座りごこち 「今日は、頑張ってね。」 「うん。」 「・・・はい、これ。」 風呂敷に包まれた、お弁当を手渡される。 「乱馬くんの分も一緒にしてるから。」 「え?」 「ふたりで仲良く食べるのよ。」 「なびきおねえちゃんのは?」 「別に持っていったわ。」 「だったら。」 「ふたりで食べたら、美味しいからね?」 「・・・うん。」 にっこりと、いつもの笑顔で言い切られて返す間がない。 乱馬はいいって言ったの?って本当は聞ききたかったけど、 気にしてると思われたら恥ずかしいから、思いとどめた。 「いってきます。」 「怪我しないように気をつけるのよ。」 「はーい。」 乱馬はリレーの練習があるからと、先に行っていた。 ひとり通学路を歩く。 頭の中は、体育祭のことよりも、お昼ご飯のことでいっぱい。 乱馬、一緒に食べてくれるかな? 嫌がられそうな気するけど、食い意地張ってるから、我慢して食べてくれるよね。 うん、大丈夫。 あんまり気にするのも しゃく だから思考をそこで無理に止めた。 学校に着いて、体操服に着替える。 更衣室から教室に戻ると校内放送が流れた。 「各自、自分の椅子を持って運動場に出てください。」 椅子の上にお弁当を乗せて、ゆるゆると歩きだす。 「持ってあげるよ。」 「ありがとー。」 そんなやり取りをするクラスメイトたちを羨まし気に横目で眺めつつ、 いつの間にか隣にいた乱馬に視線を移した。 持ってくれるわけ、ないよね・・・それどころか、乱馬の分まで持たされかねないし。 こんなことなら、かよわさ、演出しとけばよかったかな・・・なんて、 馬鹿馬鹿しい考えが頭に浮かんでは消えていく。 「弁当、ちゃんと持ってろよ。」 「え?」 何? その場に椅子を置き、包みの結び目を持ち上げる。 乱馬は置かれた椅子を自分のに重ね、持ってくれた。 「あ。」 お礼を言おうと口を開いた。 「おめー、がさつだからな。弁当、落とされっと困っから。」 「・・・・・・。」 せっかくの優しさ、そのひと言のせいで台無し。 むかっときたから、言うのやめた。 嬉しかったのに。 優しくしてもらえて、乱馬、わたしのこと、 女の子として見てくれてるのかなって、そう思ったのに。 意地悪。 先を歩く背中にぶつけてみるけど、すり抜けていった。 運動場に出て、テントの下に椅子を置いてくれる。 もたもたしてて遅かったせいもあって、一番後ろの隅にふたつ。 「ほら。」 座るように促されるけど、こっちの椅子って・・・乱馬は目の前の椅子にどかっと腰を降ろした。 「何?」 不思議そうな乱馬の目。 「ううん。」 こっちが乱馬の椅子なんだけどな・・・そう思いつつ、座る。 本当は すごく嬉しい。 座高が低い乱馬の椅子。 視界は悪いけど、座りごこち 悪くないから。 「開会式を始めます。全校生徒はフィールドに集合してください。」 スピーカーから放送部員の声が、校庭いっぱいに響き渡る。 「後でな。」 「うん。」 お弁当を椅子の上に置いて、運動場の中心に急いだ。 競技がはじまって、色んな種目に駆り出されてく乱馬。 座ってる暇なんかない様子。 というわたしも、次から次。 せっかく並んで座れてるのに、 乱馬の椅子に座りたいのに。 なかなか落ち着いていられないのがくやしい。 こんなときだからこそ、何の躊躇いもなく、座っていられるのに。 お昼が近づいてきた頃、ようやく席に戻れた。 膝の上にはお弁当。 もうちょっとしたら、乱馬と一緒に食べられる。 あれから全然話せてないけど、その時間がくるのが楽しみ。 乱馬は疲れてるのか、椅子にだれて座っていた。 「乱馬ー!」 明るい声が背後からかけられる。 怪訝そうにその声の方を向いた乱馬の目線の先に、シャンプーがいた。 「乱馬、お昼、どうするね? お弁当、持てきたか?」 