デート券
「シンジッ!今日一日デートしてあげるわよ」
「はい?」
朝、アスカから突然言われた、どうしてなんだろう。
「今日はアンタの誕生日でしょう、これがプレゼントよ」
そうか今日は僕の誕生日だったんだ、家事が忙しくてすっかり忘れていたよ。
「ありがとうアスカ」
「礼はいいから早く開けてみなさい」
「うん」
アスカから渡されたプレゼントは一枚の封筒、一体何が入っているんだろう。
「デート券?」
封筒の中身はアスカの字でデート券と書かれた一枚の紙だった。デート券ってなんだ?
「そうよデート券、アタシとデートできる券よ。期限は今日だけよ」
腰に手を当てて得意そうになっているけど・・・
「これってプレゼントになるのかな?」
「アンタバカァ〜?この天才美少女アスカ様とデートができるのよ。その券をオークションに出せば、すぐに金額が跳ね上がるわよ。さあ早く使いなさいよ」
「はは、アスカらしいプレゼントだね。ありがたく使わせてもらうよ」
「おっけ〜〜い、じゃあ準備をしてくるわね、アンタも早く準備しなさいよ」
「うん」
デート券を渡すとアスカは部屋に戻っていった。僕も準備をしようと。
「シンちゃん、シンちゃん」
「はい?」
不意に背中から声をかけられた、ミサトさんが襖の隙間から手招きをしている。
「どうしたんですか?」
「今の一部始終バッチリ見させてもらったわよん」
「は、はあ」
うわっバッチリ見られていたのか、何か変な事言われるのかな。
「ふふ、アスカらしいプレゼントだったわね」
「そ、そうですね」
「どうしてデート券だかわかるかしら?」
「え?いいえ」
ミサトさんはどうやら理由を知っているみたいだ。どうやらアスカはお小遣いを使いすぎで僕へのプレゼントを買えなかったらしいので、ミサトさんにお小遣いの前借を頼んだが、拒否されてデート券にしたらしい。
「そういう訳なのよ、バッチリデートを楽しんできなさい。これは私からの誕生日プレゼントよ。品物じゃなくてごめんなさいね」
「ありがとうございます」
ミサトさんからも封筒を渡された、まさかデート券じゃないだろうね?
「あ、お金」
封筒の中にはお札が数枚入っていた。
「プレゼント買う暇が無かったのよ、それなら今日のデート代と臨時のお小遣い代くらいになるでしょう」
「はい、ありがとうございます」
「んじゃ、私はもう少し寝るから楽しんでらっしゃいね」
「はい、お休みなさい」
ミサトさんはウインクをすると襖を閉めた。これならお金の心配をしなくてすむぞ、さあ部屋に戻って着替えよう。
「さあ行くわよ!」
「気合が入っているね」
「当然よ、何よアンタの格好は普段着じゃないのよ」
「普段着って・・・外出用なんだけど」
TシャツにGパンなんだけどダメなのかな?アスカはヘッドセットの代わりに赤いリボンを結びつけて白いワンピースか。
「どう?アタシは可愛いでしょう」
「うん、可愛いよ」
「ふふ、ありがとお世辞でも嬉しいわよ」
お世辞じゃなくて本当に可愛いんだけどね。それに褒めないと明日の日を拝めないからね。
「それでどこへ行くの」
電車に揺られて繁華街行くけど、行き先はアスカに任せてある。
「映画館よ」
「映画館」
「そ、デートの基本は映画よ。だから最初は映画を観るのよ」
「映画かあ、最近は見てないなあ」
観たいって映画はないし、テレビで済ませちゃうもんなあ。
「シンジは何か観たい映画はあるの?」
「別にないけどアスカはあるの?」
「うん、今好きな女優が出ている映画がやっているのよ、それを観たいけど良いかしら?」
「うん、良いよ」
アスカに全て任せるよ。
「結構人が多いね」
「人気映画だからよ」
映画館に着いた、休日だから人が多いね。
「これが今日観る映画よ」
「へえ〜」
アスカがポスターを指さした。どうやら恋愛映画らしい。
「じゃあ入ろうか」
「じゃあお願いね」
「はい?」
僕は首を傾げた。
「ハイじゃないわよ、チケット代よ。アタシとあんたの分よ」
「ぼ、僕が払うの?」
「アンタバカァ〜?デートで女の子に払わせる彼氏がどこにいるのよ?
