台風

 天気予報は明日の上陸する台風を流していた。

「うわー明日はひどくなりそうだな」

 シンジはリビングから空を見つめた。空は昼でありながら薄暗く、空気が生暖かい。雨はまだ降っておらず風も微弱、嵐の前の静けさである。

「シンジ、万が一に備えて準備はしているの?」

 アスカは寝転がり雑誌を読みながら尋ねた。

「うん、一応準備したよ」

「よろしい」

 アスカは何もしていないのに威張る。

 ポツポツポツ

 夕方、雨が降り出してきた。

「降ってきたわね」

「たっだいまー」

 そこへミサトのご帰宅。

「おかえりなさい」

「シンジ君、今夜ぐらいに台風が上陸するでしょ」

「わかってますよ。水や懐中電灯は用意しましたよ」

「さっすがシンジ君ね。用意がいいわ」

 ミサトは台所に準備された水や懐中電灯、非常食を確認した。

「?シンジ君、足りないわよ」

「え?何がですか。水はあるし懐中電灯、ラジオ、非常食に・・・・」

 シンジは確かめるが何も忘れ物が無い。

「ミサトさん、ちゃんとありますよ」

「無いのよビールが!」

「・・・・・」

 シンジは唖然とした。

「ミサトさん・・・ビールは冷蔵庫に入っていますよ・・・」

「ダメなのよー!台風の時のビールが無いわ」

「・・・・・」

 声も出ない。

「これじゃあ、台風は過ごせないわ。ちょっち買ってくるわ」

 そう言うとミサトはダッシュで家を出ていった。残されたシンジはただ立っていた。

 

 

 

「ミサトはどこに行ったの?」

「ビールを買いに行ったよ」

「あれ?ビール切れてたっけ」

 アスカはふと首を傾げた。ビールはアル中の為に常に冷蔵庫に確保しているのである。無くなった事は無い。

「台風用のビールがあるんだって」

「・・・ミサトらしいわね」

「うん」

 二人は呆れていた。

「たっだいまー」

 そこへ陽気な声、ミサトのご帰宅。腕には大量のビール。

「さあはいって」

「おじゃまします」

「綾波!」

 ミサトの後ろにはレイが立っていた。

「どうしたの?」

「途中で会ってね。台風が来るし一人じゃ不便じゃないかなって、連れて来たのよ」

「別に不便じゃないんじゃない?」

 アスカはレイの登場でムッとする。

「すると綾波は泊まるんですか?」

 コクン

 レイは無言でうなずく。

「そうよーシンちゃん。よかったわねえ」

「な、何がですか」

 ミサトのからかいにシンジは真っ赤。

「んもーわかっているくせに」

「ミ、ミサトさん・・・」

 シンジは夕食を作る為リビングから逃げ出した。

(逃げていい、逃げていい)

 そしてリビングには家事を一切しない女三人。

「ファースト、アンタって予告無しに来るのね」

「何?」

 テーブルに肘をつき、雑誌をペラペラめくりながら、だらけるアスカ。レイは聞き流しながらペンペンを撫でていた。

「来るなら来るで電話をしなさい」

「ええ」

 無茶苦茶な事を言うアスカ、レイは聞き流し。

「ぷはー流石に台風のビールは美味しいわ」

「「・・・・・・」」 

 ミサトのわけがわからない台詞に二人は声も出ない。

「台風のビールって何よ?」

「台風時の気圧、湿度、温度で微妙に味が変わるのよ。この味がわかるのは世界広しといえ私だけよ」

「・・・そりゃミサトだけね」

 

 

 

 空が暗くなるにつれて雨が激しくなり、風が強くなってきた。

「「「「いただきます」」」」

 そんな中葛城家ではシンジシェフによる楽しい夕食。

「うーん、シンジ君の料理は美味しいわ!ビールが一層引き立つわね」

「ミサトさん、飲み過ぎですよ」

 ビールはすでに五本開けている。

「綾波、味はどう?」

「おいしい」

 レイはシンジの手料理を味わいなぜか頬を赤らめる。

「シンジ、ソース取って」

「うん、アスカおかわりは?」

 アスカは茶碗をからにするとシンジに渡しついでもらう。

 食べている間も外はひどい雨と風。

 

 

 

「アスカ、お風呂入って」

「えーまだ早いわよ」

 食後の寝転がりを邪魔されて膨れるアスカ。

「遅くなると停電になるかもしれないから、今のうちに済ませた方がいいんだよ」

「ちぇーーわかったわ」

 納得すると着替えを取りに自室に戻り、お風呂場に向かった。

「次は綾波が入ってね」

「うん」

 アスカがお風呂に入っている今、シンジは台所で後片付け、レイも手伝う。ミサトはリビングでTV鑑賞大笑い。

「碇クン、はい」

「ありがとう」

 レイが食器を洗いシンジは受け取り拭いていく。

「碇クン、はい」

「ありがとう」

「碇クン、はい」

「ありがとう」

 和やかな風景が続く。

「碇クン、はい」

 ピト!

