「ふう〜〜〜、ようやく終わったわ」
ネルフ、リツコの研究室。リツコはキーボードからゆっくり指を下ろし眼鏡を外し大きく息をはいた。
「結局ゴールデンウィーク過ぎちゃったわね」
熱いコーヒーを口に含み卓上カレンダーに目をやるとGWはすでに過ぎ世間では普通の日常生活に戻っている。
「レイに悪い事しちゃったわ・・・」
卓上に飾ってあるレイを抱いているリツコの写真を見て呟いた、GW中レイと遊ぶ時間が無く葛城家に預けているのである。
「さあて、迎えに行かなくちゃね」
コーヒーを飲み干すと受話器を取りボタンを押した。
リツコおかあさんシリーズ
遅れた休日
「本当〜〜〜?」
「うん本当だよ」
「わ〜〜〜い!やった〜〜〜」
葛城家、リビングでレイはシンジの言葉に顔が緩み大きく手を上げて嬉しがった。
「おかあさんのお仕事終わった〜〜〜」
「良かったねレイちゃん」
「うん!」
先ほどTelがかかってきてシンジが出ると受話器の向こうはリツコであった。
「おかあさんが来たら遊んでもらおう〜〜と」
「そうだね、でもね疲れていると思うからあんまり我が侭言ったらダメだよ」
「うん、肩叩いてあげるの」
「レイちゃんは偉いね〜〜〜よしご褒美をあげようかな」
「本当?」
「本当だよ、ちょっと待っていてね」
「うん!」
シンジはレイの優しさに頭をなでなですると台所に向かった。
「はいおやつだよ」
「わ〜〜〜ケーキだ〜〜〜」
運ばれてきたのは真っ赤なイチゴが乗ったショートケーキ、ちょこんとテーブルの前に座るレイにケーキとオレンジジュースを置いた。
がらっ!
がらっ!
「な、なに?オヤツですって?」
「オヤツ〜〜〜!!」
レイの声が聞こえたのか、アスカとミサトの部屋の襖が同時に開いた。
「こういう事だけ素早いね」
呆れるシンジ、二人はすでに座っていた。
「シンジ〜〜〜アタシ達の分も持ってきなさいよ〜〜〜」
「そうよ、抜け駆けは月に変ってお仕置きよん」
「はいはい、わかりました。レイちゃんちょっと待ってってね」
「うん」
シンジはどうしようもない同居人のオヤツを取りに台所に向かった。
「はい、お待たせしました」
「サンキュ〜」
「ん?シンちゃん私のオヤツ違うわよ」
オヤツを置かれ素直に喜ぶとアスカと否定するミサト、二人のオヤツは違っていないレイと同じショートケーキにオレンジジュースである。
「何がですか?」
「ん〜〜〜〜鈍いわね〜〜鈍ち〜〜〜〜〜ん、チョ〜〜〜〜鈍感〜〜〜」
若い女の子のように語尾を伸ばして喋るがミサトは齢●○歳、花の独身である。
「ミサト気持ち悪い喋り方しないでよ」
「う〜〜〜私鳥肌立っちゃった」
ミサトを邪険に見るアスカと鳥肌を見せるレイ、二人の表現は的確であろう。
「はいわかりました」
シンジはミサトの前に置いてあるオレンジジュースを手に取ると台所に戻っていった。
「さっすがシンちゃんわかってるぅ〜〜〜」
「ケーキにビール?何考えてんの?」
「ケーキが不味くなっちゃうよ」
シンジがオレンジジュースを持っていった事でミサトが欲しているのがビールとわかる、二人はケーキにビールの組み合わせが不満そうである。
「はい、お待たせしました」
「ん〜〜ありが・・・と?これはなに?」
ミサトの前に置かれたのは期待していたビールではなくコップに入った透明な液体。
「水ですよ、オレンジは甘くて苦手なんですよね」
「ち、違うんだけど、ほらあの苦くて美味し〜〜喉に染みるあの飲み物、日本的に言えば麦芽炭酸水なんだけど」
「そうなんですか?ミサトさんの事だからてっきり水と思っていましたよ、水と」
「え、ええ水よ、水が欲しかったのよ、ありがとう・・・」
妙に力がこもった言葉、怒りが多少入っているのだろう。ミサトは小さく頷いて涙を流して水を口に含んだ。
「レイあんな大人になっちゃダメよ」
「うん、わかったダメな見本だね」
ミサトの惨めな姿を見て小さな声で言い合うアスカとレイであった。
ぴ〜〜んぽ〜〜ん!!
