先ほど当てられた事を根に持っているのかもしれない。

(アスカちゃん、怒っているのかな?)

「シンジ、お前も男ならかわしてみろ」

「無理だよ。動かないんだよ」

「ふっ未熟者め」

「なんだんだよ〜〜あぎゃ!」

(シンちゃん、ごめん)

 

 こうして一方的な雪合戦はゲンドウ、アスカチームの勝利に終わった。

「へっくしゅん!」

 散々雪を当てられたシンジはクシャミの連続、アスカは申し訳なさそうに俯いて謝った。

「シンちゃん、ごめんなさい」

「ん、いいよ。僕の方こそ顔に当ててごめんね。へっくしゅん!」

「うむ、シンジそれが男というものだ。女性には優しくなければならん」

 クイッとサングラスをあげ、ニヤリとするゲンドウ。

「わかったよ、父さん。女の子には優しくだね」

「ああ、そうだ」

 親子で頷く。

「でも・・・・」

 シンジは素早く雪を握るとゲンドウの背中に入れた。

うっ!

「男には容赦しないよ」

「くっなかなかやるな」

 ゲンドウも負けてはいない。背中に入った雪を体を振るわせ落とすと、雪を掴みシンジのお腹に入れる。

冷た!

 跳ねあがるシンジ。

「修行が足らんな」

 そう言うと間髪入れずに雪を投げつけるゲンドウ。シンジは雪に埋もれていった。

うげげげげ〜〜〜・・・・・・」

 

 

 

 

「はあはあはあ・・・ふっ、まだまだだな」

 ゲンドウは肩で息をし、額には大量の汗。湯気がたちこめる。

シンちゃん!シンちゃん!

 シンジの体には山の様に雪が積もって辛うじて足が見えるだけである。アスカは冷えた手で一生懸命雪を払いのける。

「ふっシンジ、アスカ君に助けてもらうなんてまだまだ未熟だな」

 ゲンドウはニヤリと笑うと二人を置いて帰っていった。

 

 

 

「シンちゃん!シンちゃん!」

 ようやく掘り出されたシンジ、アスカは体を揺さぶった。

「・・・う、う〜〜ん・・・アスカちゃん?」

「よかった、気づいて」

「・・・・確か雪崩にあった気がするよ。へっくしゅん!」

 豪快にクシャミ、元気?そうな姿にアスカは安心すると笑い、ゲンドウにやられた事を教えた。

「そうか・・・父さんに・・・いつもながら卑怯だな。へっくしょん!」

「おじ様負けず嫌いだから、はいティッシュ」

「うん、ありがとう。帰ろうか」

「うん」

 二人、公園を出ようとした時・・・

 ヒュ〜〜〜ン! バシュッ!

「イタタ!」

 シンジの後頭部に雪玉が直撃。二人は振り返った。そこには

「父さん!」

「おじ様!」

 ゲンドウが立っていた。

「シンジ、いつなんどき敵に狙われるかもしれんのに、その隙だらけはなんだ。呆れるな」

「な、父さんこそなんだよ。それに敵って何だよ」

「使徒だ」

「使徒〜?」

「ああそうだ。使徒を倒さな・・・シンジ!

 語りに酔っているゲンドウ、だが二人の姿は無かった。

 

「まったく父さんは、息子として恥ずかしいよ」

「確かに、優しいけど時々某司令みたいになるのよね」

 二人は話しが長くなると感じ、さっさと帰宅するのであった。


 時間的には小学校低学年のお話ですね(二人とも、ちゃん付けで呼び合っていますから)

 ゲンドウさんは・・・・呆れたオヤヂだ(笑)

 アスカちゃんも謝っておきながら顔面目掛けて投げる投げる、ぶつけられた事を根に持っていますね。

 楽しい日曜日なのに不運?なシンジ君でした。

 こんな小説でも飽きずに読んでくれた方々に感謝します。


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