 皿を持ったレイの指がシンジの指に接触。

 ぽっ!

「ありがとう」

「・・・・・・」

「?」

 テンポ良くいっていた作業が突如止った、シンジはなんだろうと思い、レイを見てみた。

「綾波?どうしたの」

「な、何でも無いわ、はい」

「・・・それはスポンジだよ」

 気が高ぶって間違うレイ。

「あっ、はい」

「それは洗剤」

「・・・・はい」

「それはペンペン」

 レイに掴まれたペンペンは困っている。

「クエ〜〜」

「ごめんなさい、こういう時どんな顔をすればいいの?」

 間違いに顔を赤らめながら、意味がわからないレイ。シンジは一瞬唖然としていつもの台詞。

「・・・・・・わ、笑えばいいと思うよ」

「うん」

 場が和む台所であった。

 

 

 

「ふ〜サッパリした」

 お風呂から上がったアスカが台所にやって来た牛乳を飲むためである。

「綾波、入って」

「うん」

 こうしてアスカと交代にレイはお風呂へ。

「ごきゅごきゅごきゅ、ぷは〜やっぱり風呂上りの牛乳は最高ね」

 口を手で拭いご機嫌。

「アスカ、ラッパ飲みは行儀悪いよ」

「いいのよ。誰も飲まないんだから」

 牛乳を冷蔵庫にしまうとリビングへ、シンジも後片付けが終わったのでリビングへ。

「うわ〜ひどくなりそうよ」

 ミサトはTVで臨時ニュースを見ていた。

「本当ですね。雨風も強くなってきましたね」

 外は風のせいで雨が窓に叩き付けられていた。

「今夜が最大暴風圏内に入るわよ。気を引き締めないとね」

 おちゃらけた顔から一変真剣な顔へ。

「・・・・・ミサトさん。ビ〜ルを持って言っても、言葉が薄れますよ」

「まあまあ、気にしない!気にしない!」

「「・・・・・」」

 二人は呆れた。

「それじゃあ気を引き締め食べよ」

 アスカは袋から非常用に用意した、ビスケットを開けだした。

「アスカ、ダメだよ。それは」

「気にしない!気にしない!それに、もしもの時お腹が空いていたら動けないでしょ」

「・・・・・」

 シンジは心の中でため息をついた。

「碇クン、お風呂開いたわ」

 一時してお風呂から上がったレイがやって来た。パジャマを用意していなかったのでアスカのTシャツと短パンを着ていた。

「あ、うん」

 一瞬レイのお風呂上りにシンジはドキドキ。湯上り直後で白い肌は桜色に染まっていた。アスカとはまた違う色っぽさが出ていた。

 そしてシンジはお風呂へ

(・・・・はあ〜綾波何だか色っぽかったな)

 湯船につかり天井を見つめながら、命の洗濯。そしてシンジも上がり最後はミサトが入る。

 

 

 

 ビューーーーーーー!

 夜も遅くなり11時をまわった。風が強くなっている。

「風が強いわね。こりゃ凄いわ」

 ミサトはビールを飲みながらお気楽状態、別に台風の強さに興味はない。

「何か、面白くなってきたわね」

 アスカは非常用のお菓子をパクパクと口に消えていく。

「台風・・・自然の脅威・・・・使徒じゃない・・・問題無いわ」

 レイはペンペンを撫でながらTVを見ていた。

 台風に関して緊張してない三人、シンジだけが心配していた。

(風が強いな〜大丈夫かな?)

 その時

 ビューーー!ビューーー!

「「「「あっ!!!!」」」」

 猛烈な風とともに停電。

「あらら、消えちゃった」

「シンジ!懐中電灯はどこよ?」

「アスカが持っているじゃないか、うわっ」

「あっそうだったわね」

 暗い中、騒がしい葛城家。

「スイッチをってファースト!アンタ何してんのよ!」

 懐中電灯をつけた先にうつしだされたのは、シンジ抱きついているレイの姿。

「怖いから抱きついているの」ぽっ!

「綾波〜離れてよ!」

「怖い・・・」

「光がもうあるでしょうが!離れなさい」

 アスカに無理やり引き離されたレイ、少し残念そうである。

「まったく油断も隙もあったもんじゃないわ」

「これは直にはつかないわね」

 風の強さで復興は無理だと判断するミサト。

「どうします?もう寝ましょうか」

 シンジの提案、暗い中何もすることがないので普通の選択。

「そうねえ、この暗闇を生かして・・・そうだ!怖い話しをしてあげるわ」

「えっ!こんな時に何考えてんのよ。私は寝るわよ」

「アスカ、もしかして怖いの?」

 立ちあがり部屋に戻ろうとするアスカの背中に一言。

「な、怖いわけ無いでしょ!いいわ、つまんない話を聞いてあげるわよ」

 どかんと腰を下ろすアスカ、だが体は小刻みに震えていた。

「OK〜、それじゃあ始めるわよん」

 懐中電灯を下から顔に光を当て、話し始めた。

「これは私が学生の頃なんだけど・・・・」

「「「ゴクッ!!!」」」

 三人は固唾を飲んで聞いた。

「昔はね。毎年台風が沢山上陸していたの。それで学校は臨時休校になったりしたのよ。生徒は当然喜ぶわよね。その日台風が来ていたんだけど、雨は降ってなくて風が強かったの・・・」

