MSW
「・・・・・・」
夜、暗い室内電灯はつけていない。空は雲がかかっており月の輝きは、地上にはとどいてはなく暗闇。
「・・・・・・」
部屋はTVの明かりがレイの顔を照らしていた。
「・・・・・・」
レイは座布団に膝を抱えて座っており、ずっとTVを凝視していた。スピーカからはスタッフロールが流れていた。どうやら映画のようである。傍らにはDVDが何枚か積まれてた。
「・・・・・・」
一つだけケースが開いていた。どうやらこれが最後のDVDのようである。そこに書かれていたタイトルは・・・・
「ポケットの中の戦争」
「ぐすっ・・・」
レイは瞳に涙を貯めていた。
カチ!
電灯を付けるとデッキからDVDを出し、ケースに戻す。そして赤い瞳に溜まった涙を取る為かテッシュを一枚手にとる。
「チ〜〜〜〜〜〜ン」
ポイ
丸められたテッシュは孤を描き見事ゴミ箱へ、小さくガッツポーズ。
「・・・・よし」
感動の余韻に浸っていたレイは、最終話のジャケットをもう一度丁寧に読み直す。
「このお話、まるで碇クンと私の為にあるみたい・・・・ぽっ!」
瞳を瞑り、頬を赤らめる。今まで鑑賞していた場面を思い出しているのであろうか?
「・・・でも最後はシクシクシク・・・・」
今度は天井を見ながら涙が流れていた。ラストは悲しい結末である。
「碇クン・・・シクシクシク・・・・」
いつのまにか登場人物がシンジにかわっていた。レイは鼻をぐじゅぐじゅさせながら眠りについた。
次の日午後から格闘技のシュミレーションがあり、午後から行けば良いのだがレイは早起きをし、ネルフに行った。そして迷う事無くある場所を目指していた。そこは。
リツコの研究室
「そう」
リツコはレイの話しを聞いていて目はタイトル『猫百選』の写真本をずっとウットリとした目で見つめていた。時には写っている猫を撫でるという、傍から見ればアブナイ姿がそこにはあった。
「はい・・・・」
レイはそんなリツコに驚く様子もなく、淡々と話しをしていった。今のリツコの姿は知らない人が見たら絶対にアブナイ人、イチャッタ人と認識するであろうが、すでにネルフの名物になっており関係者全てが知っていた。
「これに乗りたいわけね」
「はい・・・・」
希望した機体を見せるが見ていない。猫を見つづけている。
「・・・・赤木博士、見ているんですか?」
「え?見ているわよ。このショートヘアに乗りたいんでしょ、わかるわ〜この毛並み、愛くるしい顔、つぶらな瞳、柔らかい肉球、申し分のない尻尾。ああ!レイアナタは見る目があるわ、さっそく零号機を改装しましょう」
「・・・・・・・・」
レイは開いた口が塞がらない。リツコは本を真正面から横から斜めから見つめにやけていた。
「んもう!可愛いっ!」
「・・・・博士、違う・・・・」
「えっ違うの?」
コクリ
レイはそれから一時間かけて説明をおこなった。途中「なぜこれにしたいのか?三毛の方が良いのではないか」と言われたが、頑として断りようやく伝えた。
「そうなの、レイの頼みだし一肌脱ぎましょう」
「お願いします」
レイは一礼すると立ちあがり部屋をあとにした。リツコはコーヒーを一口飲むとモニターの前に座り、素早い指さばきでキーを叩きつづけた。
「これに乗りたいか・・・・・ふふレイも感動したようね」
横に置いてあるDVDを横目にひたすらキーを叩く。
「え〜、変更?」
ミサトの部屋、アスカはイスにドンと腰を下ろしブツブツ不満をもらした。隣にはシンジも座ってる。
「そうなのよ。なぜかわからないけど突然二時間延期になったのよ」
「まったくリツコがまたくだらない事を始めたんでしょ?」
「わからないのよね部屋にこもったきり出てこないのよ。そしたら延期だって」
「なんでMADに時間を左右されなくちゃいけないのかしら、そう思わないシンジ?」
「えっ?あ、そのリツコさんも訳があるんだよ」
突如振られたシンジは、ボ〜とお茶を呑んでいたので内容を把握してなく曖昧に答えた。
「はあ?リツコに訳なんてあるわけないじゃない。大方自分の趣味に走っているのよ」
「はっはは・・・」
アスカの悪口にシンジは笑って答える事しかできなかった。
プシュー
そこへ扉が開いた。そして立っていたのは
「綾波!」
「ファースト!」
「ん、レイどうしたの?」
「・・・・・」
