手に手を





「最近寒くなったから手あれがひどくて・・・。」

 あかねはささくれの出来た指を摩っていた。

「ちょうど、イイモノあるね。」

 シャンプーが丸い容器を差し出す。

「中国で古くから伝わるハンドクリーム。これ使うよろし。」
「え? くれるの?」
「持ってけ。」
「ありがとう。」

 喜んで受け取り、家路に着くあかねの後姿を、シャンプーは不敵な含み笑いを浮かべながら見送っていた。








「ただいまー。」

 家に帰ってきて、早速、貰ったそれを手に塗ってみる。
半透明でゲル状のクリームは、すっと手先に馴染んですぐに効果が現れそうな気配。


本当、いいもの、貰っちゃった。
今度、なにかお礼しなきゃね。

そう思ったけど、 「乱馬とデートさせるよろし」 って言われるに決まってるから、やっぱり止めとこう。



 何度も指に取っては、先の方まで丁寧に擦り込む。
いつもは冷え切ってる手先が暖かい。

ぽかぽかして・・・ぽかぽか?

 熱をもって熱くなってくる。

「これって、冷え性にも効くのかしら?」

 容器の外側に書いてある説明を読もうと手に取ろうとしたら、横から伸びてきた手にそれを持っていかれる。

「なんだ?これ?」
「あ、乱馬。」

 シャンプーに貰った、ハンドクリームよ・・・って言おうとしたのに、気がつくと、目の前の乱馬の顔を殴っていた。

「な、なにすんだよっ!」

 そう口を尖らせて文句をいう乱馬の顔めがけて、拳が出る。

「違うのっ、手が勝手に!」
「どうしたんだよ?」

 あかねから繰り出された拳を乱馬は掌で受け止め、強く握る。

「おれ、なんかしたか?」

 不安げな乱馬。あかねは黙って首を振る。

「だったら、なんで?」


 唐突に、ものすごい音が家中に轟き渡る。

「何かしら?」

 そのままの体勢で、ふたりは居間にやって来た。


「ここはどこだーっ!!」

 タイミングがいいのか悪いのか、良牙がそこにいた。
さっきの轟音はどうやら、いつものように塀を壊して中に入ってきた時のものらしい。


「こんなときに。」
「ん?・・・ら、乱馬、きさまっ!」

 あかねの手を強く握りしめている乱馬の姿を見て、
良牙は、乱馬が無理にあかねに迫っていると早合点した様子。

「あかねさんから離れろ!」

 案の定、良牙はふたりの方へ近づいてくる。

「こっち来んな!」

 乱馬の牽制も良牙には届かない。

「来ちゃだめっ!」

 あかねの呼びかけも、やっぱり届かなかった。

「今すぐ、助けますから。」
「近づくなって。」

 乱馬が良牙に気をとられた隙に、あかねの拳は乱馬の掌から離れ、目の前にいる良牙めがけて拳を振りかざす。

「だめーっ!」
「え?」
「邪魔だ、そこ、どけっ!」

 寸でのところで乱馬が良牙の間に入って、あかねの拳は乱馬を激しくぶつ。

「ら、乱馬。」
「良牙、早くどっか行け!」
「え?ええ?」

 事態の把握できない良牙ではあったが、ふたりのただならない気配を感じ取り、その場を慌てて離れる。

「乱馬も、逃げて。」

 だけど乱馬はあかねに近づき、頬を打とうとする手を再びその掌の中に強く掴んだ。

「・・・・・乱馬。」
「・・・・・・。」
「あんた・・・殴られるの好きなの?」
「んなわけねーだろ。ったく、にぶい女だなっ。」

 ぐぐぐっと力を込めながら、あかねの手を後ろに組み、握りしめた。

「な、なんか思い当たる節、ねぇのかよ?」
「・・・・・・。」

テーブルの上のハンドクリーム。

「あれ・・・だな?」
「多分。」

 乱馬はあかねの手を強く握ったまま、玄関を出る。


「ああっ! また塀が壊されてるー!」

 嘆く早雲をよそ目に、ふたりは足早に猫飯店に向かった。









「あいやー。あっさりばれてしまたか。」

 悪びれない調子のシャンプー。

「で、どうやったら効果はなくなんだよ?」
「簡単ね。水で洗い流せば、あ という間に効き目とれる。」
「水道、借りるぞ。」

 後ろ手を組まされて、その手をきつく掴まれたまま、あかねは乱馬と炊事場へ。
重なった手で水道をひねる。
乱馬はあかねの手の甲から手を重ね、その手の指の間に自らの指を入れて ぎゅっ と力を込めた。

「痛くないか?」
「・・・うん。

 かねを後ろから抱きしめるような体勢で、しっかりと掴んだ手を前方に持ってくる。
石鹸を手に取り、泡立てた。

「嫌じゃない・・・か?」
「・・・うん。

 合わさった手を流れる水の中に突っ込んだ。洗い流されていく石鹸の泡。
あかねの手の力が抜けてくのがわかる。
あかね自身も、その効果がなくなってくのを感じていた。

「・・・もう、大丈夫。」

 乱馬の身体が背中にぴったりくっついてて、そのうえ、手まで握られてる。
この状況が、すごく恥ずかしくって、乱馬から早く離れたかった。

「ね、乱馬、もう・・・平気だから。」
「・・・・・・。」

 乱馬の握力がどんどん増してるような気がする。

「や、痛い。離れて。」

 返事がない。

「乱馬っ、いい加減にしないと、またぶつわよ!」
「まだ、駄目みたいじゃん。」
「違うってば。乱馬がいつまで経っても離れないから。」
「いいだろ、ちっとくらい。」
「よ、よくない。」
「なんで?」
「なんでって・・・。」
「大体、んなもん使って、あかねからおれを引き離そうとしたって、無駄なんだよ。」
「・・・・・やっぱり、乱馬って・・・殴られるの好きなの?」
「あのなー。」
「だって、さっきも。」
「ったく、だからな・・・・・・他は、殴んな。」

 手を握りしめたまま、あかねの耳元で囁く。

「え?」
「触るなってこと。」
「・・・・・・。」
「わかったか?」

 乱馬が手の力を抜いた途端、あかねは身を翻し、頬を打つ。

「調子にのらないのっ!」

 いつもの力加減。
それが乱馬には嬉しくて、顔が自然とにやけてく。

「なに、にやにやしてんのよ。」
「べーっつに。」
「変なの。」

 笑みを浮かべた乱馬の手を、今度はあかねが握りしめる。

「早く帰って、ご飯食べよ。わたし、お腹すいちゃった。」

 手を引くあかねの力に任せ、乱馬の足は歩き始めた。












                                  =おしまい=


呟 言

ひなげしさまよりお受けした、キリリク小説。
「シャンプーが持ってきた中国三千年の秘宝によって振りまわされてしまう乱馬くんとあかねちゃん」
「一瞬玉」の様な感じの話で・・・・・とのことで、惚れ薬ちっくな感じなのかとは思ったんですけど、
乱馬くんとあかねちゃんって、好き合ってるから、惚れ薬って効かないんじゃって話になって・・・
すみません、すみません(言い訳言い訳)

乱馬くんがあかねちゃんに向かって悪態つく=好きってことなら、
あかねちゃんが乱馬くんのこと殴る=好きってことかな・・・という
相変わらずの自分勝手な推測を元に書かせて頂きました(汗)
イメージは犬の甘噛み・・・ってわかりにくいです。浅くってごめんなさいです。
甘くもなく、なんか足らんし・・・折角の記念なのにすみません。  ひょう

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