JOY
トコトコトコトコ
真夏の昼下がり、一人の少女が額に薄っすらと汗を浮かべ歩いていた。
トコトコトコトコ
「ふう〜〜〜」
額の汗をハンカチで拭くと雲一つない青空を見上げため息をついた。
「暑いわ」
トコトコトコトコ
少女は歩いた、どこに行くのだろうか?
トコトコトコトコ
「あっ!あれは?」
何かを発見したようだ、少女は目を凝らして目標を確認する。
「違いないわ」
トコトコ、タッタッタ
少女の足が歩きから走りに変わる。
タッタッタッタッタ
走る先には人がいた、どこかに向かっているようだ。
タッタッタッタ
少女はその人物に近づいた。
サッ
「うわっ!?」
少女は気づかれないように背中から腕を回し、人物の視野を隠した。
「こんにちは」
「その声は?綾波だね」
「ぶ〜〜〜違います〜〜〜」
少女の名は違っていたようだ、頬を膨らませると大きな声で否定した。
「あっ!マナだね」
「ピンポ〜〜ン!」
マナと呼ばれた少女は手を離すと人物の前に回りこんだ。
「酷いよシンジ〜〜間違えるなんて」
「ごめんごめん、落ちついた声で話されると綾波と間違えちゃうんだ」
人物はシンジ、申し訳なさそうに何度も謝っている。
「そう?私ってレイさんと声が似ているの?」
「うん、声質が似ているよ、綾波が元気よく喋ればマナに似ると思うよ」
「ふ〜〜ん」
首を傾げレイの声を思い浮かべる。
「似てないと思うけど、でもレイさんが元気よく喋ったら面白いわね」
「そうだね、でもそんな綾波は想像つかないよ」
「ふふ、そうね。レイさんいつも静かだから」
二人でレイの元気な姿を想像し思わず笑みが零れた。
「それでシンジはどこに行こうとしていたの?」
「ちょっとデパートにね、Tシャツを買いに行くんだ」
「デパート!私も行って良い?」
「良いけど、何か買うの?」
シンジの了解が出てマナの瞳が輝いた。
「うん、ちょっとね。それとシンジとデートよ」
「デ、デート!?」
その言葉に思わず顔が赤らむ。
「そっ!行きましょう」
「う、うん」
マナは足取りも軽くルンルン気分でシンジはデートの言葉を意識してか手足が同時に動いていた。
デパートについた二人、早速売り場に向かう。
「どれが良いかな?」
シンジはズラッと掛けてあるTシャツを物色し始めるがデザインはどれも同じようなものである。
「シンジ〜それはおかしいわよ。もっとカッコイイのを選んだらいいわよ」
「そうかな?これでも良いと思うけど」
シンジが選んだのは正面に『必勝』と大きく筆で書かれたTシャツであった。
「誰も着ないよそんなの」
「そうかな〜?じゃあこれは」
次に選んだのは同じく正面に『安全』と大きく筆で書かれたTシャツ。
「・・・・・安全ってなんなの?」
マナはシンジのセンスに頭を悩ませる。
「じゃあこれはどう?」
次に選んだのは同じく正面に『健康』と大きく筆で書かれたTシャツ。
「これを着たら健康って感じがするよね」
「はあ〜〜シンジ、私が選んであげるわよ」
マナはため息をつくとシンジが選んだTシャツを元に戻し選び始めた。
「ダメなの?漢字で書いてあるから日本人って感じがするんだけどなあ」
「普通そんなのを着るのは観光に来た外国人よ、若者はそんなのは着ないの」
「ふ〜〜ん、マナってよく知っているね」
「シンジが知らないだけよ、雑誌とか読んでもうちょっと勉強したほうがいいわよ」
「そういうものなのかなあ」
「そうよ」
会話を続けてもマナは選ぶ手を休めない、何着かリストアップをした。
「これなんかどう?」
選んだTシャツをシンジの体に合わせて鏡にうつす。
「良いのかなあ?何て書いてあるかわからないや」
正面に英語がズラッと書いてあった。
「分らなくていいの!これが良いんだから、こっちはどうかしら?」
次のは背中にデザインが施されている。
「これ〜?良いんじゃないかな」
シンジはあまり気に入ってなさそうだ。
「これで良いの!私が選んだのにケチをつけるの」
「う、うん、これで良いよ!じゃあ買ってくる」