レイは扉の外側に立ったまま、じっとシンジを見つめていた。そして・・・・
スタスタスタ
シンジの前に行き・・・
「どうしたの綾波?」
「・・・・・・」
ダキダキ
シンジに抱きついた。
「わっ綾波!突然なに?」
「こら!ファーストなにしてんのよ」
「あらレイったら大胆ね〜お姉さんの目の前で、強引にシンちゃんとの仲を認めてもらいたいわけ?」
「・・・・・・」
シンジは驚き、アスカは怒り、ミサトはにやけ、レイは無表情で部屋は騒がしい。すると・・・
パッ
レイはシンジから身を離すとスタスタ部屋を出ていった。
「さよなら・・・・・」
「あっ、うん」
「何しに来たのよ!」
「う〜〜ん、こう見せつけられちゃあ。認めちゃおうかな♪」
「ミサト!なに言っているのよ」
「あら〜もしかして?焼いてるの、ん〜可愛いわね。もちろんアスカとの仲も認めてあげるわよん」
「なななななにが認めてあげるわよんよ!そんなんじゃないわ」
「はいはい」
ミサトがアスカをからかっている間、シンジは締められた扉をずっと見つめていた。
(さよならって、すぐテストじゃないか)
首を傾げていた。
たあいもない事を喋っているとすぐに時間はやってくる。シンジ達は着替えリツコのもとに向かった。
「え〜、どうしてよ?」
リツコの言葉にアスカは怒り叫んだ。
「今日はシンジ君とレイのシュミレーションに変更したから、アスカはもう帰っていいわよ」
「いきなりなによ!せっかく着替えたのに」
「また着替えるのがイヤなら見学していていいわよ」
「そういう問題じゃないの!」
文句を次々と吐き出すがリツコは相手にしていない。
「マヤ、準備を始めて、シンジ君にレイも準備して」
「「「はい」」」
「私を無視しないの」
「アスカ、仕方ないわよ」
その場で地団駄を踏むアスカを見かねたミサトはなだめた。
「でもどうして、よりによって私を外したのよ」
おさまりそうにないアスカ、ミサトは耳元でボソっと呟いた。
「さっき耳に入れた情報なんだけど、時間が変更になったのはリツコがまたヘンな事をするみたいだからよ」
「えっそれじゃあ・・・・」
「シンジ君とレイが被害者になっちゃうってわけね」
アスカは身震いした、MADの研究は恐ろしい事を知っているから。
「わ、私は助かったのね」
「そうよ。文句を言っていたらレイと代えられるかも」
「じょ、冗談じゃないわ」
「静かにしておきなさい」
「そうしたほうがよさそうね」
こうしてアスカは大人しくなり、静かに見学をした。
「それでは始めます」
マイクを通してリツコの声が二人に届く。
プラグ内のモニターにバーチャル空間が現れ、前方にはレイが乗る零号機・・・・・
「あれ?」
シンジの前方に現れたのは、いつも見なれた零号機ではなく・・・・黄色のV字アンテナ、手足は白く、胴体は青、そして胸のエアダクト。
「リツコ、アレはなによ。零号機じゃないじゃない」
リツコの後ろでモニターを見ていたミサトは当然の事ながら尋ねた。
「ふっ知りたい?」
「はあ?」
「仕方ないわね。教えてあげるわ。あれはガンダムNT1アレックスよ」
ミサトを見るとニヤリと笑い、再びモニターに目を戻す。
「「・・・・・・・」」
ミサトとアスカは『また病気・・・』とおもった。
「あれは何よ?」
アスカはモニター内の違いに気がついた。シンジがのる初号機が・・・・
「あれ?あれはね・・・・・・」
全身がいつもの紫ではなく緑、頭部は丸く目は中央に一つ、右肩に盾らしきもの左肩にトゲがある。
「あれはね。ザクよ!それもザク改よ」
握りこぶしを作り力説するリツコ。アスカは思った『私じゃなくて良かった』と。
「リツコさん、どういうことですか?」
「別に気にしなくていいわよ。いつも通り始めて」
「は、はあわかりました」
機体が変ったといってもバーチャル、プラグ内は変わっていない。
「それじゃあ始めます。うわっ」
シンジは驚きの声を上げた。ザクの形をした初号機はヒートホークを持ち走り出した。
「か、勝手に動いてる」
「え?リツコどういうことなの?」
シンジの叫びにいち早く察知したミサト、当然質問するがリツコはじっとモニターを見つめていた。
「リツコ!」
「ふっ慌てないで、シナリオは完璧よ」
「はあ?」
腕を組んだままモニターを見つめている。
(リ、リツコの顔が・・・・・・)
(まったくリツコは!)