「でもデート券が・・・」
「裏を見てみなさいよ!」
「裏?」
アスカがポシェットからデート券を取り出して裏側を僕に見せた。
「読んでみなさい」
「ええと、デート代はアスカ様には出させず全て彼氏持ちです」
やられた・・・
「さ、流石アスカだね。僕の負けだよ」
「ふっふ〜〜ん、アタシに勝とうだなんて百億万年早くってよ!」
僕は渋々財布を取り出してチケット代を払った、まあミサトさんからの臨時のお小遣いがあるからいいや。ミサトさんもこの事を予想してくれたのかもね。
「シンジ〜ジュースとポップコーンを買って〜」
「うん」
アスカはオレンジジュースにポップコーンのキャラメル味、僕はコーラにポップコーンはチーズ味だ。
「フライドポテトも美味しそうだなあ」
「ダメよ、映画観たらお昼ご飯だから我慢しなさい」
「う、うん」
映画の次はお昼ご飯か、きっちりスケジュールを立てているね。おっとパンフレットも買わないとね。
館内は指定席だ、流石恋愛映画だねカップル多いよ。
「シンジ、シートはあそこよ」
「うん」
僕はアスカの後を付いて行く、シートに座ると、コーラを一口飲んだ。
「美味しい」
ポップコーンを食べたアスカの感想だ、館内だから小声だね。
「シンジのポップコーンもちょうだい」
「うん」
多分食べると思って別の味にしておいたんだよね。
「こっちも美味しい、アタシのも食べて良いわよ」
「うん」
キャラメル味は甘いね、でも食べ過ぎるとお昼ご飯が入らなくなりそうだ。
館内が暗くなって映画が始まるぞ、おっと携帯の電源はちゃんと切っているから問題はない、マナーだよね。
始まった恋愛映画、さっきパンフレットをちょっと見たけど、王女と新聞記者の恋を描いた映画のようだ。古い作品みだいだね。
アスカに聞いたら、テレビでも何回か放送されていてアスカも見たことがあるらしい。それなら別に見なくても良いじゃないかと思ったら、テレビで見るのと映画館で見るのは違うって怒られたよ。
・・・テレビで放送されていた時は家事で忙しかったから見た事ないけど、引き込まれる作品だね。
もぐもぐ、もぐもぐ
映画の終盤、僕のポップコーンはそろそろ空みたいだ。アスカは映画に見入っていて全然食べていないぞ。
「アスカ」
「何?」
「ポップコーン食べないの?」
「食べて良いわよ」
「うん」
視線はスクリーンに向かっている、やっぱり女の子ってこういうストーリに憧れるのかな?
