エヴァンゲリオン学園外伝

手作りホワイトデー


その日シンジは脇にプラモデルの箱を抱えながら家への道を歩いていた。

「やっぱりプラモはガンダムだよな〜〜」

 ガンダムファンのシンジ、今日はNZ−000クインマンサのプラモを買ったようである、時折は箱を見てはニヤニヤしている。

「う〜〜〜んモデラーの腕がなるぞ〜」

 そのまま作成してはつまらない、手を加えリアルに作るのがモデラーである。

「小遣い無くなったけど、まあいいかっ」

 スケールは1/100、製造技術も上がっておりそのまま組み立ててもリアルであるがその分高い、今月のお小遣いは残り100円である。













(ただいま・・・)

 こそ泥が入るように物音がしないように玄関を開け家に入る。

(母さんに見つかったらまずいからね)

 いつの時代も母親は子供の趣味を理解しない、特にプラモは無駄遣いだと小言を言われてしまう。

 こそこそ

 忍び足で廊下を歩く。

(よし、あともう少し)

「シンジッ」

 ビクッ!

 背中から聞き覚えのある声、シンジは全身に鳥肌が立った。

「な、何?」

 ゆっくりと後ろを向くシンジ、そこにはユイが立っていた。無論プラモは見えないように隠している。

「何を隠しているの?」

「な、何も隠していないよ」

 汗が全身から噴出してくる、今にもここから逃げ出したい気持ちに駆られる。

「うそおっしゃい!またプラモを買ってきたんでしょう、ただいまを言わないのは大抵プラモを買ってくるからでしょう」

「そ、それは・・・」

 見透かされて何も言うことができない。

「お小遣いはまだあるの?お小遣いの前借はダメですからね」

「あと100円だけど、もう使う予定は無いからいいよ」

 今月はプラモを買って満足したのであとはやっていけると自信があるシンジだったが・・・

「あと100円?明日はホワイトデーでしょう、アスカちゃんにお返しの品は用意したの?」

「ええっ?ホワイトデー?」

 バレンタインデーにアスカからチョコを貰いお返しをすると約束したのだが、プラモを買ってお金は100円しか残ってない。

「用意してないのね・・・」

「明日がホワイトデーだって忘れていた」

「はあ〜〜〜」

 呆れ頭を抱えるユイであった。

「か、母さんどうしよう、こ、小遣いの前借を・・・」

「だ〜〜〜め、自分で何とかしなさい、貰ったんだからお返しをしないと許しませんよ」

「は、はい!」

 未来の娘になるアスカが悲しむ顔は見たくない、だがシンジに甘やかすのは教育によくない。

「お金をかけなくても良いのよ、真心がこもっていればアスカちゃん喜ぶわよ、ねえアナタ」

「ああ、そうだな」

「おわっびっくりした」

 何時の間にかシンジの後ろに立っていたゲンドウ、うんうんと頷いている。

「そうだぞシンジ、お金を使わなくてもお返しはできるぞ、そうだなユイ」

「そうですけど、アナタは別ですよ、明日のホワイトデー期待していますね♪」

「うっ、お金を使わなくても良いと言ったではないか」

 汗が噴出すゲンドウ、ユイからチョコを貰っており明日のお返しを期待されている。

「それはシンジの場合ですよ、そろそろ新しい洋服が欲しいと思っているんですよ」

「うっ・・・そ、そうか」

(父さん気の毒に)

 ゲンドウ、多額の出費を覚悟しなければならない。シンジは二人を横目にこっそり部屋に逃げ戻った。



「はあ〜〜どうしようかな」

 ベッドに仰向けになりため息をついた、買ってきたプラモは机の上に置き作る気がしなかった。

「100円じゃ飴玉しか買えないなあ〜〜〜はあ〜〜」

 100円を親指で弾き中に飛ばし、ため息を繰り返し良いアイデアがないか頭をひねる。

「やらないってわけにもいかないし」

「何か良い方法は・・・考えろ考えるんだ碇シンジ!」

 あぐら、腕を組み何か良いアイデアがないか頭をひねくりまわす、額からはじんわりと汗が滲み出してきた。

「うううううう〜〜〜〜〜〜!!

 何か閃いたらしく目をカッと開いた。

「これだよこれ!流石僕だね、われながら自分の才能が怖いよ、さあて頑張るぞ」

 机に向かうと引き出しから道具を出し黙々と作業に移った。
















 そして三月十四日、ホワイトデーである。

おはようございます!!

