MSY
「お〜ほほほほほ〜〜〜!!」
草木も眠る丑三つ時、静かなネルフの廊下に甲高い笑い声が木霊した。
「うふうふ、ふふふふふふふ」
不気味な笑いがとある部屋から聞こえる。その部屋とはリツコの研究室、月が出ない漆黒の夜には必ず不気味な笑いが発生する。
「また、素晴らしい発明をしてしまったわ」
髪をサッとかきあげるとコーヒーを口に含み、満足そうな顔で不気味に微笑んだ。
「これであの娘(こ)も喜ぶわね」
モニターに映し出されている緻密な設計図、そしてキーボードの横には一冊の本が置かれていた。そこには・・・・・
『MS大図鑑』
と記されていた。
「お〜ほほほほほ〜〜〜!!」
今日もリツコの笑いが木霊する。
(碇クン・・・・・・・ぽっ)
ぽかぽか陽気の教室、レイは授業そっちのけでシンジをずっと見ていた。
(碇クン・・・・・・・ぽっぽっ)
シンジの事を考える度に頬が桜色に染まっていく。シンジは一生懸命端末を見ている、勉強をしているようだ。
(う〜〜〜〜ん、たぶんこれかな・・・・あ〜〜あ違った)
声には出してないが落胆しているようだ、肩が若干さがっている。
(ここだと思ったのに・・・・)
真面目に授業に取り組んでいるようだ、端末画面は・・・・・・・・
『マインスイーパ』
地雷が出てゲームオーバー
(上級はやっぱり難しいや、よし!もう一度挑戦だ)
シンジの一生懸命の授業は続いた。
(一生懸命勉強する姿・・・・・・ぽっ)
レイも勘違いしている。
「よっしゃあ!シンジ、ケンスケ腹減ったからお好み焼きでも食うてこか」
「ああ、いいよ」
「うん」
帰りのホームルームが終わるとシンジはトウジ、ケンスケと一緒にさっさと教室を後にした。
(あっ、碇クンが行っちゃう・・・・・・・悲しい)
席に座ったままシンジの後姿を見ながら涙涙、そんなレイに気がついたヒカリが声を掛けてきた。
「綾波さん、どうしたの?涙を流して」
「・・・・・・涙、私泣いているの?」
瞳を拭うと手に涙が付いて気がついた。
「・・・・・・どういう顔をしたらいいの?」
「え?ええとね・・・・・・」
質問したのに逆に質問し返されてヒカリは困って汗が流れ出た。
「ファースト、アンタ何言ってんのよ。お腹が空いて泣いているんでしょ」
「・・・・・そうなの?」
「って私に聞いてどうするのよ?自分の事でしょ」
アスカも呆れてため息をついた。
「そうなの、綾波さんお腹が空いているの。ケーキでも食べて帰りましょうか?」
「いいわね。賛成!」
アスカはピョンピョン跳ねて嬉しがった、甘いものには目が無い。
「綾波さんは行く?」
「・・・・・・私は・・・・・・・!」
行こうか行くまいか考えていると先ほどの会話が頭をよぎった。
(確か碇クンはお好み焼きを食べるって・・・・・・・会いに行ける・・・・一緒のお好み焼きを・・・・・ぽっ)
「綾波さん?」
「私・・・お好み焼きがいい」
「え〜〜〜〜?ファースト何言ってんのよ、ケーキが良いに決まっているでしょ」
アスカはレイの意外な答えに驚き怒った。ケーキを食べると自分の中では決まっていたので、すでに食べる種類を考えていたのだ。
「まあまあアスカ、良いじゃない。綾波さんが行きたいって言っているし、お好み焼きもたまには良いんじゃない?」
「え〜〜?でも〜〜」
ムスーと頬を膨らませ不満を表した。
「アスカ、私お好み焼きが食べたいの」
「うっ・・・・わ、わかったわよ」
ジッと紅い瞳で見つめられて言われて、アスカは反論できなかった。
「それじゃあ行きましょう」
(ちぇ!せっかくのケーキが)
(碇クンに会える、碇クンに会える)
三人でお好み焼き屋へ・・・・
のれんをくぐると焼く音とソースの良い香りが鼻に入り、食欲をそそる。
「ん〜〜ん、良い匂いね。あそこに座りましょう」
「ええ、綾波さんも行きましょう」
キョロキョロ
レイはヒカリの言葉は耳に入らず店内を見回した。
(碇クン・・・・・碇クン・・・・・・・いない!・・・・・・・・・・・・)
しくしくしくしく
そう広くは無い店内、客は大勢入っていたが、シンジの姿は無かった。途端にあふれ出る涙。
「綾波さん、また泣いているの」
「どうせ、ソースの匂いが嬉しいんでしょ、座るわよ」
(しくしくしくしく、どうしていないの、しくしくしくしく)
確かにシンジ達はお好み焼きを食べに行くと言っていたのにいない。他の店だろうか?
