憂鬱

「ふう〜〜〜・・・・」

 アスカはリビングでーブルに頬肘をつき、窓の外を眺めていた。

「はあ〜〜〜・・・・」

 外は朝から雨、やむ気配は無い。

「ふう〜〜〜・・・・」

 いつやむ事を知らない雨を見ながらアスカはため息を出しつづけている。そんな彼女をアイロン掛けをしているシンジは心配そうに見ていた。

(アスカどうしたんだろう?元気がないなあ)

 ボンヤリしているアスカの横顔をチラチラ見ながらアイロン掛けを続ける、決して手は休めない。

(何か悩みでもあるのかな?)

 いつもの元気が無いアスカ。

「アスカ」

「・・・・なあに?」

「元気ないけど、どうかしたの?」

「別に〜〜〜どうもしないわよ」

 シンジを見ようとせず、ずっと外を見つづけ声から生気が感じられない。

「何か悩みでもあるの?僕で良ければ相談に乗るけど」

「悩みなんてないわよ〜〜〜」

 ハキハキした喋りではない、語尾がだらだらと伸びている。

「そうかな、太った事を悩んでいると思ったけど」

 ピキッ!

 アスカの額に青筋が浮かんだ、そして・・・・

誰が太ったのよ〜〜〜!!

 ゲシッ!

ぐえっ!

 アスカのキックがシンジの顔面を捕らえる。

「えっ?太った事じゃないの」

 ボクッ!

うぎゃっ!

 再びキックが炸裂。

「アタシが太るわけないじゃない、アンタどういう目をしているのよ、腐ってんじゃない?」

「ひ、ひどいなあ〜」

 顔を押さえて何とか声を出すシンジ、蹴られた個所が痛々しい。

「ただ外を眺めていただけよ」

「外を?じゃあどうしてため息をついていたの?」

「雨の日はユウウツだからよ、アンタもそういう経験はないの?」

 雨の日は外に出かけられないので何もする気が起きない。

「ないよ」

「あっそ!雨の日は退屈だからユウウツなのよ、ユウウツ・・・ユウウツ・・・・・ユウウツって漢字でどうかくの?」

「ユウウツ?ええと・・・・・・」

 アスカに聞かれシンジは手のひらに指でなぞりながら頭をフル回転させる。

「ユウ・・・憂は・・・ウツは・・・・ダメだ憂はわかるけどウツはわからないや」

「わかんないの?アンタ日本人でしょ」

「漢字は難しいんだよ、日本人でもわからないのはいっぱいあるんだ」

「へ〜〜〜漢字って面倒ね」

「二人して何話してるの?」

 シンジとアスカの元へミサトがやって来た、片手には缶ビール。

「ミサトさん、昼間から飲んだらダメですよ」

「良いじゃない、堅い事言いっこなしよん」

「・・・・はあ〜〜」

 ミサトのお気楽さに呆れるシンジ、何を言っても飲むであろうと思った。

「んで何を話していたの?もしかしてデートの話しとか」

 ニヤリとオヤヂ笑いになる。

「ち、違うわよ!ユウウツって漢字を聞いていたのよ」

「漢字?な〜〜〜んだつまらないわね」

「そう言うミサトがつまらないわよ」

 これが上司なのかと呆れるアスカ。

「ミサトさんは知っていますか?」

「モチッ!知っているわよん。これでも学生時代は美少女漢字博士王って呼ばれていたんだから」

 ドンっと胸をたたくと自慢げに鼻を鳴らした。

「ミサト、どうして美少女を強調して言うのよ」

「それが自慢だからよ」

「「・・・・・・・・・」」

 言葉が出ない二人であった。

「それじゃあお姉さんが二人に秘密を教えてあげましょう」

「ミサトさん、言い方が怪しいですよ」

「良いの良いの、シンちゃん紙とペンを持ってきて」

「はい」

 シンジは紙とペンを持ってきてミサトに渡した。

「ユウウツはこう書くのよ」

 ペンを持つとスラスラ書いていく。

 

 愉宇宇津

 

「これがユウウツよ勉強になったでしょ」

「へえ〜〜これがユウウツなの」

「・・・・・・・・」

 自信満万に二人に見せるミサト。アスカは漢字を知らないので少しはミサトの事を見なおしているがシンジは言葉を失っていた。

「他にもわからない漢字があったらどしどし聞いてきなさい。教えてあげるわよ」

「本当?じゃあショウユは?」

「ショウユ、簡単簡単」

 

