そらをとべたら じゅうに 「おれを追放しろ。あかねは関係ねぇ。」 魔法世界の入口で待ち構えていた親父と、そして、あかねの父親におれはそう言い放った。 「違うの。乱馬は悪くない。」 あかねも、こころを決めていたのか、なんの迷いもなく、おれが言わんとしていた言葉を口にする。 「なに言い出すんだ。おめーは、関係ねぇだろ。」 「ううん。わたしがいけないの。わたしが乱馬のこと、好きになってしまったから。 それを知った乱馬は、わたしのこと放っておけなくなって・・・乱馬、優しい人だから。 責任はわたしにあるの。だから、乱馬は魔法世界に帰して。お願い。」 「いいや、違う。おれが勝手に判断して決めたんだ。 あかねはおれに付き合わされただけ。なんも悪いことしてねぇ。 だから、処分はおれだけでいい。王女を裏切ったのはおれの判断だ。」 「ううん、乱馬は魔法世界に必要な人だもん。」 「いや、あかねはこの世界に残る必要がある。」 一歩も譲らないおれたちに、親父たちはなにも言わず、 それどころか、どこか他人事のように、時折退屈そうな様子で聞いていた。 とりあえず、言いたいことを言い尽くし、ふぅっと息つくおれたちを見て、 親父たちはゆっくりと、その口を開く。 「気は済んだか?」 「え。」 「王女さま、及び、王家の方々から処分は聞いておる。」 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 おれたちの間に緊張が走る。 「・・・おとがめなしだそうだ。」 「・・・・・・え。」 「今回の件、乱馬、あかね、両名において、とがめたてるような話、なにひとつ伺えず。 よっておとがめなしとする・・・と、言うことだそうだ。」 「なんで?」 「王女さまが、お前たちのことを、とがめぬと言っておるのだ。」 「それじゃあ・・・。」 「ああ。ふたりとも、この世界にいていいんだよ。」 「あかね、お帰り。よく頑張ったね。」 「ただいま、お父さん。」 ほっとする、あかねを見つめるおれの肩を親父が叩く。 「乱馬。」 「な、なんだよ。」 「・・・よく、やったな。」 「お、おれは別に。」 「隠し立てする必要はない。それよりも、あかねちゃんを連れて王女さまにお礼を言いにいくのだ。」 「わかってるよ。」 「よいな。今回のこと、すべて王女さまのお陰なのだから。」 今更、顔、合わせ辛いなと思いながらも、あかねが勧めるのもあって、 その足でおれたちは、王女のいる城へ向かった。 「おお。ふたりとも。その様子だと、うまくいったようだな。」 王女の言葉の意味がわからず、おれは質問をぶつける。 「なんでだ? おれは、あんたを裏切ったのに。」 「裏切る? なんのことだ?」 「王女さま?」 「あかねも・・・なにか用か?」 「用って・・・。」 「勘違いしてもらっては困る。私はそなたたちの仲を裂こうなどとは、到底考えておらぬ。 そのような下種な真似はせぬぞ。」 「へ?」 「あかね、昨日の席では悪かったな。いやなに、こやつがあまりにも、はっきりせぬもので、 こちらとしても、もどかしくて仕方なかったのだ。」 「え・・・。」 「だから、そなたらの父君等と相談し、強行手段に出ることにした。」 「それじゃあ・・・。」 「いや、あかねが乱馬のことをどう思っておるのかがわからぬ状況であったため、 正直申すと、もし、乱馬をあかねが受け入れねば、その時は、私の婿として、 王家に迎えるつもりでおったのだ。」 「・・・おれの気持ちは無視かよ。」 「そう言うな。それがお前にとっても最善であろうと、そう父君が申しておった。 叶わぬ想いを抱いたまま、それでもあかねを遠くから見つめ続け生きて行かせるのは、 あまりにも酷と、そう心配されての判断だ。」 「親父のやつ・・・。」 「しかし、こうなった今、乱馬もはっきりしたようであるし、 あかねも乱馬を受け入れたようであるし・・・いやいや、よかった。」 「王女さま・・・ありがとうございます。」 「礼には及ばぬ。この国のことを取り仕切るのが、私の役目だからな。」 「でも、乱馬のこと。」 「まあな。嫌いではなかった。それに、力を失うには惜しい。 と、そこでだな、乱馬の力はこの国にとって必要なものであるのは変わりない。 どうだ? これから先、王家で働かぬか?」 「え。」 「あかねがこちらに戻った今、仕事にあぶれておるのではないか?」 「そ、そりゃそうだけど。」 「安心せい。お前を誘惑しようなどとは思わぬ。最初にも言ったはずだ。 私はそんな下種な真似はしないと。それに・・・・・・。」 王女はあかねを見る。 「え?」 「お前はあかねしか見ておらぬからな。」 