MS17
「ふう・・・」
実験中の小休止、シンジはコーヒーを一口飲み溜め息をついた。
「あらシンジ君、溜め息なんかついてどうしたの?何か悩み事でもあるもかしら?」
実験データの整理をしていたリツコはキーボードを打つ手を止めてコーヒーカップに手を伸ばした。
「悩み事は・・・あります」
「あら、あるの」
リツコの眼が輝いた、他人の悩みがどんなものか興味がある。
「はい・・・」
「私でよかったら相談に乗るわよ」
「アスカの事なんですけど・・・」
「アスカがどうかしたの?」
悩み事が同居人のアスカである事で更に眼が輝いた。
「アスカが家事をしてくれないんですよ」
「そ、そうなの」
思春期の男の子が同年代の女の子の事で悩んでいるのだから恋の話だろうと思っていたが期待はずれであった。
「当番を決めても押し付けるんですよ」
「当番はどうやって決めているのかしら?」
「ジャンケンです。僕はジャンケンが弱いですから一週間の当番は僕が5日、アスカが2日ぐらいです」
「たった2日なのに押し付けるのね」
「はい」
シンジの表情が暗くなった。
「ちゃんとやりなさいって言わないとダメでしょう」
「言ったら容赦無しにコブシが飛ぶんですよ」
「ひどいわね」
アスカの赤鬼の様子が容易に想像できた。
「僕はどうしたらいいんでしょうか?」
溜め息をついてコーヒーを飲み干した。
「よし!様はアスカに家事をさせれば良いわけね」
「はい、でもできないですよ」
「ふふ大丈夫よアスカに家事をやらせてあげるわよ」
「本当ですか?」
「ええ!お姉さんに任せなさい」
リツコは自分の胸を叩いた。
「は、はい」
「じゃあちょっと待っていてね」
「はい」
リツコは席を立つとその場を出て行った。
「待たせたわね」
「は、早かったですね」
出て行ってから五分も経たずに帰ってきた。そしてリツコの後方には怪しい物体があった。
「これをアスカに着せるといいわ」
「これをですか?」
「ええ、これは強制家事手伝いモビルアーマー・ラフレシアよ」
「・・・」
言葉が出ない。
「このリモコンスイッチで操作できるのよ」
「そ、そうなんですか」
「ええ、詳しい説明はこれを読めばわかるわ」
数ページの説明書とリモコンを渡された。
「でもアスカがこれを着てくれるでしょうか?」
「一番の問題はそれね、素直に着るわけないでしょうね」
「じゃあどうすれば・・・」
リツコは笑みを浮かべた。
「ふふダイエットスーツだと言えば着るわよ」
「それで着てくれますか?」
「絶対着るわよ、最近太ったみたいだからね」
「太った?アスカがですか」
「目測で二キロは増えているわね」
「二キロ?たったの」
「シンジ君、女性にとってはたったの二キロでも気にするものなのよ」
「そうなんですか」
体重の事を気にしないのであまり実感がない。
「さあシンジ君!これをアスカに着せるのよ」
「あ、はい!」
二人して気合が入る。
「あらシンジ君、何をしているの?」
「何って実験の続きをしないといけないですよ」
「今日はもういいわ、お終いよ。早く帰って着させなさい」
「終っていいんですか?」
「ええ」
「あ、ありがとうございます」
シンジはお辞儀をするとラフレシアを持って部屋をでた。
「んふふ、実験結果が楽しみだわ」
MADの笑いが誰も居ない室内に静かに響いた。
「これって見かけの割りに軽いなあ、リツコさんどんな素材を使ったんだろう?まさかガンダリウムガンマとか」
家の前についた。一呼吸入れると玄関を開けた。
「ただいま〜〜」
リビングに向かった、するとアスカが寝転んでお菓子を食べながら雑誌を読んでいた。
「おかえり〜何それ?」
異様な物に当然気が付く。
「これはね、ダイエットスーツだよ」
「はあ?」
当然の反応である。
「これは着ているだけですぐ痩せるんだって着るかい?」
「き、着たくないわよ」
異様な形に難を示すが『すぐ痩せる』という言葉に心が揺らぐ。
「アスカが着たらもっと綺麗になるよ」
「な、何馬鹿な事言ってんのよ」
お世辞とわかっていても頬が赤くなる。
「だからちょっと着てみてよ」
「しょ、しょうがないわね。ちょっとだけよ、すぐ脱ぐからね」
口ではそう言いながらずっと着ていようと思っていた。
「真ん中に入ればいいのね」
「うん」
「よいっしょっと」
アスカがラフレシアに入った瞬間シンジはリモコンのスイッチを入れた。
ぐおおおおおん!
