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「レイはもう準備したの?」

「?」

 ネルフの研究室でコーヒーにヨウカンで休憩をしているリツコ、レイは『ヨウカンにはお茶があうの』と云う事でお茶をすすっている。

 リツコの言っている事がわからない。

「準備?」

「はあ〜・・・今日は何の日かわかっている?」

「・・・・わかりません」

 案の定の答えが帰ってきた。

「今日はねヴァレンタインよ」

「う゛ぁれんたいん?」

「そうよ。今日はねヴァレンタイン、好きな子にチョコをあげるのよ」

「お菓子業界のみんなが騙される日ですね」

「そ、そうね・・・・そんな事はよく知っているわね」

 リツコは額に汗を掻きながらコーヒーを飲む。

「それで用意したの?」

「いいえ、どうしてですか?」

 リツコはため息をついた。

「シンジ君に用意していないの?」

 『シンジ』の単語が出た瞬間レイは目を見開いた。

「・・・・・・・・用意していない・・・・どうしよう」

「ふふ、安心しなさい。こんな事もあろうかと用意しておいたわよ」

 白衣のポケットからリボンに包まれた箱が出てきた。レイはそれを受け取る。

「これは?」

「中身はチョコよ。シンジ君に渡しなさい、喜ぶわよ」

 レイは両手に持った箱を無言のまま、ジっと見つめた。

「どうしたの?早く渡してきなさい、シンジ君は確か休憩所にいるはずよ」

「・・・・なぜか博士から危険な香りがします」

 箱からリツコに目を移すとジッと見つめた。おもわずリツコは仰け反る。

「そ、そんな事ないわよ。私はただ、として・・・・・レイ?」

 部屋を見回すがレイはすでに居なかった。

「ふう〜・・・言い終わるまで、拘束しようかしら」

 レイが食べ残していったヨウカンを食べると、モニターのスイッチを入れた。

「ふふ、どうなるかしらね」

 不気味に笑うリツコであった。

 

 

 

 

 

「ふう〜〜〜」

 シンジは休憩所のベンチでジュースを飲んでいた。

「遅いな〜」

 誰かを待っているのだろう。ジュースを飲んでは時計を見、飲んでは見のくり返しをしていた。

 タッタッタッタ

 シンジは近づいてくる足音に気づき、聞こえる方向を見た。

「綾波!」

「碇クン」

「遅かったね」

 どうやらレイを待っていたようである。だがそれがリツコによって仕組まれていた事は当然知らない。

「ごめんなさい」

「いいよ、それより僕に用があるんでしょ?」

「うん、これを・・・・」

 レイは頬を赤らめて先ほどリツコから渡された箱をシンジの前に出した。

「?これは何」

 中身がわからない。当然質問する。

「きょ、今日はう゛ぁれんたいん。だから碇クンに渡すの・・・」

「僕に?」

「うん」

 理解したシンジ、レイの俯き見上げる瞳に照れながら受け取った。

「あ、ありがとう。嬉しいよ」

「私も嬉しい」

「開けていい?」

「うん」

 二人はベンチにこしかけた。シンジはラッピングを綺麗に開くと箱を開けた。

「うわ〜〜」

 箱の中身は一口サイズのチョコが並んでいた。形はハートで統一。

(ほっ・・・・)

 レイは中身を見ると胸を撫で下ろした。それもそうリツコが用意したものである。安全なものであるとは限らないのだ。

「じゃあ頂くね」

 シンジはチョコを摘むと口に入れた。レイはその様子をジッと見つめている。

 モグモグ

「美味しい?」

「うん!美味しいよ」

「よかった」

 シンジはもう一つチョコを口に入れた。

 モグモグ

「美味しい?」

「うん!美味しいよ」

「よかった」

 その光景が数回繰り返された。

「美味しい?」

「うん!美味・・・・」

 ビクンッ!

 不意にシンジの体が痙攣し始めた。

「碇クン!?」

 レイは突然の事で驚いた。

「う、うううう・・・」

「碇クン!」

 うめくシンジ、レイは不安な顔でシンジを揺さぶった。

「う、ううう・・・・綾波!!

 ガバッ!

 シンジはレイを抱きしめた。レイは驚いて瞳を閉じ悩ましげな息がこぼれた。

「あっ・・・・・」

綾波!!

 シンジは力の限り叫んで、レイを抱きしめる。

「い、碇クン・・・・ダメ・・・・・」

 震える唇で力を振り絞り声を出す。が声とは反対にしっかりとシンジの背中に腕を回していた。

「綾波」

「碇クフ〜〜〜〜〜ン」

 シンジはレイを見つめると、頬を触り顔を上に向けた。

「綾波」

「あっ・・・・・」

 シンジは瞳を閉じると顔に近づく、レイもゆっくりと瞳を閉じた。

 そして・・・・・

 

 

 

 

 

「・・・・・・・?」

 レイは不思議に思った。瞳を閉じてから数十秒、感触がない。恐る恐る瞳を開けた。

「!い、碇クン!!」

 ボタボタ

 レイが見たのは、シンジが鼻血を垂らして、白目をむいている姿であった。

「碇クン!碇クン!」

「・・・・」

 ガクンとベンチに倒れるシンジ、レイは何度も名前を呼ぶが返事がない。

碇クン〜〜!

 

 

 

 

 

「ちょっと量が多すぎたかしら」

 モニターを見ながらリツコは呟き、レポートに記入してある謎の数値を書き換えた。

「まあこれで実用化に一歩近づいたわ」

 モニター内はレイが慌ててシンジを揺さぶっている姿が映し出されている。そしてレポートの表紙にはこう書かれていた。

 『惚れ薬、ヴァレンタインデーはこれで気になる男をアナタの虜に』

「ふふ、来年には業者が私に詰め掛けるわね」

 クールにコーヒーを飲むが、頭の中は契約料の計算をしていた。その値は皮算用である。


 MADなリツコさん本領発揮!やはり実験でした。

 でも二人はちょっと良い雰囲気でしたが、失敗に…残念かな?

 レイちゃんは少しは楽しめましたから『姉』として良い事をしたのでしょうね。

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION VR