「なっ、なに言い出すっ!」 「知っておるか? あかね。こやつはな・・・・・・。」 また、不敵に王女はあかねに微笑みかける。 察したおれは、あかねの腕を掴んだ。 「ああもう、いいだろ。帰ぇるぞ、あかね。」 「え・・・で、でも、王女さまのお話、聞きたい。」 「よいよい。乱馬のおらぬとき、ふたりで話そうぞ。」 「はい、では、また。」 あかねはおれに腕を掴まれながらも、王女にお辞儀をした。 「絶対、余計なこと、言うなよ。」 「はて? なんのことやら。」 とぼける王女に念を押したが、きっとそのうち、 おれのあかねに抱いてた気持ちは知られてしまうだろう。 ・・・別にいいけど。 「・・・あれ? 早乙女くん。これ、おいしいけど。」 王女の元へ行く前に、あかねが父親に 料理魔法の成果を見せるため、お菓子を作り出していた。 それをひとつ食べ、あかねの父は親父にそう言う。 「普段、食べつけてないから、そんなこと言えるんだよ。君には失礼だけど、 正直言って、あかねちゃんの料理魔法は・・・・・・。」 おそるおそる、親父は口にする。 「・・・・・・うまい。」 「ちゃんとできてるんじゃない。もう、早乙女くんったら、オーバーなんだから。」 「そ、そんなはずは・・・このところのご飯は、そりゃーもう・・・酷かったんだから。」 「はいはい。舌が肥えてるんだね。」 ひょいっと、ひとつ、おれは横からそれを取り、口にする。 「違ぇよ。気持ちがこもってるってことさ。」 「気持ち?」 「ああそうだ。あかねは、料理に気持ちをこめれるんだ。」 「え?」 当の本人は、きょとんとしていた。 「なんだおめー、自分でやっといて、わかんなかったのか?」 「・・・うん。ただ、わたしは・・・喜んでくれるといいなって。」 「それだよ。普通はな、食べるやつの気持ちなんて気にしねぇ。 ただ 言われた物を作り出すだけだ。 けど、あかねはその時、作り出された物を食べる相手のこと、相手の喜ぶ姿、想像すんだろ?」 「うん。」 「だから、気持ちがこもって、味が変わるんだよ。」 「そうだったんだ。それで、味にばらつきがあったのね。」 「ああ。」 「・・・ん?」 親父たちがにやにやしながら、おれたちを見ている。 「な、なんだよ。」 「だから、あかねちゃんの料理は、乱馬には美味しかったんだな。」 「どういう意味・・・。」 と、言いかけて、おれは口をつぐむ。 「ほほう。そういうことだったのか。それでねぇ。」 「このところ酷かったのは、わし見ると、遠く離れた乱馬のこと思い出して不安になったからか。」 「そう言われてみると確かに、おじさまに料理を出すとき、乱馬のこと考えてて・・・。」 「い、いいんだよ、そんなこと、いちいち答えなくても。」 けれど、親父たちはおれをからかうように、話しを続ける。 「素晴らしい才能に恵まれたんだよ、あかねは。」 「え・・・そうかな。」 「そうだよ。幸せかどうかが、味でわかるなんて、素敵なことじゃないか。」 「乱馬も、そう思う?」 「いいんじゃねぇか。食って、おめーの気持ちがわかるんなら、便利で。」 「あかねちゃんを悲しませるようなことをすれば、乱馬が苦しむことになるのだ。 これ以上の自業自得はない。」 「んなこと、しねぇっつーの。」 「ふーん。」 しらっとした親父たちの目と・・・俯き、赤くなるあかね・・・の姿に、 いたたまれなくなったおれは、あかねの手を掴んだ。 「おっ、おれたちはな、忙しいんだ。行くぞ、あかね。」 「う、うん・・・えっ? どこに?」 「空に決まってっだろ!」 そのまま ふわり と身体を浮かせる。 「晩ご飯までには帰ってくるんだよー。」 「はーい。」 大きな返事をして、あかねは手を振る。 「ちゃんと自分で飛ばないと、いつまで経っても。」 「こないだみたいに、連れてってくれる?」 ・・・別にいいけど。 「・・・しっかり、つかまってろよ。」 「うん。」 きみの料理が 一生 おいしくあるように 今日も きみを連れて そらをとぼう。 =おしまい= 呟 事 やっと言えたよ、おしまい。 長かったよ、おしまい。 それも今日でおしまい。 ってなわけで・・・長々にもほどのある、長さではありましたが、 お付き合いくださった方々には本当に、こころからお礼を。 ありがとうございました。ぺこりっ! 相当書いてる途中で話が変わり、その都度長さは増していきました。 なんかね、こー・・・その、あかねちゃんの乱馬くんへの気持ちの変化みたいなのを、 じわじわじわっと出していきたくなったというか・・・て、 そんなとこあったか? と聞かれると困るので、言い訳はこの辺で。 また、こういうの書けるといいなぁ(懲りない人らしい)。 ひょう