「たまには甘いものもええなあ」
「そうだろ、食べ放題だからな」
「ショコラが美味しいよ」
「沢山食うで〜〜」
三人はケーキ屋にいた。
「やっぱりフカヒレ入りね」
「豪華にしすぎよ。綾波さん、焼けたみたいよ」
「・・・・・・・ぱくぱく、しくしく」
涙を流して食べるレイであった。
(・・・・・えび入り美味しい・・・・・しくしく)
二人と別れたレイはとぼとぼとふらついた足つきで家路に歩いた。
(碇クンに会えなかった・・・・・どうして?・・・・・・・・良い方法無いかしら・・・・・・・)
夕日を見上げると夕焼けの空にシンジの顔が浮かんだ。
(しくしく、碇クン・・・・・いつでも碇クンの情報がわかれば・・・・・・・!)
何か浮かんだらしく、足を止めた。そしてクルリと振り返ると今来た道を走って戻った。
タッタッタッタ!
現在走っている場所はネルフの廊下、そして一室の前で立ち止まりドアを開けた。
「博士!」
リツコの部屋である。
「待っていたわよレイ」
部屋の真中で白衣のポケットに手を突っ込んで立っていたリツコ。
「博士・・・・お願いが・・・・」
レイが言おうとするとサッとポケットから片手を出し発言を防いだ。
「言わなくてもわかるわ、シンジ君の事でしょう」
「えっ?どうしてそれを」
驚き目を丸くする。
「猫神様のおかげよ」
リツコが手を差し出した先には猫が奉られている神棚があった。お供え物はマタタビ。
「シンジ君の情報が欲しいんでしょ、いらっしゃい」
おもむろにロッカーを開けると中に入ろうとするリツコ。
「博士・・・・頭大丈夫?」
「大丈夫に決まっているでしょ、ここは秘密の地下室への入り口よ」
ロッカーだから幅が狭い、二人は体を横にして入っていった。
薄暗い階段を下りるとそこは巨大な空間であった。そして二人の目の前には暗くてよくわからないが、巨大な人影。
「レイ、これさえあればシンジ君の情報はいつでも仕入れることができるわよ」
リツコはリモコンのスイッチを押した。すると照明がつき、人影の全体が映し出された。
「・・・・・これは?」
「ボリノーク・サマーン、ジュビトリス製MSよ。私の天才的な頭脳によってここに復活したの、ふふふふ」
不気味に口が歪む。
「・・・・・さよなら」
レイはリツコの相変わらずなMADに呆れてその場を立ち去ろうとした。
「レイ、待ちなさい。今、私の事をバカにしたでしょう」
「・・・・・・・・」
コクリ
「ふっ、何もわかっていないわね。ボリノーク・サマーンはパプティマス・シロッコが開発したMSで偵察、索敵能力に優れているのよ。これならシンジ君に気づかれずに随時情報がわかるわよ」
「・・・・・・・」
ガシッ!