ラフレシアが起動し始めた。
「な、何?」
「アスカごめんね、これはダイエットスーツじゃなくて強制家事手伝いモビルアーマー・ラフレシアなんだよ」
「な、騙したのね!」
「ごめんね、こうでもしないと家事をしてくれないじゃないか。今日だってアスカが当番だろ」
「き〜〜このバカシンジ〜アタシを騙すなんて。ええ〜〜い!」
アスカはラフレシアから抜け出そうとしたが・・・
「あ、あれ?出れない、なんで?」
「家事をしないと出れないんだよ」
「どうやって家事をするのよ?手も出されないじゃないのよ」
アスカの身体はすっぽりラフレシアに入っており首しか動かす事ができない。
「それは脳波で触手を動かすんだよ」
「脳波?」
「うん、触手の先がマジックハンドになっているんだよ」
「そう・・・動け動け動け・・・」
アスカが念じ始めると触手が動き始めた。
「あ、動いた凄い」
触手が意思どおりに動き始める、そして・・・・
「誰が家事なんかするもんですか!ええ〜〜い」
触手がシンジを襲い始めるが・・・
「それはできないよ」
シンジの手前で触手の動きが止まった。
「なんで〜〜?」
「僕に攻撃できないように出来ているんだよ」
「な、なんですって〜〜?」
「家事をやらないと外れないからね」
「じゃあトイレはどうするのよ?まさか漏らせってわけじゃないでしょうね」
「このリモコンのスイッチで出れるよ。トイレに行きたい時は出してあげるよ」
「そうなの」
アスカの口元が歪んだ。
「あ〜〜おトイレ行きたくなっちゃった。ねえシンジ〜〜出して〜〜」
猫苗声でおねだりし始めた。
「わかった、出すよ」
「ありがと」
スイッチを押した、すると身体の自由が利きラフレシアから出られた。
「ふっふ、騙した事を後悔するのね。アスカストライクス!」
アスカの右ストレートがシンジの頬目掛けて放たれた。
ゴ〜〜〜ン!
だがラフレシアがシンジの前に立ちはだかり拳の鈍い音がリビングに響いた。
「あ、あう、あうあう〜〜いたたたたたたたたたたたた!!」
拳が真っ赤にはれあがり痛さの為に転がりまわった。
「言い忘れていたけど僕を守る機能も付いているんだよ」
「く〜〜何よこれ〜〜むかつく〜〜」
アスカは涙目になりながらトイレに駆け込んだ。
「いたたたた、シンジのやつどこであんなの手に入れたのかしら?・・・リツコね」
考えて三秒で答えがわかった。
「もうあんなの着たくないわよ、せっかく出れたんだから逃げなきゃ・・・」
大学出の頭脳をフル回転させる。
「出たら待っているから着替えるとか言って部屋に行こうとして外に逃げる!これは良いわね」
作戦が決まった。
「ふうお待たせ〜」
「長かったね、三日ぶり?」
「殺すわよ」
普段言えない台詞も強い味方が居るから言える。
「さあ入って」
「あ、ちょっと待って〜〜汗かいたから着替えるわ」
「あ、うん」
髪をかきあげる仕草に少し鼓動が早まった。
「覗いちゃだめよん!」
「う、うん」
何度も頷いた。アスカはシンジの様子を何度も窺いながら部屋に向かう。
(チャンス!)
ダダダダダダ!
光速のダッシュで玄関に向かう。
「あ、アスカ!」
すでに遅し、アスカの姿はもうなかった。
チュイ〜〜〜〜ン!
アスカが居なくなってから数秒後、ラフレシアが自動で動き出し窓を開けて外に飛び出した。
「が〜〜〜こら〜〜出せ〜〜」
ラフレシアが外に飛び出した数秒後にアスカを捕まえて戻ってきた。
「そうだった自動追尾装置も付いていたんだ」
至れり尽せりである。
「き〜〜〜出せ出せ出せ〜〜〜!!」
「じゃあ家事をしてくれるかい?」
「う〜〜〜〜」
「家事をしないと出れないよ」
「う〜〜〜・・・わ、わかったわよ」
逃げる事が出来ないので渋々承諾した。
「で何をすればいいのよ」
「何って当然、掃除洗濯買い物調理その他雑用だよ」
「一つじゃないの?」
「全部含めて家事って言うんだよ」
「は、はあ〜〜」
観念したのかガックリうな垂れるアスカであった。
「んふ、んふふふふふふふ」
暗い室内でリツコはその様子をザク強行偵察型から送られてきた画像を見ながら不気味に微笑んでいた。
「んふふふふふ、私って天才だわ。やらなかった家事をさせる事ができるラフレシア、発売すれば売れるわね。んふふふふふふ」
室内に不気味な笑い声が響いた。MAD SCIENTISTは新たなる野望に炎を燃やすのであった。
アスカちゃんが家事をしてくれない、悩むシンジ君に優しいリツコさんは強制家事手伝いモビルアーマ・ラフレシアを渡しました(^^;)
するとアスカちゃんは家事をやりたくなってきましたね(笑)流石MADリツコさんです。
こんな小説?でも最後まで読んでくれた方々に感謝します。
NEON GENESIS: EVANGELION MS17