「あっおかあさんだ!」
呼び鈴が鳴り、レイは立ち上がると走って玄関に向かった。呼び鈴だけで訪問者が誰だかわからないのだが親娘の絆でわかるのだろう。
「おかえりなさ〜〜〜い!!」
「あら出迎えてくれたの、ふふただいま」
レイの予想通り玄関先にはリツコが立っていた。レイは満面の笑みを浮かべるとリツコの胸に抱きついた。
「おかあさ〜〜〜ん」
「あらあら甘えん坊さんね」
リツコの胸に顔を埋めると温もりを存分に味わう、まだまだ甘え盛りのレイであった。
「リツコさんお帰りなさい、お疲れでしたね」
二人の会話に気がついたシンジがやって来た、リツコの顔に疲労が出ていることを感じ取れた。
「ごめんなさいね、休みなのにレイを預けちゃって」
「いえいえ、レイちゃんと遊べて楽しかったですから、さああがってください」
「じゃあお邪魔するわね」
レイに手を引かれてリビングへ向かう三人、そこでは・・・
「あ〜〜〜〜美味しかった!!」
「あ〜〜〜僕のケーキが!!」
「あれシンジ食べないから要らないと思ったわ、リツコ〜〜お疲れ様〜〜」
シンジのショートケーキは口の回りにクリームをつけたアスカのお腹の中に消えていた。
「僕のケーキが・・・」
「折角のゴールデンウィークなのに残念ね」
「ええ、あなたが羨ましいわ」
「へへ〜〜羨ましいでしょ〜〜」
「・・・」
皮肉のつもりで言ったのだがミサトには通用していない。
「僕のケーキ〜〜〜」
ひざから崩れ落ち床に両手をつきうな垂れるシンジ、お楽しみのケーキが食べられないのはサードインパクトが起きたくらい悲しかった。
「ええい!女々しいわね〜〜まだジュースが残っているでしょ、ちゃんと残してあげてたのよ感謝しなさい!」
「そんな〜〜〜」
「シンジお兄ちゃん、私の半分あげるから元気だして」
「レイちゃん・・・」
横にはケーキを持っているレイの姿、その姿が滲んで見える。
「レイちゃんありがとう、僕は嬉しいよ猛烈に感動しているありがとう」
「うぎゅ〜〜苦しいよ」
涙を流してレイに抱きつくシンジであった。
「ばっかじゃないの?」
レイとシンジの周りに天使が飛び回っている光景がアスカに見え頬づえつき小さく呟いた。
「ふう〜〜〜今回は本当に疲れたわ」
「疲れた」普段は口にしない言葉であるが今回は疲れている様子で首を回し肩のコリをほぐしていく。
「大変だったんですね」
「ええ、次から次へと問題が出てきて修正に手間取ったわ」
「おかあさん疲れてるの?」
「ええちょっとね、明日もお休みだからどこかに出かけましょうね」
「ダメ!疲れているなら明日もお休みなの!」
本当は出かけたいのだがそこは我慢してリツコを休ませるレイ、いつも仕事を見ているので大変さがわかっている。
「どうして?遊園地に行きたくないの?」
「行きたくな〜〜い、お家でゆっくりしていたいの、そうだ肩を叩いてあげる。
立ち上がるとリツコの背中に回り小さな手で肩を叩き始めた。
「レイちゃん優しいね〜〜誰かさんとは大違いだよ」
「むっそれってアタシの事?」
「違うよ〜〜〜」
「むむ〜〜〜」
敏感に反応するアスカ、シンジはにこやかに笑顔を浮かべて対応するのであった。
とんとんとんとん
「おかあさんどう?」
「気持ち良いわよ、上手ね」
「へへ〜〜〜」
とんとんとんとん
リズミカルに動くレイの小さな手、リツコは次第に頭が下がり始めた。
「リツコさん、お布団敷きましょうか?」
「あ、平気よ少し横になれば大丈夫だから」
「ダメ!ちゃんと寝ないとダメなの、お布団しいてあげるね」
「レイちゃんも言っている事だし今日は泊まっていってください」
「そんな悪いわよ」
レイを預かってもらったのに自分までも泊まるとなると気が引けてしまう。
「良いの良いの〜〜家長の私が許すわ、ど〜〜〜んと泊まっていってちょうだい」
「じゃあお言葉に甘えて泊まらせてもらうわね、シンジ君ありがとう」
ごんっ!
ミサト、豪快におでこをテーブルにぶつけてしまった、てっきり自分に礼が来ると思っていたがリツコはミサトが家長とは思っていない。
「じゃあお布団敷きますから、アスカの部屋で寝ていてください。アスカ部屋かりるね」
「良いわよ」
「悪いわね、アスカ部屋をちょっとかりるわね」
「ここで寝られるところなんてアタシの部屋くらいでしょうからね、爆睡して疲れを取んなさい」
「シンジお兄ちゃんお布団敷くの手伝って〜〜〜」
「は〜〜い今行くよ〜〜〜」
「ふう〜〜あのコには迷惑かけるわね・・・」
アスカの部屋から聞こえるレイとシンジの話し声を聞きながらほぐれた肩を見つめため息をついた。
「な〜〜におセンチになってんのよ、らしくないわよ。大丈夫大丈夫ぅ〜〜〜親は無くても子は育つって言うでしょ、私がいるんだからどこに出しても恥ずかしくない娘に育ててあげるわよん」
「・・・それが一番問題だわ」
子供を育てた事が無い花の独身齢●○歳に言われ頭を抱えるリツコであった。
リツコさん、ようやくお休みが取れましたね。ミサトさんとは大違いの忙しさです。
レイちゃん本当は遊びたいんでしょうが、流石ですねリツコさんを気遣っています、本当に誰かさんとは大違い(笑)
シンジ君、アスカちゃんにケーキを食べられてしまいましたがレイちゃんと半分コ、シンジ君感動ですね。
「jun16 Factory」はリツコおかあさん推奨HPです(爆)
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
リツコおかあさんシリーズ 遅れた休日