姉として

「シンちゃん、アスカ、ちょっと座りなさい」

 仕事から帰ってきたミサトは着替えもせずにリビングでくつろいでいた二人を呼びつけ座らせた。

「なんなのよ〜〜良いところなのに」

 ゲームをしていたアスカは頬をふくらました。

「どうしたんですか?」

 シンジはミサトの真剣な顔に違和感を感じた。

「二人とも昨日のテスト、悪かったでしょう」

「えっ、な、何の事?テストなんてなかったわよ、ねえシンジ」

「う、うん」

 二人とも動揺しており明らかに嘘とわかる。

「うそおっしゃい!全部しっているのよ。二人とも赤点じゃないの」

 テーブルを両手で叩き怒りをあらわにした。

「ひ、ひいっ」

「す、すいませんミサトさん」

 ミサトの怒りにアスカは驚き、シンジは何度も頭を下げた。

「どうして点数が悪いのよ、ちゃんと勉強しているの?」

「しょうがないじゃない、実験やらなんやらで忙しいんだから」

 アスカの言い分はまともである。学校が終ってからそのままネルフへ直行して実験、これが続いたら勉強をする暇がない。

「すいません」

 シンジはひたすら謝った。シンジは実験の他に家の家事もこなしているのでアスカ以上に勉強する余裕が無い。

「明後日もテストがあるんでしょう、それまでに私が勉強を教えてあげるから良い点をとるのよ」

「ええ、ミサトが?」

「みっちり教えてあげるわよ」

「でも時間が・・・」

 明日実験が入っているので勉強できるかシンジは不安になった。

「それは大丈夫、明日の実験はキャンセルしてきたわ。碇司令も承諾してくれたわ」

「父さんが?」

「ええ、勉強も出来てエヴァのパイロットよ」

 ミサトはウインクすると着替える為に部屋に向かった。








「さあ始めるわよ」

「え〜〜今から?」

 着替えを終えたミサトが気合を入れてやって来た。ゲームをプレーしていたアスカは眉をひそめた。

「今からよ、テストは国語でしょう。アスカにはこれ、シンちゃんは私が教えてあげるわよ」

「何よこれ〜?」

 アスカが渡された本は小学低学年の漢字書き取りであった。

「アスカはまず漢字をおぼえないとね、テストが読めなかったらアウトでしょう。読めれば勝ったも当然でしょ」

「でも〜〜〜」

「デモもテロもない!書き取り始め!」

「う〜〜」

 不満なアスカは腕を組んで唸った。

「やらないとオヤツのプリンは私が全部食べるわよ」

「わ、わかったわよ、やれば良いんでしょう」

 アスカお気に入りのプリンが食べられては楽しみが無くなってしまう。

「よしよし、シンちゃんにはテスト範囲を教えてあげるわよ。出題されるところ聞いてきたんでしょう?」

「あ、はい」

 シンジは教科書を渡してテスト範囲を教えた。

「ふ〜〜ん習うのは今も昔も同じね。ここは漢字や作者が何を言いたかったかって出るわね」

「そうなんですか?」

「国語のテストってそんなものよ、問題はパターン化されているのよね」

「ふ〜〜ん」

 シンジは素直に感心した。

 その日は遅くまでリビングの明かりが点いていた。








「しまった!寝坊した」

 ボンヤリ目覚めたシンジは時計を見ると眼が覚め布団から跳ね起きた。

「うわ〜〜ご飯の用意をしないと」

 昨日勉強で遅くまで起きていたので目覚ましのベルが聞こえなかった。

「シンちゃんおはよ〜〜」

「あ、おっおはようございます」

 台所では珍しい光景が見られた。ミサトが起きておりエプロンを着用しておりテーブルには朝食が出来ていた。

「こ、これは?」

「勉強に支障がでないように家事は私がするわよ」

「で、でも・・・」

 テーブルにはご飯に味噌汁、焼き魚が三人分完成されていた。見た目は普通だがシンジが心配しているのは味である。

「心配しなくていいわよ。アスカを起こしてきて、食べましょう」

「あ、はい」

 シンジは不安になりながらアスカを起こしに行った。





