風邪薬

はくしゅんっ!

 ネルフに向かう電車の中、レイは大きなクシャミをした。

「綾波、風邪なの?」

「うん、ちょっと熱っぽいの」

 隣に座るシンジは当然ながら心配する。

「へえ〜〜〜ファーストでも風邪引く事あるんだ、てっきり引かないと思っていたわ」

 腕を組んで頷くアスカ。

「・・・それどういう意味?私だって風邪くらい引くわ」

「だって昔から言うでしょ○○は風邪引かないって」

「アスカ〜〜やめなよ」

 無論シンジは○○に入る言葉は知っている。

「○○は風邪を引かない?」

 首を傾げるレイ、考えるせいか顔がほのかに赤くなってきた。

「そうよ、○○は風邪を引かない。昔の人は良く言ったわね」

「○○・・・・・わかった、SALは風邪を引かないのね。だから能天気なアスカは元気なのね」

「ムッキ〜〜〜〜!!ファースト、アンタアタシをバカにしているんでしょう」

 怒りで頭から蒸気が出てきた。

「カタカナばかりで何言っているかわからないわ」

「何がカタカナよ!アタシは喋っているのよ」

 興奮してレイの胸倉を掴むと鼻と鼻が触れ合うぐらいに接近し怒鳴りつける。

「・・・は、はっくしょん!

「うげ〜〜きたないっ」

 狙っていたかのようにアスカの顔面に向かってクシャミをするレイ。

「ふう〜〜すっきり」

「アンタ〜〜〜わざとやったわね。しばく!絶対にしばく」

 唾だらけの顔を拭かずに指をボキボキと鳴らす、背中からは怒りの炎が立ち込めていた。

「アスカやめなよ、ほら顔拭いて」

「あ、ありがと・・・・」

 シンジはポケットからハンカチを取り出すと自らアスカの顔を拭いた。拭かれている間アスカはおとなしくなり怒りの炎も消え頬が桜色に染まっていた。

「綾波、ティッシュ持っている?持っているからあげるよ」

 普通中学生の男子がティッシュを持つ事は珍しいのだが、シンジは中学生兼主夫、持ち物が良い。

「ありがとう、碇クンがくれたティッシュ・・・・宝物にしましょう・・・・ぽっ」

 大事に鞄にしまうと頬を赤らめる。

「・・・それは駅前で貰ったものなんだけど」

 あげたティッシュは駅前の路上で配っていたもの、家計を預かる主夫シンジなら絶対に受け取る。ちなみにローンの宣伝ティッシュである。

「・・・そう、駅前に碇クンの宝物がいっぱいあるの。明日行きましょう」

「・・・別に僕の宝物じゃないんだけど」

「碇クンの宝物・・・ぽっ」

 風邪のせいか思考がオーバーヒートしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はくしゅんっ!

 ネルフに着いた三人、レイはクシャミが止まらない。

「綾波、今日の実験は休んだ方が良いんじゃないかな?」

「・・・休むとお母さんの計画に支障をきたすから出ないと・・・」

「お〜〜お〜〜、優しい事、リツコが聞いたら泣いて喜ぶわよ」

 リツコがこの場に居たらレイを抱きしめ頬擦りするであろう、しかし『お母さん』の部分は『お姉さん』に絶対に訂正させるだろう。

「無理したらすぐにリツコさんに言うんだよ、体を壊したら元も子もないからね」

「うん」

 三人はゲートをくぐると内部に入った。

 

 

 

 

はくしゅんっ!

 静かな廊下にレイのクシャミが響いた。

 ・・・・ダッダッダッダッ

 クシャミが響いた後に聞こえてくる音、次第に大きくなってきた。

レイ〜〜〜〜、風邪引いたの〜〜?

 リツコが白衣を振り乱して走ってきた。

「うわっリツコさんだ」

「それよりどうして聞こえたのかしら?地獄耳なの」

 驚くシンジとアスカ、普段は冷静なリツコだがレイの事になると見境つかなくなる。

「うん、ちょっと体が熱くて頭がボ〜〜ってするの」

「まあ大変!どのくらい熱があるのかしら?」

 レイの額に自分の額を当て熱を測る。

「は、恥ずかしいの・・・」

「ダメ、ジッとしてなさい。熱が測れないでしょ」

「う、うん・・・」

 シンジとアスカに見られていてはちょっと恥ずかしいレイ、しかしリツコはそんな事は構わない。

(リツコさん優しいね)

(そうね、1児の母ね)