レイは無言でリツコの両手をガッシリつかんだ。
「博士・・・・・私にはわかっていました。凄いって事を」
「ふふ、そうよ私はあなたの姉ですも・・・・・・レイッ!」
『姉』の発言部分は耳を押さえているレイ、当然リツコは怒り頬をつねった。
「レ〜〜イ、耳を押さえて何をしているの〜〜?」
「い、いひゃい・・・・・」
「せっかく作ってあげたのに、要らないならいいわよ」
「ぎょ、ぎょめんなひゃい」
頬をつねられているので上手く喋れない、目には涙が溜まってきた。
「私はあなたの姉よ」
顔は笑っているが目が笑っていない。
「ひゃ、ひゃい」
「よろしい」
にっこり機嫌が良くなり頬から手を離した。頬が赤いレイは心で懺悔した。
(また嘘をついてしまいました)
「それで、どう使うんですか?」
「簡単よ。このボタンを押せばすぐにシンジ君の居場所をつきとめて偵察を始めるわ、監視は研究室のモニターでできるわよ」
ポケットから取り出したボタン一つだけのリモコンをレイに渡した。
「・・・・・これで碇クンの情報が・・・・・・・ぽっ」
ちょっとイケナイ事を想像して頬が赤くなる。
「スイッチ・・・オン」
ピ!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
ボタンを押すと、ボリノーク・サマーンのカメラアイが光り、バーニアから煙が噴出し上昇を始めた。
ガガガガガガガガガガ!
そのまま天井を突き破り、外に出ていった。残された二人の頭上に外の光りがふりそそぐ。
「・・・・・・・博士」
「・・・ふっ、ボ、ボリノーク・サマーンの頑丈テストは完璧ね」
汗を掻きながらごまかすリツコ、レイはジト目だ。
「研究室に戻って、モニターを見るわよ」
失敗を認めたくないので急いでその場を後にした。
研究室に戻った二人、モニターのスイッチを入れる。すると上空から見た街が映し出された。
「飛んでいるわね。シンジ君を見つけたら偵察を開始するわよ」
どきどき、どきどき
レイは緊張していた。今日からシンジの事が全てわかる、朝から夜まで。
「あれはシンジ君ね。さっそく気づかれずに偵察を開始するわ」
モニターの画像はシンジを映し出した。ボリノーク・サマーンは降下を始める。
ゴゴゴゴゴ!
ゴゴゴゴゴ!
ゴゴゴゴゴ!
シンジは道を歩いていた。買い物の帰りのようだ。
ゴゴゴゴゴ!
ゴゴゴゴゴ!
ゴゴゴゴゴ!
「ん?何の音だろう」
遠くから何か音が聞こえる。別に気にする事は無いのだが、その音はどんどん巨大になっていった。
「ん?急に暗くなった」
シンジの周りが暗い、その形は人のようである。
「何だろ?・・・うわっ何だ!」
上を向いてみると巨大なロボット、ボリノーク・サマーンである。
「あっ、気づかれた・・・・ぽっ」
レイはモニター内のシンジと目が合い、頬を赤らめる。
「流石シンジ君ね。ボリノーク・サマーンの気配を感じ取るなんて」
自信作の気配を悟られチッと指を鳴らし悔しがるリツコ。
「・・・・・・博士、今気づきました。あの大きさでは誰でも気づきます」
「・・・・・・・・・・・・あっ!」
レイの言葉にリツコは数秒沈黙すると、気づいたようで目を真ん丸くして驚いた。ボリノーク・サマーンは全高19.9mである。シンジでなくても気づくであろう。
「あ、碇クンが逃げている」
モニター内のシンジは走りながら上を見上げている。
『な、なんでついてくるんだよ〜〜〜〜〜』
「・・・・・・・ちゅ、忠実に再現しすぎたわ」
ポケットからハンカチを取り出し額の汗を拭くと、コーヒーを口に含んだ。レイは呆れてため息をつき研究所を後にした。
(・・・・・・・はあ〜・・・・MAD SCIENTISTなのね)
心で呟いたので当然リツコには聞こえない。
一人リツコだけとなった研究室、高く積まれた資料、キーをたたく音が木霊する。
「やっぱりMOBILE SUITは奥が深いわ。うふ、ふふふふふふ」
草木も眠る丑三つ時、静かなネルフの廊下に不気味な笑いが木霊する。
リクエストSSです。庵舞麗羅さんから一周年記念CGを頂いたお返しのSSです。
「MS」シリーズでレイが主役で登場するMSがボリノーク・サマーンとリクを頂きました。
ボリノーク・サマーンって偵察、索敵能力が秀れている点をSSに描きました。でもすぐに気づかれてしまいました(当然か)
忠実に再現したリツコさん。でも失敗、天才なのかMADなのは?
庵舞麗羅さん、満足していただけましたか?(想像と違っていたらゴメンナサイ<_>これがjun16の能力の限界です)
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION MSY