はっきりしない態度にマナはちょっと怒った、するとシンジは冷や汗をかき素早く選んだTシャツを取るとレジに走っていった。
「お待たせ〜」
レジから戻ったシンジ、次はどこに行くのだろうか。
「シンジ、次は私の買い物に付き合って」
「うん、良いよ」
二人は移動した。
「うわ〜〜いっぱいあるわ」
「こ、ここって・・・・」
マナの喜びとは対照的にシンジは声が出ない。
「下着売り場よ」
先ほどの売り場から一階上がった次の階は下着売り場であった。
「ぼ、僕はベンチに座って待っているよ」
当然男のシンジは頬が赤くなった、素早く逃げようとするが、Tシャツを握られ逃げられない。
「ダ〜〜メ、付き合ってくれるって言ったでしょ」
「で、でもこれはまずいよ」
「平気よデートなんだから、愛しい彼女の下着を選ぶのは彼氏の常識よ」
「そ、そんな常識聞いた事無いよ」
「さあ行きましょう」
シンジの言葉を無視してTシャツを掴んで売り場に入っていった。
「た、助けて〜〜〜〜」
「さあ選んでちょうだい」
「そ、そんな事言ったって・・・・」
無理矢理下着売り場の中央に連れて来られたシンジ、まともに下着を見ることができずに俯いている。
「いつも、ミサトさんやアスカの下着を洗濯しているんでしょ?だったら平気じゃない」
「それは少ないからだよ、こんなに多いと目のやり場に困っちゃうよ」
「照れない、照れない。これはどう?」
マナはざっと選んだ下着を体に合わせ見せた。
「そ、それは過激過ぎるよ」
一瞬見ると両目を手で覆って耳まで赤くなった。
「そうね、ちょっと過激過ぎたわ」
選んだのは隠す部分が少なく、ほとんど紐である。
「もうちょっとマシなのは選べないの?」
「今のは冗談よ、赤くなって可愛かったからついからかいたくなったの」
「もう、真面目に選んでよ〜〜」
シンジはまだ赤い。
「ふふふ、ちゃんと選ぶわよ。これはどう?」
「う、うん良いと思うよ」
チラリと指の間から見て頷く、選んだのは普通の白。
「思う〜?思うだけなの?」
プウ〜と頬を膨らませ、下着をシンジの顔にもって行った。
「うわっ!やめてよ」
「良いの?良くないの?」
「良い!良いよ、凄く良いです〜〜」
頬に下着の感触を味わいながら首を縦に振った。
「ふふ、ありがと。買ってくるわね」
マナはニッコリ微笑むとレジに向かった、シンジは他の客の目を気にしながらそそくさと下着売り場を立ち去った。
買い物を終え二人は帰り道を歩いた、日も落ち幾分か涼しい。
「シンジ、今日は楽しかったわね」
「うん、Tシャツを選んでくれてありがとう」
「もうちょっとセンスを磨いた方が良いわよ、あれを着て外を歩くのは恥ずかしいわよ」
「そうかな?僕別になんとも思わないけど」
Tシャツを思い浮かべるがどこが恥ずかしいのか分らないシンジ。
「一緒に歩いていると恥ずかしいの、でも今日買ったのは安心よ。私が選んだ至極のTシャツなんだからね」
「うん、よく見てみるとカッコイイよ」
「そうでしょう、今度のデートの時はそれを着てきてね」
「デ、デートって」
真っ赤になるシンジ、マナはその姿がたまらなくおかしかった。
「そうデート、私はこの下着を着けてくるから見せてあげる」
「み、見せるって!ダ、ダメだよ」
「あ〜〜今、エッチな事を考えたでしょう」
ツンツンと頬を突ついてニヤリと笑った。
「か、考えてないよ」
「そお〜〜〜?怪しいなあ」
「怪しくなんかないよ」
「照れない、照れない。じゃあまたね、バイバイ〜〜」
「うん、じゃあね」
十字路、ここからは帰る方向が別である、マナは手を振ると走って行った。お互い、一人でいくはずであった買い物は偶然出会い、楽しいデートになったのであった。
マナちゃん久々の主役です、と言う事はLMSですね。
冒頭のシンジ君がマナちゃんをレイちゃんと間違うのは同じ声優だからです(知っていますね^^)
そんなに甘くないLMSでした(全然甘くないですね^^;)
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION JOY