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んしゃあっ〜!完成〜〜〜!

 台所にコダマする声、ガラスにヒビが入るだろう。マナは何かを作っていたようである。

「これで、シンジのハ〜トは私のものよ!」

 完成したモノを見て満足している。

「ハ〜ト型はありがちだけどいいかな」

 ハ〜ト型・・・・チョコレートである。直径30cmはあるであろうか巨大なチョコの表面には、ホワイトチョコで文字が書かれていた『Love Love SINJI』と。

「どうやって渡そうかしら?渡し方が肝心よね・・・・・・」

 目を閉じ、渡す方法を想像してみる。

 

 

放課後の教室、クラブで残っている生徒以外はほぼ帰っている。

窓から夕焼けの日が差しこめる。

「マナ、用ってなに?」

「じ、実はその・・・」

わけがわからないシンジ、マナは両手を後に顔は下を向いて頬を赤らめている。

「ん?」

「あ、あの・・・その・・・・」

モジモジするマナ、なかなか言い出せない。

「どうしたの?何も無いなら僕は帰るよ」

シンジは鞄を持って教室を出ようとする。

「あっ待って!」

マナは勇気を振り絞って綺麗にラッピングされたチョコを出した。

「こ、これを受け取って」

無理やりシンジに渡すと、恥ずかしさのあまり駆け出した。

「マナ!待ってよ」

シンジは鞄を放り投げ、マナを追いかけた。当然追いつく。

「ご、ごめんなさい・・迷惑だったでしょ・・・」

「そんな事ないよ。嬉しいよ」

微笑むシンジ、その表情にマナはまた頬を赤らめる。

「シンジ・・・」

「じ、実は僕、マナの事が好きだったんだ」

頬を掻きながら、照れるシンジ。

「嬉しい」

涙が流れるマナ、二人は互いに抱き合う。

 

 

「うふ、うふうふ・・・これよ。このシチュエ〜ション、完璧ね。特許ものだわ」

 想像中に流れ出たヨダレを拭くが、また考えると流れ出てしまう。

「ん?でも果して上手くいくかしら?シンジは残ってくれるとして、やっかいなのがいるわね〜」

 頭にはシンジの五月蝿い同居人の顔が浮かんだ。

「う〜〜〜〜ん、厄介なのよね・・・・」

 色々な対策を考えるが良い方法が浮かばない。

「・・・まあ明日一番に渡せばいいかな」

 お気楽なマナ。

 

 

 そして14日午前零時、携帯の短縮ボタンを押した。

 プルルルル・・・・・プルルルル・・・・・プルルルル・・・・・

 相手は出ない、誰であろう?

 プルルルル・・・・・プルルルル・・・・・プルルルル・・・・・カチャ

・・・もしもし

 電話の声は小さい、寝ていたのであろう。

「シンジ、私よマナ」

マナなの?どうしたの?

 相手はシンジ、主夫の彼は寝るのは早い。熟睡中に起こされた。

「実は・・・・・・・ね」

どうしたの?

大変なの!早く来て〜〜〜

 マナは携帯に向かって力の限り叫んだ。電話先のシンジの耳を突き抜けた。

「ええっ?マナ!な、なにが?」

 シンジは携帯を握り締め、驚いた。

「とにかく大変なの、家に来て、キャ〜・・・・・・」

 プチ

 そこで切れた。

「マナ!マナ?」

 シンジはベッドから跳ね起きると、急いで着替えて部屋を出た。

「これでよし!」

 マナは満足して携帯を置いた。

「これで一番ね」

 

 

 それから数十分後。

 ドンドンドン

「マナ!マナ!大丈夫?」

 シンジが汗だくになってやって来た、ドアを激しく叩く。マナの状態が気になるのだろう。だが・・・・

「いらっしゃ〜〜い」

 ニコニコして玄関を開けた。

「え?マナ、何とも無いの?」

 その状況にシンジは不思議に思った。

「何が?私は元気よ」

「だって大変なんでしょ?」

「それは後で話すわ。あがって」

「う、うん、お邪魔します」

 わけがわからないシンジ、言われるままに上がった。

「それで何が大変なの?」

 出されたコーヒーを飲み本題に入る。

「それが本当に大変なの」

「何がなの?」

「今日は何の日だかわかる」

「今日?何だろう、燃えるゴミは明日だし、スーパーの特売りは昨日だったし、コミック発売はまだ先だし」

 腕を組み考えるが浮かんでこない、マナはシンジの考えにため息をついた。

「はあ〜これよこれ」

 ニコニコしてシンジの前に置いた。

「何これ?」

「チョコよチョコ、今日はヴァレンタインでしょ」

「そうか、今日なのか・・・・ってまさか大変な事って・・・」

 驚いた顔でマナを見る。

「うん、そうよ。大変なの」

「マナ〜〜〜〜」

 一気に崩れるシンジ、走ってきたのが何であったのだろう。

「そんな事で呼んだの?」

ひどい!そんな事って・・・う、ううヴァレンタインは大変なのよ」

 テーブルにうつ伏して泣くマナ。

「ご、ごめん、泣かないでよ〜」

「うえ〜〜ん」

「言いすぎたよ。大変だねヴァレンタインって」

「そうでしょ、許してくれる?」

 うつ伏したまま、シンジ問いかける。

「許すって僕が謝りたいくらいだよ」

「本当?」

「本当だよ」

「なら許してあげる」

 顔を上げると笑っていたマナ、ウソ泣きである。

「あ〜〜騙したの〜」

「へへ、ごめんね。でも大変なのよ。シンジに一番にあげるのは。ライバルが多いから」

「そうなの?」

 自覚無し。

「そうよ。でもこれで問題なしよ」

 マナはシンジに抱きついた。

「わっマナ、離れてよ」

「ダ〜〜メ、一番の特権なの」

「そ、そうなの?」

「うん!」

 

 

 

 数十分その状態が続いた、その間シンジは耳まで真赤にしており、マナはぬくもりを楽しんでいた。

「ねえマナ・・・」

「なに?シンジ」

「そ、そろそろ帰るから、離れて」

「ダ〜〜メ、ずっとこのまま」

「あ、明日学校だし、寝ないとキツイから」

「泊まっていく?」

「え、ええ?ダ、ダメだよ」

「ふふ、しょうがないわね」

 マナは渋々シンジから離れた。

「じゃあ学校でね。お休み」

「うん、チョコありがとう。嬉しいよ」

 シンジは微笑むと家を後にした。部屋に戻ったマナはコーヒーを一口入れると目を閉じた。

「まあ、シチュエ〜ション通りにならなかったけど、満足満足〜」

 拳を握り、ガッツポーズ、学校では『一番に渡した』と言いふらすだろう。


 学校で渡すのは不可能だと思ったマナ、当日の一番に渡しました。ライバルが多い中、これで一歩差をつけましたね。

 学校では自慢をしまくる事でしょう。

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION VM