「ミ、ミサトが作ったの?」

「そうよん」

 シンジから聞かされ食欲が無くなった。

「さあ席に着いて」

「シ、シンジ・・・」

「た、食べようか」

 アスカは不安げにシンジを見るがシンジは折角ミサトが作ってくれたので要らないとは言えない。

「さあ、いっただきま〜〜〜す!」

「「いただきます・・・・」」

 元気がいいミサトとは反対に二人は意気消沈していた。

「ん〜〜〜美味しい〜〜我ながらよくできたわね」

 味噌汁を飲み、出来に満足する。

「シンジ、アンタ飲んでみなさい」

「ぼ、僕が?アスカが飲んでよ」

「アンタが飲みなさい!」

「死にたくないよ」

「アタシだっていやよ」

「僕だっていやだよ」

「飲みなさい!飲んで死ぬのとアタシに殴られて死ぬの、どっちがいい?」

 二人は小声でどちらが先に飲むか言い争っていた。

「二人ともどうしたの?食べないと力がでないわよ」

「た、食べるわよ。ねえシンジ」

「う、うん」

 二人は相槌を打ち味噌汁に手を伸ばした。

「シンジ飲むのよ」

「わかったよ・・・」

 殴られて死にたくないようである。シンジは恐る恐る味噌汁を口に運んだ。

「・・・お、美味しい」

「うそ?」

「でっしょう〜〜私の自信作よん」

 一口飲んだシンジは驚いた、冗談抜きで美味しかった。

「あ、本当だ」

 シンジが死んでないことを確認したアスカも味噌汁を飲み素直に感想をのべた。

「ふっふっふっふ、このミサトさんが本気になれば味噌汁なんて朝飯前よ」

 この後二人はご飯と焼き魚の美味しさにも驚かされるのであった。







「「いってきま〜〜す」」

「いってらっしゃい」

 ミサトは二人を学校に送り出すと後片付けをする為に台所に向かった。

「ふう〜〜久しぶりに家事をすると疲れるわね」

 額の汗を拭うと出勤に遅れるので急いで食器を洗った。

「う〜〜し、完了!あとは身支度をして行きますか」

 部屋に戻り身支度をして家を出る。

「いい天気だわ」

 玄関を開けると太陽の光が眩しく空が青々している。

「さあ行きましょう〜〜」

 愛車のエンジンはご機嫌であった。








「シンジ〜〜パン代ちょうだい」

「うん」

 学校。昼休み、いつもはシンジのお弁当なのだが今日は寝坊したのでパンである、アスカはお金を受け取ると二人で売店に走った。

「はあ〜帰ったらまた勉強かあ〜疲れるわね」

「ミサトさんが協力してくれているんだから頑張ろうよ」

「そうね、たまには保護者の顔を立てないといけないわね」

「うん」

 二人はパンを買うと屋上に向かった。

「な、なに〜〜〜ミサトさんの朝食〜〜?それに勉強を教えてもらっているやと〜〜?」

 屋上に集まっていたいつものメンバー。トウジはシンジから聞かされ羨ましがった。

「ミサトさんの朝食・・・さぞかし美味いんやな。ええなあ〜〜」

 ミサトのエプロン姿を想像して鼻の下を伸ばした。

 バシッ!

「いたっ!何をするんや」

「食べないなら返してもらうわよ」

 ヒカリ特製弁当を食べていたのでヒカリが怒るのは当然である。

「か、かんにんしてや〜〜委員長の弁当が一番や」

「もう」

 平謝りするトウジに怒るヒカリだが『一番』と言われて嬉しかった。

(はあ〜〜〜空は青いのに俺の心は雨か・・・)

 二人の光景を見ていたケンスケは空を見て呟いた。

「今日は実験はお休みなのね」

 朝学校で今日の実験が休みだと聞かされたレイは学校が終わった後の予定を考え始めた。

(お休み・・・早くお家に帰れる。たくさん寝ていられるわ)

「綾波もうちに来て勉強するかい?」

「いかない」

「テストは明日だよ」

「大丈夫」

「アンタ余裕があるのね、成績悪いんでしょう?」

 レイも実験が忙しく勉強をする暇がない。

「大丈夫、成績は良いから」

「ほ〜〜優等生だこと」

 レイの言葉にカチンときた。

(アンタより絶対良い点取ってやるわ)

