リツコおかあさんシリーズ

サンタ苦労する

「ニヤリ」

 司令室、ゲンドウはいつものように両手を組み不気味に笑っていた。

「碇、いい加減髭を剃ったらどうだ?」

「問題ない」

「大有りだ」

 冬月の言葉に微動だにしないゲンドウ、顎鬚は数ヶ月伸ばし続けており、先端は胸元まで伸びていた。

「ところでどうして伸ばしているのだ?」

「クリスマス」

「は?」

「もうすぐクリスマスだ。クリスマスと言えば髭、髭と言えばサンタクロースだ」

「そうか、サンタをやるのか?」

「ああ、頭と髭を白く染めれば完成だ」

「ほう、パーティーでもするのか」

「いいや、プレゼントを渡すのだ」

「誰にだ?シンジ君か」

 冬月の頭にはゲンドウの息子であるシンジが浮かんだ。

「どうしてシンジにやらなければならないのだ。レイ君にやるのだ」

「シンジ君は不憫だな」

 シンジの哀れさに同情した。

「レイ君はサンタクロースを信じている、素晴らしく純粋な心だ。それに比べ愚息は信じていない、嘆かわしいものだ」

「中学生で信じていたら逆に危ないぞ」

「ふっ子供はいつまでも純粋でいてほしいものだ」

「おまえの口からそんな言葉が出るとは夢にも思わんな」

「ふっそれで問題が一つある」

「何だ?」

 冬月は問題が何か考えたが思いつかない。

「レイ君が何を欲しがっているのかわからんのだ」

「直接聞けばいいじゃないか」

 手っ取り早い方法である。

「それが聞いても教えてくれんのだ、サンタさんは言わなくてもわかると言ってな」

 ゲンドウは肩を落とした。

「そうか、聞き出すのは難しいな。赤木君に聞いたらどうだ?」

「それが赤木君に聞いてもわからないそうだ」

「それは困ったな、もう日数はないぞ」

「ああ」

 二人は頭を抱えるのであった。











「と、言うわけで君達三人を召集した」

 司令室に呼ばれたオペレータ三人組は説明を受けた。

「わかりました、レイちゃんが欲しいものを聞き出せばいいんですね。任せてください」

 ロンゲは胸を叩き、自信満々に答えた。

「頼んだぞ、成功したら昇給を考えておこう」

「「「はい!!!」」」

 『昇給』に気合が入る三人は司令室を後にした。










「レイちゃんから聞き出せば良いんだろう、楽勝だぜ」

 ロンゲはもう昇給した気でいる。

「楽勝か?赤木博士も知らないんだぜ」

 やや不安げなメガネ。

「レイちゃんの夢を壊さないように頑張りましょう」

 サンタを信じているレイを思いやるマヤ。

 先ほどの話で昇給できるのは成功した一人だけなので別々に行動することに決めた。









「おっしゃあ〜俺からいくぜ〜〜」

 ロンゲはネルフ内を走りレイを探し回った。

「おっ発見だぜ」

 前方に歩いているところを発見した。

「やあレイちゃん元気かい?」

 すぐさま追いつき、爽やかに挨拶をした。

「誰なの?」

 ガ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

 ショックがロンゲの身体を貫き膝から崩れ落ちた。

「お、俺を知らないのか・・・そう言えば名前も出てこないし・・・グフッ」

 ロンゲは力尽きその場に倒れるのであった。










「ふっみっともないなあ」

 その様子を通路の影から見ていたメガネはロンゲの無様さを笑い、レイへ向かっていった。

「やあレイちゃん久しぶりだね」

「???」

 レイは首を傾げた。

(ふっ俺の名前を忘れているのは計算済みだ)

 自分の影が薄いことを熟知している。

『忘れたのかい、オペレータの日向だよ。発令所であっただろう」

「ん〜〜〜〜〜私わかんな〜〜い、そんな人居なかったよ」

 ガ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!

ショックがメガネの身体を貫き膝から崩れ落ちた。

「い、居なかったって俺の職場はそこなのに・・・ゲフッ」

 メガネは力尽きその場に倒れるのであった。










「影が薄いと何をやってもダメなのね、その点私はレイちゃんとお友達だから聞きだすのは簡単よ」

 マヤは二人の屍を越えてレイに近づいた。

「こんにちはレイちゃん」

「マヤお姉ちゃん、こんにちは」

(うふふ、ほらレイちゃんはお友達よ)

 レイの微笑みに思わず頭を撫でるマナ、そしてしゃがむとレイと同じ目線に合わせた。

「マヤお姉ちゃんは休憩なの?」

「そうよ、レイちゃんとお話したくて来たのよ」

「お話するの?」

「ええ、もうすぐクリスマスでしょう、レイちゃんはサンタさんに何を貰うのかな?」

「秘密〜〜〜!!」

(やっぱり秘密なのね、なかなか手ごわそうだわ)