アスカから貰ったポップコーンを食べ終わると映画も終わり館内が明るくなった。
「あ〜感動しちゃったわ、名作は何回見てもいいわね。あっアタシのポップコーンが空じゃない、シンジッ食べたでしょ」
「ええっ!?アスカが食べて良いって言ったじゃないか」
「言ったけど少しは残しておくのが礼儀ってもんでしょうが。罰としてお昼ご飯は奢りね」
残しておいても奢れって言われるんだろうな。
「さあ出ましょう、ジュース残ったから飲んで良いわよ」
「あ、うん」
アスカから渡された飲みかけのジュース・・・ス、ストローにアスカの口が・・・
「あ〜〜何やらしい想像してんのよ、そんなの普通じゃないのよ、ほら」
アスカがストローを無理やり僕の口に押し込んだ。
「ほら残すと勿体無いから飲みなさい」
「う、うん」
僕は肺活量を全て使って飲み干した。
「美味しかった?」
「う、うん」
「何ニヤケてんのよバカシンジ〜、さあご飯食べに行くわよ」
「うん」
ジュースとポップコーンの空を出入り口のゴミ箱に捨てるとアスカが僕の手を取って歩き始めた。
「ど、どこで食べるの?」
「ここの上の階にあるお店よ」
僕達はエスカレータに乗ると上の階を目指した、レストラン街があるんだね。
「何を食べるの」
「高級フランス料理!・・・は無理だから普通のお店よ」
流石に高級フランス料理は金銭的に無理だよね。
「ここよ」
「イタリア料理かあ」
「そっここのスパゲッティーが美味しいって評判なのよ」
「ピザも美味しそうだね」
メニューを見てから決めましょう。
僕達は店内に入り注文した。
アスカは和風スパ、僕はシンプルにミートソースだ。それと2人で食べられるように大きなピザを一枚頼んだ。
「「いただきま〜っす」」
テーブルに並べられた料理、美味しそうだなあ。
もぐもぐ、もぐもぐ
「さっぱりしてておいし〜」
「うん、ミートソースも濃厚で美味しいよ」
この味、家でも再現できないかな〜無理だろうね。
「ピザもチーズがとろとろで美味しいわ」
「うん、トマトも美味しいね」
「ほら、ソースが口のまわりについているわよ」
「あ、ありがとう」
アスカが口の周りに付いていたソースを拭いてくれた、ちょっと恥ずかしいなあ。
「ふふ、アンタって本当にスパゲッティーを食べるのが下手ねえ」
「い、いいじゃないか。アスカだってカレーうどん食べるの下手だろう」
すぐカレーの汁を飛ばして服に付けて騒ぐからね。
「あ、あれはアタシは悪くないの、カレーうどんの構造に欠陥があるのよ」
「はは、でもカレーうどん好きだよね」
「いいじゃん、美味しいんだもん」
カレーうどんも良いねえ、今度作ろうかな。
「あ〜〜美味しかった」
お腹も満たされて満足満足、次はどうするのかな?
「アスカ、この後はどうするの?」
「お昼ご飯の後はウィンドショッピングよ!歩いて食後の運動」
ウィンドウショッピングか、買わないのに見て回る女の子の感覚はわからないんだよねえ。
「さあ行くわよ」
「あ、うん」
再びアスカが僕の手を取って歩き始めた、ちょっと照れくさいよ。
映画館を出るとアスカと手を繋いで歩く・・・
「どう?」
「何が?」
「こうして手を繋いで歩いているとデートしているって感じでしょう」
「う、うん」
「ほら、あの洋服可愛い〜」
アスカが僕の手を繋いだまま走り出した、お店のウィンドに女性物の服が展示してある。
「入ってみましょう」
「うん」
拒否する理由がないのでお店に入った。
「うわ、これもこれも可愛いわ。ねえシンジ、どっちが似合うと思う?」
「そうだね〜」
どっちも可愛いけど迷うなあ。
「試着してみるわ、ちょっと待ってって」
「うん」
試着かあ、アスカは良いけど一人で待たされる僕はちょっと恥ずかしいんだよね。周りは女性ばかりだから。
「どうかしら?」
アスカが一着目を着て登場した。フリルが着いた洋服、ちょっとお姫様って感じかな。
「似合っているよ」
「じゃあもうもう一着着るわね」
再びカーテンを閉めた。
「こっちはどう?」
「似合っているよ」
こっちはなんかロリっぽい感じで、幼く見えるなあ。
「どっちが良いかしら?」
「そうだね〜〜お姫様風のこっちかな」
じゃじゃ馬アスカがお嬢様っぽくみえるかな。
「そう、じゃあこっちを買ってね」
「え、ええ!?」
「何驚いてんのよ、デートって言ったらお洋服を買うのが当然でしょ」
「そ、そんなの聞いてないよ」
「これ見てみなさいよ」
また渡されたデート券、どこにもそんな事は書いてなかったんだけど?