ミサトとアスカはその瞬間驚いた。
((MADね・・・・・))
この瞬間二人は口出しするのを止めた。
「碇クン・・・・・」
アレックス零号機に向かってくるザク初号機、レイは腕のガトリンク・ガンを向け発射した。当然こちらも自動で動いている。
ドドドドドド!
連射されるガトリング・ガン、ザク初号機に当たっていく。
「うわ、綾波!あれ?痛くない」
普通なら神経を接続してるので痛みが走るのだがそれがない。
サッ!
ザク初号機はジャンプし、ヒートホークを振り下ろす。
ズシャア!
「あ、綾波!」
ザク初号機がアレックス零号機の右腕を切り落とした。シンジは痛みがレイに伝わるとおもい心配した。
「大丈夫、痛みはないから」
「そ、そう、よかった〜」
自分と同じく痛みがないとわかり安心した。
シャッ!
アレックス零号機が背中からビームサーベルを抜き、ザク初号機に斬りつけた。
「わ、何するの?」
「ごめんなさい、シナリオなの」
「え?シナリオ」
訳が判らないシンジ。機体は勝手に動いている。
「だから、碇クンは乗っているだけでいいの」
「はあ、そう・・・・」
ガッ!
ザク初号機のヒートホークとアレックス零号機のサーベルが交差しあい押し合う。
ズ、ズズズ・・・
地面に日々が入る。その時ザク初号機がバランスを崩した。
ズシャア!
それを見逃さなかったアレックス零号機はヒートホークを持っている右腕を斬り落とす。
「うわ!」
痛みはないのだが、乗っている事にはかわりがないシンジは叫び声を上げた。
「ごめんなさい」
「あああああ!」
バシュウウウウウ!
サーベルがザク初号機のコクピットを貫き、動きを止めた。
ドオオオン!
ザク初号機はサーベルを抜かれるとその場にあお向けに倒れた。
「やられちゃった・・・・・」
プラグ内から見える空を見ながら呟き思った。
(これってなんだったんだろう?あれ?)
急にシンジの体が動かなくなった、そして額から流れるものが・・・・
(体が動かない?何か頭が冷たいな・・・・・・赤い・・・・血!?)
額から流れる血、だが痛みはない。考えていると不意にコクビットが開いた。
(前が開く?そうかバーチャルだからか、でもこれって意味があるんだろうか?)
これがどういう訓練か訳が判らずにいると、太陽の光が差しこみそれを遮る物体がシンジの前に来た。
(ん?・・・・綾波)
「・・・・・」
ガシッ!
レイは無言のままシンジを見つめると抱きついた。
(わっ綾波!イキナリ何をやめてよ〜・・・声が出ない!体が動かない!)
なんとか動こうとするが、体が動かず抱きつかれたまま頬を赤らめる。
「碇クン・・・・ぽっ」
(離れてよ〜〜〜)
シンジの声は届かない。
「何よ!これ〜〜」
モニターを見ていたアスカは叫んだ。
レイがシンジに抱きついた後、モニターにはテロップが流れENDの文字。
「感動ね」
リツコはハンカチで目頭を押さえている。
「リツコ、なんなのよ?」
ミサトも判らずに質問する。
「これね。機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争よ。レイが演じたいって言うから、最後はストーリを変えてやったのよ。感動したでしょう」
「「・・・・・・・」」
感動の為涙が止らないリツコ、二人は口を開けて呆れていた。
「アスカ・・・帰りましょう」
「うん・・・・・」
二人はまだ涙を流しているリツコをそのままにしてその場を出た。だがアスカは・・・・・・
「ファースト、上手いこと考えたわね。こうなったら・・・・・」
モニター内ではまだレイがシンジに抱きついていた。
「碇クン・・・・・・ぽっ」
(は、離してよ〜〜〜)
その状態はリツコが感動の余韻に浸り終える三時間後まで、ずっと続くのであった。
マヤは・・・・
(先輩の涙・・・・素敵)
呆れる事なくずっと付き合っていた。
NanshiさんのリクエストによりMSW公開です。それと続編を待っていた方ようやく描きました。
今回は0080です。と言ってもストーリはまるっきり違いますが(^^;)まあレイちゃんがシナリオを書いたという事でご勘弁を<_>
タイトルのMSは言うまでもなくMAD SCIENTISTの略です。このSSはリツコさんをおもいっきりイッチャッタ科学者にしています。
あとなぜかこのMSシリーズ(シリーズ?)って人気があるんですよね。MS、MSU、MSVは自信がなかったのに読んだ人は、面白いと言ってくれて続編を書いてくれ!って言うし感受性の違いなんですかね?
みんなガンダムが好きなんですね(jun16も好きです)
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION MSW