「秘密なの?私にこっそり教えてほしいな〜」

「ダメだよ〜〜秘密なの〜」

「じゃあ私が何欲しいか教えるからレイちゃんも教えて〜」

「ん〜〜どうしようかな」

 レイの気持ちのぐらつきにマヤの瞳が光った。

「じゃあ私の欲しいものを教えるね、ええと私が欲しいのは大きい大きいヌイグルミなの」

「マヤお姉ちゃんはヌイグルミなんだ。私は・・・秘密〜〜〜!」

「ひ、秘密なの」

 マヤは思わず、バランスを崩し転びそうになった。

(これは持久戦になりそうね。気を引き締めないと)














(も、もうダメ〜〜〜〜〜〜〜)

 聞き出せないマヤはその場に崩れ去った。

「マヤお姉ちゃん、こんなところで寝たら風邪引くよ〜〜」

(もう、私自信がないわ・・・)

「私もう行くね」

 レイはその場を後にした。









「失敗か」

「ああ問題ありだな」

 司令室でレイ達の様子をモニタで見ていた二人はため息をついた。

「なかなか手ごわいな」

「ああ、流石レイ君だ。こうなったら最後の手段だ。司令特権を発動する」

 ゲンドウは電話を取った。

「プレゼントの為だけに特権を発動するとはな」

 呆れつつある冬月であった。

 ゲンドウが発動した司令特権は『プレゼント内容を聞き出した者には臨時ボーナスと臨時休暇を与える』事であった。リツコにだけはこの特権は伝えていない、すぐに中止するように言われるからである。

 特権が発動されてから数秒でネルフ内は大騒ぎになり、ネルフ職員全員がレイを探し回った。

「これで一安心だ」

 ゲンドウは電話を置くと机の引き出しから用意しておいたサンタの服を取り出した。

「わざわざ作ったのか?」

「ああ特注だ」

「国民の血税がこんな事に使われているのか・・・」

 お茶を飲み将来の日本を不安に思う冬月であった。












「ふええ何でいっぱい人が来るの〜〜?」

 レイが行く場所にネルフ職員が現れ質問してくる。レイは疲れて休憩所に置いてある観葉植物の陰に隠れていた。

「どこにもいけない・・・」

 グウウ〜

 すでにオヤツの時間を過ぎておりお腹の虫が鳴り続けていた。

「お腹すいた〜おかあさん・・・」

「レイ〜〜レイ〜〜〜」

「あ、おかあさんだ」

 遠くからリツコの声が聞こえた、レイは立ち上がると声が聞こえる方に走った。

「おかあさ〜〜ん」

 レイはリツコの胸に飛び込んだ。

「レイ今までどこに居たの?心配したわよ」

「それがね、わからないの」

「わからない?」

「うん歩いていたら人がいっぱいいっぱい来るの」

「人がいっぱい来る?」

 リツコは首を傾げた。

「ああほら、あそこに・・・」

 レイは遠くで人に影を見つけると顔を隠すためにリツコの胸に埋めた。

「何かあるわね。待ちなさい」

 その影はレイを見つけると走りよって来たが、リツコも居るとわかるとすぐさま逃げ去った。

「逃がさないわよ!」

 リツコはポケットから銃を取り出すと影めがけて撃った。

「ふふ、私から逃げるなんて百万年早いわよ、さあどうして逃げたか話してもらいましょうか」

 撃たれた職員は身体が痺れており逃げる事ができない、言わなければ改造されるので素直に話した。






「碇司令の仕業ね」

 リツコはレイを研究室に寝かしつけると、すぐさま司令室に向かった。

「司令!」

「い、碇ならおらんぞ」

 リツコの声に怯える冬月は自分も逃げようとしたが遅れたのであった。

「どこに行ったのですか?」

「さ、さあ手紙を預かった」

「手紙?」

「あ、ああ」

 リツコは手紙を受け取ると、封を開け便箋と取り出した。






『サンタクロースになりたいので修行をしてくる   碇ゲンドウ』






「・・・」

 手紙の内容を読んだリツコは動きが固まった。

「一生帰ってこなくていいです!」

 リツコは手紙を破り捨てると司令室を後にするのであった。


 ゲンドウのサンタクロース姿、ちょっと不気味そうですね(^^;)

 レイちゃんの欲しいものを聞き出そうとするオペレータ三人組は玉砕しましたね。レイちゃんは手ごわい(笑)

 そこでゲンドウが司令特権で聞き出そうとしますが、リツコさんに知れてしまいました。逃亡するゲンドウ、帰れそうにないですね。

「jun16 Factory」はリツコおかあさん推奨HPです(爆)

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


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