膝の上の優越感。 誘いに来てくれたみたいだけど、持ってきてるから・・・ね、乱馬。 「・・・いや。」 え? 「だったら、私、用意してきたのあるね、それ食べるか?」 ちょっと、乱馬? 「別にいいけど。」 ・・・・・・。 「大歓喜! あっちにある、一緒に行くよろし!」 「ああ。」 乱馬は、わたしには目もくれない様子で席を立った。 包みをぎゅっと握りしめる。 中途半端にみせられた優しさに期待を持った、わたしの気持ちはどうしたらいいの? だったら はじめっから、気のある素振、してくれなくてよかったのに。 すごく悔しくて、椅子を入れ替えた。 乱馬はわたしの椅子に座ってること、端から気付いてなんかなかった。 そう思ったら、はしゃいでた自分が痛くなる。 「なによ、馬鹿。」 わたしばっかりなんて、そんなのいや。 そのうち お昼になり、それぞれみんな、あっちこっちへと散っていく。 わたしはテントにひとり。 仕方なく、乱馬の椅子にお弁当を置き、包みをとくことにする。 ・・・こんなにひとりで食べれる訳ないじゃない。 広げようとしていると、目の前に足。 「ん?」 顔をあげたら、乱馬が立っていた。 「ここ置いたら、おれ、座れねぇだろ?」 何なのよ、その言い草。 「はぁ? お昼ごはんは?」 「これが おれの飯じゃねぇのか?」 「そうだけど、だって、さっき。」 お昼、食べに行ったじゃないの。 「あれはだな・・・。」 「なによ。」 下手な言い訳は聞かないんだから。 「ほら、おれさ、すげー食うだろ? だから、あかねの分まで食っちまったらわりぃなと、 そう思って、それで、ちょっとだけ腹ごしらえを。」 「別に、いいのに。」 「よくない。そういうのは、よくない。おれ、変な気、遣われんの嫌だから。 あかねに飯、ちゃんと食ってほしいし。」 「・・・・・・。」 「そんな言っても、おめーも食うからな。おれなりに、気を利かせてだな。」 「変なの。」 「え?」 「お昼ご飯の 前ふり なんて、変なの。」 「んだと!」 だって、泣きたいくらい悲しくて、傷ついたんだよ? わかんないだろうけど・・・。 「これで、いいんでしょ?」 膝の上にお弁当を置いた。 「ん。」 空いた椅子に座った乱馬の顔つきが急に変わる。 「・・・おい。」 すっごく不機嫌な表情。 「なっ、なによ。」 ちょっと怯える。 わたし、何かした? 「椅子。」 「は?」 「椅子、変えただろ。」 「・・・今、座ってるのが、乱馬の椅子よ?」 「そんくらい、解かってる。」 「うん・・・・・え?」 「文句あっかっ!」 なんだ、解かってて、わざとだったんだ。 「ふーん、そっか。」 そうなんだ。 「なんだよ。」 「別に。」 真っ赤になった乱馬は誤魔化すように、膝の上のお弁当に箸をつけた。 =おしまい= 呟 言 はなこさまからキリリクとして、お受けし、作らせて頂いたお話。 「体育祭」か「文化祭」で乱あ らぶ な話・・・とのリクだったのですがっ! すみません、らぶが書けないのに、愛を語ると言い切る管理人(馬鹿 ぐろーばるすたんだーどな(んな大げさな)らぶvvを書こうとしてみたのですが、 ご覧の通り、このようにきつい感じになりました・・・。 えっと、一応、体育祭の方で書かせてもらったのですが、体育祭らしからぬ雰囲気で(汗 体育祭=椅子・・・なんて変かなと、そう思い、悩みながら。 気になる子の椅子に座るの、嬉しかったりしていたなと、昔を思い返しつつ。 特に運動会の時って、椅子を運動場に持ち出してたりしていたので、 他の子に話し掛ける振りしてちゃっかり座ってみたり。 ってこのあたりも学校ごとで違うかもしれないんですが(汗 やっぱり標準って難しいと痛感。 はなこさま、リクエストありがとうございましたvv 感謝vvそして陳謝・・・。