 心に誓うアスカであった。










「「ただいま〜〜」」

「おかえり」

 学校が終わり二人が家に着くと、すでにミサトが帰ってきており勉強をする準備がしてあった。

「早いですね」

「車かっ飛ばして帰ってきたわよ。さあ始めるわよ」

「よし!やるわよ」

「おっ気合が入っているわね。いいわよ!」

 アスカの気合にミサトはご機嫌である。

「ファーストに負けてらんないわ」

「頑張って勝ちなさいよ」

「お〜〜」

 拳を突き上げると漢字書き取りをやり始める。

「シンちゃんも始めるわよ」

「はい」

 シンジも教科書を開き勉強をし始めた。











「ご飯よ〜〜」

 集中して勉強しているとすぐに時間が経ってしまう。もう夕食の時間になっていた。

「いつのまに作ったんですか?」

 テーブルには夕食が並べられていた。

「ちょっち手を抜いてスーパーの惣菜ものだけどね。勘弁してねん」

「納得」

 アスカは頷いた。少し席を離れていて作れる量ではない。

「さあご飯食べて、お風呂に入ってラストスパートよ!いっただきま〜〜す!」

「「いただきます」」

「アスカ、漢字はおぼえたかしら?」

「ええ、ばっちりよ。この天才美少女に不可能はないわ」

 胸を張るアスカ、レイへの対抗心も手伝ってかなりの漢字をおぼえていた。

「シンちゃん、登場人物の感情がわかるかしら?」

「はい、ばっちりですよ」

「二人とも頼もしいわね〜〜明日のテストは完璧ね」

 三人の楽しい食事は過ぎていく。食後はお風呂でアスカ、シンジ、ミサトの順で入っていくが・・・

「ミサトさん、お風呂」

「しっ静かに」

 シンジがお風呂から出てミサトに呼びかけようとするがアスカに止められた。

「zzz・・・」

 ミサトはテーブルにうつ伏せになって寝息を立てていた。

「疲れているのよ、寝かせてあげましょう」

「そうだね」

 二人は小声で話し合いをするとミサトを抱えて部屋に連れて行き布団に寝かせた。

「馴れてないことするから疲れがどっときたのよ」

「明日まで起きないね」

 二人はリビングに戻ると勉強に取り掛かった。

 その日も遅くまで明かりが消えることはなかった。









「・・・う、う〜〜〜ん・・・はっシマッタ!」

 ミサトは眼を覚ますと何故自分が布団に寝ているかを考え昨日の事を思い出し飛び跳ねた。

「遅刻じゃないのよ〜〜シンちゃんアスカ〜〜起きて〜〜」

 時間はすでに八時を回っていた、ミサトはすぐさま二人を起こしに行った。

「シンちゃん、アスカ〜〜って、あれ?」

 リビングのテーブルに書置きがあった。

「シンちゃん、アスカ?」





ミサトさん

忙しい中、勉強教えてくれてありがとうございました

ミサトさんから教わった事は忘れずに良い点をとります

朝食は作ってありますので食べてください

シンジ アスカ





PS アタシは天才美少女なのよ、100点は当たり前! BYアスカ






「ふふ、あの子達ったら」

 ミサトは少し涙目になるとご飯を食べる為に台所へ向かった。

 テーブルにはご飯、焼き魚、味噌汁があった。そしてそこにも手紙があった。



 

今日のご飯はアタシが作ったのよ

ミサトよりは美味しいんだからね

味わって食べなさいよ

アスカ



薔薇、蜜柑、林檎、憂鬱、檸檬

難しい漢字もバッチリよ!




 アスカの自信が表れた手紙であった。

「ふふふ、自信たっぷりね」

 朝食は美味しかった。











「ふっふっふっふ完璧!」

 学校、テストが終了した。アスカは髪をかきあげると自信たっぷりに笑った。

「僕もできたよ」

 シンジもできたようである。

「絶対に100点だわ、ファースト!アタシの勝ちね」

「そう良かったわね」

 軽く聞き流す。

「負けた方がチョコレートパフェを奢るんだったわよね」

「知らない」

「僕も初めて聞いたよ」

「今決めたのよ、アンタはアタシにパフェを奢る運命なのよ!」

「そう、サヨナラ」

「あっ待ちなさい!」

 レイは捕まる前に教室を出て行った。

「まったく〜〜まあ奢らせるけどね。さあ帰りましょう」

「うん」

 二人は早くミサトに報告する為に家路についた。










「「ただいま〜〜」」

「おかえり〜〜
どうだった?」

「もう完璧よ!流石アスカ様って感じよ」

「僕もできました」

「お〜〜そうなの〜〜教えたかいがあったわね」

 ミサトは微笑むと二人の自信に喜んだ。

 そして次の日・・・





「やり〜〜100点!」

 テストが返ってきた。アスカは予想したとおり100点であった。

「シンジ〜〜アンタは?」

「僕は95点だったよ」

「あら〜〜残念ね、パフェ奢んなさいよ」

「ええ?どうして」

「負けたでしょう」

「賭けてないよ」

 奢る約束はしていない。

「アタシが勝つことは強制的に賭けに参加しているのよ」

「無茶苦茶だア」

 嫌だと言っても奢らされるだろう。

「さあて優等生は何点だったのかしら?」

「私・・・」

 レイは答案を見せるのを嫌がっている。

「あらあら見せたくないの?見せなさい!」

 強引に奪い取った。

「ふっふ〜〜ん、どうせアタシの勝ち・・・って何よこれ?」

 アスカはレイの点数を見て驚いた。

「何って101点よ。私の勝ちねパフェは奢ってもらうわ」

「100点満点なのにどうして101点があるのよ?」

「人間と猿との差よ」

「うき〜〜何ですって〜〜〜」

「サヨナラ、早く帰らないと実験に間に合わないわよ」

「納得いかないわ〜〜まちなさ〜〜い!」

「あ、待ってよ〜〜〜」

 レイが逃げアスカが追い、シンジが教室を出て行った。

「はあ〜〜平和だな。俺の心は・・・」

 テストの点数を見て肩を落とすケンスケであった。


 学生は勉強がお仕事、シンジ君達はエヴァのパイロットですがその前に学生ですからね。成績が悪いとミサトさんも黙ってはいられませんね。勉強をさせないといけません。

 勉強したアスカちゃん達はいい成績をおさめましたね。レイちゃんは何故か101点ですけどね(^^;)

 こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。


NEON GENESIS: EVANGELION 姉として