対決

「はんはんはんは〜〜〜〜〜んっと♪」

 満月が輝く深夜ミサトはリツコの研究室で夜食を作っていた。

「散らかさないでよ」

「わかってるわかってるって、リツコも食べる?」

 鍋の中でグツグツ泡を立てているこげ茶色の謎の物体をお玉でかき混ぜている、これが料理のようだ。リツコは速攻で一言。

「いらないわ」

「あっそう、美味しいのに」

「・・・・・・・」

 味見をするミサトにリツコは言葉を失った。そして煮込む事数十分。

「完成、完成〜〜♪」

 怪しげな物体は完成した。

「またカレーなの、相変わらず好きねえ」

 カレーのようである。まあリツコはカレーと予想ができた。それはミサトがカレー以外を作っているところを見たことないからである。

「カレーじゃないわよ、ハヤシライスよ」

「え?これがハヤシライス?」

 目を疑った。ルーは誰が見てもカレーに見えるのだ。具もジャガイモやニンジン、肉などカレーに入れる材料が入っている。

「そうよ。シンちゃんに教わったけど、すこしアレンジしてミサト特製ハヤシライスを完成させたのよ」

「そう・・・・」

 シンジの教えは無駄に終わっていた。

「さあて食べましょう」

 ミサトは皿にご飯をつぎルーをかけて、椅子に座るために移動しようとした時不意に足が滑った。

「あっ!」

 ミサトの声と共に皿は宙を舞った。そして・・・・・

 ガッシャ〜〜〜ン!!!

「きゃあああ!」

 リツコの絶叫が研究室内に響く。リツコに当たったわけではない、皿は机の上のレポートに直撃したのである。

「あらら、ごめ〜〜ん」

 頭をかきながら謝るが、心から謝っていない。自分ではなく滑った床が悪いと思っているのである。

「ミサト!何てことするのよ。重要な書類なのに」

「だからごめん」

 手を合わせて笑って謝るが、リツコはこめかみに青筋を立てている。

「ごめんで済むわけ無いでしょ!大体どうしていつもここで夜食を作るのよ」

「だってここが設備が整っているし〜レポ〜トも拭けば大丈夫でしょ」

「大丈夫じゃないわよ」

 ルーがかかってない端切れを持ち上げると、レポートは煙を出して解け始めている。

「あらら」

「不味いものはここでは作らないでちょうだい!匂いで頭が痛くなるわ」

「不味い?私の料理が不味いって言うの」

 ミスでレポートが台無しになったので小言を聞いていたが、自分の料理が『不味い』と言われカチンときた。

「そうよ、味覚音痴のあなたが作ったあの味考えただけでもゾッとするわ」

「私は味覚音痴じゃないわよ。シンちゃんやアスカは気絶するほど喜んでくれているのよ」

「不味くて気絶しているのよ」

なんですって!

なによ!

 バチバチバチバチッッ!!!

 火花が散るほどの睨み合い、一発触発である。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 擬音が変わっている、スタンドを出しそうな勢いである。ミサト、ビアーズドリンカー。リツコ、スーパーキャットソング。

待った!!!

「「えっ?」」

 突如、二人の緊張を解きほぐす声。声の方も見てみると・・・・・

「二人の怒りはこの碇ゲンドウが預かる」

「「司令!!」」

 ゲンドウがロッカーから出てきた。洒落かどうかわからないが『怒り』と『碇』でちょっと顔が笑っている。

「君達のやり取りは見させてもらったよ。どうやら料理で喧嘩をしているようだな」

「え、ええ・・・それよりもなぜにロッカーから?」

 二人の疑問は確かだ、リツコは質問してみた。

「ふっ、二人は可愛い部下だ、司令として行動は把握しておかないとな」

 ニヤリと笑いサングラスをあげる。だが二人は・・・・・

((それって覗きじゃ・・・・・))

 あえて口にはしなかった。

「二人の喧嘩、司令として決着をつけなくてはならない。どうだろう料理対決は」

「「料理?」」

「そうだ料理の事で始まった喧嘩、料理で決着をつけるのが一番だ。勝負は明日の昼、作るのはカレーだ」

 ゲンドウはそれだけ言うとまたロッカーに戻っていった。唖然とする二人、リツコはロッカーを確かめてみるとすでに姿はなかった。

(セキュリティーを強化しないと)

「ふふふカレーね、この勝負貰ったわ」

 カレー、ミサトの得意?料理。

「ふふ、それはどうかしら?」

 リツコは自信がある。ミサト相手なら誰だって自信があるだろう。

 

 

 そして次の日・・・・

 大広場に設置されたキッチン、ステージにはゲンドウがネルフマーク入りの紋付袴を着て椅子に深深と座っている、今回は司令ではなく審査委員長である。他に審査員は誰もいない。

 本当ならチルドレンが審査員になるのだが、ミサトが出ると知ったとき速攻で断ったのである。

「ミサトさんの料理!!お断りします」

「イヤよ。絶対にイヤ!」

「・・・・死にたくないわ」

 ・・・・と三人は観客席に座っている。

 会場が暗くなるとスポットライトがゲンドウに当てられた。

「諸君、よく集まってくれた。皆の知っているとおりリツコ君とミサト君の対決である。題材はカレー、勝敗は私が決する。では二人登場してもらおうか」

 スポットライトがステージの両端を照らすとリツコとミサトが立っていた。そして会場が明るくなる。

「制限時間は一時間、では始めい!!

 ドオオオオオオン!