「学校が休みで家に居ても暇だから、友達同士で遊びに行ったのよ。まあ昼間はゲ〜センで遊んでいたから何とも無かったけどね。ついつい遊んでいたら夢中になるじゃない・・・」

「気がついたら外は真っ暗、雨風が強くなっていて傘を持っていなくて皆は走って帰ったわ。でもね友達と別れた一人の子がね、強烈な風に乗って飛んできた看板が頭に直撃して・・・」

 ピカッ!

 雷、三人は震えていた。

「血を流して倒れたわ。見つけたとき雨が降る中、その子は亡くなっっていたの。それから台風の日にその子が風と一緒に飛んでいくのを見たと言う人が何人も出てきたの・・・」

 がたがたがたがた

 アスカは膝を抱え、歯をがちがち言わせ震えていた。

「・・・ほらアスカ、後ろの窓に・・・」

 ミサトは窓がわに座っているアスカの後ろを指差した。

いや〜〜〜〜〜〜

 アスカはクッションで頭を隠すと目に涙を浮かべた。

「はははははは!これでミサトの台風Boyの話しは終わりよ。どう?怖かった」

「ええ、凄くリアルでしたよ。怖かったね綾波」

「・・・・・」

「綾波?」

 返事を求めたが帰ってこない。レイは正座したまま気絶していた。

「レイまで驚いたみたいね。話したかいがあったわ」

「その話しってミサトさんが考えたんですか?」

「ほんとの話よ」

「え〜〜!?」

 驚くシンジ、ミサトとはビールを飲んでいた。

「うそよ、うそ」

「な、何〜だ。びっくりしましたよ」

「ふふ」

 カチッカチ!

「あら、ついたみたいね」

 リビングに明かりが戻った。復旧したようである。

「それじゃあ、寝ましょうか」

「はい」

 二人は立ちあがる、だが。

 ガシ!ガシ!

「も、もう寝るの?」

「碇クン」

 シンジは二人に足を掴まれた。

「うん、もう遅いしね」

「ダ、ダメよ。明日は休みだしゲ〜ムをするのよ」

 コクコク

 アスカにレイは同意らしい。

「僕は朝は早いからもう寝るよ。二人でしていいよ。起こさないから」

「ダ、ダメ!」

 必要以上にしがみ付く二人、ミサトは読めた。

「二人とも怖いから一人で寝れないんでしょ」

「そ、そんな事無いわよ。子供じゃあるまいし」

「怖いから碇クンと寝たい」

 強情なアスカに素直なレイ。

「それじゃあシンジ君、レイと寝てあげなさい」

「え!」

「な、何言っているのよ。ミサト」

「碇クン」ぽっ!

 驚く二人、赤らめるレイ。

「いいじゃない、シンちゃん、襲っちゃダメよ」

「襲いません!」

(このままじゃいけないわ。でも怖いから寝ようなんて言えないし・・・・そうだ!)

「待ちなさい!二人だったらシンジが何かしたらいけないから。私も一緒に寝るわよ」

「アスカも?」

 アスカは腰に手を当て、我ながら良い考えと嬉しい。また驚くシンジ。

「そうよ。リビングに三人寝れば問題無いわ」

(ぷぷ、アスカったら強情ね)

 ミサトは笑いながら自室に消えていった。

 

 

 そしてリビングではテーブルが片付けられ、シンジを真ん中に川の字で就寝。

(ふう〜ようやく寝れるよ)

(ふふふふ、何て素晴らしい考えなのかしら、明日も台風来てくれないかな)

(碇クン、碇クンが隣に寝ている・・・・・ぽっ!)

 次の日、台風は通過して晴れた第三新東京。

うわっ!

 起きたシンジ、両隣間近にはスヤスヤと眠っている二人がいました。


 台風の日のお話、いかがでしたか?相変わらず怖い話しが苦手なアスカ、レイはどこから気絶していたのでしょうか?

 ミサトが披露した話は実は本当に・・・・・ありません。

 学校が休みなら遊んでしまえということで、jun16も台風で休みになった時は遊びにいっていました。雨が降っていないから傘を持たずに行って、帰る頃には雨が降ってきてずぶ濡れというパターンでした。

 最後、シンジと一緒に寝られた二人は楽しい夢を見たことでしょう。

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION 台風