SNOW DANCE

「・・・」

「・・・」

 カタカタカタカタ・・・

 リツコの研究室、無言でPCのキーを打つリツコと無言で本を読むレイ、キーの音がリズミカルに室内に鳴り響く。

 カタカタカタカタ・・・

「これは・・・?」

 レイはリツコに聞こえる事無く呟いた。読んでいる本に見入り、そして・・・

「お母さん」

 シュッ!

 コンッ!

「んきゃっ」

 リツコの投げたMOが見事レイの頭に直撃、声を上げた。

「レ〜〜イ、いつも言っているでしょ、お母さんじゃなくてお姉さんって」

 口調は冷静だがレイの前に立ち上がりなぜかモニターを持ち上げている。

「は、はいお姉さん」

「な〜〜にレイ?」

 ニッコリ微笑むとモニターをディスクに置いた、もしレイが違う事を言えばモニターは・・・

「これは何?」

 今まで読んでいた本のページを見せたそこには写真が載っている。

「これね、これは雪よ」

「雪?」

 写真は日本の雪国のようである、藁葺き屋根に降り積もった雪、周り一面雪景色である。

「そうね雪を知らないのね、雪はねとても冷たいものなのよ」

「冷たいの?」

「ええそうよ、セカンドインパクト前の今頃は寒くて雪が降ったものよ」

 眼鏡を外しコーヒーを口に含むと昔の事に思いをふける。

「降る?」

「ええ雨と同じように空から降るの、雨が冷やされれば雪になるのよ」

「じゃあ今は降らないのね」

「残念だけどそうよ、今の時期でも常夏では降らないわ」

「そう・・・」

 俯き本を見つめつづけるレイ、ほんの少し寂しそうである。

「雪、見たかった・・・」

「雪が見たいの?」

「うん」

 リツコは眼鏡を掛け直すと眼鏡の縁がキラリと輝いた、照明の当り具合ではない。

「安心しなさい、お姉さんに任せておけば大丈夫よ」

「う、うん・・・」

 レイの頭を撫でると微笑むリツコ、そして一休みしていたPCに目を向けるとキーを打ち始めた。

(ちょっと不安・・・)

 リツコの姿に眉をひそめつつ部屋を出るレイであった。

 

 

 そして数日後、ジオフロントの奥の奥の奥にある巨大な空間にレイとシンジが居た。

「ねえ綾波、ここで何があるの?」

 レイに呼ばれ来たシンジ、何があるのかは知らされていない。巨大な空間を見まわすばかりである。

「私もわからないの」

「わからない?」

 驚いた、レイの性格から内容を知っていると思ったが知らない。少しずつ不安になってくる。

「お母さんがここで待っていなさいって」

「リツコさんが?何だろう」

 リツコが関与している、ますます不安になってきた。

「わからない、けどここ数日張り切って何かを作っていたわ」

「・・・張り切って、作成ね・・・」

 不安倍増、冷や汗がタラリと流れ出る。

「今朝会ったら凄く機嫌が良かったの」

「そ、そうなの・・・」

 足が震えてきた、ここから逃げ出したくなるシンジ、だがレイを置いて逃げ出せない。もし逃げたらリツコから何をされるかわからない。

「あ・・・」

 上を見つめていたレイは何かが落ちてくるのに気がついた。無数に落ちてくる白い粒、そっと手を差し出すと掌に白い粒が乗った。

「これは?・・・消えた」

 白い粒は数秒で二人の瞳から消えた、次々に乗ってくる粒も同じように消えて行く。

「レイ、それが雪よ」

「雪?」

「あっリツコさん」

 二人の背中から聞き覚えのある声、振り返って見るとそこにはリツコが立っていた。

「そうよ、この前言ったでしょう雪が見たいって。そこで作ったのよ雪を降らせる機械を」

「うん、でも写真みたいじゃない」

「あれだけ積もるにはかなり時間がかかるのよ、明日か明後日あたりには積もるわよ」

「そうなの・・・」

 レイは少し残念であった、写真で見た雪と本物で見た雪は量が違う。最初から写真のようになっていると思ったのである。

「ふふ、楽しい事は時間がかかるのよ。シンジ君どう?初めて見た雪は」

「何か不思議な感じがします。いつも降ってくるのは雨で濡れるけど、雪は濡れないんですね」

 溶ければ多少は濡れるが雨ほどではない、シンジは両手を広げると体で雪の冷たさを感じ取った。

「綾波、雪って綺麗だね。舞っているよ」

「うん、輝いている」

 どこからともなく流れてくる風に雪が舞い、光によって雪が輝き三人の居る空間は幻想的な世界である。

「綺麗・・・」

 レイは天を見上げ両手を広げるとその場で一回転し、初めて体験する雪を体全体で受けとめた。

「雪・・・冷たくて綺麗なもの・・・でも消える・・・でも積もれば・・・」

「さあ二人とも後は積もるまで待ちましょう、コーヒーをご馳走するわよ」

「本当ですか?ありがとうございます。綾波、行こう」

「うん」

 リツコの後をついて行く二人、空間から離れるにつれて雪の降る区画から遠のいて行く、レイは何度も振り向くと名残惜しそうに別れを告げた。

「また会いに来るから・・・」

 ドテッ!

「んきゃっ」

 後ろを向きながら歩くと当然危ない、つまずくと正面から転んだ。

「綾波大丈夫?」

「レイ、しっかり前を見て歩きなさい」

「うん・・・」

 シンジに起こされると顔を赤らめながら服に付いた汚れを取るレイであった。


 EVAの世界では一年中夏、レイちゃんとシンジ君は雪を見た事が当然ないですね。リツコさんは見た事が当然あります(流石お母さん)

 レイちゃんの為に張り切るリツコさん、ちょっとMADが入っているかな?でも今回の発明は成功。

 初めての雪、二人にとっては良い思いでになるんでしょうね。

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION SNOW DANCE