 銅鑼がならされスタート、二人はキッチンに走った。

「リツコ勝負よ!」

「望むところよ!」

 一瞬目を合わせると、調理に取りかかった。

「ねえアスカ」

「ん?なに」

 審査しなくてお気楽のチルドレン、アスカはせんべいをぼりぼりと食べながら判定試食でゲンドウがどうなるか楽しみにしている。

「どっちが勝つかな」

「はあ〜?リツコに決まっているでしょ。ミサトが勝つわけないでしょ」

「そ、そうだね」

 確かにアスカの言う事は当然だ。シンジは質問した事を後悔した。

(父さん大丈夫かな)

 

 

「ふふふふ、この華麗なる手捌き!玉ねぎは飴色になるまで炒めるのよ」

 リツコは自分の手際よさに酔いながらスムーズに調理をこなしていく。

「はあ!ちょお〜どえええ!」

 ミサトは気合を入れながらジャガイモやニンジンを切っていく。

「かくし味は醤油よ」

 カレーはコクを出すために色々と入れるがリツコは醤油を入れるようである。

「必殺!かくし味」

 ミサトが入れたものは・・・・不明である。

 

 

 くんくんくん

「綾波どうしたの?」

 時間が経つにつれてレイが鼻を鳴らし始めた。

 くんくんくん

「お母さんの匂いがする」

 ヒュ〜〜〜〜ン、カンッ!

「あきゃ!」

 飛んできたお玉がレイのおでこに直撃した。

「レイ〜〜誰がお母さんなのよ。お姉さんでしょ」

 リツコが叫んでいる、相変わらず『お姉さん』の部分は三倍増しの音量で。

「うっぷ・・・何よこの匂いは」

 アスカはおもわず口を鼻を塞いだ。

「アスカ、あれ・・・・・」

 指差した先には・・・・

「良い色になってきたわ〜〜」

 ミサトが鍋を魔女のように不気味に笑って混ぜていた。

「食べ物じゃないわね」

「うん」

 頷いた。

 

 

 そして時間は制限時間の一時間を過ぎる。

 ドオオオオオン!!

 銅鑼の音で終了、二人とも完成したようである。

「では食べさせてもらおうか」

 最初はリツコ、綺麗に盛られたカレーがゲンドウの前に置かれた。

「司令、美味しくてほっぺが落ちますよ」

「そうかね」

 スプーンでルーとご飯を混ぜると口に持っていく。

 パク・・・・・モグモグモグ・・・・ゴックン!

 舌で味わい、感触を味わい、喉で味わった。

「・・・・・うむ」

 コト

 一口食べるとスプ−ンを置き、サングラスをクイっとかけなおす。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

うまい!うまいぞおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ

 立ちあがると叫んだ。そしてスプーンをガッシリ掴むと皿に口をつけ勢いよくカレーをかき込む。

うまい!うまい!ほどよい辛味、それでいてしつこくないサッパリとした味!舌でとろける牛肉、大きすぎず小さすぎないジャガイモ、ニンジン!ライスとの絶妙のハーモニーはどうだ!喧嘩をしないで結びついている。うまいうまいぞおおおおお!!!!!

 ゲンドウは吼える。口から黄金の光りが飛び出そうだ。会場からも驚きの声と食べたいと言う声が聞こえる。

「リツコさんって料理上手だったんだね」

 シンジは驚いた。リツコの料理は食べた事がないが、ゲンドウの言葉を聞いておもわず生唾を飲み込んだ。

「流石に年食っちゃいないわね」

「お母さん・・・・」

 

 

「ごちそうさま」

 ゲンドウは綺麗にカレーを食べると合掌して余韻を味わった。

「ふふ、ミサトどうかしら。勝負は見えたわね」

 リツコは見下した目でミサトを見つめ笑った。

「ふん、まだでしょうが!さあ司令食べてください」

 ミサトのカレーがゲンドウの前に置かれた。

「うむ、頂こうか」

 一口、口に入れた。

「リツコより美味しいですよ」

 コットン・・・・・

 ゲンドウの手からスプーンが滑り落ち、床に高い音を響かせ転がった。

 ドドドドドドドドドドドド!

「・・・・・・・」

「どうでした?司令」

 ミサトは尋ねるがゲンドウは動かない。

「司令?」

「・・・・・・」

 動かない。

「司令?」

「・・・・・・」

 動かない。

 

 

「父さん・・・・・」

 シンジは思っていたとおりになったとため息をついた。ゲンドウはミサトカレーを食べて気絶したのである。

「やっぱりね。シンジ帰ろ」

「うん、そうだね。綾波帰ろ」

「うん」

 チルドレンはこれ以上いても仕方がないので会場を後にした。

 

「司令、司令、どうでしたか?私のカレーは黙っていないで何か言ってください。美味しかったんでしょ」

 肩を揺さぶるがゲンドウは返事をしない、首がガクンと力を失い前に倒れた。口から少し泡が出ている。

「司令!もう審査中に寝るなんて失礼しちゃうわね」

(・・・・ミサトそれはあなたのカレーを食べたからよ)

 リツコは口に出すのも面倒でため息をつくとその場を後にした。

(時間を無駄にしたわ)

 

 

  ミサトは十数分ゲンドウを起こそうとしたが起きなかったので仕方なくその場に残し帰った。勝負はゲンドウの判定が出なかったので無効となったのである。

 その後ミサトとリツコはいつのまにか仲直りをしていたのであった。


 リクエストSSです。よしはらさんから一周年記念CGを頂いたお返しのSSです。

 ミサト・リツコの三十路コンビの料理の腕前は、ノリはミスター味っ子でとリクを頂きました。

 ぶっとんでいるゲンドウは味○です。ミサトとリツコ誰が見てもどちらが勝者か一目瞭然ですね(^^)

 それにしても対決なのに会場を設置するなんて、ネルフは平和だ。

 ミスター味っ子のノリに達してないと思いますが、満足してくださいね<_>

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION 対決