「剥がしてみて」
「剥がす?」
見てみたら券の隅の方が捲れている、剥がしてみると・・・
「読んでみなさい」
「アスカ様が欲しいと言った洋服は買ってあげる・・・」
「そういう訳よ」
アスカはウインクをするとカーテンを閉めた。僕はデート券を見つめたまま呆然と立ち尽くすのであった。
「さっすがシンちゃん、お金持ちね。ありがと」
「う、うん」
「な〜に暗くなってんのよ。今度はこの洋服を着てデートしてあげるわよ」
「でもお金は全部僕出しだろ」
「ばっかねえ〜それは今日だけよ。ミサトに臨時のお小遣い貰ったんでしょう」
「どうしてそれを?」
「このアスカ様には何でもお見通しよ」
・・・アスカには敵わないね。
「歩き疲れちゃったわ、甘いデザートを食べたいわ」
「わかったよ」
どうやらデザートを食べるお店も決まっているらしい、他の店には見向きをせずに目的のお店へ向かった。
「歩きつかれたわね」
「そうだね」
日差しが強いから歩くだけで汗をかくよ。
「何を食べようかしら。ってこれ!」
アスカがメニューを僕に見せて指さしたのは・・・
「大きなアイスだね」
「そっ」
大きなカップにアイスやデザート、ケーキを詰め込んでいる。これって一人前なのかな?
「一人で食べるの?」
「これはカップル用よ、2人で食べるのよ」
「だよね、アスカが一人で食べているところを想像しちゃったよ」
「アタシはそんなに大食いじゃないわよ」
「はは、ごめん」
メニューを注文して暫くするとアイスがやって来た。
「美味しそう〜〜いただきま〜〜す」
僕とアスカはアイスを食べ始めた。二人で一つのアイスを食べるのは恥ずかしいけど、周りを見たら結構食べているよ。
「ケーキも美味しいわ」
女の子だね、デザートは僕より食べる量が多いなあ。
「どう?2人で一つのアイスを食べる、デートでしょう」
「うん」
「楽しいでしょう?」
「うん、楽しいよ」
「ふふ、良い誕生日になったわね。はいアーンして」
「あ、うん」
アスカのスプーンからアイスをアーン・・・デートしている。
「美味しいでしょう」
「うん、美味しい」
「ふふ」
アスカの微笑みに一瞬僕はドキッとなった。笑顔が可愛い。
「今日は楽しかったでしょう」
「うん、楽しかったよ」
電車を降りて家路を歩く僕とアスカ、当然デートなので手を繋いだままだ。
「でも僕とデートして本当に良かったの?」
誕生日でお小遣いもなかったから嫌だったと思うんだけど・・・
「ばっかねえ〜嫌だったらデートはしないし、誕生日プレゼントもあげないわよ」
「そ、そうなんだ」
「もっと自分に自信を持ちなさいよ。ナヨナヨしているシンジは嫌よ。もっと男らしく胸を張りなさい」
「う、うん」
僕は背を剃り返して胸を張ってみた。
「ど、どうかな?」
「ふふ、良いんじゃないかしら、でもそれじゃあ疲れるわよ」
「そうだね、ははは」
「ふふふ」
僕たちの笑い声が空いっぱいに木霊した。そろそろ自宅だ、デートも終わりかあ。
玄関の前に着いた、アスカは握っていた僕の手を離した。
「シンジ、今日のデートは楽しかった?」
「うん」
「最高の誕生日だった?」
「うん」
「またデートしたい?」
「うん」
「じゃあ目をつぶって」
「うん」
僕は言われるままに目をつぶった・・・
「ハッピーバースデー」
耳元で囁かれるアスカの声と頬に感じる柔らかい感触・・・
「たっだいま〜〜」
目を開けるとアスカは玄関を開けて家の中に入っていった。僕は左頬を押さえて家の中に入った。
「ただいま」
今日の誕生日は一生の思い出に残るのかな。
シンジ君の誕生日、お金の無いアスカちゃんはデート券でこのピンチを乗り越えます(笑)
お金は当然シンジ君持ちでしたが、楽しんだ二人でした。
2人にとって思い出に残こる誕生日になりました(^^)
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION デート券