V29

 プ〜〜〜〜ン

 リツコの研究室、ビーカーから異様な煙がたちこめる。身を切り裂くような刺激臭、もし今すぐ戦争が起きるのなら、完璧にこの匂いは毒ガス兵器として使用されるであろう。

 ガラッ!

 研究室のドアが開いた。誰かが入ってきたようである。

「う゛っ・・・・・・なによこの匂いは・・・・・・」

 リツコだ。匂いが鼻につくやいなや、口と鼻を押さえて発生源に近づく。

「ミサト!何してるのよ」

 ポコポコとビーカーの中で泡をだしている黒い異様な物体をかき混ぜるミサト。

「見てわからない?」

 ニコニコしながらかき混ぜ、何か薬品なようなモノを入れまたかき混ぜる。リツコが匂いに顔をしかめているがミサトは何ともないようである。

「わからないから聞いているのよ。私の研究室を汚さないで!」

「汚さないでって失礼しちゃうわね。ヴァレンタインでしょ、チョコを作っているのよ」

「チョコ?」

 リツコはビーカーの異様な物体を見た。確かに色はチョコレート色に似ているが、普通よりはるかに黒い気がする。

「そうよ。シンジ君の為に作っているの、日頃世話になっているからね」

「・・・・・・そう・・・・シンジ君気の毒に

 呟き、天井を眺め煙草に火をつけ一服する。

(・・・・・先ほどが今生の別れだったのね)

 先ほどシンジとあった時の笑顔を思い出していた。

 ポコポコ

「ちょっち色が悪いかな〜これを入れて〜〜」

 ポコポコ

「う〜〜ん、色を変えようかな」

 ポコポコ

「トレードマークの紫だから、これをいれればバッチリね」

 ポコポコ

「ありゃりゃ?赤になっちゃった」

 ポコポコ

「どれを入れたらいいかしら?・・・・・・・・・これね。私の第六感がそう言っているわ」

 リツコが天井を見つづけている間、ミサトはずっと実験?を続けていた。

(・・・・・買ったらいいのに)

 その事を告げないリツコ、また止めもしない。

 

 

 

 

「よっし!完成〜〜〜〜」

 ビーカーのチョコは・・・・・・・まだ温度が高いのだろうポコポコと沸騰していたが、色は普通のチョコと同じ色である。

(なっ、どうしてチョコの色になっているの?)

 リツコは驚いた。先ほど見た時は緑、コーヒーを飲んでまた見た時は黄色だったのに最終的には茶色になっていたのだ。

(ミサトの腕は研究してもわからないわ・・・・・・)

 リツコ永遠の課題である。

「型に入れてっと〜〜」

 用意しておいた。ハートや星などの一口で食べられる大きさの型に流し込む。

 ジュジュ〜バギバギ!!

 なぜか音が聞こえる。

「うっし!冷やしてできあがり〜〜」

 そしてミサト考案、リツコ製造のビール専用特製超急速冷蔵『冷え冷え君』に入れた。ビールは三分で美味しく冷える冷蔵庫。チョコなら固まるまで一分と掛からないだろう。

「おおっ冷えてる冷えてる〜」

 チョコを取り出すと用意しておいた箱に綺麗に並べると、ラッピングをした。

「う〜〜ん、我ながら完璧なできだわ」

 箱を見回すと満足する。だがリツコは思った『ラッピングは誰でもできるわよ』と

「んじゃ、渡してくるわ。リツコ使わせてもらって悪かったわね」

 ガラッ!

 速攻で出て行くミサト、リツコは呟いた。

「本当に悪いわよ!」

 ミサトが使用した机は片付けられておらず、床にはゴミくずや溶かす前のチョコのくずが散らばっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ミサトは

 グヲヲオオオオオオオン!

 愛車を飛ばして帰宅していた。

「ふふ、喜ぶわねシンジ君。そしてお礼にビールをサービスしてくれるわ〜〜」

 頭の中ではシンジがチョコに感激してビールを毎日10本サービスするという、物凄く都合が良いシナリオが浮かんでいた。

「待っているのよ」

 グヲヲオオオオオオオン!

 信号無視はなんのその、早くシンジの笑顔が見たいのだろう。

 

たっだいま〜〜

「お帰りなさい、早かったですね」

 リビングでシンジはペンペンと一緒にゲームをしていた。

「まあね〜はいシンジ君」

「?なんですか、これ」

 シンジは箱を受け取ったが何かはわからない。

「何ってチョコよチョコ、それもミサト特製手作りチョコよん♪

 ピキ〜〜〜ピキピキ・・・

 シンジとペンペンの空気が固まった。その空気がわからずニコニコするミサト。

「て、手作りです・・・・・か?」

「そうよ。苦労したんだから、さあ食べて♪」

「えっ?今すぐですか」

 シンジは食べないで捨てようと思っていた。

「そうよ、美味しいから〜」

「あ、後で食べます」

 するとミサトが突然テーブルにうつ伏せになって泣き出した。

「う、うう食べてくれないの、お姉さんは悲しいわ、うう〜〜〜」

「ああっ、泣かないでミサトさん」

 慌てふためくシンジ、ミサトは泣いてなんかいない。今すぐ食べてもらい、『美味しかったから夕食のビールはサービスしますよ』という考えである。

「う、うう今食べてくれる?」

「・・・た、食べますよ・・・・」

「本当、シンちゃんやっさし〜」

 顔を上げると笑顔であった。シンジはトホホと肩を落とした。

(う、うう・・・生きていられるかな?)

 ゆっくりゆっくりとリボンをとき、ラッピングを外す。

 カパ!

 箱を開けた。シンジには普通のチョコに見える。

(外見は普通なんだけどなあ・・・中身が・・・・・)

「さ、めしあがれ」

 ジ〜〜!

 ニコニコで見つめているミサト。

(・・・・・逃げちゃダメだ・・・・・・ってこの場合は逃げる方がイイや・・・・・)

「パックと一口美味しいわよ〜〜〜〜?ペンペンどうしたの?ずっと見ているけど食べたいの?」

 ペンペンもジッとシンジを見ていた。

「クエクエクエ」

 勢いよく首を横に振る。食べたいので見ていたわけで無く、生き様を見届ける為に見ていたのだ。

「遠慮しなくていいわよ。ペンペンも男の子だからね」

「クエ〜〜〜」

 逃げ出すペンペンだが、アッサリとミサトに捕まえられる。

クエ〜〜〜〜!!

「いいっていいて、お返しは気にしなくても」

 シンジの横に座らされた。

「さあどうぞ」

 一人と一匹、汗が瀧の様に流れている。そして見詰め合って・・・

「・・・・・ペンペン・・・こうなったら僕達は一蓮托生・・・・・むこうで会おう」

「クエッ」

 頷くとチョコを口に入れた。そして・・・・

「どう?美味しい〜〜」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 シンジとペンペンは白目をむくと、その場に倒れた。口からは泡も出ている。

「気絶するほど美味しかった〜〜?」

 ミサトにはシンジとペンペンが喜んでいる姿に見えるらしい。

「ん〜〜一生懸命作ったかいがあったわ」

 ミサトは早速、ビールをあけるのであった。

 

 

 その後シンジとペンペンは奇跡的に息を吹き返し、夕食はビールのサービスは・・・・

 無かった。


 ミサトさんのチョコ・・・・・・恐ろしい(^^;)シンジ君にペンペン、災難でした。

 まさに兵器です。

 ちなみにタイトルのV29はヴァレンタインミサト29歳の略です。

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION V29