 聞こえないように呟きあう二人だがリツコはある単語は聞き逃さない。

「アスカ〜〜聞こえたわよ〜〜私は母じゃなくてよ、よ」

「あ、そ、そうね。リツコは姉ね」

 詰め寄られたアスカ、背中はすでに壁で逃げる事ができない。もしここで『母』と言えば速攻で改造されるであろう。

「シンジ君も私のことは母じゃなくて姉って感じでしょ」

「あっはい!はい、リツコさんは立派なお姉さんです」

 話を振られたシンジ、蛇に睨まれた蛙の如く体が動かなくなり首を立てに振った。

「さあレイ、お姉さんが風邪を治してあげるわよ」

「う、うん」

 姉の部分を強調するリツコに呆れるが絶対に否定できないレイである。

「さあこれを飲みなさい」

 白衣のポケットから瓶を取り出すと、蓋を開け中からカプセルを取り出した。

「これは?」

「私が考案発明した『飲めば一発で風邪なんかぽぽいのぽぃよカプセル』よ」

 カプセルを天高く突き上げ腰に手を当て自慢げに見せびらかす。

「・・・・・・・」

「ファ、ファンタジーなネーミングだね」

「どういうセンスで付けたのかしら?わけわかなんないわ」

 当然三人は呆れた。

「さあ、レイ飲みなさい。これで風邪は一発で治るわよ」

「う、うん・・・・・」

 カプセルが渡されたが飲まずにジッと見つづけた。

「どうしたの?飲んだら風邪が治って元気になるわよ」

「うん・・・・・」

 だがレイは飲まない、いや飲めないのだ。

(・・・・・あれって大丈夫かな?)

(大丈夫なわけ無いでしょ、リツコが作ったのよ)

 レイも二人の考えと同じだろう。自分を心配してくれるのは嬉しいのだが、飲んだら更に悪化するような気がした。

 タッタッタッタ

「あっどこに行くの?」

 レイはカプセルを握るとリツコの横を通り抜け奥に走り出した。

(ファースト逃げたわね)

 アスカもレイと同じ立場であったらなら逃げ出しただろう。

「恥ずかしいから一人で飲むの」

「まああのコったら恥ずかしがっちゃって」

 微笑むリツコ、表情は姉ではなく母親である。

((違うって!))

 リツコの姿を見ていた二人はユニゾンして突っ込むのであった。

 

 

 

 

 

 タッタッタッタ

 数分走ったレイ、すでに周りに人の気配は無く静かである。

「・・・・どうしよう」

 掌にはカプセル、風邪薬だが飲むのに勇気がいる。リツコ謹製の風邪薬。

「捨てたらお母さんに悪いし・・・・」

 リツコが一生懸命発明している姿が頭に浮び捨てきれない。

「飲もうかな・・・・・・・失敗しててもかわりはいるから」

 意を決してカプセルを口に運ぼうとした。

はっぐしょおおおおおおおおんっと

 静かな廊下に響く下品なクシャミ、カプセルを飲むのをやめクシャミが発せられた方を見た。

「あ・・・・・」

へっぐしょおおおおおんって

 レイの見た先にはミサトがいた、クシャミをする時手を口に当てないので唾は飛び声が大きい。

「葛城三佐も風邪なのね・・・・・・・・

 閃いた、すぐさまミサトの方に向かう。

「葛城三佐」

「ん、レイじゃない。何か用〜〜」

「これを」

「何?」

 差し出されたカプセル、ミサトは何かわからない。

「風邪薬です」

「わおっ〜〜くれるの?ありがと鼻がぐじゅぐじゅしててたまらなかったのよね」

 心の底から喜ぶミサトにレイは多少罪悪感があり心の中で謝った。

(・・・・ごめんなさい)

 そして素早くその場から立ち去る。

「ありゃりゃレイ〜〜どこ行くの?ジュースおごるわよ」

 ミサトの声も虚しくレイの姿は無かった。

「変なレイね。まあいっか、ゴックン!」

 カプセルを口に入れ飲みこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドッガ〜〜〜〜〜ン!!

 ミサトの頭が爆発した。

「な・・・・なんなの?」

 顔は真っ黒く汚れており口鼻耳からは煙りが出ており、髪はアフロに変貌していた。

「な・・・何か悪いものでも食べたのかしら?・・・・・・」

 ドンッ!

 白目をむくとその場に大の字に倒れこみ気絶するミサトであった。


 レイちゃん、風邪〜〜〜〜。さあリツコお母さんの出番ですね(笑)

 可愛い娘レイちゃんの為に作った風邪薬、でも失敗作でしたね。レイちゃん飲まなくて正解でした。

 そして飲んだミサトさんは・・・・(爆)

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION 風邪薬