 朝、碇家に響くアスカの声、いつもどおりにシンジを起こしに来たのである。今日はホワイトデーなので声がいつもより元気がある。

「おはようアスカちゃん、いつも元気良いわね」

 ユイが台所から出てきて挨拶を交わす、こちらも朝から爽やかな笑顔である。

「シンちゃん、起きてます?」

 毎回の事ながら起きてはいない。

「昨日も遅くまで起きていたのよ、アスカちゃんを頼りにしているのよ。まったく困った子だわ」

「じゃあ起こしてきますね」

「お願いね」

 アスカは廊下を走るとシンジの部屋に向かう。




「シンちゃん起きてる〜?」

 襖を開けて第一声、だがシンジの返事はなかった。熟睡中である。

「シンちゃん、朝だよ起きて〜〜〜」

「う、う〜〜〜ん後五分」

「五分も寝たら遅刻しちゃうよ」

「一時間目はミサト先生の授業だから遅刻して良いよ」

 一時間目はミサトの授業だが、必ずといっていいほどミサトは遅刻してくる。

「だ〜〜〜め、ヒカリに怒られちゃうでしょ」

 ぐうたら教師ミサトに代わり委員長のヒカリが遅刻者に厳しいのである。

「わかったよ〜〜う〜〜〜ん」

 ムクリと上半身を布団から出すとポリポリと頭を掻き、枕の横に置いてあった細長い紙をアスカに差し出した。

「アスカこれ」

「ん?何」

 渡されたアスカは何かわからない首をかしげた。

「ごめん、バレンダインのお返しなんだ、お小遣い使っちゃってそれで勘弁して」

「これ?」

「うん、何でも券だよ、僕が必要になったら使ってよ」

 昨日作っていた「何でも券」、小さな子供が親に「肩たたき券」のようなものである。三十枚きちんと点線で区切られている。

「今度埋め合わせするよ」

「ううん、シンちゃんがくれたんだから嬉しい」

 いやな顔一つせずにシンジ手作りの「何でも券」を見てにっこり微笑んだ。

「じゃあ台所に行ってて、眠気を覚ましてくるから」

「うん」

 アスカは髪をなびかせ部屋を出て行った。シンジも一緒に行けば良いのだが朝の事情があるのでそれはできない。

「ふう〜〜喜んでもらえて良かった、どうせアスカの事だろうから使わずに取っておくだろうな」

 アスカの性格から使わないと確信しているシンジ、来年もお金をかけずにこの手で行こうと思っていた。

「有効期限は一ヶ月だからね、過ぎればただの紙〜〜」

 足取り軽く台所に向かった。































 そして夕方、学校から帰ったシンジ、リビングでTVゲームに夢中である。

「シンジ〜〜」

「ん、何」

 台所からユイの声が聞こえる。

「お醤油切らしちゃったのよ、買ってきてちょうだい」

「え〜〜やだよ〜〜」

 TVゲームで良い場面なのでそのまま続けたいブーイングをあげだ。

「そう、じゃあこれ使っちゃおうかな」

 手をエプロンで拭きながらやって来たユイは、シンジに一枚の紙切れを見せた。

「はい、何でも券使うから買ってきてね」

「なっ、どうして母さんがこれを?」

 シンジは驚いた、今朝アスカにやった「何でも券」をユイが持っている。

「アスカちゃんがね使わないから貰ったのよ、使ってもらったほうがシンジは嬉しいでしょ」

「えっあ、う・・・うん」

 シンジの計画は半分は成功したが半分は失敗した、アスカは使わなかったがユイが使うとは思っていなかった。

「お醤油の他に買ってきてね、それから・・・」

 次々に言い渡されるお使いの内容、シンジは頭痛がしてきた。

(裏切ったな、アスカ。僕の気持ちを裏切ったな!)

「何言っているの!アナタがアスカちゃんの気持ちを裏切ったんでしょうが、それをいやな顔一つせずに受け取ったアスカちゃんはいい子じゃない!」

「はうっ」

 口に出していないのに気持ちを読まれ驚き汗が吹き出る。

「さあ早く買ってこないと晩御飯抜きですよ」

「は、はい〜〜〜〜」

 食べ盛りの十四歳晩御飯抜きは辛い、TVゲームのスイッチを切ると速攻で着替えを済ませ外に走り出た。




 

 道を走るシンジ、その様子をベランダから見つめる姿があった。

「ふふふ、シンちゃん早速こき使われているわね」

 アスカである、シンジの走る姿をにこやかに見つめ手にはシュークリームを持っている。

「何でも券と交換したけど良いわよね」

 今朝「何でも券」を貰ってその事をユイに話したら交換しようと言われたので交換したのである。

「アタシが持っていても使わないからおば様が持っていたほうが有効に使ってくれるわ」

 シンジは一ヶ月間「何でも券」でこき使われたのであった。


 シンジ君お金をかけないホワイトデーでしたが体力を使いますね。

 貰ったアスカちゃん嬉しかったんでしょうがシュークリームの美味しさには勝てませんでしたね(笑)

 何でも券の残りは後二十九枚、果たしてシンジ君は耐え切れるでしょうか(笑)

 こんな小説でも飽きずに読んでくれた方々に感謝します。


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