 所宇湯

 

 スラスラと書いてアスカに見せる。

「ミサトって物知りだったのね、見なおしたわよ」

「フフフ、やっと私の凄さに気が付いたわね、偉いわよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

 二人で楽しんでいるようだが、シンジは声が出なかった。

「シンちゃん、知らない漢字があったらどんどん聞いていいわよ。これで漢字のテストは100点よん」

「え、ええ・・・・」

 突然のミサトの言葉に驚いた、そして心では・・・・・

(聞いたら0点取っちゃうよ、間違いって教えた方が良いのかな?でもミサトさんあんなに楽しそうだし・・・)

 間違いを教えるかどうか迷っていた。

 ペタペタペタ

「ん?」

 そこへ聞きなれた足音、シンジは足音の方を向いた。

「ペンペン、どうしたんだい?」

「クエ」

 ペンペンはシンジを通りすぎるとミサトの元に向かう。

「あら?ペンペンどうしたの、漢字を教えて欲しいの?」

「クワ」

 ペンペンはミサトからペンを取ると紙に何かを書き始めた。

 憂鬱(ゆううつ)

 醤油(しょうゆ)

 スラスラと書き終わるとミサトの書いたニセユウウツ、ショウユを×にするとペンを置いた。

「なっ、何するのよ!出鱈目な字を書いて私の正解を×にするなんて」

 怒るミサト、だがペンペンは首を横に振った。

「クワクエ」

「えっ?これが正しい漢字、私のは間違いって?どうしてそんな事がわかるのよ」

「クエクエ」

「何?そんな出鱈目は小学生でもわかる?私は小学生以下?なんですって!!」

 激怒するミサト、だがペンペンは冷静である。

「ミサトさん、落ちついて」

「な〜〜んだミサトの漢字は違うの」

 ミサトを止めるシンジ、呆れるアスカ。

「クエ」

 ペタペタペタペタ

 ペンペンはクルリと体を回転させると台所に戻って行った・・・・そして何やら手に持って戻ってきた。

「クワ」

 手に持ったものをミサトの前に出す。

「何よ?これは・・・・・低学年の漢字練習〜〜〜?」

 ミサトに渡されたのは『楽しく覚える漢字、低学年用』であった。

「ペ、ペンペン!何様のつもりよ!誰に養ってもらっていると思ってんの!!」

 切れた。

「クエ」

 ペンペンが手を差した先には・・・・

「えっ僕?」

「クワ」

 頷く。

「そうね、確かにシンジが世話をしているから養っている事になるわね」

 腕を組んでウンウンと頷き納得するアスカ。

「むむむむ・・・・・ペンギンの分際で!!!」

「クエッ」

 このままではペンペンの命が危ない、だがペンペンは冷静で羽毛から何かを取りだし三人に見せた。

「ペンペンこれは何?ネルフカード?・・・ええっ!?」

 受け取ったシンジは内容を見て驚いた。

「どうしたのシンジ?」

「アスカ見てよ、これ」

 シンジはカードの一部を指差した。

「何よ、どれどれ・・・・・・ええっ!?」

 アスカもその部分を見て驚いた。

「ど、どうしたのよ二人とも、たかがカードじゃないの・・・・ええっ!?」

 カードを見たミサトも驚いた。そこには・・・・

 

 戦術作戦部作戦局第一課 階級 一佐

 

「わ、私より階級が上なの・・・・・」

「クエ」

 ガックリ膝を落とし落胆し、目は明後日の方向を見ている。

「私って・・・・・・ペンペンより下なの・・・・・・」

「クエエ」

 頷くペンペン、カードを受け取ると羽毛の中に入れる。

「ペンペンって上司だったんだ、知らなかった」

「ネルフも変わっているわね」

「そろそろオヤツにしようか?」

「良いわね、昨日のケーキが残っていたでしょ」

「うん、紅茶も入れるよ」

 二人と一匹はどこかにイっちゃったミサトを残して台所に向かったのであった。

「あ、あはは・・・・私の存在って・・・・なに?」


 憂鬱って書けます?醤油って書けます?ミサトさんに漢字を習ったらテストで人気者になるのが間違いなし!

 間違いを教えるか迷うシンジ君、でもペンペンの登場でその迷いは解消。

 ペンペン、ネルフに所属していたなんてそれもミサトさんより階級が上なんて、仕事はいつしているの?これでミサトさんは用なし(笑)

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION 憂鬱